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中小企業のM&A徹底解説
広島市の弁護士仲田誠一です。当職は、銀行や事業引継ぎ支援センター等と連携するなどして、M&Aのお手伝いをすることが多いです。中小企業のM&Aは事業承継問題の解決方法の1つとして数が増えています。今回は、当職の経験に基づき、中小企業に特化したM&Aの解説をさせていただきます。
目次
M&Aとは事業承継との関係
株式譲渡
事業譲渡
方法の選択基準
価格の考え方
M&Aの流れ
その他の注意点
M&Aの費用
弁護士によるM&Aサポート
まとめ
M&Aとは
1.M&Aとは
M&Aは Mergers and Acquisitions の略称です。「合併と買収」と訳されるようですが、企業や事業の買収を広く意味する言葉として使用されています。資本提携や業務提携も含めることがあります。ここでは会社あるいは事業を直接あるいは間接に売り買いするケース(法人あるいは事業のオーナーを変更すること)を指す意味でM&Aを捉えます。
そのような意味でのM&Aの手法には様々なものがあります。
株式譲渡、株式移転、会社分割、合併、事業譲渡でしょうか。法的には株式譲渡の一種ですがTOB(株式公開買付)やMBO(マネジメントバイアウト)という手法もニュースなどでお聞きになっていると思います。
2.中小企業のM&Aの手法
中小企業のM&Aの手法は、ほぼ株式譲渡か事業譲渡の2つに収斂されます。法律上は、会社の所有者は株主です。財団法人等持分権のある社員がいない特殊な法人は別として、各種法人も同様出資者の所有物です。会社・法人が欲しければ、あるいは売りたければ、株式や出資金を売り買いすればいいですね。
それを端的に実現するのが株式譲渡です。従業員や役員が株式を買い取るケースはMBOと呼ばれることもありますが、その実質は株式譲渡の手法です。TOBは株式公開会社のお話です。
会社・法人そのものではなく、ある部門あるいはある事業だけを売り買いしたいケースもあります。そのケースでは当事者が合意する内容の事業だけを売買すればいいことになります。
それを端的に実現するのが事業譲渡ですね。
そして、中小企業のM&Aはコスト面の配慮も重要です。手間、期間、費用はできるだけ節減したいですね。株式譲渡あるいは事業譲渡は、他の手法と比べて手続が簡便となっています。
そのため、中小企業のM&Aには、株式譲渡、事業譲渡が利用されるのです。当職も年に数件はM&Aに携わっておりますが、株式譲渡か事業譲渡のスキームがほとんどです。
株式移転、会社分割、合併は、特殊なニーズがあるケースに採用すべき手法ですが、通常の中小企業のM&Aにはあまりそのニーズがありません。
合併は昔はよく利用されていたかもしれません。今では、税制上のメリットがほぼなくなり、コストがかかるだけの手法となってしまった感があります。税制上のメリットが大きい適格合併の場合を除いて選択するケースは少ないでしょう。
いずれにせよ、買い手・売り手双方のニーズに適した手続を選択することが効率的です。
手続選択から弁護士等の専門家にご相談されることをお薦めします。当事者は合併を考えていたところ、当職が双方のニーズを確認した結果、事業譲渡の手法で簡便かつ効率的に進められた、というような例は珍しくありません。
事業承継との関係
1.中小企業の事業承継
同族中小企業に必ず発生する、かつ最も大きなリスクが事業承継問題です。株式を公開している大企業は株主と経営者が別ですね。会社の所有者である株主は不特定多数、経営者は雇われ経営者です。会社法が前提とする「所有と経営の分離」が実現している状態です。経営者が引退したり、経営者の相続が発生しても、社長が交替するだけで、会社は問題なく存続していきます。
これに対し、同族中小企業では、会社の所有者である株主(1人あるいはその親族)と経営者が同じです。「所有と経営の分離」がなされていません。経営者が引退あるいは相続は、経営者=株主の変更となります。スムーズに事業=株式を引き継ぐ必要があります。同族中小企業の経営者=株主には、いつかは引退あるいは相続が発生しますから、同族中小企業では必ず事業承継が発生するのです。
後継者にスムーズに株式と経営を承継をしていかないと、会社の経営継続自体が危機に晒されます。これが事業承継問題です。中小企業=会社ですね。経営者の交替は技術面、人事面、営業面等経営に大きな影響を与えます。また、相続税の問題が発生することは勿論、後継者に株式が集中できなければ会社を所有し経営を継続することもできません。相続争いが発生すると、株主総会を開いて新しい役員を選任することもできない事態になりかねません。
一方で、事業承継問題はチャンスでもあります。経営者の交替によって事業が傾く例を耳にしたことがあるでしょう。銀行勤務の経験あるいは弁護士としての経験からは、企業再生が必要になる会社あるいは破たんする会社では、事業承継に失敗したことが経営悪化の要因の1つになっている例が多いと感じます。事業承継に成功した会社は、それだけでライバル企業に差をつけらます。
事業承継問題は死活問題ですから、現在、早めの対策の必要性が盛んに喧伝されています。
もっとも、事業承継対策と銘打っても、株式の移転等に絡む相続税対策がメインではないでしょうか。それは事業承継対策の一部にすぎません。
財産面の問題だけでも、相続税対策だけではなく、後継者への所得移転、株式の集中プラン等、所得税、法人税も含めたが税制の横断的理解に基づくプランニングが必要です。適切な事業の引継ぎを法律的に準備する必要もあります(株式の集中策、種類株や属人的株式による議決権の集中策、承継財産の整理・相続法対策、定款変更等による組織改革、人事制度改革など)。そして、何よりも大切な対策は、後継者の育成です。経営力を身に付け経営革新を行える後継者を育て、事業承継を機に中小企業の強みである経営のスピードを向上させ、会社を時流に乗せなければなりません。事業承継の解決には総合的な対策が必要です。
当職が事業承継対策をサポートさせていただくときも、連携する税理士と共に、場合によっては当職も一員として中小企業をサポートしている合同会社RYDEENが主催する後継者育成経営塾を絡め、ワンストップでの総合的なプランニングをさせていただくことがあります。
2.事業承継とM&A
事業承継対策は後継者候補がいることが前提となっています。しかし、後継者がいない中小企業の数は多く、当事務所のある広島県や隣県の山口県は後継者不在率が全国ワーストの部類に属しております。
会社の営む事業にはそれ自体社会的価値があります。中小企業は、日本の経済、特に地域経済を支える重要な存在です。事業をなくしてしまうのは社会的損失です。
また、従業員ほかの利害関係者も多数存在します。事業を引き継ぐのは経営者の責任とも言いうるでしょう。
そこで、M&Aです。後継者のいる同族中小企業は事業承継対策(親族内承継)で、後継者のいない同族中小企業はM&A(第三者承継)で、事業をバトンタッチして、事業や従業員等を守るのです。
事業承継対策の一環としてのM&Aは、現在盛んに喧伝されています。国も中小企業の後継者不足に危機感を持っているのですね。当職がお手伝いさせていただいているM&Aも、事業承継対策の一環のものが多いです。
買い手の視点から見ると、会社を買うチャンス、すなわち顧客・市場を新たに獲得するチャンスが増えているといえます。デフレ下で市場の拡大が見込まれない中では、顧客・市場を拡大するもっとも有効な経営戦略の1つといえます。また、人材不足が叫ばれるようになってからは、人材の確保もM&Aの目的になるようになりました。
株式譲渡
1.株式譲渡によるM&A
中小企業のM&Aに利用されることの多い株式譲渡の主張を説明していきます。株式譲渡とは、文字どおり株式の譲渡です。会社の所有者は株主です。株式譲渡とは、オーナーチェンジですね。
株式譲渡に必要な手続は、
①株式譲渡契約書の締結
②譲渡承認決議(株主総会、取締役会)-中小企業のほとんどは株式譲渡制限会社です
③役員の変更決議(株主総会、取締役会)
が基本となります。
通常は、株式譲渡による譲渡所得税課税と退職金支給による退職所得課税の兼ね合いで、
④旧経営陣への退職金支給
も絡みます。
単純に会社の所有権(株式)を売買する複雑ではない手続なので、利用されるケースが多いです。
2.株式譲渡によるM&Aの特徴
株式譲渡によるM&Aの特徴をいくつか挙げます。【法人格をそのまま引き継ぐ】
株式譲渡では、会社の法人格(器)はそのまま存続し、会社の所有者=株主が変更されるだけです。株式譲渡によるM&Aの一番大きな特徴です。
この特徴によるメリットは、
①会社の名称、契約関係、債権債務関係はそのまま継続する(営業への影響が小さい)、
②会社と雇用契約を締結している従業員は株式譲渡の影響を受けない(従業員をそのまま引き継げる)、
③許認可や取引先との関係も、届出が必要なケースもありますが、そのまま利用・維持できます(許認可、取引先をスムーズに引き継げる)、
④所有不動産や自動車の登記、登録の変更の必要がない(手間と費用がかからない)、
といったところです。
一方で、デメリットとしては、法人格をそのまま引き継ぐため譲渡会社の保有するリスクや負債の遮断ができない点が挙げられます。コストがかかっても買収監査をきちんと経てリスクを点検しておく必要性が高いといえます。
【退職金支給によるプランニング】
株式譲渡では取締役、監査役等の役員が退任することがほとんどです。引継ぎ等で会社に残ってもらうケースでも、別途業務委託契約等を締結して協力してもらう形をとることが多いです。一定期間旧経営陣が役員で残るプランニングは例外的なケースになります(資格、登録の関係で必要なケースなど)。
旧株主が役員を退職する通常のケースでは、の退職金により最適なプランニングが可能です。売り手からすれば、退職金も株式譲渡代金も同じお金ですが、課税関係は退職所得課税、譲渡所得課税(通常は長期譲渡所得)と異なります。買収総額を割り振るバランスを考えて、効率的なプランニングをします。なお、買い手が会社であるケースでは、株式取得価格をできるだけ下げるために退職金に多くを割り振った方が喜ばれます。
【会社の清算の必要がない】
株式譲渡では、会社の清算を考える必要がありません。法人はそのままで株主が変わるだけです。旧オーナーは役員から退任すれば会社から手が離れることになります。
これに対し、事業譲渡では譲渡人会社は残り、事業だけ移りますね。全部の事業を譲渡したとしても、将来の会社の清算という課題が残ります。
【その他】
株式譲渡契約書は、金銭の授受が記載されていない通常のケースでは、印紙税の課税文書ではありません。
また、株式譲渡は消費税の課税取引ではありませんので、譲渡代金について消費税を考える必要はありません。
事業譲渡
1.事業譲渡によるM&A
中法企業のM&Aによく利用されるもう1つの手法である事業譲渡について説明します。事業譲渡とは、文字どおり、事業の譲渡です。個人事業も含めて規律する商法の表現では、営業の譲渡になります。一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡することを意味します。
難しい言い回しですが、機械や不動産等の財産の売買ではなく、会社等の営む事業の全部または一部の譲渡なんですね。事業譲渡は、一部の事業を売買する目的で、あるいは譲渡人会社の負債やリスクを切り離す目的で、よく利用される手法です。
事業譲渡に必要な手続は、
①事業譲渡契約書の締結
②株主総会の事業譲渡等承認決議(会社法467条)
と株式譲渡と同様に簡便な手続です。
ただし、株式譲渡と異なり、当然に契約関係等を引き継ぐことはできませんし、個々の財産について移転に必要な手続をしなければなりません。
2.事業譲渡によるM&Aの特徴
【譲渡対象を自由に選ぶことができる】事業譲渡の最大の特徴(メリット)は、譲渡の対象を自由に設定できることです。
対象資産を選択することができますし、事業の部門・取引先との取引関係などを基準に一部を切り取ることもできます。
自由度が高く様々なニーズに対応することができますが、譲渡内容を決める事業譲渡契約書は緻密に作成する必要があります。
【リスクを遮断することができる】
株式譲渡は、会社という器そのものを売買するため、譲受人は債務やリスクを負ったままの会社の新オーナーになるわけです。これに対し、事業譲渡における譲受人は、譲渡人が負う債務を承継せず(勿論、その旨譲渡契約書に明記します)、リスクも承継しません。事業のみを譲り受けることができます。事業譲渡の大きいメリットです。
【原則として商号は続用できない】
ただし、譲渡人の商号を譲受人が使い続けると、譲受人も譲渡人の営業によって生じた債務の弁済責任を負います(商法第17条第1項)。
そのため、事業譲渡では、譲渡人の商号を使って営業を継続することをしないのが通常です。商号を変更しないといけないとなると、取引先関係の引継ぎに苦労をすることもあるかもしれません。デメリットですね。
商号を続用しなければならないときは、譲受人がこのような責任を免れるため、譲渡後遅滞なく譲渡人の債務については責任を負わない旨を登記するか、あるいは譲渡人および譲受人から第三者に対しその旨の通知をします(商法第17条第2項)。
【従業員の引継ぎ】
譲渡事業に従事する従業員はあくまでも譲渡人と雇用契約を締結しており、引き継ぐには譲渡人からの退職、譲受人への新規就職という形になります。従業員の合意が必要なのは勿論、退職金制度がある場合には譲渡人が退職金を支払う必要が出てきます(個別契約で譲受人が従業員の在職年数等退職金債務を引き継ぐ形もあり得ます)。デメリットですね。
【取引先との関係、契約関係、許認可】
取引先との契約関係や債権債務、賃貸借契約関係など契約関係も当然には移転しません。相手方の同意を得て、契約上の地位の移転あるいは新規契約等の手続を踏む必要があります。
許認可についてもそのまま利用することはできません。該当許認可で定められた手続に従って、譲受人が新たに取得する、あるいは譲渡手続を承認してもらう等しなければいけません。こちらもデメリットです。
【その他】
事業譲渡契約書は印紙税法の課税文書です。契約書には印紙を貼付しなければなりません。
また、事業譲渡の対象には消費税の課税資産を含みますので、消費税も考慮しなければなりません。
事業譲渡では譲渡対象資産である不動産の移転登記、自動車の登録変更などをしなければなりません。
方法の選択基準
1.株式譲渡を選択するべきケース
中小企業のM&Aで株式譲渡の手法がもっとも多く使われると思います。特に次のようなケースでは株式譲渡を選択するべきといえます。【経営者が引退あるいは廃業を考えているケース】
経営者が引退、あるいは廃業を考えられているケースでは、原則株式譲渡の方法を選択するでしょう。
事業譲渡では、譲渡人の会社が残ります(譲渡代金は法人に入り、事業譲渡益には法人税課税されます)。引退、廃業のためには、別途会社の清算手続を考える必要があります。
勿論、負債やリスクの遮断を目的に事業譲渡が選択され、清算手続を別途行うケースもあります。
【許認可の引継ぎがメインの目的となるケース】
許認可ありきの事業法人のM&Aは、原則として、許認可の関係で被買収会社の法人格を活かせる株式譲渡を利用します。
株式譲渡では、法人格の移動はありませんので、法人格に付いている許認可はそのままです。役員や株主の変更について届出が必要なケースがあるというだけです。
これに対し、事業譲渡では譲渡人に許認可が付いているままですので、譲受人が新たな許認可を取得する等の手続を踏む必要があります。
【取引先との継続取引関係に価値があるケース】
取引先との継続取引関係の引継ぎはM&Aの重要な目的です。
株式譲渡であれば、法人格はそのままですので、法律上は取引先との契約関係に変更はありません。取引口座もそのままです。取引基本契約書などで役員、あるいは株主変更時の届出等の手続が定められていることがあるだけです。事実上、引継ぎには万全を尽くさなければいけませんことは当然ですが。
これに対し、事業譲渡では、取引先との取引関係の引継ぎは、取引先の同意が必要になります。新たな取引口座の開設が難しい場合は事業譲渡ではなく株式譲渡でしょう。
【従業員をスムーズに引き継ぎたいケース】
従業員を引き継ぐことはM&Aの主要目的の1つでしょう。
株式譲渡であれば、従業員との雇用契約関係には影響がありません。この観点から株式譲渡を選択することも多いです。勿論、経営者変更を契機に退職されないよう、新旧経営者からの十分な説明等が必要です。
これに対し、事業譲渡は、譲渡人と従業員との雇用関係は譲受人には引き継がれません。従業員の引継ぎには、従業員の退職、再就職が必要となります。譲渡人会社に発生する退職金の扱い(譲渡会社での支給の有無等)や移籍後の譲受人での待遇(現状を引き継ぐか譲受会社に合わせるか等)も問題になります。譲渡人には従業員の移転を促す努力義務や、従業員の移転が実現しなかった場合のペナルティを伴う義務を負ってもらうこともあります。
【商号続用をしたいケース】
株式譲渡では商号を続用することが通常です。取引先の関係等の維持を容易にするためですね。
これに対し、事業譲渡では、商号続用をしないことが基本です(リスクを負えれば商号続用もあり得ますが)。
【事業譲渡ではコスト負担が大きいケース】
事業譲渡では、権利の移転に別途対抗要件の具備や合意が必要になります。不動産の移転登記、自動車の登録変更、リースの契約名義変更、賃貸借の名義変更等々ですね、契約移行等の手間がかかることは勿論、登記費用等に多額の費用がかかることもあります。
株式譲渡では、所有関係・契約関係等もそのままで、経営者交替に伴い保証人の変更が必要なるぐらいです。ケースによっては事業譲渡の様々なコスト面の負担から、それらのない株式譲渡を利用することもあります。
2.事業譲渡を選択するべきケース
一方、中小企業のM&Aでは事業譲渡もよく選択されます。特に、次のようなケースでは事業譲渡を検討することになります。【売り手が事業継続を前提とするケース】
売り手が事業継続を前提とし、ある部門等を売却したいときは(選択と集中)、事業譲渡を選択します。
【株式の集中ができていないケース】
経営者及びその家族が全株式を保有しておらず、第三者が一部株式を保有しているケースでは株式譲渡によるM&Aは使えません。全部の株式の譲渡でなければ、買い手が見つかる可能性は低いです。
これに対して、事業譲渡は、承認決議ができる限りで可能です(ただし、反対株主の株式買取請求権の行使のリスクもあります)。
株式の集中ができていないケースでは、まずは第三者からの買取り、自己株式化、名義株の整理等、株式の集中を事前に図ることが肝要です。
【売り手のリスク、負債を引き継ぎたくないケース】
事業譲渡は、譲渡人のリスク、負債を引き継がない形でのM&Aが可能です。株式譲渡ではそれらを遮断することはできません。そのため、株式譲渡では、売り手会社に含有するリスクや負う債務などをきちんと監査しなければならないことが多いです(買収監査)。
売り手企業の財務内容が悪い、あるいは不審な点もあるというケースでは、事業譲渡にて譲渡人の負債・リスクを遮断する方法が適切かもしれません。その場合には買収監査を簡便にすることもできますね。
【売り手の負債が多いケース】
売り手が債務過多である場合は、その負債を引き継ぐほどの株式価値がある企業はあまり存在しません。株式譲渡は使えないですね(合併も同じことがいえます)。これに対し、事業譲渡では、売り手の債務を引き離して事業だけを買収することが可能です(会社分割を利用しても可能ですが)。
ただし、売り手企業が倒産するほどの状況下での事業譲渡にはリスクがあります。経済的危機状況でのM&Aは、倒産手続等において、資産隠し、債務飛ばしと問題視され得ます。譲渡人の債権者から債権者取消権を行使される、あるいは破産管財人等から否認権を行使されるリスクですね。
そのような可能性のあるM&Aは、弁護士の関与の下で行い、適正対価であることと、適正な対価の使い方をしているということを、合理的に説明できる手順を踏む必要があります。
買収価格の考え方
1.買収価格の考え方
買収価格は、勿論ケースバイケースで決めることになります。需要と供給の問題ですからね。価格は当事者が自由に決めることができるのであり、決まりはありません。不当に安いあるい高いケースで税務上のリスクが発生することがあるだけです。
勿論、価格の目安というものはあります。
株式譲渡では株式の価値ですね。時価です。贈与税・相続税のための評価である相続税評価額は時価ではありません。
事業譲渡では事業(移転する財産も含めて)の時価ですね。
価値の評価方法はいくつかありますが、同族中小企業のM&Aでは、
① 時価純資産額
② 営業権価格
③ ①+②
を目安に考えることが多いです。同じパターンでもその具体的な評価方法は多岐に分かれます。
なお、当職がお手伝いする案件の中には、当事者間で既に譲渡価格はざっくりいくらと合意されていることも珍しくはありません。
税法上リスクが高い金額でない限りはそのまま話を進め、支払名目(代金か退職金か等)をアドバイスします。
2.買収価格の補足
前述した①資産価格、②営業権価格、③資産価格+営業権価格について、考え方を補足いたします。【資産価格(時価純資産)】
株式譲渡における時価純資産は、株式が表章する会社のモノ・カネの価値です。決算書あるいは試算表の純資産額をベースに、含み益をプラス、含み損をマイナス、換価価値のない資産項目をマイナス等するなど修正して算出します。例えば、決算上純資産(資本の部)が3000万円あるとして、不動産の含み損が1000万円、保険解約返戻金の含み益500万円あれば、時価純資産は2500万円です。
この純資産価格ベースだけでの価格決定も珍しくありません。利益が出ていない会社の営業権価格は考える必要がないですから。
事業譲渡では、譲渡対象とする資産の時価を算出いたします。金額が小さい物については簿価を利用するケースもあります。
【営業権価格】
営業権価格は、会社(事業)が将来生む利益あるいはキャッシュフローを買収価格に反映させるものです。換価価値のある資産がほとんどない会社であれば営業権価格だけで買収価額が決められますね。
営業権価格は、 ①基準とする利益 × ②算定期間(1~5年) で算出します。
①の基準利益には、営業利益、経常利益あるいは当期利益の直近2~3年の平均額を入れます。
営業利益の平均にて算出することが多いでしょうか、営業権の価格ですからね。
ただし、営業利益には、実際に支出されない費用である減価償却費を加えることが多いです。現オーナーの役員報酬が大きい場合には買収後想定できる役員報酬との差額を加えることも多いです。
②の年数に決まりはありません。3年分がスタンダードですが、業種や業態等により異なります。
安定した業種・業態なら3年より長い場合もありますし、不安定であれば短い場合もあります。
事業譲渡での営業権価格の算出はやや難しいですね。部門別の損益計算書等の数字を出してもらうのですが、販売管理費の振り分けが難しいです。また、看板を変えることのリスク、従業員を引き継げるかのリスク、取引関係を引き継げるかのリスクは、価格引き下げ要因となるでしょう。
なお、業種によって特殊な価格算定が慣例になっていることがあります。例えば、当職が経験したものでは、売上〇カ月分と決めるケース、タクシー会社で営業権付車両台数×単価で決めるケースがありました。
【資産価格+営業権価格】
時価純資産価額と営業権価額の合計額を買収額の目安とするパターンです。
一般的な考え方だと思います。もっとも、当職がM&Aの交渉をしたケースでは、営業権価格の考慮を頑なに拒む某上場企業もいました。
【買収総額と買収額との関係】
主に株式譲渡のケースの話になりますが、旧経営者に対して退職所得が譲渡所得よりも有利な範囲で退職金を支給するケースでは買収総額と実際の買収額(株式譲渡代金)とはイコールではありません。
買収総額は退職金支給額と株式譲渡価格の合計になります。退職金を支給すればその分株式の純資産価格も減少しますからね。総額を決めたら、退職金額を検討し、その余を譲渡代金にする形です。
また、長期間にわたって旧経営陣による引継ぎが必要な業態であり、旧経営者にある程度高額の報酬を支払わなければならないケースでは、営業権価格を加味しないこともあるでしょう。営業権は引継ぎにより実現し、営業権価格は実質的に引継報酬により支払われる形ですね。
M&Aの流れ
1.一般的な流れ
単純化するとM&Aの流れは次のようなイメージでしょうか。②から⑤や⑦の順番は前後しますし省略されるものもあります。
① マッチング(相手方候補者の選定)
② 基本契約書の締結
③ デューデリジェンス(買収監査)、価格・条件交渉
④ 最終契約書作成
⑤ 法定手続、最終契約書締結
⑥ 決済
⑦ 引継ぎ
①マッチング
相手方候補者が見つからないとM&Aがスタートしません。
相手方候補者は、当事者が候補者を見つけてくるケースも珍しくはありません。M&A専業コンサルタント、事業引継ぎ支援センター、取引銀行あるいは銀行系コンサルタントが探してくることも多いでしょう。
当職もマッチングを実現したこともありますが、情報量では銀行さんに劣ります。銀行の保有する情報量を活用することは大事です。
②基本契約書の締結
独占交渉権付与と秘密保持契約を内容とする基本契約書を、交渉のスタートとして作成するケースも多いです。必須ではないですが、作成した方が双方が安心でしょう。
それまでに確定した交渉結果の内容も盛り込むこともあります。
③デューデリジェンス(買収監査)、価格・条件交渉
M&Aは、買収対象の株式(企業価値)あるいは事業自体にリスクが包含されている危険がありますし、手続面でのリスクもあります。程度の差こそありますが何かしらのデューデリジェンスあるいは監査を入れることが多いです。
価格算定のためのデューデリジェンス、財務・会計監査、法務監査などです。
価格・条件交渉を当事者だけで進めることはあまりお勧めしません。価格はある程度の相場観をベースに協議した方がいいですね。条件面は最終的に法律的に可能な形で最終契約書に落とし込む必要がありますので、客観的な専門家が仲立ちあるいは調整しながら具体化する方がいいでしょう。かつ、当事者間ではどうしても感情的になってしまう場面が出てきます(感情的な問題でM&Aが頓挫することは珍しくありません)ので、専門家の助言や調整が欲しいところです。
④最終契約書作成
M&Aには契約書を作成する必要があります。基本契約書に対して最終契約書と呼びます。
株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書ですね。契約書作成は法律の専門家である弁護士のサポートを得てください。
スキームによっては、引継ぎのための業務委託契約書、事業用不動産に関する不動産売買契約書や不動産賃貸契約書、あるいは旧経営者が残るケースの取締役委任契約書など、他の契約書の作成も必要になります。
⑤法定手続
M&Aには、法定手続が定められています。法定手続を履行しなければM&Aの効力が否定されることもあります。
M&Aの方法により、スキームにより、あるいは会社の組織体制によって、必要な手続が変わってきます。法定手続の検討の過程で問題点が判明することもあります。
契約書作成に専門家(特に弁護士)が入るケースでは、手続面のサポートも得られます。
⑥決済
株式譲渡、事業譲渡等の実行日ですね。
銀行の応接室にて、双方当事者と当職のようなアドバイザーが立会って決済することが多いです。買い手の銀行融資が絡むことも多いですね。
決済日には、印鑑、鍵等の引継ぎや必要な登記書類の作成も行います。
株式譲渡ではほぼ必ず、事業譲渡ではケースによって登記が必要です。その場合には司法書士の立会いもお願いすることがあります。
⑦引継ぎ
引継ぎは、基本契約書締結から順次するケース、最終契約書締結から始めるケース、決済日から始めるケースがありえます。
引継ぎが必要な点や量は被買収会社あるいは事業の内容によって千差万別です。ケースバイケースで適切な引継ぎ方法を考えることも、M&A成功の秘訣になります。
旧代表者等が数か月から半年程度、業務委託契約に基づいて引継ぎや従業員へのケアをしていくことも珍しくはありません。
2.株式譲渡、事業譲渡の補足
【株式譲渡の流れに関する補足】株式譲渡では、リスクや負債を負っている会社の株式を売買します。そのためデューデリジェンスやリスク監査が重要となります。
しかし、価格がほぼ決まっているから税理士等による価格算定のためのデューデリジェンスは必要がない、企業規模や事業形態から税理士等による財務・会計監査までは必要がない、というケースも多いです。
それでも、法務監査は必ず入れた方がいいです。複雑な契約ごとですし、最低限簡便なリスク監査は必要でしょう(法務監査の中で、価格算定や財務面も最低限見てもらうというパターンも多いでしょうか)。
旧経営者との間の債権債務関係の清算も決済までに行います。旧経営陣との間の債権債務関係を残すのは得策ではないですからね。場合によっては、旧経営陣に対する債務を免除してもらい整理することもあります。繰越欠損があるケースですね、そうでなければ法人税課税があります。
そのほかにも整理できるものは整理してシンプルな形にして株式を売買することが多いです。
なお、引継ぎ関係の話では、株式譲渡では会社の契約関係には影響がないため、各種契約の旧代表者の連帯保証を新代表者に変更することも必要ですね。
【事業譲渡の流れに関する補足】
事業譲渡では契約書と引継ぎが特に重要になります。
事業譲渡の内容は契約書の記載次第ということになります。契約書の内容に一番気を使うことになります。
譲渡資産の切り取り、事業の切り取りを、漏れなく、かつ明確に記載しなければいけません。売掛金と買掛金をどう割り振るか、営業用電話やFAXの番号の引継ぎの有無等の細かい取り決めも必要です。
従業員の引継ぎが最大の関心事であることもあります。実行日前から従業員に対する説明、説得を重ねて、実行日に譲受人に再就職してもらうように手配しなければいけません。名目は別として、再就職時の手当(サイインインボーナス)を支給することもあります。
譲渡事業に必要な賃貸借契約等の契約関係の引継ぎも事前に相手方から了承をとって速やかに変更できるようにしておかなければなりません。
不動産や自動車など登記・登録が必要な資産の譲渡では実行日に変更登記等に必要な書類を授受します。
その他の注意点
1.契約、法定手続等の注意点
M&Aは、会社あるいは事業の引継ぎですので、ケースに応じて様々な課題が生じてきます。個々の事例に即して、譲渡対象会社あるいは事業の内容を把握し、当事者双方の意向を確認しながら、リスクの有無や問題点を洗い出し、調整しながら法律的に有効な形で契約条項を作成する必要があります。
注意点はケースに応じて多岐にわたるのですが、ここでは共通項と思われる点をいくつか挙げます。
【株主、株券の確認】
株式譲渡では、自社株式の保有状況の確認が必要です。決算申告書の附票は証明資料にはなりません。
会社成立時から現在までの株主の移動を説明できるようにしないといけないのですが、株主総会議事録等の古い書類が残っていないケースもあり、ケースバイケースの確認になります。
名義株式や第三者の保有株式がある場合にはできるだけ早めにその解消方法を検討しなければなりません。
事業譲渡でも、きちんと株主総会決議ができるのか、反対株主への対応が可能なのかを検討しなければなりません。
また、株券の発行の有無、発行会社であれば株券の存否を予め確認しなければいけません。株券発行会社かどうかは商業登記、定款で確認します。
株券発行会社であっても実際には株券を発行していないケースも珍しくありません。
株券が発行されていて現在見当たらないケースは一番困ります、失権手続等の手当が必要なのかを検討しなければなりません。
早期に状況を確認してできる手当を講じることが肝要です。
【資産の整理】
同族中小企業では、事業用の不動産等が会社所有ではなく個人所有であるケース、逆に会社保有資産を個人で使用しているケースも珍しくありません。
M&Aではそれらを整理しなければなりません。
個人所有の事業用資産(引き続き必要なもの)がある場合には、事業に引き続き使えるようにしなければなりません。新オーナーあるいは会社が売買等で引き継ぐか、所有者から賃貸借契約等で使用権を設定してもらいます。
所有者に対する貸付金が会社にある場合には代物弁済で整理することもありました。
会社保有資産の個人使用のケースでは、譲渡日に買い取ってもらうのか、退職金の現物支給として名義を変更するのか、会社から個人への移転名目を考えます。
引継期間があるケースではその間の使用を許可し、終了後に清算を考えるということもあります。
【不動産】
不動産の境界確定義務を定めるのか定めないのか(争いがなく確認標・鋲があれば問題はないのでしょう)、建築確認済書類等建築図書、検査済証が引き継げるかどうかも、確認をしておかなければなりません。
それらを欠くと買い手が増改築のときに困りトラブルになることがあります。保健所が絡む工場や薬局などでは、建物図面や届出書類の引継ぎも必要となってきます。
【許認可】
許認可の内容、移転手続の要否等は実行日前に余裕をもって確認をする必要があります。譲渡人に所管の役所にて確認をしていただくことが多いでしょう。
【役員保険】
役員退職金を手当てする等の目的で役員を被保険者として保険契約しているケースも多く、そのケースでは解約して退職金を支払うことで整理します。保険の解約時期と退職金支給決定等保険の解約益と退職金計上損金が期をまたいでしまうと無駄な法人税がかかってしまいます。
旧役員が引き継ぎたい保険がある場合には、保険商品が許す限り、個人の契約者の名義変更をします。法形式は、解約返戻金額を評価額とする退職金の現物支給あるいは売買によります。そうでなければ高い税金がかかります。名義変更のタイミングを間違えないようにしないといけません。
2.引継ぎの注意点
M&Aでは、契約書を作って法定手続を踏んで実行したら終わりではありません。スムーズかつ十分な引継ぎがなされなければM&Aの目的は絵に描いた餅になりかねません。引継ぎに関してもいくつかコメントをさせていただきます。
【旧経営陣の処遇】
事業譲渡であれば旧経営陣の処遇が問題になることはありませんが、株式譲渡であれば問題になります。
会社のオーナーが交代する以上、旧経営陣は取締役等役員から退任してもらうのが原則です。けじめをつけることがスムーズな体制移行には必要です。従業員や取引先にも経営者が変わったことをきちんと認識してもらう必要があります。
ただし、一定期間取締役として役員報酬をもらうことが条件の案件や、建設業等資格の問題で旧経営陣に役員として留まってもらう案件もあります。
経営権の問題が曖昧になることや定款で定めた取締役任期の関係のリスク等の課題がありますので、慎重にプランニングしなければいけません。
【引継ぎの形態】
引継ぎが2~3日で終わるようなケースではいいのですが、取引先との取引関係を引き継ぐため、従業員に対するケアのため、あるいは技術移転が必要等のため、別途契約によって引継期間を設定することがあります。
そのうち、相応の引継業務が必要な場合には、業務委託契約を締結し、委託報酬を支払う形をとることが多いでしょう。期間雇用の形態をとるケースもあります。
なお、引継期間の報酬あるいは給与が相応に高額になるケースでは、営業権価格をその分割り引くことになるでしょう。
【経理、会計】
経理、会計の引継ぎ方法も決めなければなりません。きりがいい形で譲渡実行日を決算期末に合わせることも多いでしょうか(税理士さんもそのタイミングで変えやすいです)。
ただ、その場合は決算申告事務の引継ぎの問題が発生しますね。また、会計ソフトのデータは汎用性があることが多いですが、実際にデータを引き継げるかどうか確認も必要でしょう。
なお、取引先との受発注システムの引継ぎも苦労したケースがあります。薬局関係のレセプト等データも同様です。
【取引先】
取引先の引継ぎは一番大事ですね。ある程度余裕をもって新旧社長が挨拶に行くことをお薦めしております。
取引基本契約書のチェンジオブコントロール条項(会社の支配権の移動がある場合の届出あるいは承認を定めた条項)の有無も確認しないといけません。
なお、取引先の安心を得るために一定期間の引継ぎ期間をとり、旧経営者に補佐してもらうことも珍しくありません。
M&A費用
1.サポート費用
M&Aのサポートは様々なところから受けることができます。どこに依頼するか、どの範囲を依頼するのかにより費用は大きく変わります。一概に説明することは困難です。マッチング(相手先探し)からのサポートをするM&Aコンサルタント会社の報酬は、売買価格の〇パーセントで最低〇円と定まっていると思います。最低報酬は安くて5百万円から高くて数千万(想定規模によって違う)が多いのではないでしょうか。銀行系コンサルタント会社は報酬500万円からが相場でしょうか。これらと別に弁護士費用、税理士あるいは会計士費用がかかるケースもあります。
マッチングがなければM&Aはスタートしませんから、マッチングの対価として相応の費用を取ることは当然です。ただ、あまり高額だと地方の中小企業では利用できませんね。事業引継ぎ支援センターの利用も増えているようです。
当職は、マッチングをした地方銀行あるいは事業引継ぎ支援センターからの紹介により、マッチング以降のサポートをお手伝いをすることも多いです。地方銀行さんの持つ情報とネットワークは侮れません。地方の中小企業規模のM&Aは地方銀行のマッチングによるケースが多いです。当職自体もマッチングを実現したことがありますが、網羅的な情報を保有しているわけではない個々の法律事務所では限界があります。銀行さん等の手をお借りすることもあります。
ここでは、マッチング以外の、弁護士のサポートを受けるべきサービスの費用を説明します。
当事務所では、次のような目安で案件に応じた費用をいただいております。
【助言・契約書作成・法定手続のサポート】
スキームの設計、契約書作成、法定手続のサポートまでのサポートです。一貫して最後までサポートします、書類の作成だけではありません。
経験上、55万円(税込み)から165万円(税込み)の範囲で、事案や仕事量に応じて話し合って金額を設定しています。
金額設定は、買収規模、サポート項目に法務監査が入れるか入らないか、あるいは当事者双方から費用をいただけるか一方からだけか等の事情によって変わります。
なお、サポートの内容や他のコンサルタント会社の費用との比較からは高い設定ではなく、一応は良心的な部類に属すると評価されています。
【税理士と連携する案件】
価格算定のためのデューデリジェンス、財務デューデリジェンス、会計監査を入れる案件では、税理士さんにも加わっていただいております。相応の規模と金額の案件に多いです。
簡便なものについては法務監査の中で対応をさせていただいておりますが、きちんと財務・会計をチェックするということであれば、弁護士だけでは対応できません。
経験上は、弁護士1人・税理士1名で対応できる案件は220万円(税込み)程度、税理士2名以上が必要な案件はそれ以上の設定をさせていただいております。
【コストの考え方】
確かに、専門家のサポートを受けるためには安くない費用がかかります。
しかし、M&Aは大きな売り物、買い物です。トラブルが生じた場合の損害や解決にかかるコストも大きいです。専門家のサポートにかかる費用は、安心して手続を進めるための保険のようなコストだと捉えてください。
必要なコストだということを前提に、取引の規模、想定されるリスクの大小で許容できるコストを考えて、その範囲でサポートを得ればいいと思います。当事者双方がコストを負担する形がとれれば、各当事者のコストは下がりますね。
なお、当事務所も、コストに応じたサポート内容を提案させていただいております。
【費用の頂き方】
設定金額にもよりますが、着手時一括払いのケースや、分割であると着手金50~70パーセント、成功報酬金30~50パーセントの割合でお支払いいただくことが多いでしょうか。
契約時に協議をして決めます。
株式譲渡では、株式譲渡は株主間の契約ですから、株主から費用をお支払いいただくのが原則です。もっとも、会社から費用をいただくケースもあります、事業承継対策のコンサルタントともいえますので、顧問税理士さんと相談していただき、ご希望に沿うようにしています。
事業譲渡のケースでは、売買の当事者である会社から費用をいただきます。
2.その他諸費用
株式譲渡では、役員変更登記が例外的なケースを除いて伴いますし、本店変更や会社の目的の変更等の登記事項を伴うケースもあります。その場合の登記費用の負担があります(司法書士報酬と登録免許税)。事業譲渡でも、不動産登記が絡むことがありますし、会社の目的変更が必要なケースもあるでしょう。不動産の登記は固定資産評価額によっては大きなコストとなりますのでご注意ください。
当事務所では、司法書士と連携して登記もサポートしております。契約書、定款あるいは議事録等、登記の基礎となる資料は当職が作成しますので、それらを司法書士に依頼するコストは省けます。
その他は、印紙代(株式譲渡では原則として必要ありません)、証明書等の取得費用ぐらいでしょうか。大きなコストは見当たりません。
弁護士によるM&Aサポート
1.弁護士のサポートの意味
M&Aには多かれ少なかれリスクが伴います。当事者だけで進めることはお薦めしません。弁護士の助けを得て進めるべきでしょう。【プランニング】
M&Aは定型的なものではなく、オーダーメイドでプランニングをすることが必要です。様々な当事者のニーズを法制度の中でできるだけ効率的に実現する形でM&Aを成功させなければいけません。
民法、会社法、税法等法律を横断的に理解して、法律の中で可能な限りの最適なプランニングをする必要があります。経験上、スキームの設計が一番難しく、かつM&A成功の秘訣であると感じております。
法律の専門家である弁護士のサポートを是非とも得て欲しい所以です。
【契約書】
各種契約書は、その内容に疑義がないように第三者の目を入れて契約書類を作成してください。M&Aの内容は勿論、M&A後の引継ぎ等にもトラブルが発生しないように想定できる課題を契約内容にしていかなければなりません。当事者が良好な関係であったとしても、曖昧な契約書を作成するのは後日のトラブルのもとです。後に問題を蒸し返すことができないように契約書を作成します。
特に事業譲渡は、契約内容によってその効果が定まります。契約内容は契約書の書き方次第です。
また、M&Aの当事者には、単なる売り買いの価格面ではなく、その他の条件面や引継面を始め、M&Aに関連して様々な想いや希望があります。それらニーズを法律に則った形で具体化し調整する、それらを契約書に盛り込む、あるいは別途合意書等の取り決めを行う等するサポートが必要です。
是非とも、法律の専門家、トラブル事例を熟知している弁護士のサポートを得てください。
【法定手続】
M&Aには各種手続に伴い必要な法定手続があります。それらを踏んでいないケースも見受けられます。トラブルのもとですし、M&Aの有効性に疑義も生じてしまうことです。
法律の専門家である弁護士のサポートにより安心して、かつ効率的に進めてください。
極端なケースでは口頭で取り決めをして法定手続を全く踏んでいないM&Aのケースの解決の訴訟代理人をした経験があります。きちんと手続を踏むことがトラブルの防止になります。
【リスクの監査】
M&Aでは多かれ少なかれ譲渡人が抱えるリスクを引き継ぐことになります。
株式譲渡(合併もです。)は、被買収会社のリスクはそのまま残りますので、リスクの監査を経ることが望ましいです。
事業譲渡であれば譲渡会社の抱えるリスクはある程度遮断できますが、それらリスクは事業価値自体の評価にかかわります。
リスクは、最終的に法律を経て(裁判等)、損害賠償請求権等の形で顕在化しますので、監査は弁護士が法的な観点からするべきです。買収監査をどこまでやるかどうかはコストとの兼ね合いですが、少なくとも最低限の法務監査は弁護士にしてもらいましょう。
【総合的なサポート】
M&Aには、総合的なサポートが必要な事案もあります。
財務デューデリジェンスが必要な案件はぜひとも、そうでなくとも退職金が絡む税務面での設計はその限りで、税理士の助けが必要です。司法書士の助けも必要でしょう。実行後速やかな登記が必要になります。一番の理想は、ワンストップでそれら専門家のサポートを得ることですね。
当職の場合も、税務的なアドバイスが必要なケースでは(税法も大学院の客員准教授として税法を担当しておりますが)税理士に相談し、あるいは登記面で司法書士のアドバイスを得ながらサポートをすることが多いです。
弁護士、税理士がタッグを組んで取り組まなければならない財務デューデリジェンス等が絡む案件では、連携する税理士にも入ってもらいます。
なお、中小企業サポートの目的で士業(弁護士、税理士、司法書士等)が集結した合同会社RYDEENの一員として総合的なサポートをすることも多いです。
【M&Aに精通した弁護士のサポート】
弁護士業務の中でM&Aはやや特殊な部類の仕事になります。専門的な知識は前提として、様々なケースに対応できるだけの場数を踏まなければ十分なサポートができないかもしれません。
法律だけ知っていればいいわけではなく、得手不得手のある分野です。また、M&Aサポートに向けて他の士業との連携体制を整えていなければ総合的なサービスを提供することができません。
弁護士のサポートは必須と思いますが、どうせサポートを受けるのでしたら、M&Aに精通しサポート体制を整えている弁護士のサポートを得てください。
弁護士に相談する際には、弁護士に対して疑問点や質問等を投げて、具体的かつ的確な回答を得られるか、本当に任せてよいかをよく吟味して選択するべきでしょう。
手前味噌ですが、当職は、銀行勤務経験から会計にも明るく、税法にも精通しており、M&Aサポートの経験も数多く、他の士業との連携体制も整っております。ぜひ、ご相談ください。
2.サポートのタイミング等
弁護士がM&Aをお手伝いするタイミングは、①相手方候補者探し(マッチング)から
②相手方候補者との契約交渉の段階から(交渉あるいは調整、助言、スキーム設計)
③契約書作成の段階から(助言、スキーム設計、契約書作成、法定手続サポート)
とケースバイケースです。
また、関わり合い方も、一方当事者の代理人のケース、あるいは双方当事者のアドバイザーとして調整していくケース等、ニーズに合わせた形をとっています。
①当職の伝手でマッチングを実現した例もありますが、銀行のサポートを得ることもあります。
当職が携わるM&Aでは、①のマッチングは、当事者で既に話し合っている、あるいは銀行ないし事業引継ぎ支援センターが既にマッチングしているケースが多いです。
②相手方候補が決まっても、なかなか当事者間でスムーズに話し合いができないケースもあります。当事者では協議がし難い事柄もありますね。また、概要は合意できても、それを形にするスキーム作りはなかなかできません。
弁護士が一方の代理人あるいは双方のアドバイザーとなり交渉あるいは調整しながら整理をしていきます。弁護士のアドバイスを受けながら具体的に話を詰めていくだけでも大きな意味がありますね。
③ほぼ当事者で話が決まった段階で、契約書はきちんと作らないといけない、具体的にどう進めていいかわからない、客観的な第三者に入ってもらった方が安心だ、等の理由で弁護士を入れることも多いです。
当事者で決めた話を吟味してスキームを設計し、助言をしながら契約書の形に具現化していき、法定手続等もサポートします。
単に契約書を作ればいいわけではありません。どのように契約書を作るかが大事であり、手続の段取りを組んでスムーズに進めていくサポートが重要です。
②と③は重なり合います。③の場面でも、これまでの交渉結果を具体化するスキーム設計を改めてしなければなりませんし、交渉により確定しなければならない詳細が多く残っているが通常です。
また、②③の段階で、買収監査を盛り込むケースもあります。法務監査、財務デューデリジェンス(こちらは税理士と連携します。)ですね。
買収監査をサポート項目に入れない場合でも、契約書作成過程にて最低限の法的リスクのチェックは行っております。
どこで依頼するべきかはケースバイケースの判断でしょう。ただ、遅くとも相手方との具体的な交渉の段階では、少なくとも弁護士の助言を得る方が安心ですし効率的です。
なお、交渉自体は当事者の方がやりやすいという話をよく聞きます。一面真実ですが、契約ごとはシビアに接しなければならない場面もありますし、感情的になって決裂するケースも少なくありません。当事者で話し合いを進める際も、少なくとも専門家による整理をしながら進めるべきでしょう。
まとめ
1.中小企業のM&A
中小企業のM&Aに特化した形で、M&Aとは何か、事業承継の一環としてのM&Aの位置付け、特に利用が多い株式譲渡と事業譲渡、手続の選択基準、価格の考え方、M&Aの流れ、注意点あるいはM&Aにかかる費用などを説明させていただきました。網羅的な説明に終始し、詳細まで立ち入ることができなかった点は多々あります。また、M&Aは個々の事情に即したオーダーメイドの設計が必要ですので、そのすべてを解説することもできません。簡単にまとめると次のようなことになります。M&Aは事業承継の一環として、あるいは経営戦略として活用されています。中小企業では基本的には株式譲渡か事業譲渡の手法を選択します。ニーズに応じて株式譲渡と事業譲渡の特色に照らしてスキームを設計しなければいけません。価格の考え方自体も一律ではなく、売買・退職金・業務委託なども絡んできました。その他様々な注意点や課題もクリアして、スムーズな引継ぎを実現しなければなりません。専門家のサポート費用は必要なコストでした。
説明内容は概括的に留まっている感もありますが、しかしながら実務経験に応じた解説になっております。ご参考にしていただければ幸いです。
2.法律的あるいは総合的なサポート
M&Aでは、法律的にリスクを確認して、法律的に可能な形で当事者のニーズを具現化し、後の法的トラブルを防止する必要があります。法定手続を踏まなければならないことも当然です。M&A自体大きな買い物、売り物ですし、トラブルを生じさせてはその解決に多大なコストがかかる事柄です。弁護士による法律的なサポートがぜひとも必要です。
M&Aは専門的な分野であり場数を踏む必要がある事柄です。個々のケース毎に新たな課題が提示されてその都度解決策を講じていくようなイメージがあります。M&Aに精通した、かつサポート体制を整備した弁護士のサポートを得るべきでしょう。
勿論、当職は、M&Aに精通した弁護士の一人と自負しておりますし、業務の柱の1つとしてM&Aサポートを掲げて経験も積んでおります。他士業との連携体制も用意しております。M&Aをお考えの際には、ぜひともご相談ください。
この記事を書いた人
弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
その他、広島市消費生活紛争調停委員会委員等
◆資格等
弁護士、公認内部監査人試験合格
(なかた法律事務所) 2020年5月29日 09:35
個人再生の徹底解説
広島市の弁護士仲田誠一です。今回は個人再生を徹底解説します。個人再生は自己破産と比べて技術的な要素が高いためわかりにくい制度かもしれません。
しかし、選択肢の1つとしてぜひ検討していただきたい手続です。徹底的にかつわかりやすく説明させていただきます。
ぜひ、ご参考にしてください。
目次
個人再生選択する基準
住宅資金特別条項
小規模個人再生
給与所得者等再生
最低弁済額
清算価値
再生委員
費用
準備に関する注意点
まとめ
個人再生とは
1.個人再生手続とは
個人再生とは、裁判所から認可された再生計画に基づいて、原則3年(最長5年)の弁済期間で一定の債務(計画弁済額)を弁済し、計画弁済額を弁済し終わったところでその余の債務の免責を受けられる法的債務整理手続です。民事再生の個人版です。
非免責債権を除いてすべての債務の支払義務を免れる自己破産と、元金カットがない任意整理との中間的な手段として位置づけられるでしょうか。
個人再生と破産の違いとしては、①個人再生には免責不許可事由がない、②資格制限がない、③財産が処分されることはない、④住宅ローンを支払い続けることができる、といったものがあります。
これらの違いにより、個人再生を選択肢に入れることによってスムーズな経済的更生に向けた解決策が生まれることがあります。
◆個人再生での弁済期間◆
個人再生は債務の一部(計画弁済額)を弁済していきますが、その期間は原則3年です。「特別の事情」がある場合には5年まで定めることができます。
小規模個人再生のケースでは5年間の弁済期間を定めることは比較的容易です。
これに対し、要件判断が厳しい給与所得者等再生では、ハードルが高いです。3年では弁済できない理由やそれでも履行可能性があることなどを裁判所に理解してもらわなければなりません。
◆弁済方法◆
再生計画に基づく弁済方法は分割です。3か月に1回以上の弁済をすることが法律上要求されます。ボーナス併用も許容されます。
当職は、例外なく、3か月に1度の均等弁済の計画案を作成しています。毎月ですと面倒ですし振込手数料もかさばります。また、変動する賞与をあてにすると怖いですからね。
例外として、不利益を受ける債権者の同意がある場合、少額債権、非減免債権等の支払方法を別に定めることができます。分割するまでもない少額の債権者について一括で弁済するケースが多いです。
なお、再生計画に基づく弁済中の繰り上げ返済ができるかという相談を受けることもあります。理屈上は、全債権者に対して一括弁済をする限りで許されます。
2.個人再生手続の種類
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続があります。両者の大きな相違点は、最低弁済額、要件、再生計画案の決議の有無です。
両手続のイメージは次のとおりです。
小規模個人再生は =弁済額が小さく抑えられるが、債権者の反対があれば認可されない。
給与所得者等再生 =債権者の同意は必要ないが、要件が厳しいし弁済額が大きくなる傾向にある。
◆小規模個人再生か給与所得者等再生か◆
小規模個人再生を優先して検討するのが基本でしょう。
最低弁済額の計算方法の違いから、給与所得者等再生では、特に収入が高い、あるいは被扶養家族が少ないケースで最低弁済額がかなり大きくなります。場合によっては、個人再生を選択できない、あるいはできても意味がなくなることもあります。また、給与所得者等生死吾は小規模個人再生に比べて要件が厳しく、裁判所も厳しく見てきます(個人再生委員選任の可能性も高まります)。
ただし、小規模個人再生の選択には、債権者の構成を気にしないといけません。給与所得者等再生と違って、債権者の半数あるいは債権額の過半数を占める債権者の反対があれば再生計画が認可されません。
債権者が2社以内、あるいは飛びぬけて債権額の大きい債権者がいるなどのケースでは、債権者反対のリスクが高くなりますので、給与所得者等再生を選択することもあります。
個人再生を選択するケース
1.任意整理と法的債務整理の選択
まずは、任意整理と法的債務整理(自己破産、個人再生)のどちらを選ぶか考えないといけません。任意整理は、債権者との交渉により通常3年から5年の分割弁済契約を結ぶことです。将来の利息をカットしてくれる債権者がほとんどですが、元金カットは望めません。裁判所の調停手続を利用する場合を特定調停といいます。
自己破産が「支払不能」、個人再生が「支払不能のおそれ」を要件としています。「支払不能」とは、期限の到来した債務を一般的・継続的に弁済できない状態をいいます。
理屈上は、「支払不能のおそれ」もないケースでは任意整理を選択することになります。ただ「支払不能のおそれ」といっても明確ではありませんね。
実際には、任意整理が可能かどうか検討して、可能であれば任意整理、そうでなければ個人再生か自己破産を選択する流れでしょう。
当職は、総債務の元金合計額を3年で弁済できるのかどうかを基準にしています。月々の平均収支を考えて、3年で支払えない、あるいは支払い続けられるか不安であるケースでは、個人再生か自己破産を選択します。
個人再生の弁済期間は原則3年であり、任意整理の支払期間も3年が標準です。そのため、3年を基準として考えるのです。
このような考え方で個人再生を申し立てて、裁判所から自己破産や個人再生を否定された経験はありません。
ぎりぎりの収支を考えてはいけません。ある程度余裕をもった数字で考えます。ボーダーラインでは、元金カットができない任意整理よりも、個人再生や自己破産を選択する方がいいケースが多いです。
債務整理をするのであれば、経済的更生を確実に図るべきです。ぎりぎりの計画では、途中で支払えなくなり失敗をするとそれまでの苦労が無駄になります。法的整理で元金をカットして生活を安定し不測の事態に備えて少しでも貯蓄ができるようにした方が適切です。
◆法的債務整理を躊躇しうるケース◆
基本は上述の基準で考えていきますが、なお法的債務整理を躊躇するケースについて何点かコメントします。
家族に内緒にしているというケース
法的債務整理でも家族に連絡が届くことはありませんが、同居の家族の収入証明資料(源泉徴収票、給与明細)など同居の家族の協力がなければ必要書類が用意ができないかもしれません。
それらを集めることができないという理由で任意整理を選択するケースもあります(なお、個別の事情を説明して取得できない資料の提出を免除してもらったケースも例外的にあります)。
保証人がいるケース
法的債務整理を行うと保証人に請求がいってしまいます。任意整理では、債権者を選ぶことができ、保証人がいる債務の整理を外すこともできます。
勤務先に対して債務がある、あるいは家賃滞納をしているケース
任意整理と異なり、法的債務整理ではすべての債権者を破産債権者あるいは再生債権者として扱わないといけません。
勤務先に対する債務がある、家賃滞納をしているケースでは、勤務先や家主を債権者として扱えないということで、任意整理を選択するケースも考えられます。
もっとも、それらを優先して弁済して完済した時点で法的整理を行う方策が可能ですので(手続上問題視されるのですが)、諦める必要はありません。
車のローンの担保になっている車(所有権留保物件)を維持したいケース
車が所有権留保物件であれば返却の必要があります(銀行ローンでは担保になっていないことが通常です)。任意整理であれば車のローンを整理の対象としなければいいだけです。
任意整理では経済的更生が難しいようなケースでは、本当に車が必要なのか考えなければなりません。経済的立ち直りと車のどちらが優先順位が高いかです。
法的整理がやはり必要でかつ車がどうしても必要なであれば、新たな車の準備の可否、親族等の援助を得て手元に残す(問題視され得る行為なので弁護士の指示にしたがって進めてもらいます)等、法的債務整理でも車が残る方策を考えます。
2.自己破産と個人再生の選択基準
法的整理手続を選択するとして、自己破産と個人再生のどちらを選ぶのかという問題が残ります。経済的合理性の観点だけで考えると、全ての債務の支払義務を免れるメリットがある自己破産を優先するのが基本となるでしょうか。
次のような基準で決断していただければいいと考えています。
◆支払不能か支払不能のおそれか◆
破産の要件は「支払不能」であるのに対し、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」です。しかし、基準としてはあまり使いませんね。程度問題ですし、多くの場合は双方に当てはまります。
◆住宅ローン付の自宅を維持したいか◆
住宅ローン付の自宅を維持したいケースでは、個人再生を選択し、後述の住宅資金特別条項を利用します。個人再生事件の多くは住宅資金特別条項を利用した自宅の維持を目的とするものです。
自己破産では自宅は維持できません(適正価格での親族への売却により残せるケースもなくはないですが)。
◆破産における免責不許可事由の程度が重いケース◆
浪費やギャンブルなど破産法で定める免責不許可事由の程度が大きいケースでは、破産を避けて、免責不許可事由がない個人再生を選択する場合があります。
破産でも免責不許可になるのはレアケースですが、リスクはあります。また、管財事件になる可能性も高まります。
なお、個人再生手続においても、免責不許可事由が偏頗弁済や贈与等無償行為などの否認相当行為にも該当するケースでは、清算価値に影響します(それでも破産手続で否認されるよりは影響を自分だけに留めるメリットがあります)。
◆免責決定が確定してから7年未満のケース◆
前回自己破産の免責確定から7年未満のケースでは、自己破産をすることができません。厳密にいえば免責不許可事由の1つになるのですが、このケースでは裁判所が容易に裁量免責をしてくれません。
そのため、小規模個人再生を選択します(個人再生でも給与所得者等再生は使えません)。
◆破産における資格制限を回避するケース◆
破産手続には、数は少ないですが、手続中に就けない職業があります(「資格制限」といいます)。警備員、保険外交員、証券外務員、宅建主任者、旅行業務取扱主任者、マンションの管理業務主任者などです。
これに対し、個人再生は資格制限がありません。資格制限を避けるために個人再生を選択するケースがあります。
◆処分されたくない財産があるケース◆
個人再生では、財産は処分されません。財産額(清算価値)が最低弁済額に影響を与えるにとどまります。車、保険、不動産を残したいという目的で個人再生を選択することもあります。もっとも、清算価値が大きいケースでは、最低弁済額が大きくなり、個人再生の選択ができない可能性もあります。
もっとも、破産においても、本来的自由財産及び自由財産拡張対象財産は手元に残ります。
◆車を残したい◆
ローンの付いていないあるいは完済した車は、個人再生では確実に残せます。価値が最低弁済額に影響を与えるだけです。
破産でも初年度登録から6年経過している車は原則残せます。
クレジット会社の所有権留保物件になっている車はどちらの手続でもクレジット会社へ返却が必要です。普通自動車は、所有者名義の登録状況や契約形態によって返却すべきでないケースもありますので、車検証の写しと契約書を弁護士に提出して確認してもらった方がいいです。
なお、銀行のマイカーローンは所有権留保物件になっていないのが通常です。
◆勤務先に対する債務があるとき◆
債権者はすべて破産債権者あるいは再生債権者として扱わなければなりません。勤務先に借金(名目は借金ではなくても債務があれば同じです。給与明細を確認してもらってください。)があるときは、申立て前に優先弁済する決断をするケースもあります。破産でいう免責不許可事由と否認対象行為に該当します。そのようなケースでは、個人再生の方が無難かもしれません(破産を利用できないというわけではありません)。免責不許可事由がないですし、否認対象行為も清算価値に計上するだけで済みます。
◆家賃滞納があるとき◆
家賃滞納があるケースでは、免責不許可事由と否認対象行為に該当することを覚悟して優先して滞納を解消してから自己破産を申し立てるケースもありますが、個人再生の方が無難な方法かもしれません。免責不許可事由がないですし、否認対象行為と見られても清算価値に計上するだけで済みます(破産を利用できないというわけではありません)。
◆自己破産を望まれるケース◆
個人再生を選択して少しでも債権者に弁済したいというご意向を尊重するケースも多くあります。自己破産を潔しとはしない方です。
ただし、職業が不安定なケースや、弁済期間が5年にしなければならないケースでは、お勧めしません。途中で弁済できなくなると水の泡になりますし、5年後に全く貯蓄がないという状況は好ましくないです。
住宅資金特別条項
1.住宅資金特別条項とは
住宅資金特別条項は、個人債務者が住宅を手放すことなく経済的更生を図ることを可能とするため、住宅ローンの返済を継続しながら住宅を維持しつつ、他の債務を圧縮して原則3年で弁済できるようにする制度です。住宅ローン特則とも呼ばれます。住宅資金特別条項の利用には、担保が付いているのが「住宅」であり、対象のローンが「住宅資金貸付債権」でなければなりません。
「住宅」と認められる条件は、
①所有する建物であること
②自己の居住の用に供する建物であること
③床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されること
です(複数建物がそれらを満たす場合には主として居住の用に供する建物でなければいけません)。
この3つの要件を充たす限り、店舗兼居宅、二世帯住宅でもかまいません。
必ずしも単独で所有している必要はなく、共有の不動産でも対象になります。
「住宅資金貸付債権」と認められる条件は、
①住宅の建設・購入あるいは住宅の改良に必要な資金の貸し付けであること
②分割払いの定めがあること
③債権または保証人(保証会社)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
です。
この3つの要件を充たす限り、借り換えローンやリフォームローンでもかまいません。抵当権ではなく根抵当権でもかまいません。
通常の住宅ローンですと、「住宅」、「住宅資金貸付債権」とも上述の条件を満たしますね。
住宅資金特別条項には、①期限の利益回復型、②リスケジュール型、③元本猶予期間併用型、④同意型・合意型の4つの種類がありますが、そこまで気にしなくてもけっこうです。
住宅ローンの期限の利益を喪失していなくて、そのまま約定の弁済を続ける最も多いケースを「約定型」あるいは「そのまま型」と呼んでいます。
保証会社が既に代位弁済をしていても利用できます(「巻戻し」)。ただし、保証会社による代位弁済から6か月以内でなければならない等条件があります。利息損害金等の費用負担も問題となります。
抵当権が実行され競売を申し立てられているケースでは、競落されてしまうと住宅資金特別条項が利用できなくなりますので、中止命令申立てが必要です。
借入が住宅ローンだけのケースでも住宅資金特別条項を利用した個人再生が可能です。
仮に住宅資金特別条項が利用できないときは、別除権協定を債権者と結んで住宅を残す方法も理屈上は考えられますが、実際上はなかなか難しいです。
2.住宅資金貸付特別条項が利用できるか問題となるケース
住宅資金特別条項が利用できるかどうかの判断は技術的で難しい場合がありますので、弁護士に確認してもらってください。弁護士に相談される際には、①住宅ローンの契約書、②不動産の登記簿謄本、③固定資産課税明細書、④返済予定表をお持ちください。
住宅資金特別条項が利用できるか問題となる具体的な例についていくつかコメントをいたします。
◆オーバーローンではないケース◆
住宅資金特別条項は、自宅不動産がオーバーローン状態(不動産価値よりも抵当権の被担保債権の方が大きい状態)でなくとも利用できます。
ただし、余剰価値(不動産価値マイナス抵当権の被担保債権)は、清算価値に計上しなければいけません。余剰価値が大きいと、最低弁済額が大きくなりすぎます。
◆賃貸に出しているケース◆
賃貸している不動産については、自己の用に供する建物ではないとして住宅資金条項が使えないのが原則です。
しかし、転勤の期間を利用するなどして一時的な賃貸借をしており、将来的に居住の用に供すると客観的に認められるケースでは、住宅資金特別条項の利用が可能です。
◆他の担保が付いているケース◆
自宅不動産に住宅ローン以外の担保権が付いていたら住宅資金特別条項が利用できません。債権者間で不公平が生じるからです。
同じ理由で、滞納処分による差し押さえがなされている場合も利用できません。完済する、課税庁と協議が成立しているケースでは例外が認められ得ます。
◆諸費用ローンがあるケース◆
住宅ローンと同時に諸費用ローンを組み、自宅不動産に抵当権を付けているケースでは、理論上は住宅資金特別条項が利用できないのが原則です。
しかし、諦める必要はありません。
運用上は、
①住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金の借入れであること
②諸費用ローンの額が住宅資金に比べて僅少であること
をきちんと説明できるケースでは、諸費用ローンを住宅資金貸付と扱ってくれる傾向にあります。
②は通常満たしますね。住宅ローンの1割程度が諸費用ローンの金額のはずです。①は、諸費用ローン契約書の資金使途欄の記載や領収書にて、登記費用、仲介手数料、税金、火災保険料等住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金であったことを説明すれば大丈夫です。
ただし、諸費用ローンを住宅資金貸付と認めるのは例外的取り扱いなので、個人再生委員が選任される可能性が高いと思われます。
◆夫婦ABが同時に債務整理しなければならないケース◆
夫婦ABが同時に債務整理をしつつ自宅を維持したい場合には気を付けないといけません。場合によっては自宅の維持に支障があります。
不動産所有者名義(単独所有か共有か)と住宅ローンへの関わり合い(連帯債務者、連帯保証人か)でパターンを分けて説明します。
①Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンに関与していない
通常のケースです。BがAの住宅ローンの連帯保証人や連帯債務者ではない、かつ不動産の所有権持分ももっていないケースです。
Bの債務整理がAの住宅ローンに影響を与えることはありません。単純に住宅ローン債務者であるAが住宅資金特別条項を利用して個人再生を進めます。
Bは自己破産でも個人再生でもかまいません。
②Aが所有者兼債務者でBが連帯保証人
住宅ローン債務者であるAは住宅資金特別条項を利用して個人再生ができますが、所有者ではない保証人のBは住宅資金特別条項を利用できません。
ここで困ることがあります。保証人の自己破産、個人再生申立ては住宅ローンの期限の利益喪失事由に挙げられています。
Bが個人再生あるいは自己破産をすることによりAの住宅ローンの期限の利益が喪失されないように、住宅ローン債権者との交渉が必要になります。多くの債権者は期限の利益を喪失しない扱いにしてくれるとは思います。
③Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンの連帯債務者
所有者であるAしか住宅資金特別条項が利用できません。
Bが自己破産なり個人再生なりを選択するのであれば、上述の連帯保証人のケースと同じような交渉が必要です。
④不動産はAB共有、Aが債務者、Bが連帯保証人
このケースでは、ABが同時に個人再生を申し立てる場合に限って、夫婦ともに住宅資金特別条項が利用できるとされています。Bは所有者でありますが、保証債務履行請求権は住宅貸付金に該当しません。同時に申し立てる場合に限って利用が許される所以です。
⑤不動産はAB共有、ABが連帯債務者
登記簿の乙区を確認してください。住宅ローンの抵当権の債務者の記載として夫婦AB両名が記載されていれば問題なく住宅資金特別条項の利用ができます。不動産が夫婦共有の場合はこのケースが多いと思います。抵当権の債務者の記載がズレているケースは債務者としての記載のない配偶者は利用できないことになります。
⑥不動産はAB共有、ABが個別に住宅ローンを負担
夫婦がそれぞれ個別の住宅ローンを組んでいるケース(ペアローン)は、ABのそれぞれの住宅ローンについて各ABを債務者とする抵当権が設定されていれば、住宅資金特別条項が利用できます。ただし、このケースでもABが同時に個人再生を申し立てる必要があります。
◆住宅ローン債権者に他の借入れもあるケース◆
住宅ローンを借りている銀行に、銀行カードローンなどの他の借金もあることは多いです。
このようなケースでも住宅資金特別条項を利用して、住宅ローンのみ支払いを継続することはできます(他のローンは再生計画に基づいてその一部を支払うことになります)。
もっとも、受任通知が届くと引落口座を凍結されると思いますので、返済方法を銀行と協議する必要が出てきます。
小規模個人再生
1.小規模個人再生の要件
小規模個人再生を利用する要件は次のとおりです。勿論。個人再生ですから、個人であることが条件となっています。
◆手続開始要件◆
①支払不能のおそれがあること
②申立てが適法であること
③民事再生法25条所定の棄却事由がないこと
④将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)
⑤負債総額が5000万円を超えていないこと
③は、主に再生計画の立案あるいは可決の見込みがあることが要求されます。特に履行可能性が問題になると思ってください。きちんと計画どおり弁済していける見込みがあるのかということです。
⑤では、住宅資金特別条項の住宅資金貸付(住宅ローン)の金額は外して計算します。
◆認可要件◆
再生計画が認可されるための認可要件として、債権者の消極的同意が必要です。そのため、書面決議手続があります。
具体的には、書面決議により、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されます。手続もそのまま廃止されることになります。
債権者が2社以内のケース、過半数の債権額を占める債権者がいるケースでは、1社でも反対をすれば再生計画が認可されませんので小規模個人再生の選択も慎重になり、給与所得者等再生の選択も検討します。
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
継続的な就労実態がある限り、たとえ勤務先が変わっていたとしても、「将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込み」(収入要件)を満たすと認められます。年金生活者もまた利用可能です。
給与所得者等再生と違って、小規模個人再生では緩く認めてくれる傾向にあります。
◆家族の収入や親族からの援助◆
本人について将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることの要件を満たせば、履行可能性については配偶者などの収入を入れた家計収支で判断します。
親族の援助も確実に見込まれることが疎明できれば加味してもらうことは可能です。
◆専業主婦・専業主夫◆
継続収入の要件を充たさないために個人再生を利用することはできません。
◆再生中に退職予定の場合◆
転職先が確実に見込まれているときは可能です。
なお、退職金が出る場合には最低弁済額が大きくなってしまいます(手続中に支給されるケースで4分の1評価が可能であったケースがあります)。
◆債権者の反対◆
債権者の反対の可能性は高くはありません。従前は、公的金融機関以外はよほどのことがない限り反対をしてきませんでした。反対しても自己破産を選択されてしまうと経済的合理性がありません。
しかし、最近は、ケースバイケースの判断で、あるいは会社の方針として、反対する債権者が増えてきているような気がします。勿論、反対をしてこない債権者が大多数であることは変わりありません。
◆不認可となったら◆
債権者の反対により再生計画が不認可となっても失敗だと諦めてはいけません。手続廃止を待って、すぐに自己破産あるいは給与所得者等再生を申立てます。
弁済率を上げれば債権者が賛成するという見込みがあれば、交渉の上、小規模個人再生の形で再度申立てをすることもあり得ます。
2.小規模個人再生の流れ
広島地方裁判所本庁における小規模個人再生の流れは次のとおりです。わかりやすくするために細かい手続は捨象しております。なお、個人再生委員が選任されない多くのケースでは、弁護士が代理する限り、ご本人が裁判所に行くことは原則ありません。例外的に事情を確認のために呼び出されることがあるだけです。
①受任通知の発送
契約後、債権者に受任通知を発生します。弁済はストップいたしますが、住宅資金特別条項を利用するケースでの住宅ローンは引き続き弁済してもらいます。
受任通知の発送により、借入れをしている銀行の口座が凍結されることにご注意ください(保証人の口座も凍結されます)。
②申立準備
個人再生では家計収支表を3か月分提出しないといけません。自己破産よりも1か月分多く、準備期間を3か月から4カ月とることが多いです。
また、個人再生を選択するケースでは収入が相応にあり法テラスを利用できないケースも多いです。弁護士費用の分割払いをしている期間が長くなれば準備期間も長くなります。
③申立て
住所地(住民登録地と居所が別の場合には居所が優先)を管轄する地方裁判所に個人再生手続開始を申し立てます。
申立て後、1~2週間で、裁判所から補正連絡(宿題のようなもの)が来ることが多いです。
なお、履行可能性を確認するために必要とされる「試験積立」を開始するタイミングも申立て時が多いです。
④手続開始決定
補正連絡(裁判所からの宿題)に対応し予納金を納めれば開始決定が出ます。裁判所から債権者に対して債権届の提出を求めます。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金を納付したタイミングで個人再生委員が選任され、選任後3週間を目途として開始要件に関する意見書が出された後に開始決定が出ます。
⑤報告書、計画案の提出
財産状況報告書、再生計画案、返済計画表の提出期限が開始決定の2か月後程度に設定されます。
試験積立通帳の写しは必ず、裁判所の指示があれば家計収支表も一緒に提出します。
⑥書面決議
報告書等提出後1週間程度で書面による決議に付する決定が出ます。回答書提出期限は1月弱でしょうか。
個人再生委員が選任されているケースでは、意見書の提出に2週間ほどかかります。
⑦再生計画の認可・不認可
回答書の提出があり、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意がない限り、裁判所が再生計画の認可決定を1週間以内に出してくれます。
⑧弁済開始
再生計画の認可決定が確定したら、再生計画に基づいた弁済の開始です。再生計画認可の翌月末から弁済が開始するイメージでいいと思います。
◆申立て~認可決定の期間◆
スタンダードでなケースで5カ月程度だと思ってください。弁済開始までは6か月前後ですね。個人再生委員が選任されるケースでは1か月程度長くなります。
広島地方裁判所本庁では、開始決定が出ると今後の手続の予定を書いたスケジュールをもらうことができます。
◆弁済ができなくなったとき◆
再生計画の履行の見込みがないと再生計画は認可されませんが、その後の失業などで再生計画案に基づく弁済ができなくなるケースもあります。債権者が再生計画取消を裁判所に申立て、取消し決定が出てしまうと、失敗に終わります。
これまでの苦労も水の泡になってしまい、改めて自己破産を申し立てざるを得ないことが多いでしょう。数日の遅れなら何とかなりますが、遅れが続くようでしたら、早めに相談してください。
給与所得者等再生
1.給与所得者等再生の要件
給与所得者等再生は、小規模個人再生の特則と位置付けられています。小規模個人再生の特則ですので、前述の小規模個人再生の手続開始要件を満たしていることが前提です。小規模個人再生と違い、再生債権者による書面決議が必要ありません。債権者の意見は聞かれずに、裁判所がOKを出したら再生計画が認可されます。
再生債権者の書面決議を不要とする代わりに、要件が加重され、最低弁済額の計算も異なるという仕組みです。
それらを要件を充足するかの意見をもらうため個人再生委員が選任される可能性が高まります。
◆加重される要件◆
「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入の変動の額が小さいと見込まれること」が必要です。
将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることが小規模個人再生よりもかなり厳しく吟味されることになります。
原則として過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動がないことが要求され、もし変動があれば今後の変動が小さいと見込まれる事情の説明が必要です。
また、破産免責決定の確定、給与所得者等再生計画認可決定の確定、あるいはハードシップ免責再生計画認可決定の確定から7年を経ていることが必要です。
それらから7年未満のケースは、小規模個人再生を選択します。
さらに、個人再生では再生計画が遂行される見込みがないときは再生計画が認可されません。この再生計画の履行可能性をかなり厳しく吟味されます。給与所得者等再生では債権者の意見を聴かずに認可の決定をするためです。
小規模個人再生では書面決議の結果認可できるときは例外なく認可されます。
◆最低弁済額の計算方法◆
給与所得者等再生では、再生計画において計画弁済額を定める際の最低弁済額が小規模個人再生と比べて厳しくなっております。
生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上であることが要求されます。収入と被扶養者の数によっては、可処分所得が大きくなりますので、独身者や収入が多い方は選択ができないケースもあります。
詳細は後述いたします。
◆個人事業主◆
給与所得者等再生といっても、給与に準じる定期的な収入があればいいわけです。個人事業者であっても、安定的な収入が見込まれる限りで給与所得者等再生の利用も可能です。
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)を満たし、かつ収入の変動幅が小さいと見込まれる場合には、給与所得者等再生も選択可能です。
裁判所からは厳しく吟味されますが。年金生活者もまた利用可能なケースがあります。
2.給与所得者等再生の流れ
基本的には小規模個人再生の流れと同じ流れですのでそちらをご参照ください。ただし、給与所得者等再生では、書面決議が必要ありません。
また、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高いと思ってください。
再生弁済額
1.最低弁済額とは
個人再生は、計画弁済額を原則3年、最長5年で、弁済する再生計画を策定しますが、計画弁済額を定める際の下限が最低弁済額です。再生計画には、最低弁済額以上の計画弁済額を定めます。最低弁済額をそのまま計画弁済額とすることが多いです。もちろん、それを上回る計画弁済額を定めることもあります。一部の債権者の中には弁済率の大小を反対するかしないかの判断にするところもあります。
小規模個人再生と給与所得者等再生では最低弁済額の計算方法が違います。再生債権者の書面決議が必要にもかかわらず小規模個人再生の利用が圧倒的に多いのはこの理由によります。
2.最低弁済額の計算
最低弁済額の計算方法はややこしいです。財産があまりなく、住宅ローン以外の借金も1500万円以下という最も多いケースでは、小規模個人再生では100万円と債務の5分の1(80%カット)の大きい方の額、給与所得者等再生では可処分所得によりそれが大きくなりうる、とイメージしてください。
詳しくは次のとおりです。
◆小規模個人再生の最低弁済額◆
小規模個人再生の最低弁済額は、
①財産評価額(清算価値)
②基準債権から計算される最低弁済額(総債務の一定割合)
の大きい方の金額になります。
①まず、清算価値保障原則があります。財産財産(清算価値)以上の計画弁済額を定めないといけません。自己破産をする場合よりも多く弁済しなさいということです。
そのため、清算価値の考え方は破産手続とほぼ同様になります。詳しくは後述します。
②次に、基準債権から計算される最低弁済額は、次のとおりです。
基準債権額100万円以下・・・・その額
基準債権額の500万円以下・・・100万円
基準債権額1500万円以下・・・基準債権の5分の1
基準債権額3000万円以下・・・300万円
基準債権額5000蔓延以下・・・基準債権の10分の1
基準債権額には、未払利息・遅延損害金も入ります。手続が遅れるとだんだん大きくなっていきますので、気を付けてください。
基準債権には、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅ローン債務額は入りません。
例えば、基準債権が600万円、清算価値が110万円であれば、基準債権から計算される最低弁済額120万円の方が清算価値より大きいですから120万円が最低弁済額です。
基準債権が500万円、清算価値が150万円ですと、基準債権から計算される最低弁済額100万円よりも清算価値の方が大きいですから、最低弁済額は150万円になります。
◆給与所得者等再生の最低弁済額◆
給与所得者等再生の場合には、
小規模個人再生における
①財産(清算価値)、
②基準債権から計算される最低弁済額
のいずれか大きい金額という計算に加えて、
③最低弁済額が可処分所得の2年分以上であること、
も要求されます。
可処分所得は裁判所の書式である可処分所得算出シートに基づいて計算します。
可処分所得は、【手取り収入額-費用額】です。
「手取収入額」は、総収入から所得税額・住民税額・社会保険料額を控除して算出します。それだけしか控除できません。計算には過去2年分の源泉徴収票(あるいは確定申告書)、市県民税課税台帳記載事項証明書が必要になります。
「費用額」は実額ではありません。個別の事情にかかわらず、再生債務者の収入と年齢、被扶養者の数と年齢から、機械的に算出されます。生活保護基準がベースになっております。通常は、実際にかかっている費用よりも小さい数字になります。
実際に計算してみると、可処分所得の2年分がかなり大きくなることも多いです。収入が相応にあり、被扶養家族が少ないあるいは独身者のケースですね。
清算価値
1.清算価値とは
小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、計画弁済額を定める際は、清算価値を上回るように定めなければいけません。清算価値保障原則です。清算価値保障原則は、自己破産との均衡を図るためのものです。
そのため、清算価値の計算においては、
・基本的に破産の場合の財産評価方法によります。
・破産における自由財産拡張相当の財産99万円までを控除することができます。
・破産における否認相当行為がある場合には清算価値に計上します。
手続的には、裁判所の書式である財産目録兼清算価値算出シートに従い清算価値を算出するようになっています。
2.清算価値の注意点
清算価値の計算は、基本的には破産の場合の財産評価方法に従いますので、ここではいくつかコメントするに留めます。評価方法や計算方法は専門的なため、弁護士の指示にしたがって資料を提出していただき、弁護士が計算することになります。
◆破産における自由財産◆
個人再生では破産における自由財産は清算価値に計上しません。自由財産には、本来的自由財産と拡張手続を経たそれ以外の自由財産があります。
本来的自由財産である現金と自由財産拡張の対象となる財産のうち全体で99万円までが清算価値から控除できるとイメージしてください(例えば300万円の財産価値があっても清算価値は201万円になりうる)。
本来的自由財産は、破産法で定められた自由財産で、99万円以下の現金及び差押え禁止財産が本来的自由財産だと考えてください。
差押え禁止財産の主なものは次のとおりです。差押え禁止財産はそもそも清算価値に計上しません。
・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品等(通常の家財一式)
・退職金の4分の3
・小規模企業共済
・中小企業退職金共済、建設業退職金共済
・確定拠出年金
自由財産拡張は自由財産の範囲を本来的自由財産以外の財産まで拡げる手続ですが、その自由財産拡張対象となる財産について、現金を含めての99万円の範囲で清算価値から控除することができます。
経済的更生に必要・相当と認めてくれない財産は自由財産拡張の対象となりません。不動産、株式、債権、投資信託などが典型です。車については、実用車は対象ですが、趣味のための車は対象外です。それらの判断をしないと清算価値は計算できないことになります。
◆退職金の評価◆
退職が差し迫っている例外的なケースを除き、自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1が財産額として評価されます。仮に退職が決まっているが受取前という段階まででしたら、差押え財産との関係で4分の1の評価まで抑えることができます。
これに対し、中小企業退職金共済(中退共)、小規模企業共済は、退職金と類似のものですが、法律上差押え禁止財産ですので財産とはみなされません
◆保険の評価◆
解約返戻金額が評価額となります。契約者貸付を受けている場合には同貸付金を控除した金額になります。解約をしたら現金預金での評価です。
確定拠出年金は本来的自由財産でありカウントされませんが、年金保険は評価の対象です。
◆破産における否認対象行為があるとき◆
破産における否認対象行為(一定の時期における贈与等無償行為や偏頗弁済など)があるときは個人再生手続においても清算価値に影響します。
破産において破産管財人が否認権を行使して財団に取り戻すべき財産の評価額を、清算価値に計上する扱いになります。例えば、申立て直前に100万円贈与したのであればその100万円が現在のこっているものとして清算価値に加えるのです。これも破産との均衡を図るためです(清算価値保障原則)。
免責不許可事由の程度が大きいため個人再生を選択しても、それが否認対象行為にもあたる場合にはその分清算価値が大きくなります。
◆共済借入があるとき◆
共済借入は個人再生開始決定が出るまでは給与天引きを止めないことがほとんどです。偏頗弁済としての否認相当行為として、受任通知後の弁済額を清算価値に計上するのが通常です。早めの申立てが必要なケースがあります。
◆交通事故の被害者◆
損害賠償金が入金されていれば、現金あるいは預貯金として財産評価されます。
そうでない場合には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料という一身専属性が認められる慰謝料請求権とそれ以外の財産的損害を填補する損害賠償請求権に分けて考えます。
前者は金額が確定しない限りは財団債権に属さないとされているので確定しない限り清算価値に計上しません。
後者の財産的損害に基づく損害賠償請求権は、財産として評価されます。治療費、介護費用、入院雑費については自由財産拡張対象財産としてその範囲で清算価値から控除することができます。
◆試験積立金◆
個人再生では履行可能性を判断するために、弁済計画に基づいて想定できる月額弁済金相当を通帳に積立ていただき、裁判所に再生計画等と一緒にその通帳写しを提出します。それを試験積立てと呼びます。履行テストですね。
試験積立金は再生計画認可決定が確定次第、引き出す等して再生計画に基づく弁済に使ってもらいます。
再生開始決定までの試験積立金は清算価値に計上することになっていますので、当職は申立て後に試験積立てを開始してもらうことが多いです。
個人再生委員
1.個人再生委員とは
裁判所が必要と判断するケースで個人再生委員が選任されます(全件について選任する運用をしている裁判所もあります)。個人再生委員には弁護士が選任されます。個人再生委員の仕事は、
①再生債務者の財産及び収入状況の調査
②再生債権につき適法な評価申立てがあった際の裁判所の補助
③再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告の実施
のうち裁判所が指定する職務を行うとされています。
といっても、手続全般に関してサポート、監督をするイメージです。
主に、
将来おいて継続的または反復して収入を得る見込み
破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ
再生計画案の作成若しくは可決の見込みまたは認可の見込みがないことが明らかではないか(財産状況、清算価値保障原則、履行可能性)
をチェックすることになります。
個人再生委員は、破産手続の破産管財人と違って財産の管理処分権を有しませんし、調査権限も再生債務者を通じた間接的なものです。
個人再生委員が再生開始の適否等を判断するのに必要な資料が提出されないことによる不利益は再生債務者が負担しますので、個人再生委員から求められた報告や書類はきちんと提出するようにしなければいけません。
個人再生委員が選任されることになると、裁判所への予納金が20万円程度高くなります。
個人再生委員の意見書(開始要件)の提出スケジュールが選任後3週間と、上述のような点を全て調査しなければならないことを考えると非常にタイトです。個人再生委員選任前に資料の提出などをお願いされることが多いでしょう。
開始決定後では、家計収支表の継続提出と試験積立口座の継続的な提出をお願いされるでしょう。個人再生委員は、その上で、再生計画案及び弁済計画表の作成指導をします。
2.個人再生委員が選任されるケース
広島地方裁判所本庁では必要があると裁判所が判断するケースのみ個人再生委員が選任されます。個人再生委員が選任される可能性があるケースでは追加予納金20万円程度の用意も考えておかなければいけません。当職は個人再生委員を拝命することも多いですが、その経験から言えば、次のようなケースで選任される傾向です。
◆本人が再生手続をよく理解していないと判断されるケース◆
本人申立てや司法書士が書面作成代理をする案件で、本人が再生手続をよく理解していないと裁判所が判断したケースです。弁護士代理案件では弁護士が代理人として裁判所に対応しますのでこのようなことは起きません。
◆裁判所からの補正要請に十分に対応していないケース◆
申立てをすると、裁判所から必要書類の不備の追完を指示されたり、問題点を指摘されて報告を求められたりします。そのことを補正連絡といいます。補正連絡にきちんと対応しなければ、個人再生委員が選任される傾向にあります。
◆住宅資金特別条項の適用要件を充たすか検討が必要なとき◆
住宅資金特別条項を利用する場合、不動産の価値の算定や諸費用ローンがある場合などの要件を充たすのか問題が生じることがあります。その判断のために個人再生委員が選任されることがあります。
◆開始要件や清算価値に疑義が生じ得る案件◆
収入要件を充たすかどうかや清算価値の計算方法などに疑義が生じるケースでは個人再生委員が選任されます。
◆破産における否認対象行為があるケース◆
破産における否認対象行為がある場合には清算価値に計上しなければならないのですが、その評価のために個人再生委員が選任される可能性があります。
◆別除権協定を締結する場合ケース◆
別除権協定を締結する場合には個人再生委員が選任されます。別除権協定を締結するケースはレアですので、あまり気にしなくてもいいです。
個人再生の費用
1.個人再生の費用
個人再生に必要な費用としては、弁護士費用と裁判所への予納金、予納郵券が挙げられます。◆相談料◆
当事務所では借金問題の初回相談料は無料とさせていただいております。お気軽にご相談ください。
◆弁護士費用◆
着手金が必要です(成功報酬金をとる事務所はあまりないと思います)。少額の実費を請求されることもあります。
着手金の相場は広島では33万円から38万5000円(消費税込)前後でしょうか。
当事務所では、原則として27万5000円(消費税込)で対応させていただいておりますが、ご事情により増減させていただくこともあります。
当事務所は比較的安い設定と言われることがありますが、弁護士は金額だけで選んではいけません。
◆法テラス◆
弁護士費用は法テラスの民事法律扶助制度を利用してご準備いただくことも多いです。弁護士費用を立て替えてくれ、毎月5000円からの分割で償還していきます。債権者の数にもよりますが20万円からの安価な設定となっております。自己破産よりも設定金額が高めとなっている理由は、手続が煩雑なためでしょうか。
法テラスへの利用は家計収入が一定未満であること、財産が一定額未満であることが必要です(資力要件)。申請は弁護士事務所を通じて行いますので、要件に該当するかどうかどうかや必要書類の用意は弁護士にお尋ねください。
なお、法テラスの無料法律相談も同一案件3回まで利用できます。
◆予納金等◆
個人再生委員が選任されないケースでは、債権者の数にもよりますが、予納金及び予納郵券で30,000円ほどお預かりしております。余った分はご返却しています。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金が20万円程度余分にかかると思ってください。個人再生委員の報酬分予納金が高くなります。
2.費用の準備
費用の準備の方法も弁護士とよく相談しないといけないことです。法テラスの民事法律扶助を利用しないケースでは、分割払いにも応じております。個人再生のケースでは、借金の弁済をストップしている間に、個人再生をしたと仮定して想定される月当たりの弁済額を毎月お支払いいただいて、試験積立ての代わりにすることが多いです。約束どおりお支払いできないかったケース、あるいは支払いが厳しかったケースでは、自己破産へ方針を変更することも検討します。
また、資産処分により弁護士費用、申立て費用を用意することも自己破産と同様に許容されています。
個人再生委員が選任される可能性があるケースでは、予納金の準備も考えなければなりません。準備中に用意してもらいますが、用意できる目途がたつまで申立てを遅らせるケースもあります。
費用の準備の方法や時期は、個々の事情に応じて申立てのタイミングを図りながら考えないといけません。弁護士によくご相談ください。
準備の注意点
1.弁護士のサポートが必要
個人再生の申立ては技術的な面が多いため、専門家のサポートが必要になります。個人再生のサポートには、個人再生手続は勿論、清算価値等で考え方の重なる破産手続にも精通してなければいけません。個人再生や破産を表からも裏からも見ることができる破産管財人や個人再生委員の経験も重要です。
破産管財人、個人再生委員は弁護士が担っています。弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
また、自己破産と同様、個人再生申立代理人となれるのは弁護士だけです。諸手続について代理しあるいは同席できるのは弁護士ですので、やはり弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
破産、個人再生に精通し経験豊富な弁護士であれば、ご相談内容に応じて、任意整理、個人再生、自己破産等のどの債務整理手続が適切なアドバイスができますし、問題となり得る点を想定して法的な対応を検討・整理できます。
弁護士ならだれでもいいというわけではありません。準備や組立ての巧拙が、後の個人再生手続での手続進行や解決に直結します。個人再生委員の選任の有無にも関係してきます。
弁護士に相談される際には、細かいことでもどんどん質問してください。役に立つ弁護士であれば、具体的な回答やアドバイスがもらえるはずです。
当職は、破産や再生事件を業務の柱の1つとして倒産法制に精通し破産管財人等の経験も豊富な「倒産弁護士」の一人であると自負しております。
個人再生についても広島において最も多くの申立代理人や個人再生委員をしている弁護士の1人だと思います。
ぜひ、当事務所にご相談ください。一緒に解決策を探していきましょう。
2.準備の注意点
個人再生の準備における注意点は必要書類を含めて自己破産の準備の注意点と重なります。ここでは、個人再生特有の注意点を中心にいくつかコメントいたします。◆受任通知◆
個人再生においても受任通知を借り入れのある銀行に発送すると銀行口座が凍結されます。残高がある場合には相殺もされてしまいます。保証人の口座も同様ですのでご注意を。
借入のある銀行に給与口座、年金口座がある場合、変更できたことを確認できてから受任通知を発送します。
住宅ローン債権者である銀行に他の借入れがあるケースでは、住宅ローンの返済方法を銀行と協議をして住宅ローンのみ返済を継続します。
◆自己破産か個人再生の選択は申し立て直前まで変更できる◆
方針は申立て直前まで変更可能です。個人再生の申立準備期間は、本当に個人再生が可能か見極める期間でもあります。家計収支表の作成をしながら、あるいは費用を分割でご準備されながら家計をチェックした結果、個人再生に必要な弁済原資が確保できそうもなく自己破産に変更するということがあります。
◆試験積立◆
当職は試験積立を申立て後にしていただいております。開始決定前の試験積立金額は清算価値に計上されるからです。また、再計計画に載せる計画弁済額は準備が進まないと正確に把握できないという理由もあります(弁済のテストですので再生計画認可後に想定される金額を積み立ててもらいます)。
◆住宅資金特別条項の利用を考えている場合◆
相談時には、住宅ローン契約書、不動産登記簿謄本、固定資産課税明細、住宅ローンの残高が分かる資料をお持ちください。事前に近くの不動産業者にだいたいの相場を聞いてみることもできれば有用です。
申立て時には、原則として不動産業者の査定書が要求されます。取得できなければ弁護士に相談してください。銀行発行の住宅ローンの残高証明書も必要になります。
◆租税公課の滞納◆
租税公課の滞納がある場合には、弁済方法を課税庁と協議をしてもらわないといけません。協議結果およびその履行状況が申立書の報告事項になっております。
◆債権者に漏れがないように◆
個人再生はすべての債権者を計上しなければなりせん。手続中に債権者に漏れが判明した場合には、債権者に届出をしてもらわなければならないのですぐに弁護士に伝えてください。
手続後に債権者の漏れが判明した場合には、再生計画の再生債権の弁済率に応じて債務を弁済します。再生計画で既に期限が到来している分は一括弁済です。免責の効果が及ばない破産よりは傷が浅いですが、気を付けてください。
◆給与天引きの返済◆
給与天引きで救済借入等が控除される形で弁済しているケースがあります、受任通知を出しても通常止まりません。理屈上は受任通知後の天引き分は偏頗弁済となり、清算価値に計上する必要が出てきます。
そのためできるだけ早く申し立てなければならないケースもあります。
◆家計収支表◆
家計収支表3か月分が必要書類ですが、申立て後も履行可能性のチェックのために再生計画案提出までの家計収支表の作成を指示されることがあります。家計収支表は申立後も引き続き作成してもらうようにしております。
◆相続関係◆
相続関係は報告しないといけません。ケースによっては遺産分割協議書、不動産登記簿謄本、戸籍等の提出が必要となります。
未分割遺産があると法定相続分が財産となり清算価値に計上しなければいけません。清算価値が大きくなりすぎ個人再生の利用を諦める可能性も少なくありません。
また、直前の遺産分割は否認対象行為かどうか吟味されます。否認対象行為であると、取り戻されるべき財産評価額を清算価値に計上することとなります。
まとめ
1.個人再生の徹底解説
個人再生の徹底解説と題して説明をさせていただきました。個人再生は、最低弁済額(多くのケースでは総債務の5分の1になる。)を原則3年(最長5年)で分割弁済をし、その余の債務の免責を受ける手続でした。まずは任意整理か法的整理手続か検討し、次に自己破産と個人再生の手続選択をします。個人再生でも、最低弁済額の計算方法の違い等から、まずは小規模個人再生の利用を考えますが、給与所得者等再生を選ぶべきケースもありました。住宅資金特別条項の利用は個人再生選択の目的の1つですが利用できる条件がありますので注意が必要です。最低弁済額のルールは複雑で清算価値は破産と同じ考え方で計算をする必要がありました。個人再生委員は聞きなれない制度だったと思います。
わかりやすく説明をしたつもりですが、かえって個人再生はややこしい手続だと思われたかもしれません。難しいことは専門家に任せればいいのでご心配なさらないでください。費用の面もご説明いたしましたが、通常無理なくご用意いただけていますのでご相談ください。
個人再生は経済的更生の手段として有効なものの1つです。ぜひ選択肢に加えてご検討ください。
2.専門的な弁護士のサポート
個人再生の制度は技術的で理解が難しいです。専門家のサポートが必要です。破産手続、個人再生手続に精通し、破産管財人や個人再生委員の経験が豊富な弁護士のサポートを得ることが、スムーズに手続を進行するため、かつ問題が発生することを防止するための第一歩です。
まずは、そのような弁護士に早めにご相談ください。具体的な解決方法を説明してもらえますし、先の見通しを把握でき安心できると思います。費用面も大事な相談内容ですので、ご遠慮なく相談されてください。
当職もそのような弁護士であると自負しております。
当事務所にご相談いただければ幸いです。一緒に解決策を考えましょう。
この記事を書いた人
弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27アーバンビュー上八丁堀602
TEL082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
(なかた法律事務所) 2020年5月22日 13:01
個人破産の徹底解説
広島市の弁護士の仲田誠一です。今回は、個人(自然人)の破産についての徹底解説です。当事務所では破産や個人再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしています。できるだけ実務的な、実際に役に立つ情報を盛り込んだつもりです。ご参考にしてください。なお、会社、法人の破産の解説については別途コラムを用意しておりますので、ぜひご参照ください。
目次
個人の破産とは破産を選択する基準
同時廃止と管財事件
破産しても残る財産
免責
破産における否認
非免責債権
破産準備の注意点
破産に係る費用
弁護士に依頼する意味
まとめ
個人の破産とは
1.個人の自己破産とは
破産手続とは、支払不能状態にあると判断される場合に選択される、資産・負債の清算手続です。換価できる財産を換価して債権者に配当できる場合には配当をします。個人の破産には債務の支払義務を免れる「免責手続」が用意されています。法人格が消滅する法人と異なり、資産と負債を清算しても債務が残りますから、別途支払義務を免除する免責手続が必要なわけです。
裁判所の用意する破産申立書では免責許可決定申立てもセットで申し立てる形式になっています。
自己破産とは、上述の破産手続開始を「自己」が申し立てる場合です。
債権者が申し立てる債権者申立ての破産もあります。
2.個人の自己破産の流れ(申立てまで)
自己破産申立てまでの個人破産のスタンダードな流れは次のとおりです。①相談
弁護士に相談をする際は、疑問点や要望、気になっていることを全て伝えてください。弁護士と一緒に、最適な債務整理方法を考えます。
②契約・受任通知の発送
弁護士と契約をすると、弁護士から債権者宛に受任通知を出します。これで債権者からの督促等は止まります。事情によっては必要に応じて特定の債権者に対する受任通知の発送を遅らせることもあります。
受任通知の発送により物事が進んでいきます。期限の利益が喪失され、債権者である銀行の口座が凍結され、相殺されます。保証会社がいるケースでは代位弁済がなされ、車などの所有権留保物件の返却要請も来ます。
③申立て準備
申立ての準備期間は2か月~3か月です。
その間に、家計収支表の作成などの準備をしていただきます。弁護士の方は、債権者対応、債権調査をすることになります。
④申立て
2カ月分の家計収支表の作成が完了し、債権調査も終わった、というタイミングで申し立てます。
申立先は、住所地を管轄する地方裁判所です(住民登録地と居所が違う場合には居所が優先します)。夫婦や連帯保証関係にある一方に管轄が付く裁判所であれば他方も同時に申し立てることができます。
申立て後、1~2週間を目途に、裁判所から補正命令という形で追加書類の提出要請や質問が送られてきます。
◆給与等の差押えを受けているケース◆
受任通知時を出しても差押えの取り下げに応じない債権者が多いです。可能な限り急いで申立てをし、破産手続開始決定を得て、執行裁判所に対して強制執行の中止を申立てます。
強制執行の中止決定をもらっても差押えが取り消されるわけではありませんが、天引き分は勤務先にプールされ債権者には支払われません。免責決定が確定すれば従業員に支払われます。
中止決定が出た段階では、通常の債権者は差押えを取り下げます。
◆訴訟あるいは支払督促がなされているケース◆
訴訟や支払督促まで進んでいると、債権者が勤務先を知っている場合、給与等差押えに備える必要が出てきます。
訴訟の場合には答弁書を提出し、支払督促の場合には異議を出して、事実上の時間稼ぎをせざるを得ません。その間にできるだけ早く破産を申立て、破産手続開始決定へ進めなければいけません。
弁護士が代理した答弁書あるいは異議申し立ての提出があれば、手続を取下げてくる債権者も多いです。
申立て後の流れは、選択される手続きによって変わるので、後述します。
破産を選択する基準
1.自己破産を選択する基準
個人の債務整理の方法には、自己破産のほかにも、任意整理、特定調停、個人再生もあります。どのような基準で自己破産を選ぶのでしょう。任意整理と自己破産・個人再生という法的整理手続のどちらがいいのでしょう。
任意整理は、債権者との交渉により通常3年から5年の分割弁済契約を結ぶことです。将来の利息をカットしてくれる債権者がほとんどですが、元金カットは望めません。裁判所の調停手続を利用する場合を特定調停といいます。
自己破産の要件は「支払不能」、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」です。それらがないときは、任意整理を選択することになります。理屈はそうですが、よくわかりませんね。
当職は、総債務を3年で「確実に」弁済できるかどうかを一つの基準とします。「確実に」というのは、ギリギリではなく余裕をもって返済に回せるお金を考えてもらうという意味です。任意整理の弁済期間も個人再生の計画弁済期間も3年が標準ですから3年を基準にします。支払原資(通常の生活をした際に返済に回せるお金)を考えていただき、元金だけを36回で弁済できないようでしたら自己破産か個人再生でいいです。裁判所に問題視されたこともありません。
その他にも考えることがいくつかあります。
・年収に近い消費性ローン(住宅ローン以外)の残高があるケースは、弁済ができないと見て自己破産、個人再生でよろしいのでしょう。
・無職、職業が安定されていない方、持病をお持ちで仕事に制約がある方は、基本的に自己破産でよろしいでしょう。債務額が小さくても「支払不能」の説明ができます。
・生活保護を受給されている方は、金額にかかわらず自己破産を選択します。保護費からの弁済はしないように指導がなされます。
・任意整理に応じない等強硬な債権者もいます。そのような債権者がいるケースも自己破産を選択した方がよろしいでしょう。
・整理できない債権者がいるときは任意整理を選択します。任意整理できる債権者を選ぶことができることが任意整理の大きなメリットです。
任意整理ではなく法的整理手続を選択するとして、自己破産と個人再生のどちらを選べばいいでしょう。
個人再生とは、裁判所から認可された再生計画に基づいて、原則3年間(最長5年間)で一定の債務(計画弁済額)を弁済し、弁済し終わるとその余の債務の免責を受けられる手続です。
任意整理と自己破産との中間に位置づけられるイメージです。債権者の同意が要らない「給与所得者等再生」と、債権者数・債権額の過半数の消極的同意が必要な「小規模個人再生」の2つがあります。給与所得者等再生は、弁済額が大きくなる可能性が大きいので、小規模個人再生を優先して考えます。
破産の要件は「支払不能」、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」ですが、相対的な違いであり、どちらでも選択できるケースが多いです。
双方可能であれば、経済的更生の観点からのメリットが大きい自己破産を優先して考えることになるでしょう。自己破産であれば非免責債務を除いたすべての債務の支払義務を免れることができるメリットがあります。
他にもいくつか考えることがあります。
・継続・安定した収入がない方は自己破産を選択します。個人再生の要件に当て嵌まりません。
・個人再生を選択した場合に予想される計画弁済額を賄えるだけの家計の余裕がない場合も同じです。
・債権者数が少ない、あるいはある債権者が過半数の債権を持っているケースでは小規模個人再生における再生計画案が否決される可能性があり、自己破産の方が無難でしょうか。反対を覚悟して個人再生を選択する戦略をとることもあります。
・住宅ローンを支払いながら自宅不動産を維持したいケースでは個人再生です。個人再生では住宅資金特別条項を用いて住宅を維持できることが大きなメリットです。
・その他残したい財産があるケースは、ケースバイケースでしょう。個人再生でなく自己破産にて特定の財産を残す途も考えられます。
・破産における「資格制限」にかかる職業を継続しなければならないケースでは、資格制限がないというメリットを持つ個人再生を選択します。保険外交員、警備員、証券外務員、宅建主任者等、法律で定まっています。
・免責不許可事由の程度が大きい場合には、管財事件になる、あるいは免責不許可になる可能性を考慮します。免責不許可事由のない個人再生を選択する方が無難なケースもあります。
・自己破産をいさぎよしとせず、個人再生にて少しでも弁済したいというご希望が強いケースもあります。個人再生により経済的更生が可能だと判断できる限りで尊重すべきでしょう。
2.自己破産選択を悩むケースの具体例
上述の考え方で方針を選ぶとして、なお自己破産を選択してもいいのか悩む例をいくつか挙げます。◆家賃滞納がある◆
債権者はすべて計上するのがルールです。破産自体では自宅賃貸物件からの退去を求められませんが、家賃滞納がある場合には、家主を破産債権者として扱う必要が出てきますので、賃料不払いにより解約される可能性があります。
諦める必要はないでしょう。他の債務の支払をストップする間に家賃滞納の解消する方法もあります。偏頗弁済という免責不許可事由に該当しますが、弁護士が事情を説明して裁量免責をもらいます。
なお、家主に事前に話をしてもらい、破産手続後滞納分を弁済する(これは自由です)ことで合意して申立てたケースもあります。
◆勤務先に対する債務がある◆
借入金、立替金、弁償金、負担金等の名目は問わず、勤務先に債務を負っているケースでは、勤務先を破産債権者に計上しなければなりません。事実上無理ですね。
こちらも問題になることを承知で、やむを得ず優先して弁済するほかないケースもあるでしょう。
なお、組合借入、共済借入の場合には、勤務先自体からの借入れではありません。また、多くは保証会社がいるため支障がありません。
◆親族からの借入れ◆
親族も債権者として計上し難い場合があります。通帳に振込みあるいは支払の記録があって判明することがあります。弁済を優先するやむを得ない客観的な事情はないでしょう。
ただし、本当に貸借関係なのかを吟味します。定期に弁済をしていないなどの場合には、法的に弁済を求められる借入金ではなく、援助(贈与)だという説明も可能です。その場合には債権者扱いをしません。
◆破産が恐い◆
破産は、破産者の経済的更生を図るために設けられた法律上の制度であり、制裁はありません。
破産手続中の「資格制限」があるだすし、一定の財産を残すこともできます。日常生活には支障がありません。
なお、個人信用情報機関に情報(所謂ブラック情報)が載り、破産後5年間あるいは10年間その記録が残りますが期間が長いかどうかの程度問題です。各信用情報機関加盟金融機関以外はアクセスできませんので、不動産賃借の審査などは関係がありません。
◆破産は恥ずかしい◆
破産、個人再生は官報公告があります(政府が発行する新聞のようなものに氏名・住所が載ります)。破産者MAPのような問題サイトも出現しては消えております。
しかし、破産は恥ずかしいものではありません。法律が破産者の経済的更生を図るために設けられた制度です。経済的に困窮された方は、法律上認められた制度に則り、早めに経済的更生を図ることの方が大事でしょう。
◆家族に知られたくない◆
経済的更生にはご家族に事情を知っていただき協力してもらうことが望ましいです。
それは別にしても、家族であるという理由で連絡が行くことはありません。程度の高い浪費のケースで配偶者と話をしたいと裁判所に言われた経験が1度だけあります。
一方、同居の家族については、収入証明資料(源泉徴収票、給与明細)、家計の主口座(公共料金が落ちている口座)の写しの提出が原則必要です。同居家族については、必要書類が揃う限りで、内緒で自己破産が可能です。
なお、家族が保証人、債権者、あるいは債務者になっている、あなたが家族の保証人であるケースでは、裁判所あるいは債権者から連絡が行きます。
◆勤務先に知られたくない◆
債権者ではない職場には連絡がいくことはありません。勿論、官報に氏名と住所が掲載されますが、見たことはありませんね。ほとんどの方は会社に内緒で自己破産をされています。
ただし、給与振込口座が債権者である銀行口座ならば、口座の変更を頼まないといけません。また、勤続5年以上の場合には退職金の説明資料を用意しなければいけません。その限りで勤務先の協力が必要なケースもあります。
◆仕事が続けられないのではないかと不安◆
通常の会社員であれば仕事に破産の影響はありません。
法律で定められている「資格制限」に該当する場合のみ、破産手続中は就けないだけです。実務上見るのは、警備員、保険外交員、証券外務員、宅建主任者でしょうか。破産手続が終われば法律上の制限が消えます。
仮に資格制限により自己破産ができない場合には、資格制限のない個人再生等を選択することになります。
◆周りに迷惑がかかるか不安◆
債務は個人単位で負うものです。保証人以外には直接の迷惑がかかりません。
ただし、あなたがどなたかの借入れの保証人になっている場合には、債権者から債務者に対して保証人追加等を要請される等、間接的に影響があります。
また、不動産を共有している場合には、破産管財人があなたの持分を換価しますので、共有者に影響を与えます。
◆携帯・スマホが利用し続けられるか◆
携帯電話、スマートフォンでは、本体の購入代金を分割支払していることが多いです。厳密に見れば破産債権でしょう。
しかし、実務上は、通信会社を債権者として扱わないことが原則です(料金滞納があれば別です)。生活必需品ですからね。自己破産をしても利用し続けられるのが原則となります。
注意点があります。
ただし、おさいふケータイなどスマホのクレジット機能の使用は止めていただきます。借金と同様ですので。
また、1台当たり料金が1万前後に抑えていただきたいです。高額な支払いをしている場合には、裁判所から突っ込まれる可能性があります。
なお、通信会社のクレジットカードの利用がある場合など通信会社を債権者として扱うべきケースでも、利用料金のみを支払い続けることにより利用継続できる例が多いです。
◆自動車が手放せない◆
ローンのない車であれば、外車や高級車ではない限り、初年度登録から6年以上経ていれば価値がゼロと評価され、手元に残せます。6年未満の場合、自由財産の拡張手続等によって手元に残すことになります。車の価値は査定書かレッドブックの中古車相場で疎明します(レッドブックは当事務所で用意しています)。
ローンがあり、車が所有権留保物件であるケース(クレジット会社のローンの担保になっているケース)では、返却が必要です。稀に価値がないとして放棄されることがあるだけです。ただし、親族などの助けを得て、残債を弁済する、買取りをする等により、車を残す方策もありますので、弁護士と相談してください。銀行のオートローン、マイカーローンのケースでは車が所有権留保物件ではないことが通常です。返還を求められた経験はありません。
相談時や準備の打ち合わせ時には車検証の写しを見せてください。普通自動車の場合は車検証の所有者名義によっては返還してはいけないケースもあり、間違って返却するとそれ自体で管財事件になり得ます。
◆2度目の破産◆
2度目の自己破産も、前回の破産免責が確定してから7年を経ていれば可能です。7年以内であると原則不可能と考えてください。免責不許可事由の1つなのですが、容易には裁量免責をもらえません。個人再生を選択すべきことになります(小規模個人再生のみ利用可能です)。
2度目の破産だからといって必ずしも管財事件になるわけではありません。同時廃止になる例も多いです。それなりの準備は必要です。特に前回の破産と今回の破産とでの事情の違いを明確に説明した方がいいでしょう。
なお、2回目の自己破産では、前回の破産開始決定及び免責決定写しの提出が必要です。手元になければ、前回の破産裁判所に謄写申請をします。
◆未分割遺産がある◆
未分割遺産の法定相続分は財産です。不動産や一定の遺産があれば管財事件になり、破産管財人が換価に動きます(田舎の換価不能な不動産の相続が未了のケースで同時廃止になったこともあります)。
分割合意はされているが登記がなされていないケースも同様です。
他の相続人が遺産を取得する形の分割手続あるいは登記を急いでやっても問題は解決しません。その行為が否認行為として問題視されます。ケースバイケースの判断でしょうが、価値が相応にある不動産だと裁判所の見方が厳しくなります。取り扱いが非常に難しい問題ですので、弁護士と早めに相談の上、打てる方策があるか検討しましょう。
◆個人事業を続けたいというケース◆
自己破産をする以上、個人事業は廃止することが前提です。破産の原因になっていることも多いでしょう。
ただし、専ら特定の先に労務提供をして報酬を得ており実質給与所得者と変わらない事業の場合(いわゆる一人親方)はそもそも事業者として見られません。
また、設備がほとんどなく、売掛金や買掛金もない小規模の事業も、破産手続(資産・負債の清算手続)の影響を受けませんので、理屈上は事業継続も可能です。ただし、事業が借金の原因になっていない、今後もならないことを説明する必要があります。かつ、事業用資産(在庫、設備等)は自由財産拡張手続により残すことは難しいです。
同時廃止事件と管財事件
1.同時廃止事件
同時廃止とは、破産手続開始決定と破産手続廃止決定が同時になされる手続です。破産費用を支弁する財産がないという理由になります。破産法上は管財事件が原則となっていますが、運用上は、同時廃止事件が多いです(広島本庁では70パーセント前後でしょうか)。
◆自己破産(同時廃止)の申立て後の流れ◆
弁護士受任から6~7カ月で免責決定まで進むのが同時廃止事件のスタンダードなスケジュールでしょうか。
同時廃止事件の申立て後の流れは次のようになります。
①補正連絡
申立て後、1~2週間後に、裁判所から追加資料の提出や事情の報告等を求められます(補正連絡)。
②同時廃止決定
裁判所からの補正連絡に対応したタイミングで、3か月前後先の免責審尋期日の調整がなされ、同時廃止決定が出ます。
問題事案ではその前に債務者審尋が開かれます。
同時廃止決定が出ると、破産手続自体は終わりです。免責審尋期日を待つのみです。問題事案などでは、家計収支表の提出など宿題ができることもあります。
③免責決定
免責審尋期日に出席すれば通常その日に免責決定が出ます(出席を要しない裁判所もあります)。弁護士も同席します。
原則として集団免責の形で行われます。広い部屋に破産者が集められ裁判所からの話を聞く手続です。仮に裁判所に債権者が来たときは、個別審尋に切り替わります。
二度目の破産や免責不許可事由の程度が大きい等のケースでは小さい部屋で裁判官から質問などもされる個別免責手続が指定されることがあります。
◆同時廃止か管財事件か◆
裁判所が同時廃止と管財事件とを振り分ける基準を用意しています。
広島本庁では原則的に次のようなものが管財事件となり、それ以外は同時廃止です。
・現金・預貯金が50万円を超える場合
・個々の財産項目のいずれかが各20万円を超える場合
・オーバーローンではない不動産がある場合
上述のような財産がない場合であっても、
・過去5年以内に、会社代表者(それに準じる経営者)や個人事業主であった場合
・免責不許可事由の程度が大きい場合(このケースを免責調査型管財と呼びます)
・看過できない否認対象行為がある場合
◆個人事業者◆
確定申告をしているから必ず個人事業主と扱われるわけではありません。
例えば、設備や仕入れを伴わずに決まった取引先から労務提供に対する対価を得ている場合(所謂、一人親方等)、実質的に給与所得者と異なることがないとして管財事件になりません。
◆保険の評価◆
解約返戻金額が評価額となります。契約者貸付を受けている場合には同貸付金を控除した金額になります。解約をしたら現金預金での評価です。
保険を解約しあるいは契約者貸付を受けて、破産費用、必要な生活費等に充てるのはある程度許容されます。そのままだと管財事件になるべきケースが、解約するないし契約者貸付を受けると同時廃止の処理になるケースもあります。
確定拠出年金は本来的自由財産でありカウントされませんが、年金保険は評価の対象です。
◆退職金の評価◆
退職が差し迫っている例外的なケースを除き、自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1が財産額として評価されます。仮に退職が決まっているが受取前という段階まででしたら、差押え財産との関係で4分の1の評価まで抑えることができます。
これに対し、中小企業退職金共済(中退共)、小規模企業共済は、退職金類似のものですが、法律上差押え禁止財産ですので財産とはみなされません。
◆交通事故の被害者◆
財産的損害に基づく損害賠償請求権は、財産として評価されます。休業補償、逸失利益、介護費用、入院雑費は自由財産拡張の対象ですが、物損部分は難しいです。
精神的損害に基づく慰謝料請求権は、慰謝料金額が確定するまでは、行使上の一身専属権として財産とみなされません。金額が確定した場合には、財団に属するとされています。
破産手続開始決定時に損害賠償金が入金されていれば、現金あるいは預貯金として財産評価されます。
自己破産申立てと示談のタイミングも図る必要があります。弁護士とよく相談して段取りすることが必要です。
2.管財事件
管財事件とは、裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人が財産調査、換価・配当などを行う手続です。個人破産の場合には、免責調査、免責意見の提出も破産管財人の仕事です。破産管財人には弁護士が選任されます(予納金が高額になります)。
手続中は、郵便局を通じた郵送物は破産管財人に転送され開封されますますので気を付けてください。
◆破産申立て後の流れ(管財事件)◆
①補正連絡・予納金納付
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示された予納金を納めます。
②破産手続開始決定
債務者審尋の日か(破産管財人候補も出席して顔合わせ等をする期日)、同審尋が開かれないケースでは予納金納付日に近い時点で、破産手続開始決定が出ます。
郵送物が破産管財人に転送されるようになります。
③自由財産拡張手続
開始決定後1か月以内を目処に自由財産拡張手続がなされます。破産開始決定日が財産の基準日になりますので、通帳を記帳して弁護士に持っていきます。
④第1回債権者集会
第1回債権者集会は、開始決定日の2~3か月後程度に指定されます。個人破産のケースでは金融機関や業者が債権者集会に出席することはほぼありません。
開始決定後第1回債権者集会までの間は、管財人事務所に赴いての打合せが必要になります。
単純な免責調査型の管財事件であれば、第1回債権者集会の日に破産手続、免責手続が終了することが多いです。
⑤第2回債権者集会~
管財人による資産の処分に時間がかかる、配当がある等の場合には、1年あるいはそれ以上かかることがあります。
ただ、多くの場合は、第1回債権者集会の後は、2~3か月に1回の期日に出席すればいいだけです。弁護士も同席します。
なお、法人破産を同時に申し立てた場合には、法人破産のスケジュールに合わせて進んでいきます。
◆会社の同時申立てが必要か◆
会社の経営者が、法人破産の費用を捻出できない、あるいは帳簿類が散逸しているなどの理由で、個人の破産だけを申し立てるケースがあります。
会社が休眠状態になってから相応の年数を経ているケース以外では、法人の申立てを裁判所から勧奨されます。
強制力はないのでしょうが、強く求められることも珍しくありません。法人の予納金を形だけでいいから納める、申立書も簡単な物でいいと説得され、やむなく法人の申立てに応じたケースもあります。
破産しても残る財産
1.破産しても残る財産
同時廃止の場合、保有している財産は全て残ります。破産管財人による財産の換価処分は行われません。管財事件の場合でも、自然人の破産ではすべての財産が換価処分されるわけではありません。経済的更生を図る制度であるため、全体で99万円までの財産が手元に残ると思ってください。
現金以外の本来的自由財産と、99万円までの自由財産拡張が認められた現金その他財産が残ります。
◆自由財産◆
破産財団に組み入れられることなく破産者が自由に管理処分できる財産を自由財産といいます。自由財産ではなく財団に組み入れられる財産を破産管財人が換価処分します。
自由財産には、本来的自由財産と拡張手続を経たそれ以外の自由財産があります。
◆本来的自由財産◆
本来的自由財産は、破産法で定められた自由財産です。
99万円以下の現金及び差押え禁止財産が本来的自由財産だと考えてください。
差押え禁止財産は、民事執行法その他法律にて差押禁止財産だと定められているものです。主なものは次のとおりです。
・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品等(通常の家財一式)
・退職金の4分の3(もっとも実際に退職間近でないかぎり支給見込額の8分の1の評価です)
・小規模企業共済
・中小企業退職金共済、建設業退職金共済
・確定拠出年金
◆自由財産拡張手続◆
自由財産拡張は、自由財産の範囲を本来的自由財産以外の財産まで拡げる手続です。一定の財産(自由財産)を手元に残すための許可を得る手続ですね。
自由財産の拡張は、破産管財人の意見を聴いて、裁判所により決定されます。破産者側の申立ては必ずしも必要ではありませんが、申立人の意向を反映させるために当職は申し立てています。
金額にして99万円の範囲内で行われます。本来的自由財産のうちの現金を含めての99万円の範囲であることにご注意ください。
無条件で99万円まで残せるわけではありません。経済的更生に必要かつ相当と見られる範囲です。現金以外の本来的自由財産の金額の多寡も影響します。
なお、制度上は不可欠と考えられる場合に99万円を超える拡張もあり得るのですが、運用上あまり見かけません。
2.自由財産拡張にあたっての注意点
財産の中には、自由財産拡張の対象にならない財産があります。経済的更生に必要・相当ではない財産は自由財産拡張の対象となりません。財団に属し換価処分されます。
不動産、株式、債権、投資信託などが典型です。
車については、実用車は対象ですが、趣味のための車は対象外です。
保険は、投資性の強い商品を除き、基本的に認めてくれます。
報告が漏れており破産管財人の調査で見つかった財産は対象とならない傾向です。
なお、自由財産拡張範囲を超える財産は必ず換価されるわけではありません。
自由財産拡張対象外の財産は、財団に組み入れられ、破産管財人により換価処分されます。しかし、99万円の価値分を財団に組み入れるのであれば、個々の財産自体は解約、処分しないで済むケースがあります。
例えば、保険をどうしても残したいが財産が99万円を超える場合、手元に残るべき現金から99万円を超える金額を財団に組み入れる形で、保険契約自体は残すことができます。
免責
1.免責と免責不許可事由
債務の支払義務を免れることを免責といいます。個人の破産では、免責許可決定を得ないと意味がありませんね。破産法では、このような行為があった場合には原則として免責を許可してはいけないという免責不許可事由が定められています。
免責不許可事由がない場合、権利として免責許可を得ることができます(権利免責)。
免責不許可事由があったとしても、裁判所が事情を斟酌した上で裁量により免責許可を与えることができることになっています(裁量免責)。
運用上は、原則と例外が逆転し、仮に免責不許可事由があったとしても、結果的にはほぼ免責決定を得ることができています。
ただし、免責不許可事由が悪質・重大な場合には、それだけで管財事件(免責調査型)になる可能性がありますし、中には免責を受けられないケースもあります(裁判所から取下げ勧奨を受けることもあります)。
免責を得られるか不安なケースでは個人再生を選択することもあります(なお、個人再生のケースでも、免責不許可事由が否認対象行為に該当するケースでは清算価値への計上という形で影響します)。
2.免責不許可事由の種類
破産法に定められている免責不許可事由の主なものは次のとおりです。・不当な財産価値減少行為(財産の隠匿・損壊・廉価売買・無償行為など)
・不当な債務負担行為(高利の借金や換金行為など)
・不当な偏頗行為(不公平な弁済・担保供与など)
・浪費または賭博その他の射幸行為
・詐術による信用取引(財産や収入に関し嘘をついて借り入れるなど)
・裁判所への虚偽説明や管財人への協力義務懈怠
免責不許可事由に該当するかの判断は解釈を要する事柄であり、程度問題もあります。弁護士に判断してもらうほかありません(弁護士からも確認します)。
ここでは、何点かコメントするにとどめます。
◆浪費、ギャンブル、投資◆
多かれ少なかれ浪費、ギャンブルが借金の原因になっていることは多いです。程度問題です、要は借金の原因になっているかが肝でしょう。破産の原因、借金の原因について、他の理由で説明できるか検討し、説明できなければそれらが主な原因になります。管財事件になるケースもありますが、説明、反省を尽くせば同時廃止で処理してくれ、仮に管財事件となってもほぼ免責を得られます。
FXや仮想通貨等投資損害も浪費、ギャンブルと同じように扱われます。この場合は取引履歴等の資料の提出もいたします。
◆ショッピング枠の現金化◆
借金の返済に追い込まれてショッピング枠の現金化に手を出すケースが割と多いですね。ネットで価値のない物を高額のクレジットを利用して買う形式が典型ですが、金券等をクレジットで購入してすぐに換金するケースもその一種です。そのような行為の有無、内容は破産申立書の報告事項であり、かる免責不許可事由として扱われています(犯罪行為にも該当し得ます)。
頻度や金額によって管財事件にはなり得ますが、免責不許可になる例は稀でしょう。反省文の提出により同時廃止で終わるケースも多いです。頻度や金額の程度が重いケースでは、無難に個人再生を選択することもあります。
◆スマホ、タブレットの不正購入◆
最近は、悪質金融業者に唆されて、スマホやタブレットをクレジットで購入し、物は業者あるいは債権者に売却するという事例もよく見ます。転売目的、譲渡目的でそれらを購入することは許されていません。
違法であること、免責不許可事由として扱われることは、ショッピング枠の現金化と同じであり、裁判所へ丁寧な説明が必要です。無難に個人再生を選択することもあります。
破産における否認
1.否認権とは
破産管財人には、破産者が行った否認対象行為を否認し(法的効果を覆すこと)、散逸した財産を財団に取り戻す否認権があります。否認対象行為には、詐害行為(廉価売買など)、過大代物弁済、無償行為(贈与など)、財産散逸行為、偏頗行為(不公平な債務の弁済等)、権利変動の対抗要件具備(登記行為等)ですが、それぞれ破産法に対象となる要件が定められており、解釈上の例外もあります。弁護士でないと具体的な判断が難しいです。経済的危機状態で財産状況を悪化させる行為が該当するとイメージしていただき、ひっかかる行為があれば弁護士に伝えてください。
裁判所からは、破産直前の弁済、財産処分、相続、離婚などの行為は必ずチェックされます。否認対象行為があり、その程度が重いケースは管財事件になります。
破産管財人は、否認対象行為がある場合、まずは交渉での和解的解決を図るでしょう。交渉で解決できないケースでは、破産裁判所への否認請求あるいは通常裁判所への否認の訴えを提起する流れになります。
2.否認に関する注意点
弁護士には、少なくとも2年程度遡って、大きな財産の売却、贈与、解約あるいは名義変更の事実がないか報告してください。それらは申立時の報告事項ですし、事前に対処を考える必要があります。
なお、準備の中で否認対象となり得る行為をせざるを得ないケースもあります。必ず弁護士の関与の下で進め、否認のリスクを減らしてください。
◆直前の財産処分の注意点◆
処分代金や解約金を、有用の資(破産費用、相当な生活費、医療費、転居費用、学費、公租公課)に費消することは許容されています。
場合によっては不動産や車などどうしても生活に必要な物を親族等が買い取って残すこともあります。
弁護士が関与しない直前の処分は極力避けてください。リスクが高いですし、説明が不十分であるとそれだけで管財事件になります。
弁護士が、処分代金あるいは解約金等を管理した上で、取引の妥当性や使途の妥当性を裁判所に説明する必要があるでしょう。
◆相続と自己破産◆
相続放棄は否認の対象ではありません。身分行為で財産行為ではないからです。
これに対し、経済的危機状態でなされた不相当な遺産分割は否認の対象となります。財産処分の一種と見られるからです。否認のリスクがあるので、法律的に合理的な説明を用意しておかなければいけません。
場合によっては、破産直前に遺産分割手続をせざるを得ないケースもあります。リスクが高いので、弁護士と相談の上で進めてください。
◆離婚と自己破産◆
経済的破綻を原因として離婚することは珍しくありませんが、経済的危機状態での財産分与や慰謝料の支払いは慎重にしなければいけません。
財産分与は、相当な内容であれば否認されることはない傾向ですが、相当性を法律的に説明しなければなりません。
慰謝料も相当額なら問題ないとも思われますが、偏頗弁済として問題視されることもあります。そのため慰謝料的財産分与の形をとる方法も考えられますね。
自己破産を予定される場合には、離婚協議も弁護士と相談の上で進めた方がよろしいでしょう。
非免責債権
1.非免責債権とは
非免責債権は、免責許可決定によっても免責されることのない債権です。非免責債権の種類の中には、非免責債権に該当するか悩むケースもあります。
非免責債権に該当するかどうかは破産手続では判断されず、別途訴訟が提起されればその中で判断されることになります。
2.非免責債権の種類
次のようなものが非免責債権となります。◆国税徴収法または国税徴収法の例により徴収することができる債権◆
国税、地方税、国民健康保険、国民年金料などですね。そのため、破産者には、減免申請を役所にしてもらうようにしています。
なお、生活保護法63条に基づく保護費の返還請求権、同法78条の徴収金も、非免責債権になります。
◆悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権◆
故意ではなく積極的な「害意」が必要とされます。詐欺の被害者からの損害賠償請求権などです。不貞行為の慰謝料は通常のケースでは該当しない傾向にあると思われます。
◆故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権◆
悪質な交通違反による交通事故の人身傷害に関する損害賠償義務などです。
◆婚姻費用や養育費◆
滞納している分ですね。
◆雇用契約に基づく給与や預り金返還請求権◆
個人事業主に対する労働債権ですね。
◆債権者一覧表に記載しなかった債権者の債権◆
過失で漏れていても該当します。債権者の漏れに注意してください。
◆罰金など◆
罰金、科料、過料、追徴金等です。
破産準備の注意点
1.必要書類の注意点
自己破産申立ての必要書類は多岐にわたり、かつケースにより種類や濃淡も異なります。弁護士と事前に十分に協議の上で段取りを組んでください。必要書類について、いくつか注意点を挙げておきます。
◆給与明細◆
直近2カ月分の給与明細が必要書類になりますが、遅くとも準備の打ち合わせ時に弁護士に見てもらうべきでしょう。
控除欄から、勤務先からの借入金や労働組合・共済組合からの借入金が判明することがあります。弁償金、返納金等の名目で勤務先から債務を負っているケースもあります。
また、保険料や会費・積立が天引きされている場合は、保険・共済契約の内容や解約返戻金額の有無・金額が分かる資料が必要となりますし、会費や積立は資産性の有無、あるものについては残高の説明をしないといけません。
◆ネット専用口座◆
直近1年間の通帳の写しが提出書類になっております。ネット専用口座も1年間の取引明細と当該預金口座以外の口座がないことがわかる画面を紙ベースで提出します。
受任通知後、ネットバンキングが閉じられて、取引明細書が取れないケースも多いです。受任通知までに予め取引明細をとっておくことをお願いしております。
申立日までの取引明細の提出を裁判所に要求されることもあり、そうなると郵送で銀行に取引明細発行を依頼する、あるいは一時的にアカウントを開放してもらう必要が出てきます。
◆退職金◆
勤続5年以上(正社員)の場合には、退職金に関する資料が必要です。
原則は勤務先の退職金見込額証明書あるいは退職金がないことの証明書ですが、なかなか取得が難しいですね。
退職金制度がある場合には、退職金規程、辞令等、退職金見込額が正確に計算できるだけの資料の提出で証明書に代えることができます。ポイント制を採用している会社は説明に苦労することがあります。
退職金制度がない場合には、退職金制度がないことがわかる就業規則を提出すれば事足ります。
なお、中小企業退職金共済、小規模企業共済は、財産として見られないものの、加入状況がかわかる資料は求められます。
◆居住証明書◆
自己破産の申立てには、居住証明に関する資料(賃貸借契約書か不動産登記簿謄本)を提出しますが、第三者が賃借している物件あるいは所有している物件にお住いの場合には、当該第三者から居住証明書の取得も必要です。
勿論、同一世帯の親族名義の場合には、居住証明書を要求されません。
社宅の場合は、賃貸借契約書の写しを取れない場合もありますし、会社に居住証明書をもらうのも酷な場合があります。その場合は、社宅利用許可証や給与明細上の天引き社宅料等、社宅に居住していることがわかる資料で説明を尽くせば大丈夫です。
◆家計収支表◆
家計収支表は家計簿を月単位でまとめたもので、広島地裁本庁では2か月分の会計収支表の提出が必要です。準備にあたっては、家計収支表の書き方も弁護士と協議してください。
同居の親族全ての収入と支出を合わせて記載することが原則なのですが(原則として家計を一とするとみられるため)、なかなか難しい場合もあります。
破産者とその他親族を分離して親族間のお金のやりとりを明記することでの説明も許容され得ます。当職は、破産者の生活状況、お金の費消状況を的確に説明できる形になるようケースバイケースで書き方を相談して決めています。
◆相続◆
自己破産の申立て時には実方の親が亡くなっている場合には必ず相続の有無を報告します。未分割遺産の報告漏れが多数あったためです。
経済的危機状態での相続、時期の近い相続がある場合には、戸籍、相続関係図、登記簿、固定資産評価証明書、写真、査定書などの提出をしないといけません。どこまで必要かはケースにより異なります。早めに協議をしておかないといけません。
2.その他の注意点
その他の準備に関する注意点をいくつかコメントいたします。◆言い難いことこそ相談を◆
あなたが弁護士に対して言いづらいことにこそ、免責不許可や否認など破産手続上の問題点が隠れていることが多いです。
言い難いことこそ早めに弁護士に伝えて、方針を見極め、善後策を図らなければなりません。
◆口座凍結・相殺◆
受任通知の発送により、借入先の銀行口座が凍結され、残高が残っていれば相殺されます。受任通知が銀行に届く前にお金は引き出さないといけません。
また、保証人がいる場合、保証人の当該銀行の口座も凍結され相殺されることにご注意を。
◆給与口座・年金受取口座◆
給与口座、年金受取口座、生活保護受給口座のある銀行が債権者であるときは、受任通知を出す前に借入れのない銀行口座に変更してもらいます。銀行に受任通知を送ると預金口座は凍結されるからです。
変更に時間がかかる場合、確認できるまで当該銀行に受任通知を発送するのを待つこともします。
勤務先の方針で給与口座の変更ができないケースもあります。
受任通知後の給与・年金の入金の引き出しは銀行も応じてくれるのが通常ですが(私の経験上は断られたことはありません)、その都度銀行窓口に行かなければならない等の手間がかかります。
◆債権者の漏れがないように◆
破産手続中でしたら、漏れがあっても債権者を追加すれば大丈夫です。
手続終了後に判明すると、債権者一覧表の記載を漏らした債権者の債権は非免責債権になります。故意でなくとも過失があったらダメで、やむを得ないケースだったと裁判所で認められるのは簡単ではないです。
ただし、債権者が金融機関であるケースでは、判明した時点で破産開始決定通知及び免責決定通知を送ると免責処理をしてくれるケースも多いでしょう。
◆スケジュールを守る◆
弁護士から示されたスケジュールを守ってください。
金融機関は受任通知後少なくとも半年ぐらいは訴訟を提起せずに待ってくれますが(一部の債権者はすぐに訴訟をしてきますが)、徒に申立てが遅くなると訴訟等のアクションを起こす債権者が出てきます。
弁護士も、長期間放置をすると弁護士会の懲戒を受けかねませんので、一定期間経ても準備が進まないケースでは辞任をせざるを得ません。弁護士に辞任されると百害あって一利なしです。
破産にかかる費用
1.破産にかかる費用
自己破産の申立て代理業務を弁護士に依頼する場合の費用には、裁判所にかかる費用、弁護士費用、実費(弁護士費用込みのケースも多いです)があります。なお、当事務所は債務整理に関する初回相談料(30分程度)は無料です。
また、法テラスの民事法律扶助制度もございます。
◆裁判所にかかる費用◆
同時廃止事件では、裁判所に納める予納金と予納郵券を合わせても15,000円あれば賄えます。申立ての際に預かります。
管財事件では、裁判所から具体的に納付金額の指示があります。23万円から33万円を用意してもらっています。
予納金は、原則即時支払う必要があります。分割支払いができませんが、事実上数か月待ってもらえることがあります(期限を区切って予納命令が出されます)。
管財事件の可能性が高いケースでは、申立てのタイミングを含めて予納金の用意について協議をしておいてください。
◆弁護士費用◆
弁護士費用は、依頼される弁護士によっても、案件の性質によっても異なります。広島では33万円(消費税込み)前後が多いでしょうか。弁護士費用、その支払方法も弁護士と相談することの大事な1つです。
当事務所では27万5000円(消費税込み)です。勿論、ケースによって、減額することもありますし、相応の規模の個人事業主や財産が多い場合には増額することもあります。比較的安い方だとは思いますが、費用の金額で弁護士を選んでは駄目です。
◆法テラスの民事法律扶助制度◆
法テラスの民事法律扶助制度は、一定の資力要件(平均手取り月収額と財産額)の下、弁護士費用を立て替えてもらい、立替金を月5000円からの分割で償還する制度です。
債権者数により異なりますが、自己破産155,000円からと安価な設定になっております。こちらを利用される方も多いです。
同制度を利用する流れは、
①弁護士に相談(無料法律相談も3回まで可能)
②申請書類を、弁護士を通じて法テラスに提出
③承認後に弁護士事務所で契約
というものになります。申請から契約まで10日前後かかるでしょうか。
なお、ケースによっては、法テラスを利用しない方が後の破産手続との関係でトータルの支出が押さえられるケースもあり得ますので、よくご相談ください。
◆生活保護を受給されている方◆
生活保護を受給されている方、受給予定の方は、上記民事法律扶助制度を利用します(当事務所にて手続を行います)。
法テラスが予納金まで立て替えてくれます。かつ、立替金償還は猶予され、破産手続終了時にも生活保護を受給されていれば償還免除申請を行って免除されます。
結果、費用負担がない形で自己破産をすることができるのです。
2.費用の準備
費用を一度にご準備いただけないケースでは、弁護士が受任通知を送付して支払いをストップしている間に分割でご準備いただくケースが多いです。原則として、弁護士費用の支払いが終了した後に破産申立てをします。そのため、分割期間は4から5カ月までにしていただいております。ボーナスで調整される方もいらっしゃいます。
また、財産の処分代金から、あるいは保険等の解約金から、費用をご用意いただくこともあります。財産を換価した現金を破産費用に充てることは許されております。
過払金の回収により費用が捻出できたケースもあります。
費用の捻出方法はスケジュールも絡みケースバイケースで考えるべきことです。
弁護士とよくご相談ください。
弁護士に依頼する意味
1.弁護士に依頼する意味
自己破産の申立代理業務を弁護士に依頼する主な意味は、次のとおりでしょうか。◆債権者対応◆
弁護士が受任通知を出して債権者対応をしてもらえるのは大きなメリットです。早めにご相談、ご依頼されて、精神的に疲弊をすることを避けてください。
◆効率的な準備◆
自己破産の準備といっても、初めての方はわからないでしょう。かつ、機械的に書類を集めればいいわけでもありません。専門家のサポートを受けて効率よくご準備ください。
◆破産は専門的なサポートが必要な手続◆
自己破産も法的手続きです。準備の仕方あるいは申立て方によって、法的に選択される手続や法的に問題視されるかどうかが変わることもあります。法的な見地から準備、申立てを組立ていかなければなりません。
やはり、弁護士に関与してもらう方がよろしいでしょう。弁護士であれば、裁判所での各手続等にも代理人として同席できます。
なお、本人申立ての場合には管財事件になりやすい傾向にありますね。
2.破産弁護士による専門的なサポート
申立代理人弁護士の腕が、ご苦労の程度や手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると苦労を強いられかねませんし、破産法上問題となる行為が問題視されるリスクも高まります。破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
破産には独特のルールや考え方があり、弁護士も職人的な能力が必要とされます。裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、キャッチアップしなければなりません。破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。
かつ自己破産は借金の支払義務を免れるためだけが目的の制度ではありません、経済的更生を図るための制度であり、様々なケースの経験が必要でしょう。
様々なケースにおいて、諸々の問題を紐解いてシンプルに整理し、申立てのスキーム、段取りを調整できる専門的な弁護士のサポートを得るべきです。
倒産法制に精通し、申立代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を、「破産弁護士」「倒産弁護士」と呼んだりします。
弁護士に相談される際、いろいろな疑問点や不安な点をぶつけてみてください。破産事件に精通する弁護士であれば、具体的なアドバイスをしてくれます。
疑問を解消してくれ、また問題点を的確に指摘してくれる弁護士を探してください。
なお、当事務所は、自己破産、個人再生の申立件数が相対的に最も多い部類に属します。かつ、当職は、破産管財人や個人再生委員の経験も豊富です。裁判所との倒産関係に関する協議会のメンバーにも属しています。
ぜひ、相談してみてください。
まとめ
1.個人の自己破産についての徹底解説
個人自己破産の徹底解説と銘打って、個人破産の概要を説明させていただきました。細かい点まで立ち入ることができなかった問題もございます。他のコラムも参照していただければ幸いです。個人破産とは免責を得ることを目的とした法的清算手続でした。経済的更生を図ることを目的としています。
自己破産の選択基準、同時廃止と管財事件の別、破産しても残る財産、免責手続、否認権、非免責債権、準備の注意点など、多岐にわたり説明させていただきましたが、細かくて難しいかもしれません。
ケースバイケースで様々なことを考えて、見通しを立て準備をしないといけないことがご理解いただければ十分です。
様々なケースにおいて、諸々の問題を紐解いてシンプルに整理し、申立てのスキーム、段取りを調整できる専門的な弁護士のサポートを得てください。
当事務所にご相談くだされば幸いです。解決策を一緒に考えましょう。
2.破産は経済的更生の手段
借金が嵩むとお金のやりくりばかり考えるようになり、追い詰められ、借金のために生きているかのような感覚に陥るようです。ご依頼者の方からは大変な苦労をお聞きしております。破産手続などが終わった時には、本当に肩の荷が下りた気持ちになるようです。皆さんの表情からも変わります。
多くの方は、「もっと早く先生にお願いすればよかった。」とおっしゃいます。個人の破産は、経済的更生を図る目的の制度であることを強調させていただきます。
早めに弁護士に相談、依頼され、諸々の課題を紐解きながら最終的にシンプルな形で整理してもらってください。それが早期の経済的更生に繋がります。
できるだけ早いご相談を。
この記事を書いた人
弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、経営革新等支援機関
個人破産の徹底解説の続きを読む
(なかた法律事務所) 2020年5月13日 12:56
会社の自己破産の徹底解説
広島県広島市の弁護士仲田誠一です。当事務所では、破産、民事再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしております。
会社、法人破産は、業種、業態、現在の業況あるいは資金繰りなど、個々のケースに応じたオーダーメイド的な対応が必要となります。段取りが大事なのですね。
会社、法人の自己破産をご検討されている方へ、できるだけ共通項を探った解説をさせていただきます。目次
法人の破産とは法人の破産は最後の手段か
法人の破産の選択
弁護士に相談するタイミングなど
法人の破産の流れ
破産に必要な費用の目安・費用の捻出
取引先との関係は
従業員との関係は
準備にあたっての留意点
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
まとめ
法人の自己破産とは
1.自己破産とは
簡単に申し上げると、破産手続は、資産・債務の清算手続です。破産開始決定時の資産を現金化し開始決定時の債権を弁済(配当)していくイメージです。実際には配当ができずに破産が終了する事件も多いです(「異時廃止事件」と呼ばれます)。
自己破産とは、破産手続開始の申立てを自分(法人・個人)が行う場合です。自己が破産の申立てをするから自己破産なのですね。破産というと僅かな例外を除いてほぼ自己破産に当たります。
他に、数は少ないですが、取締役、理事、業務執行社員あるいは清算人が申立てる「準自己破産」や、債権者が申し立てる「債権者申立て」の破産もあります。
債権者申立ての破産についても破産管財人として携わったことがありますが、広島本庁でも年数件あるかないかでしょうか。
2.法人と個人の自己破産との違い
法人の自己破産と個人(自然人)の自己破産は次のような違いがあります。◆法人破産には免責手続がありません◆
法人破産の場合には、手続完了により法人格が消滅します。そのため、破産手続が完了すれば債務を負う状態はなくなります。
これに対し、個人(自然人)の破産の場合には、破産をしても人格は残りますから、破産手続(財産負債の清算手続)を経ても清算後残った債務が残った状態になります。そのため、別途借金支払義務を免れるための「免責」手続が用意されています。
◆法人破産では必ず破産管財人が選任されます◆
法人破産では、必ず破産管財人が選任されます。破産管財人が財産の換価、配当等を行っていきます。いわゆる「管財事件」です。予納金が標準100万円と高額になります。破産手続開始決定により会社、法人の財産管理処分権は破産管財人に移行します。
これに対し、個人破産の場合には、破産管財人が選任されない事件(「同時廃止事件」といいます)の方が多いです。広島地方裁判所本庁では、個人破産のうち70パーセント前後が同時廃止事件でしょうか。同裁判所では、免責不許可事由の程度が大きいケース、過去5年以内に経営あるいは事業を行っているケース、明らかにオーバーローンと認められない不動産を所有しているケース、一定額の財産があるケース(預貯金50万円、その他の財産は項目毎に20万円)などに限り破産管財人が選任されます。
なお、法人破産と同時に法人代表者の個人破産を申し立てることが多いですが、代表者は上述の基準によって管財事件になります。
◆自由財産の有無◆
法人破産の場合には、法人の財産は原則すべからく換価されて残りません。法人格がなくなりますから。
一方、個人破産の場合には、自由財産拡張手続を経て裁判所の許可を得れば、一定の財産が手元に残すことができます。破産後の生活が保障される形です。
◆事業の整理◆
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めなければならないことが特徴です。必要書類を揃えればいいだけで準備が済むことが多い個人(自然人)のケースと異なります。
法人の自己破産は最後の手段か
1.事業継続の可能性の見極め
会社・法人の営む事業はそれ自体に社会的価値が存在します。かつ、従業員さん、取引先など多様な利害関係者も存在します。その事業をなくしてしまうのは偲びないことですし、社会的な損失です。そのため、事業継続に悩まれる経営者の方は、まず金融機関のリスケジュール(条件変更)あるいはM&Aでの事業継続の可能性を見極めるべきでしょう。
例えば、金融債務の返済をストップすれば資金繰りが回るのであれば、リスケ中に経営改善を図ればいいわけです。
企業再生は、企業の収益力が維持あるいは向上されることが前提になります。再生協議会や銀行主導のリスケを経て破産に至った法人の破産管財人をすることもありますが、コストダウンに重点を置きすぎた安易な資産の切り売り、事業縮小は、多くは企業価値を毀損するだけで傷を深くするだけに終わる可能性が高いので慎重にするべきです。
また、企業価値あるいは事業価値がある事業のM&Aによる承継も考えられます。それだけでは負債の抜本的解決にはならないことが多いのですが事業は残りますね。経済的危機状態のM&Aは法的リスクも大きので慎重におこないます。
当職は、銀行で企業再生にも携わりました。事業継続の可能性の見極めからご相談ください。
また、現在は認定経営革新等支援機関でもあります。事業計画策定のお手伝い、リスケジュールのお手伝いもしております。M&Aのサポートも主業務の1つとしております。事業継続、M&Aも含めてご相談ください。
2.法人の自己破産は最後の手段か
会社、法人の自己破産は、上述のような意味では、最終手段といえるかもしれません。しかし、破産はぎりぎりまで引き延ばすべき手段でもありません。余力を全く残さない状態での破産は困難です。他の選択肢と並行して検討し、早期に決断しなければならない事柄です。その決断も大切な経営判断です。
◆破産費用の捻出◆
破産費用(弁護士費用・予納金)を用意できなくなれば破産もできません。
事業継続を引き延ばした結果として費用が用意できずに、会社の破産を断念された経営者さんもいらっしゃいます。
◆早期の決断も大事な経営判断◆
早期の決断が結果的に迷惑をかける範囲を拡げません。給与の未払いが残らない形での事業廃止ができるタイミングが望ましいです。
また、破産は利害関係者に対する最後のけじめとも言い得ます(夜逃げや休眠状態で放っておかれるよりは破産手続を望まれるのが通常です)。
◆経済的再建◆
経営者様とそのご家族の早期の生活再建も図らなければなりません。
経営者家族の生活を極限まで切り詰め、働き通しで体調を崩すなど苦労を重ねてきた末に弁護士に相談される方も多いです。その責任感には頭の下がる想いですが、「もう少し早くご相談に来ていただければ。」「そこまで思い詰める必要はなかったのではないか。」と思われる事例も多く目にします。
会社、法人の自己破産の選択
1.自己破産を選択するべきケース
金融機関のリスケで対処できるケースであれば自己破産を選択する必要はありません。あるいは、M&Aで事業自体は残す途も検討してよいでしょう。一次的な資金繰りの悪化を改善するだけで経営が持ち直す余地があるなら、金融機関のリスケジュール(条件変更)により資金繰り手当てができる限りで対応が可能です。金融機関の支援を受ける間に経営改善策の実施により経営が持ち直す見込み、計画が立てられるのであれば、また同様です。利払いのみのリスケをすれば資金繰りがある程度余裕をもって回る、かつリスケ期間中に金融機関への弁済計画が立つまでの経営改善を図る見込みが立ちそうだというケースでは、経営改善策を試すべきでしょう。経営改善計画や資金繰り表などを金融機関に提出し交渉をします。
例えば、設備投資等による債務過多が業績不振の主な原因であり、事業の収益力自体は相応に残っているケースでは、リスケ対応により資金繰りを改善しつつ計画的に債務を削減することで難局を乗り切れるでしょう。
しかしながら、企業の業績不振には多種多様な要因が絡みます。企業努力では如何ともしがたい外在的な要因も大きいです。単純明快かつ解決可能な原因による業績不振で簡単に改善できる、あるいは一時的に資金繰り手当てをすれば簡単に業績が持ち直すと計画が立案できるケースは少ないです。
リスケによる企業再生を図る際には、単なる時間稼ぎになってしまわないのかをよく吟味する必要があります。延命だけでは傷口が深くなる、あるいは拡がることになります。
企業再生あるいは事業再生には、事業自体の収益力がある、あるいは収益力が改善する見込みがある、ということが前提となります。慢性的な赤字体質であり事業継続をしても今後の状況を悪化させる、あるいは現在の厳しい状況が続くだけというケースでは、早い自己破産の決断が必要でしょう。金融債務の返済を一時ストップしても資金繰りが余裕をもって回らないケースでは、慢性的な赤字体質といえます。
経営者に企業再生への気力・体力が残っているかも重要な要素です。当職に相談に来られる経営者の方は経営努力をされた結果として現在に至っているのであり、疲弊されて余力も残っていないという方が多いです。
その責任感は尊敬されるべきです。結果として自己破産を選択しても非難されるものでは決してありません。
2.民事再生との違い
会社、法人がとる法的債務整理手段としては自己破産のほかに民事再生もあります(なお、大企業向けの会社更生という手続もあります)。民事再生は、債務を大幅に減額した上で、経営者の交替もなく事業を継続できるという大きなメリットがあります。
しかし、仕入先・外注先の協力が必要なこと(あるいは現金決済に耐えうるスポンサーが必要なこと)、事業用資産の担保権者の協力がいること、債務免除益の課税がなされること、及び申立てに多額の費用がかかること、という条件が揃わないと選択できません(事実上必要となる条件も含んでいます)。実際には、民事再生に適合するケースは少ないです。
弁護士に相談するタイミングなど
1.弁護士に相談、依頼するタイミング
弁護士に相談、依頼するタイミングは早いに越したことはありません。早めに弁護士に相談をし、金融機関へのリスケ要請、自己破産申立て、民事再生申立てなどの手続選択の方針を決定し、それに応じた準備をしていかなければなりません。
自己破産を選択するにも、費用の捻出の問題を始め、破産を前提として事業廃止に向けた準備を段取りを組んで進めることが理想です。
残された時間や、相談時の状況によって、できる準備や選択肢が異なります。
弁護士への依頼も、早期になされることが肝要です。会社・法人の自己破産では、事業整理に向けた段取りを計画的に組んで進める必要があります。段取りが悪いと混乱をいたしますし、破産法上問題となる行為がなされることがあります。準備段階での出来不出来が、後の手続に響くのです。
できるだけ早くから弁護士の指示を受け、あるいは弁護士のナビゲーションによりご準備をされた方が、効率的ですし、ご負担も小さくなります
◆相談時の注意点◆
弁護士への相談時には、少なくとも直近の決算申告書類一式をお持ちください(勿論、3期分程度を拝見した方が検討はしやすいです)。
資金繰表を作成されているのであればそれもお持ちいただいた方がありがたいです(資金繰り予想ができる入出金のメモ程度でもかまいません)。
連帯保証人の方の資産・負債状況もわかればありがたいです。会社、法人と連帯保証人である経営者を一体としての債務整理の方策を考えるべきです。
◆緊急の場合もあります◆
手形・小切手の不渡りが見込まれるなど急を要する場面もございます。
緊急の対応が必要なケースはそれに応じた対応をすることになりますが、1日が惜しいケースもありますのでやはり早めにご相談ください。
2.事業廃止のタイミング
破産手続をスムーズに進めるには事業廃止のタイミングが重要です。事業廃止のタイミングを間違えば、要らぬ混乱を招く、破産手続に移行することができないという事態を招きかねません。弁護士とよく相談の上で決めてください。事業廃止のタイミングは、買掛金等の支払いをストップすればお金が一番残る時点がベストになることが通常です。破産費用の手当てが必要ですし、残る財産は各債権者に平等に配当されるべきともいえます。
勿論、未払給与はできるだけないようにしたいところです。
事業廃止のタイミングの決定には、資金繰りのほかに、
銀行取引停止処分の時期
従業員解雇あるいは退職のタイミング(解雇予告手当の問題もあります)
資産整理の状況(弁護士関与の下で資産を処分して破産費用を用意することもあります)
も絡んでくる問題です。
事業形態によっては、新規の仕事を取らずに既存の仕事は時間をかけて順次止めていくほかないケースもあります。
ご事情に応じてベストなタイミングでの事業廃止を図ります。
法人の自己破産の流れ
1.会社、法人の自己破産の流れ(申立準備)
会社、法人の自己破産の相談~申立準備までの一般的な流れは次のようにイメージしてください。①方針・スケジュールの決定
方針と段取りを話し合い、事業廃止のタイミングをターゲットに定め、準備の段取りやスケジュールを立てていきます。
悩む必要はありません。弁護士の指示やサポートを受けて進めるだけです。
②受任通知の発送
弁護士との契約後、事業廃止のタイミングで受任通知を発送することがスタンダードでしょうか。債権者毎に受任通知発送のタイミングを図ることもあります。
受任通知が債権者に届いてからは、債権者対応はすべて弁護士が窓口になります。
勿論、既に取立てが厳しい、あるいは銀行取引停止処分が予定されているなど急を要する場合は早急に発送します。
③申立ての準備・事業の整理
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めます。事業廃止の前後にわたり、例えば、従業員退職・解雇の手続、賃借物件の明渡し及び交渉、売掛金の入金先口座変更等売掛金の回収手立てをする、管理のための事業廃止時点の売掛金リスト・在庫リストの作成、債権者リスト作成、整理のための在庫や新規仕事の圧縮、財産の逸失を防ぐ資産保全、整理のための資産譲渡、継続的契約関係の解消(水道・電気を除く)、リース物件・所有権留保物件の返還、等々の準備をしていただくことになります。資産のうち簡単に現金化できるものは現金化をします(それにより破産費用を捻出することもあります、資産や在庫の処分、代金の管理等は必ず弁護士の関与の下で行ってください。後の破産手続に問題が生じることがあります)。
個々のケースで必要な準備は異なります。段取り、整理の程度、あるいは整理の方法など、すべて弁護士の指示を受けて負担なくご準備ください。その方が後々問題になりませんので弁護士としても安心です。
◆お金の管理◆
事業廃止時の現預金を弁護士に預けていただき、弁護士管理の下でどうしても必要なもののみに支出していくことが多いです。ある程度お手元に管理していただいて出納を記録してもらいながら、そこから事業の整理にかかる費用を支出していただくこともありますね。売掛金や貸付金の回収も弁護士が代理人として進めていきます。資産の処分代金も弁護士が管理します。
破産を見据えて、弁護士がお金を管理し、お金の散逸を防ぎ、適正な管理状況を報告できるようにすることが大事なのです。
④申立て
通常は、2か月~3か月程度の準備期間を経て、自己破産申立てを行います。
資産の整理及び売掛金の回収など段取りを組んだ事業の整理が終わるタイミングも待つことも多いです。
申立て先は、原則として、本店所在地を管轄する地方裁判所です。広島地方裁判所本庁ですと、民事第4部になります。
2.会社、法人の自己破産の流れ(申立て後)
申立て後の一般的な流れは次のようにイメージしてください。①破産開始決定まで
自己破産を申し立てると、裁判所から追加資料の提出や質問事項の回答を求められることがほとんどです。それを補正連絡と呼びます。
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示がある予納金を納めると、破産手続開始決定が出ます。
法人破産には必ず破産管財人が就任いたしますので、破産管財人候補者も同席する債務者審尋の日に破産開始決定が出ることが多いです。申立後1か月前後先がスタンダードでしょうか。
急を要する場合や債務者審尋が開かれない場合(最近増えています)では、予納金を納めるとすぐに破産開始決定が出ます。
②破産開始決定後~第1回債権者集会
破産開始決定が出ると、2~3か月に1度のペースで債権者集会などの期日が開かれます。代表者の方には、申立代理人弁護士と共に同期日に出席していただきます。
第1回の債権者集会までの間には、破産管財人弁護士の事務所に赴いて面談をする機会が数度設けられます。第1回の債権者集会の後は、破産管財人に呼ばれることはあまりありませんが、在庫や資産の処分などのため引き続き破産管財人から協力を求められることがあります。
③第2回債権者集会~
配当ができるまでの財産が形成されない場合、手続が異時廃止の形で終了します。配当ができる見込みがあるケースでは、債権調査、配当の手続がありますので、その分手続が長引きます。
第1回債権者集会が終わると、破産管財人からの聞き取り調査等はほとんどなくなります。期日に出頭する負担だけになりますので、それほど負担は大きくありません。
◆破産手続にかかる時間◆
一概には申し上げられません。不動産の処分や債権回収その他管財業務にかかる業務量にも依りますし、配当がなされる案件かどうかによっても所要期間が異なります。
資産の処分もない、配当もないケースでは3か月から6か月程度、それらがある場合には1年前後がスタンダードでしょうか。ただ、1年を超えるケースも珍しくはありません。
破産に必要な費用の目安、費用の捻出
1.破産に必要な費用の目安
破産に必要な費用は、弁護士に申立代理を依頼するための弁護士費用、申立時に裁判所へ納める予納金及び予納郵券です。◆裁判所へ納める予納金◆
裁判所に破産開始決定を出してもらうためには予納金を納めなければいけません。法人破産の場合は原則100万円です。大型管財と呼ばれる大規模な破産の場合にはより多額の予納金を要求されますし、休眠会社や資産の整理が必要のない会社等破産管財人の労力が相対的に少なく見積もられるケースでは交渉次第で減額も可能です。
なお、2社同時に申し立てると単純に倍となるわけではありません。
そのほか、裁判所が債権者等に書類を送る際に使用される予納郵券(債権者数に応じて納付します)がかかりますが、多額ではありません。
◆弁護士費用◆
弁護士を申立て代理人とする場合には、弁護士費用の手当が必要です。費用額は弁護士と相対での契約で決まりますので、定価はありません。費用の面の相談も弁護士相談の大きな目的の1つですので、お気軽にご相談ください(費用の面がご相談の大きな部分を占めているのが実情です)。
110万円(税込み)を確保できればありがたいです。一応の目安であり、必須というわけではありません。事情に応じて話し合いで設定しており、手間がかからないような案件ではより少額の金額設定もありますし、資産が相応にあるケースではより高額の金額設定もあります。
着手時に全額揃っている必要はなく、売掛金回収や資産売却などで捻出することもあります。
◆諸費用◆
多額ではないですが数万程度の諸費用もかかります。
◆余裕のある準備のためには◆
以上を踏まえて、当職は、法人1社の場合、トータル(弁護士と裁判所にかかる費用)で250万円を「目標」に準備していただくようお願いしています。
250万円用意できればある程度余裕をもって準備ができるという意味の目標であり、必須という意味ではありません。
ご依頼時に全額揃っていなければいけないということではありません。費用の手当の可能性を探る、手当の段取りを組むことも相談内容です。
◆代表者個人破産との関係◆
連帯保証人となっている代表者の自己破産も同時に受任するケースがほとんどです。
個人の破産での裁判所の予納金は30万円前後がスタンダードですが、減額交渉ができるケースもあります。
弁護士費用は法人・個人トータルで調整しております。例えば、個人で多くいただける場合は法人の分を減らす、あるいは法人で多くいただける場合には個人はいただかないというようなこともしております。
2.破産費用の捻出をどうするか
破産費用の捻出はほぼ例外なく頭を悩ませる事項です。依頼時によく吟味をして段取りを組みます。すべてを説明できるわけではありませんので、概要をお話します。
◆口座のお金◆
まずは、事業廃止時点で会社、法人の口座にあるお金が基本ですね。
支払いをストップして一時的に資金が多く残るタイミング(多くはそれが事業廃止のタイミングともなります)で、残った資金を弁護士に預けていただくことが多いです。
その準備として、借入銀行口座から順次資金を移す、あるいは入金先口座を借り入れのない銀行に変更する必要もあるかもしれません。
破産法は、債権者平等原則が理念となっております。支払いをストップさせてお金を移すことは、債権者の平等を期するための資産保全ですので、何ら問題がありません。
なお、取引先は勿論、租税公課や銀行も資金を確保しようとしますので段取りが大切になります。
◆弁護士に依頼した後に資金を捻出するケース◆
弁護士への依頼時に資金が揃っていなければならないわけではありません。売掛金回収、資産売却、金融資産の解約等で用意していただくこともあります。
弁護士関与の下で資産を現金化して破産費用に充てることは許されております。資金を弁護士が管理しつつ、その経過を裁判所にきちんと報告します。弁護士の関与なく資産を現金化して費消することは後に問題を生じさせる恐れがあります。
売掛金は、事業廃止後に、順次、依頼者が引き続きあるいは弁護士が回収し、回収金は弁護士が管理します。売掛金リストを作成していただき管理をしますね。滞納処分により売掛債権が差し押さえられると現金化ができなくなることには注意を要します。
資産を売却・換価することにより、費用の捻出をすることもあります。弁護士との相談時には、早期に換価できる財産がどれくらいあるのかも検討します。
取引先との関係は
1.買掛先への対応
相談者がよく悩まれることですね。仕入先、買掛先も、借入をされている金融機関と同様に、債権者です。弁護士が受任通知を発送した上で対応しますのでご安心ください。商品引き揚げの要請には応じられないのが基本です。後の破産手続で問題視される可能性もあるためです。在庫の所有権が仕入先にあることが契約書上明確である場合は返還することもあります。
買掛先からの取り付け騒ぎの危険もなくはありません。無断で商品等を引き上げることは厳密に言えば犯罪ですが、そのようなことが起きないよう、事業廃止時には事務所・倉庫や車などのセキュリティーにも気を付けていただきます。
場合によっては弁護士名の張り紙をして牽制をすることもあります。
混乱を避けるために弁護士名の受任通知を事業廃止の当日か翌日に届くように手配することも心掛けています。
2.売掛先への対応
販売先、売掛先は債務者の立場になりますので、事業廃止後も売掛金の回収を行わなければいけません。破産開始決定までに回収できなかった売掛金は、破産管財人が回収を図ります。事業廃止時の売掛金リストを作成していただき回収します(事業廃止したことを知ると支払いを渋る先も見受けられます)。
借入のある金融機関口座は弁護士の受任通知が届くと口座を凍結してしまい、基本的にその後の入金の引き出しには応じません。入金先を借入のない銀行口座あるいは弁護士口座へ振り込むよう依頼しなければなりません。
小口集金形態のご商売の場合には集金を引き続きお願いして回収するケースもあります。
在庫の処分を並行して行うこともありますね。
従業員との関係は
1.従業員の解雇・退職
残念ながら、事業廃止日が決まれば、従業員の方々を解雇する、あるいは従業員の方々に退職してもらうことになります。解雇には解雇予告手当が必要ない30日間の解雇予告手続をとることが多いでしょうが、ケースバイケースです。破産申立て準備にどうしても必要となる従業員がいらっしゃる場合(多くは経理担当でしょうか)、給料あるいは相応の費用をお支払いすることで引き続き残っていただくこともございます。
退職あるいは事業廃止に伴う社会保険、特別徴収住民税の異動手続、ハローワークの手続、源泉徴収票の発行等の退職に伴う手続は忘れないでください。
◆事業廃止をいつ従業員に伝えるか◆
事業廃止をいつ従業員さんにお伝えするかは悩ましい問題です。
従業員さんの生活等のことを考えると、できるだけ早くお伝えした方がいいとは思います(小規模会社であれば事情の説明により自主的に退職してもらえるケースも多いです)。
一方、あまりにも早く事業廃止を伝えると業務に支障を来すこともございます。
◆税理士・社会保険労務士
少し話はズレますが、税理士さんの協力が必要な場合もあります。費用との兼ね合いもありますが、事業廃止時点までは数字を作成してもらった方がありがたいです。
また、破産管財人が就任後に税理士に申告を依頼することもあります。
社会保険労務士さんがいらっしゃる場合には、退職手続等でご協力をいただくこともありますね。
2.未払給与等の扱い
賃金の未払いはないようにしたいと思われるのが経営者の常です。労働基準法上罰則も定められています。未払給与がない形で事業廃止できることが理想形ですが、支払えないケースがあるのも当然です。
◆破産手続における労働債権の扱い◆
労働債権は、破産手続開始決定前3か月間の未払給与と退職金の一部が財団債権として一般の債権者より優先して支払えることができます。
ただ、時間がかかりますし、支払えるだけの財産が破産手続の中で残るかどうかわかりません。また、事業廃止後できるだけ早く破産申立てをしなければいけませんね。
◆労働福祉事業団立替制度◆
そのため、労働福祉事業団立替制度の利用も考える必要があり、事業廃業時には従業員さんへの同制度の説明をするでしょう。
破産管財人の証明書の発行により未払い給与の8割が立替払いされますが、時間の制約があります。大まかに申し上げると、退職、解雇から6か月以内に破産申立てをしなければ対象になりませんので早期の破産申立てが必要になります(なお、破産手続外の認定制度もあります)。
賃金台帳、タイムカード、就業規則等、未払給与を確認できる資料も破産管財人に引継ぐことになります。
◆役員報酬の扱い◆
未払いの役員報酬は(従業員兼務役員のケースでは従業員分給料と認められ得る限りで別ですが)、一般の破産債権となります。経営者家族であっても従業員の立場のケースでは一般の従業員の給与と同じ扱いです。
◆中退金がある場合◆
退職金制度が中退共の場合は、請求手続をしていただければ(開始決定後は破産管財人が協力しますが)、従業員さんが受け取ることができます。
準備にあったっての留意点
1.やるべきことの整理をするべき
破産を準備するといっても、経験がある方ではない限り、何にどの順番で手を付けていいかわからず途方にくれるものと思います。また、破産をするためには事業の清算が必要ですが、どこまで清算すべきか事情により異なります。場当たり的な準備は、疲弊しますし、効率も悪く、中には後で問題となる行為をしてしまうこともあります。弁護士のサポートを受けて整理をしてください。
◆やるべきことの整理◆
準備の仕方や優先順位には勘所があります。様々な問題点や課題を整理してシンプルに段取りを組むのが弁護士の腕の見せ所です。
最低限必要なこと、できればやっておきたいこと、放っておいても仕方がないこと等々、やるべきことの整理をします。そうすれば全体像がつかめますし、優先順位も決めることができ、悩まずに準備ができます。
当職は、優先順位をつけたリストを作成し、それをチェックしながら打ち合わせを重ねています。
◆要望や問題点は早めに弁護士に伝える◆
なお、準備にあたって、様々なご要望もあることと思います。また、説明が難しい、準備が難しい等の問題点もあることが多いです。弁護士へは、早めにそれら要望や問題点を伝えてください。
破産法上問題がない形で、可能な限り、ご要望等を形にするよう心掛けています。問題点への退職も準備しなければいけません。遅くなるとそれだけ手当ができなくなる可能性が高くなります。
2.やってはいけないこともある
破産手続をスムーズに進行させるため、あるいは問題視されないためには、準備にあたってやってはいけないこともあります。◆書類の廃棄は慎重に◆
事業を廃止したからといっても、すべての書類の廃棄をするのは止めてください。破産手続の中で提出しなければならない書類も多々あります。
◆否認対象行為◆
否認対象行為を行ってはいけません。否認とは、破産管財人がその行為の効力を否定し財産等を取り戻す制度ですが、破産管財人が否認できる行為、その要件は破産法で定められています。主要なものだけ簡単に説明させていただきます。
偏頗弁済は否認の対象です。偏頗弁済とは支払停止状態等の経済的危機状態での不公平な債務の弁済です。問題となるのは、経営者家族、親族に対する弁済が多いです。弁済の相手、時期、債務の内容等によって判断が異なります。
事業廃止のタイミングも含め、支払っていいもの、いけないもの振り分けを弁護士と相談してください。
財産の散逸行為も否認の対象です。会社の資産の廉価売買、放棄など、財産を減少させる行為にお気を付けください。中には合理的な説明が可能なものもありますので、実行に移す前に弁護士に判断をしてもらってください。
◆法人と個人の財産の混同◆
破産手続は法人格毎の手続です。法人と個人とは明確に区別されます。会社、法人の資産と個人との間の混同を避けてください。特に会社、法人から個人への財産移転は慎重にしなければなりません。
この点で、経営者家族の役員報酬、給与も問題になり得ます。事業廃止までの役員報酬、給与は、支払う原資があるのであれば支払って問題はないでしょうが、その他は弁護士と相談してください。
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
1.破産申立代理を弁護士に依頼する意味
会社、法人の破産の申立てには、代理人弁護士を依頼することが通常です。会社、法人の破産は複雑であり、弁護士の助けがなければ難しいです。◆地図を作りナビゲーションを行う◆
ご相談者は初めは何をどのようにすればいいかわかりません。弁護士に複雑な状況を法的かつシンプルに整理してもらい(地図を作ってもらい)、弁護士の助言(ナビゲーション)に従って、効率的なご準備をしてください。
暗中模索の中で今後のことを悩まれるのは大変な心労です、「何もわからなかった頃が一番辛かった。依頼してよかった。」とおっしゃる方が多いです。
◆債権者対応を弁護士に任せる◆
取引先や金融機関への支払を停止すると、程度の差はあれ混乱が生じます。債権者の対応を弁護士に任せられることは安心です。
◆申立後のサポート◆
破産手続が開始されてからは破産管財人が破産手続を主宰しますが、申立代理人弁護士も破産手続の最後までサポートをします。ご安心ください。
2.倒産弁護士
◆申立代理人の腕が手続の帰趨を決める◆申立代理人弁護士の腕が、破産申立ての準備のご苦労の程度や申立て後の手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると、申立て後に苦労を強いられかねませんし、行為が問題視されることもあります。
当職が破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
◆倒産案件の弁護士業務は職人芸◆
破産手続は、破産法に則っています。当然、破産の準備には、破産法の知識・倒産事件の経験が必要です。かつ、破産手続には、独特のルールや考え方があり、それに携わる弁護士も職人的な能力が必要とされます。場数も必要でしょう。
破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。特に法人破産の破産管財人の経験が豊富でなければ手続の勘所がわかりません。その時々の破産裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、それらもキャッチアップしなければなりません。
破産等倒産手続に精通した弁護士のサポートを得てください。
◆企業会計の知識◆
会社・法人破産の申立ては、資金繰り、事業廃止・受任通知のタイミング、資産・契約関係の整理など様々な段取りを考えないといけませんね。そのため、企業会計に関する諸知識も必要です。
まずは決算申告書類等の会計書類を拝見して事案の見立てを行い、個々の問題を紐解いていきます。
◆倒産弁護士、破産弁護士◆
倒産法制に精通し、申立て代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を「倒産弁護士」、「破産弁護士」と呼ぶことがあります。「離婚弁護士」なんてドラマもありましたね。
会社、法人の破産の申立てを依頼するのであれば、当然、そのような弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士の質を確かめるには、相談する弁護士に細かいことでもたくさん具体的な質問を投げかけてください。あなたの望む弁護士であれば、抽象的な回答にとどまらず、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
なお、当職も、申立て代理は勿論、破産管財人経験も豊富で、破産等の倒産案件を業務の柱の1つとしています。裁判所との破産等に関する協議会のメンバーにもなっております。また、銀行出身であり、企業会計の諸知識も豊富です。安心してご相談いただけるものと自負しております。
まとめ
1.会社、法人の自己破産の決断にあたって
自己破産の説明や自己破産を選択すべきケースなどの説明をさせていただきました。社会的価値のある事業はできるだけ継続するべきですので、リスケやM&Aにより事業継続を図ることが優先されるでしょう。
しかし、会社、法人の自己破産は最後の手段ではありません。事業継続の可能性を見極め、自己破産の決断を早期に行うことも大事な経営判断です。
弁護士に相談するタイミングの説明もさせていただきました。できるだけ早く弁護士に相談し、事業継続の可能性を見極め、事業継続の可能性に沿った適切な選択をしてください。
費用面も説明させていただいたとおり、弁護士と相談すればいいことです。
経営者に必要なのは、適切な助言を得ることと決断することです。当事務所にぜひご相談ください。
2.会社、法人の自己破産の準備にあたって
自己破産の流れ、取引先や従業員との関係あるいは破産準備の注意点等をお話しいたしました。会社、法人の自己破産は、様々な課題を抱えており、それを整理して1つ1つ紐解いていかなければいけません。
海図と羅針盤なくして進んではいけません。準備の内容や程度はケースバイケースで異なり、やってはいけないことも存在します。倒産弁護士とともに、事業廃止のタイミングを見極め、やるべきことを整理した上で、ナビゲーションに沿った準備を進めてください。効率的な、かつ適切な準備が後の破産手続のスムーズな進行に直結します。
当事務所にご相談いただければ幸いです。
この記事を書いた人
弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月 あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、認定経営革新等支援機関(中小企業庁)
(なかた法律事務所) 2020年5月 7日 14:43
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