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旧コラム 2021年9月

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売れない不動産の破産や再生での扱い【借金問題】

広島の弁護士による自己破産・個人再生解説です。
今回は、一般に売却することが困難な不動産が、自己破産や個人再生などでどのような扱いを受けるのか説明します。なお、自己破産、個人再生などの倒産手続は、各裁判所により扱いが多少異なります。私は広島の「倒産弁護士」(破産など倒産手続に精通し業務の柱とする弁護士)です。そのため、裁判所によって異なる点は広島地方裁判所の扱いを前提に説明しております。

目次

不動産の扱い(自己破産)
不動産の扱い(個人再生)
売れない不動産とは
売れない不動産はどうなるか(自己破産)
売れない不動産はどうなるか(個人再生)
まとめ

自己破産における不動産の扱いの基本

1.不動産がある場合は同時廃止か管財事件か

不動産があれば原則として管財事件となります。共有不動産の持分権しかない場合も同じです。
不動産がある場合の予納金は30万円が標準となります。

不動産があっても例外として同時廃止事件となるケースもあります。
同時廃止基準(同時廃止と管財事件を振り分ける基準で各裁判所が定めています。)によれば次のとおりです。

①被担保債権の残債が固定資産税評価額の概ね1.5倍以上又は業者査定価格の概ね1.3倍以上であるとき。

②不動産の性状及び立地条件に照らして明らかに売却可能性が乏しいと認められるとき。

①は、いわゆる「オーバーローン」の場合です。不動産の価値が残っていないことが明らかなケースでは同時廃止になるということです。

②が、売れない不動産ということになります。管財人に売却を試みてもらう必要はないということですね。
ただし、②は簡単には認めらません。田舎の不動産でも、共有持分権だけでも、破産管財人に売却可能性を検討してもらうため管財事件になる傾向があります。
地目では、山林や農地であれば可能性があります。宅地であればハードルは高いです。
価値が小さいと客観的に認められる、正確な位置すらわからない、売買されるような地域ではない、共有持分しかない等の事情もありますね。
裁判所は総合的に判断をします。当職の経験に基づくと、固定資産税評価が僅少で、路線価がついておらず倍率地域であるなど、価値がほとんどないことが客観的に明らかであることが疎明されているかを重視するようです。

なお、不動産を直前に売却して不動産を持っていない状態にすれば必ず同時廃止になるのかというと、そうではありません。確かに不動産があるという理由では管財事件とはなりません。しかし、売買の妥当性を検証させるために管財事件となることは珍しくありません(不動産の売買は弁護士の下で行ってください)。

2.管財事件での不動産の扱いの基本

管財事件では、破産開始決定と同時に破産管財人が選任されます。
開始決定以後は、財団(開始決定時にある自由財産以外の財産と思ってください。)の管理処分権は破産管財人に移行します。

不動産は自由財産ではありません。そのため、破産管財人は、不動産を処分しようとします。不動産が担保に入っている場合でも、担保権者が敢えて競売による処分を希望しない限り、管財人が処分をすることが基本です。

破産管財人が最終的に処分ができなかった不動産は、破産管財人が財団から放棄します。放棄された不動産は破産者の手元に戻ることになります(担保がついていれば競売あるいは任意売却により処理されます)。

個人再生における不動産の扱いの基本

1.個人再生における不動産の扱いの基本

個人再生における不動産の扱いは破産と全く異なります。個人再生では財産が処分されることはありません。
不動産は、財産のひとつとして、清算価値保障原則(破産をした場合の財産=清算価値以上の額を弁済するというルール。)とのかかわりで問題となります。

個人再生での清算価値の計算において、破産における自由財産拡張対象財産は、99万円まで控除できます。破産と平仄を合わせるためです。
不動産は自由財産拡張対象財産ではありません。不動産の価値がそのまま清算価値に加算されます。
最低弁済額が大きくなる可能性があります。弁済可能な再生計画案を作成する見込みがなくなり、個人再生を断念するケースもあります。

なお、住宅ローン付の自宅不動産がある場合、自宅を維持するために住宅資金特別条項を利用した個人再生が選択されることが多いです。その場合も、不動産価値が住宅ローンよりも大きければ、価値が超過する分(余剰価値)が清算価値に加算されます。

2.個人再生委員が選任されるか

個人再生において個人再生委員が選任されることがあります。

具体的な選任基準はありません。当職が経験した中では、破産でいう否認対象行為が目立つケース、住宅資金特別条項適用の判断が難しいケース、履行可能性その他要件を満たすか判断が難しいケース、債務が多いケース、弁護士が代理しておらず本人の手続理解が乏しいケースなどで個人再生委員が選任されます。
個人再生委員が選任された場合の追加予納金は20万円が標準です。

清算価値保障原則との関係で申立人側は不動産価値を小さく主張する傾向があります。
不動産価値の評価が難しいケースや微妙なケースでは、個人再生委員が選任される可能性が高いでしょう。

売れない不動産とは

1.売却できる不動産

不動産(特に宅地)は基本的に売却が可能と見られます。

共有不動産はどうでしょうか。他の共有者が購入するかもしれませんし、共有持分だけでも購入する業者は存在します。共有であることだけで売却ができないとは見られません。
市街化調整区域の不動産でも売却は可能です。
特殊な不動産(農地、元旅館など)でも売れないとは限りません。

なお、売却できる不動産であれば、任意売却を試みてから破産を申し立てる選択肢も出てきますね。売却代金を有用の資(破産費用、どうしても必要な生活費、引越代等)に充てることは許されます。親族に買い取ってもらうこともできますね。勿論、直前の不動産売買は弁護士の関与の下で問題なく進めなければなりません。

2.売れない不動産

上述のとおり不動産は基本的には売却可能と見られます。客観的・抽象的に不動産の売却可能性がないと説明することは意外に難しいです。

ただ、実際に売れない不動産は珍しくありません。
共有持分権は、他の共有者か特別な不動産業者しか購入しません。
農地は親族、小作人、農業委員会からの紹介者でないと売れないですね。元旅館な元ガソリンスタンドなど特殊な物件はタイミングよくニーズが存在しないと売買が長期化します。
特殊な事情がなくても、買取りニーズがない地域で値段を下げても買い手が付かないということも珍しくありません。
具体的に動いてみて売れないという不動産はけっこうあります。

売れない不動産も倒産手続では財産として見られます。どのように取り扱われるかを見ていきましょう。

破産手続で売れない不動産はどうなるか

1.同時廃止事件での扱い

売れない不動産であると申立時に認められるケースでは、同時廃止基準により、同時廃止事件になります。
もちろん、ほかに管財事件になる理由があれば別ですが。

同時廃止とは、簡単にいうと管財人報酬等手続費用を賄える財産がないから破産手続開始決定と破産手続の廃止決定を同時にする手続です。免責手続のみ残り、財産整理手続(破産管財人により管理処分手続)は省略されるわけです。
そのため、同時廃止手続では、不動産は処分されず、申立人所有のまま変わりません。

もちろん、不動産に担保がついている場合には、破産手続外で処理がなされます。担保権者による不動産担保の実行(競売です。)がなされることになります。担保権者から競売の前に任意売却の協力を乞われることもあります。

2.破産管財人の処理の目安

管財事件では、破産管財人が不動産を不動者業者を通じて売り出すのが基本です。
勿論、物件に合わせて売り方も変えます。賃借人、隣地所有者などと直接交渉することもありますし、入札により売買することもありました。

共有物件の場合は、ほぼ例外なく他の共有者(主に親族でしょう。)に買取りを打診します。
予め他の共有者に話をしておいた方がいいと思われます。
勿論、共有持分権なので売買価格は融通がききます。

破産管財人が、様々な方法で売却を試みて、それでも売却が見込めないときは、財団からの放棄を検討します。不動産が財団から放棄されれば破産者の手元に残ります。
放棄の際には、破産者から任意でいくらかの金銭を財団に組み入れてもらうこともあります。

なお、破産管財人は、年末に向けて放棄を検討する傾向にあります。固定資産税・都市計画税は1月1日の所有者名義人に賦課されるため、翌年度の税金を財団で税金を負担しないよう12月31日までの放棄を考えます。ちなみに、放棄対象が自動車であれば4月1日になります。

個人再生で売れない不動産はどうなるか

1.清算価値の算出

個人再生手続では、不動産の価値が清算価値算出の過程で問題となります(清算価値によって最低弁済額が変わりえます)。
客観的な資料を基に不動産価値を裁判所に説明します。基本的には査定書を要求されます(書面で査定をくれない業者さんも多くて査定書の取得はなかなか面倒なのですが)。

裁判所は、不動産の価値がゼロとはなかなか認めてくれません。価値がない、あるいは小さいと主張する申立人側は、それなりの資料を提出して裁判所を説得しなければいけません。価値評価に問題があるとされれば個人再生委員が選任される可能性があることは上述しました。

2.個人再生委員の意見

個人再生委員は、清算価値の算出が適切になされているかもチェックをします。
売れない不動産として価値がない、あるいは小さいと主張されているケースでは、その評価の妥当性をチェックし、追加の資料提出を求めるなどします。個人再生委員をやっていると、表紙だけの査定書、あるいは1社だけの査定書では、その評価額に納得感がないケースもあります。
個人再生委員は、場合によって、個人再生委員から清算価値算出シートの訂正や弁済計画の変更を指導します。

まとめ

1.自己破産を検討する場合

自己破産では不動産があれば管財事件になるのが基本です。
不動産があっても同時廃止事件になるケースが同時廃止基準に定められていました。ただし、「明らかに売却可能性が乏しい」と認められるのは大変です。

管財事件では原則として破産管財人が不動産の売却を試みます。共有物件の場合は他の共有者に打診がなされます。どうしても売却が見込まれないケースでは、財団から放棄され、破産者の手元に残ることになります(担保が付いている場合には担保権者との関係で処理されます)。

あなたのケースでは同時廃止事件なのか管財事件なのか、管財事件であれば破産管財人がどう不動産の売却に動いてどういう落としどころになると見込まれるか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

2.個人再生を検討する場合

個人再生では不動産が処分されることはありません。不動産の価値は清算価値に計上され、最低弁済額を画することになります。不動産は破産における自由財産ではないのでその価値は清算価値に直接加算されます。

清算価値を算出する過程で、価値をゼロとする、ないし価値を小さく評価する場合では、裁判所を納得させる資料の提出を要します。不動産の評価が問題となるケースでは個人再生委員が選任される可能性があります。

あなたのケースでは、不動産の評価がどのようになされ、その結果として個人再生手続の選択が可能なのかどうか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)

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◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格
弁護士
認定経営革新等支援機関(中小企業庁)
公認内部監査人試験合格

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