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旧コラム 仲田 誠一: 2019年8月
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登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]
不動産登記、特に相続のお話です。
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
不動産問題、遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
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(なかた法律事務所) 2019年8月29日 08:17
民法改正講座8【身近な法律知識】
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
多数当事者の債権債務関係の話です。
多数当事者とは、債権者あるいは債務者が複数いる場合です。
不可分債権、連帯債権、不可分債務、連帯債務、保証債務ですね。
不可分債権、不可分債務はイメージ的には債権債務の目的が数量的に分割できないもの、
連帯債権、連来債務は、同じ内容の債権・債務を持っている・負っているもの、
保証債務は主債務者と同じ債務を負っているもの、
と考えてください。
実務上は、連帯債務と保証債務が圧倒的に多いですね。
【不可分債権(民法428条)】
結果はそこまで変わらないのですが、従来まとめて不可分債権とされていたものを、性質上不可分な債権と、性質上は可分であるが当事者の意思表示によって不可分にした債権とに分け、前者を不可分債権、後者を連帯債権の扱いとしています。
不可分債権についても、連帯債権に関する規律が、更改(新債務を成立させて旧債務を消滅させること)・免除の絶対効、混合(債権者と債務者が同一人に帰して債権が消滅すること)の絶対効を除く多くの規定が準用されています。
絶対効というのは他の債権者あるいは債務者にも効力が及ぶということで、その逆が相対効といいます。
なお、不可分債権は、例えば特定の車の引渡請求権を複数の人が共同で持っている場合です。車を分割することはできませんからね。
本条の整理に伴い、他の条文も整備されています。
連帯債権者による履行請求・履行の絶対効(民法432条)
連帯債権者の一人との間の更改又は免除の絶対効(民法433条)
連帯債権者の一人との間の相殺の絶対効(民法434条)
連帯債権者の一人との間の混合の絶対効(民法435条)
これら以外の連帯債権者の一人との間で生じた事由の相対効の原則(民法435条の2)
【不可分債務(民法430条)】
428条の不可分債権の反対の不可分債務についても、性質上不可分な債務の不可分債務、当事者の意思表示によるものは連帯債務と整理しています。
不可分債務には、混合以外、連帯債務の規定が多く準用されます。
本条の整理に伴い、他の条文も整備されています。
連帯債務者の一人との間の更改の絶対効(民法438条)
連帯債務者の一人による相殺等の絶対効(民法439条)
連帯債務者の一人との間の混同の絶対効(民法440条)
これら以外の連帯債務者の一人に生じた事由の相対効の原則(民法441条)
なお、連帯債務者の一人に対する履行請求、免除及び時効の絶対効の規定が削除され、相対効の範囲が拡がりました。
ただし、当事者間の合意により絶対効を定めることは許されています。
連帯債務における免除、時効の完成が相対効とされたことに伴い、免除を受けあるいは時効が完成した連帯債務者に対しても弁済等を行った連帯債務者が求償できる旨の規定が新設されています(民法445条)。
免除、時効完成により利益を得たとしても、他の連帯債務者が弁済等をすれば一定の負担を強いられることになります。
【連帯債務者間の求償権(民法442条)】
連帯債務者が共同の免責を得た場合には、他の連帯債務者に対して求償できます。
求償権の発生要件及び内容について改正がなされました。
自己の負担部分を超えない額の弁済をした場合、不真正連帯債務(合意による連帯債務ではなく共同不法行為の場合の共同不法行為者のように法律上同じ給付義務を負う場合)にも、一部求償が認められるようになりました。判例の規律とは異なる改正です。
また、求償権の内容として、代物弁済等で連帯債務の額を超えて財産を支出した場合には、実際に免責を得た額を限度として求償をなしうるに留まることが明記されました。
【連帯保証人について生じた事由の効力(民法458条)】
連帯債務者の一人との間の更改の絶対効(民法438条)
連帯債務者の一人による相殺等の絶対効(民法439条)
連帯債務者の一人との間の混同の絶対効(民法440条)
これら以外の連帯債務者の一人に生じた事由の相対効の原則(民法441条)
の各規定が主たる債務者と連帯保証人との関係で準用されます。
連帯保証人に対する履行請求、免除及び時効の完成が、特約がない限り、相対効になるということです。
連帯保証人に対して訴訟を提起しても、主債務者の時効の完成猶予事由にはなりません。これに対して、主たる債務者に対する請求等の時効の完成猶予及び更新事由は、保証人に対しても効力を生じることは変わりありません(民法457条)。
【主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務(民法458条の2)】
新設規定です。
主たる債務者の委託を受けて保証をした保証人は、債権者に対し、主たる債務及びその債務に従たる全てのものについて、①不履行の有無、②残額、③そのうち弁済期が到来しているものの額の情報提供を請求することができます。
請求を受けた債権者は、遅滞なく、情報を提供しなければなりません。
保証人には主たる債務者の状況がわからない場合が多いです。そのため、情報提供の権利が認められました。これまで保証人が要求をしても銀行等が個人情報保護を理由に断るケースも多かったです。大きな改正ですね。
【主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務(民法458条の3)】
新設規定です。
こちらも保証人の保護ですね。
保証人は、遅延損害金についてもその責任を負います。
期限の利益が喪失されていつから遅延損害金が発生するのか知らないと保証人は困りますね。
そのため、期限の利益を喪失したことを知った債権者は保証人に対し2か月以内に通知をしないといけなくなりました。
債権者がその通知を怠った場合には、期限の利益喪失時から通知をするまでに生じた遅延損害金の支払いを請求することができないという効果が付されています。
ただし、これは保証人が個人の場合です。法人の場合は適用を排除されています。
多数当事者のお話はもう少し続きます。
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
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(なかた法律事務所) 2019年8月26日 12:57
交通事故被害者の自己破産 [借金問題]
債務整理のうち自己破産において交通事故の被害者の損害賠償請求権がどのような扱いになるのかをお話したいと思います。
自己破産申立てを考えている方が交通事故に遭ってまだ治療中(示談ができていない状態)である、あるいは自己破産準備中に交通事故に遭ってしまうという例もあります。
その場合には、交通事故の示談と自己破産手続のタイミングを考えないといけなくなります。
理屈上、交通事故の損害賠償請求権が自己破産においてどのように扱われるのかを説明します。
破産財団に属するか(その場合には自由財産拡張の対象と認めてもらえない限りは手元に残りません)、破産財団には属さないか(その場合は破産手続の影響を受けずに受け取ることができます。)の問題です。
交通事故の損害賠償請求権は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料という一身専属性の認められる慰謝料とそれ以外の財産的損害を填補する損害賠償請求権とに分けられます。
財産的損害に関する損害賠償請求権は、通常の金銭債権として破産財団に属するとされています。
休業補償や金額が大きくなる逸失利益についても、金銭債権として破産財団に属するとされています(ただし、自由財産の拡張を柔軟に考えるべきともいわれます)。
なお、治療費、介護費用、入院雑費については、通常、自由財産あるいは自由財産拡張対象財産になるとされています。
慰謝料については、金額が確定していなければ、行使上の一身専属性(請求権を行使するかしないかは本人の自由という意味です。)が認められ、破産財団に属しません。
しかし、合意または判決により慰謝料金額が確定した場合には(なお、相続が発生した場合も同じ)、既に行使上の一身専属性を失い、金銭請求権として破産財団に属すると考えられています(ただし、自由財産の拡張や破産財団からの放棄などを柔軟に考えるべきだともされています)。
なお、破産開始決定前に既に入金された損害賠償金は、破産開始決定時に存在する評価額及び存在する形(現金、預金などの形)で財産として扱われます。
以上が、自己破産手続における交通事故による損害賠償請求権のi扱いについての理屈のお話です。
交通事故の損害賠償請求権も、無条件に、あるいは一定の条件の下で、財産として扱われるのですね。
このような理屈を踏まえてどう動くべきか考えないといけません。
入通院が長引いて示談の見込みが破産申立てよりも大分後になる見込みであるケースでは、早々に自己破産を申し立てるでしょう。
自己破産開始決定時には損害賠償請求権が確定していませんからあまり問題にはならないと思います。治療費、交通費等、厳密に考えれば財産的請求権が既に発生・確定しているような気もしますが、そこまで突っ込まれることはないでしょう。
もうそろそろ示談をする、あるいは既に示談をしていて入金待ちというタイミングであれば、自己破産申立ては通常のタイミングで行えばいいですね。
後は、入金になった損害賠償金の使い途を考えることになります。
入金された損害賠償金については、有用の資(どうしても必要な生活費、弁護士費用、申立て費用等)に費消してよいということになります。
残金の金額により、管財事件となる可能性があり、また管財事件になった場合には自由財産拡張対象範囲を超えるものは財産に組み入れる必要があります。
これらと異なり、示談すべきタイミングと自己破産申立てのタイミングの先後が微妙な場合には、段取りが悩ましいです。
示談を遅らせるということも考えられます。
示談を遅らせてその間に自己破産手続を進めてしまおうということですね。
しかし、財産上の損害賠償請求権の問題(一身専属性がそもそも認められていない)が問題となります。
治療が終わっている段階であると慰謝料も突っ込まれる可能性もあるかもしれません。
自己破産申立てを遅らせることも考えられます。
申立て前に示談を終わらして入金を待ち、入金後に賠償金を有用の資に費消した上で申立てをすることになります。
しかし、自己破産申立てを過度に先送りしてしまうと、債権者からの訴訟提起、判決後の給与等の強制執行などのリスクもあります。
結局は、交通事故での争点の有無と程度、損害賠償金の見込額や内訳、あるいは賠償金を有用の資として費消する必要性など、諸般の事情に応じてケースバイケースに考えていかないといけないことになります。
高額の損害賠償金が見込まれる場合には、そもそも自己破産ができなくなる可能性もあります。
その場合には、とりあえず任意整理の方針とすることが多いと思います。示談等までの時間稼ぎですね。
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
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(なかた法律事務所) 2019年8月22日 07:14
給与所得者等再生のお話 [借金問題]
債務整理のうち、個人再生、それも給与所得者等再生のお話をします。
債務整理の手続選択として、自己破産ではなく個人再生を選択したとして、個人再生のうち給与所得者等再生を利用するケースはどのような場合でしょうか。
どちらでも利用できるケースであれば(給与所得者等再生の要件を充たすのであれば)、小規模個人再生と給与所得者等再生はどちらを選択してもいいです。
選択にあたって、特に考慮する両者の大きな違いが3つあります。
1つ目の大きな違いは、再生計画認可に債権者の消極的同意が必要かどうかです。
小規模個人再生では債権者(再生債権者といいます。)による再生計画案の決議が必要です。
再生債権者の頭数の半数以上の不同意、債権額(正確には議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されたものとして扱われます。
再生債権者が2社以内、再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、否決のリスクが高まります。
中には、過半数の債権を保有していたら再生計画案に同意をしないと、何を目的としているのかよくわからないような方針をとっていると説明をしてきた金融機関もいます。
仮に再生計画案が否決されると再生計画案が認可されないため、自己破産あるいは給与所得者等再生を申し立てることになります。
認可されなかったために自己破産を申立てし直したという例は経験しています。
これに対し、給与所得者等再生では、再生債権者による決議は必要ありません。
裁判所がOKすればいいだけです。
そうなると、再生債権者が2社以内、あるいは再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、給与所得者等再生の選択が視野に入りますね。
再生計画に不同意をされて申立てをし直さないといけないリスクを考えて、最初から給与所得者等再生を申立てるということですね。
2つ目の大きな違いは、給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも要件が厳しいということです。
給与所得者朗再生では、小規模個人再生よりも要件が加重されていることは勿論、裁判所の見方自体も厳しくなります。
給与所得者等再生は、小規模個人再生と違って、債権者の消極的同意を必要としないため、要件が厳しくなり、裁判所も厳しく見るのです。
これと付随する問題として、給与所得者等再生は、その要件該当性の判断のため、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高くなるということがあります。
当職も、給与所得者等再生の要件該当性の判断のため、個人再生委員を拝命したことがあります。
給与所得者等再生に加重される要件として、例えば、給与所得者等再生計画認可確定、破産免責許可確定から7年を超えていることという要件があります。
破産後間もない場合は給与所得者等再生が利用できないわけです。
また、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入額の変動の幅が小さいと見込まれることという要件があります。
過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動があれば、収入額の変動の幅が大きいとみられてしまい、簡単には手続が進みません。
これは小規模個人再生と同様の要件ですが、厳しく見られるものとして、債務者が将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることという要件もあります。
小規模個人再生であれば、契約社員でもアルバイトでも裁判所からあまりとやかく言われません。
これに対し、給与所得者等再生では、職業の安定性がよく吟味されます。
3つ目の大きな違いは、最低弁済額の違いです。
小規模個人再生では、
・清算価値(財産として把握される価値です。自己破産の自由財産拡張対象相当額は控除できます。)
・再生債権額の5分の1
・100万円
のいずれか大きい金額が最低弁済額となります。
これに対し、給与所得者等再生では、可処分所得の2年分の額以上に返済額を設定する必要性が加わります。
可処分所得の計算は、手取収入額-費用額で算出します。
手取収入額の算出の際に収入から控除できるのは、所得税額、住民税額、社会保険料額に限られます。
かつ、費用額は、実費ではなく、再生債務者の収入と年齢、あるいは被扶養者の数と年齢から、政令等により機械的に定まっており、通常は実費よりも低くなります。
その結果、収入が一定額以上ある、あるいは被扶養者が少ない場合には、可処分所得が大きくなり、小規模個人再生よりも弁済額が大きくなってしまうことが多いです。
そのため、実務感覚では、小規模個人再生を優先して考えることが多く、給与所得者等再生の申立件数は圧倒的に少ないと思います。
勿論、収入が低い、あるいは被扶養者が多いなどのケースでは、給与所得者等再生を利用しても弁済額は変わりません。
小規模個人再生と給与所得者等再生の大きな3つの違いをお話ししました。
結局は、ケースバイケースでどちらかを選ぶということになります。
なお、小規模個人再生における再生債権者の不同意が増えてきたようにも思えます(増えたといってもあまり反対をされることはないのは確かですが)。
今後、債権者の消極的同意が必要のない給与所得者等再生の活用の場面も増えてくるかもしれません。
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
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(なかた法律事務所) 2019年8月18日 13:33
公正証書遺言の無効 [相続問題]
今回は相続問題のうち、相談が多い遺言公正証書の無効についてお話します。
当職も、つい最近、遺言無効確認等請求訴訟の最終準備書面を作成したところです。
遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟によらなければなりません。
遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断してくれません。地方裁判所に訴訟を提起して決着をつけないといけないのですね。
勿論、相続人間で遺言の無効を確認し、遺言はないものとして遺産分割協議が成立すればそのようなことはしなくていいです。
公正証書遺言無効は自筆証書遺言と比べて無効と判断されるにはハードルが高いです。
公証人が本人の意思を確認して作成される建前だからです。
また、遺言者の最期の意思を尊重するという観点から、遺言の有効性をかなり緩く認める傾向も否定できません。
勿論、簡単ではないですが、遺言公正証書の無効が認められるケースはあります。
公正証書遺言の無効の原因は、大きく分けて、遺言能力の欠如あるいは要式違反の2つです。
遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定しその法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力ですね。
要式違反というのは、公正証書遺言作成手続に瑕疵があるということですね。
口授手続(遺言者が公証人に遺言内容を伝えること)の違反が多いです。
要式違反も、結局は、遺言者の能力の減退を前提とすることがほとんどです。
被相続人は○○の状態であったから口授ができるはずがないといった論法になってしまいますからね。
要式違反の主張も、結局は遺言者の遺言作成時における能力が争点になります。
必然的に、公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要です。
それが発見できなければ戦いようがないため、受任をすることはしません
一番重視されるのは、当然ながら医療記録ですね。
医療記録の中に、CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあるとその結果も重視されます。
介護記録も重要な資料の1つです。
それらを基に医師の意見書などを原告被告双方が出し、場合によって鑑定に付されるなどして、遺言能力の有無が争われます。
遺言能力の有無の判断にあたっては
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、
②遺言内容それ自体の複雑性、
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、
といった諸事情が考慮されます。
①が勿論メインです。
例えば、一般に、アルツハイマー型認知症が中等度ないし高度であれば、記憶障害もまた中等度ないし高度であるため、遺言能力は欠如しているとされます。
ただ、遺言能力は抽象的にではなく、具体的に判断されます。遺言者の遺言時の精神状況が様々な資料により分析されるということです。
長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)も抽象的な点数よりも回答状況を具体的に分析しなければなりません。
介護記録は医療記録よりも証拠価値は低いとされますが、介護認定調査票などは遺言者の具体的な状況が明らかになる重要な資料ですね。
遺言作成時の医療記録等が揃っていたら割合単純な話なのですが、都合よく揃っているわけではありません。
遺言前後の医療記録等により遺言時の遺言者の状況を推認していかなければならないケースも多いです。
②は、遺言者の精神状態との関係で、その遺言内容を理解して決定できたかの問題です。
全ての遺産を特定の相続人に相続させる遺言であっても、一概に簡単な内容とはいえません。
そのような遺言の場合であっても、「本件公正証書遺言の内容自体は全財産を相続させるという単純なものであるが、そのような内容の遺言をする意思を形成する過程では、遺産を構成する個々の財産やその財産的価値を認識し、受遺者だけではなくその他の身近な人たちとの従前の関係を理解し、財産を遺贈するということの意味を理解する必要があるのであって、その思考過程は決して単純なものとはいえない。」とした裁判例もあります。
遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各法定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わり合いの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をする(最判平成23年2月22日)のですからね。
③のメインは、遺言の動機・理由です。
遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等から、合理的な遺言の動機、理由があるのかがメルクマールの1つになります。
公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多いです。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視されます。
合理的な理由がなければ、遺言者の強い働きかけにより、遺言が作成されたと疑われるのですね。
なお、公正証書遺言といえば、公証人が証人として出てくることが多々あります。
公証人が具体的な遺言作成の状況は覚えていないと証言することが多いのではないでしょうか。
多ければ年間何百件も作成しますからね。
しかし、私の担当した訴訟でも公証人が出てきましたが、十数年前の遺言の具体的な状況を覚えていると証言をしました。
しかし、俄かに信じることができませんよね。証言の信用性をかなり争いました。
遺言の効力の争いは、医学的見地から分析・検討が必須であり、また論点も多岐にわたり、大変労力のかかる訴訟の1つです。
最近書いた最終準備書面も80数頁にわたる大部なものになってしまいました。
一方、後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベターです。)を取得しておくことをお薦めします。
遺言能力が否定し難いそのような資料が残っていれば、争いが顕在化することを防ぐことができます。
遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
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(なかた法律事務所) 2019年8月16日 08:24
遺産分割と否認 [借金問題]
法的債務整理(自己破産、個人再生)の際、遺産分割未了の財産がある場合には、基本的に法定相続分に応じた財産額が破産者の財産として把握されます。
通常は共同相続人に相続分の買取りが打診されるでしょう。
個人再生の場合は、清算価値の問題となります。清算価値が大きくなり、それが最低弁済額を押し上げ、個人再生ができない、あるいはやっても意味がないということにもなりかねません。
なお、未分割遺産が本当に田舎の物件で換価が困難で価値が見いだせないような場合には、未分割遺産を無視してくれます。
自己破産手続との関係では、同時廃止も可能です。
今回は、自己破産前に遺産分割協議を行った場合のことをお話します。
勿論、ずいぶん前に、破産者が経済的危機状態に陥る前の遺産分割協議は問題視されません。
もっとも、その場合も相続の状況は裁判所から報告を求められます。
遺産分割協議が破産者の経済的危機状態以後になされた場合が問題視されるのですね。
破産管財人による否認の問題です。
破産者に不利な遺産分割協議は詐害行為と見られかねないということです。
なお、個人再生においても否認相当行為については清算価値に計上することになっております。
趨勢は、自己破産手続における遺産分割協議に対する介入は謙抑的に考えられていると思います。
明確にそのことを示した東京高裁平成27年11月9日判決があります。
同判決の判断をかいつまんで要約すると、
・ 民法906条によれば遺産の分割は一切の事情を考慮してなされる。
・ 『遺産分割自由の原則』があり、遺産分割協議による分割は、基本的にはこれを尊重すべきある。
・ 相続人である破産者が遺産分割によって法定相続分ないし具体的相続分を下回る遺産しか取得しなかったとしても、民法906条に則り一切の事情を考慮した結果であることもあり得るから、その詐害性を直ちに認めることはできない。
・ 遺産分割協議は、元々破産者の財産でなかったものが、遺産分割の結果によって相続時にさかのぼってその効力を生じ、破産者の財産とならなかったことに帰着するものであるから(民法909条)、破産法160条3項所定の無償行為として、類型的に対価関係なしに財産を減少させる行為と解するのは相当ではない。
・ 債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、直ちにこれを共同担保として期待すべきではない。
・ 遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらない。ただし、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る。
というような判断です。
遺産分割協議が無償行為等詐害行為として否認の対象となるのは例外的なものと位置付けですね。
勿論、全ての裁判所が上記のような判断をしてくれるかどうかはわかりません。
また、上記裁判例も、具体的な事情を詳細に検討して、否認対象となる特段の事情が存在しないという判断をしています。
結局は、事案によってケースバイケースの判断になるということです。
自己破産申立ての際には、特段の事情がないこと、すなわち遺産分割合意に至る合理的な事情の説明が必要になるでしょう。
理屈だけで戦っても仕方ありません。
否認対象となるのは例外的であるという理屈を前面に出しながらも、合理的な理由を具体的に説明していくということでしょうか。
なお、遺産分割協議が否認対象とならなくとも、相続登記が破産法164条により独立に否認の対象となり得ます。
支払停止後等の対抗要件具備行為が否認対象となっているのです。
遺産分割の合意はずいぶん前にあったが、相続登記をしていなかった事例(好ましくない事態ですが珍しくはないですね)で問題になり得るでしょう。
実際にこのような案件を扱っています。
当職の私見ですが、遺産分割合意自体が否認の対象とならないのに、相続登記が遅れただけで登記が否認対象となることは疑問があります。
相続登記は、債権者を害するものではなく、有害性がないのではないでしょうか。
また、従前の遺産分割合意を正しく登記に表す行為には、所謂執行逃れのような不当な目的は存在せず、不当性がないものと考えられるのではないでしょうか。
さらに、相続登記を否認しても遺産共有状態となるだけです。
破産管財人が遺産分割審判をとろうとしても、従前の遺産分割合意を無視した審判が出るのか疑問が生じます。
本来、否認の対象とならない遺産分割合意について、それを反映する相続登記だけを取り上げて否認することには、違和感を禁じ得ません。
この点は、なかなか難しい問題で、的確な裁判例等も見当たりませんでした。
相続登記は面倒くさがらずに、忘れないうちに、しておいた方が無難ですね。
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(なかた法律事務所) 2019年8月11日 11:16
譲受人による使用貸借人の退去請求 [不動産]
久しぶりに不動産問題について投稿します。
法律家でない限り、使用貸借契約という言葉は馴染みがないかもしれません。
意味は、無償の貸借契約のことです。
不動産を賃料を取らずに人に貸したら使用貸借です。
これに対して、有償だと(賃料を支払合意があると)、賃貸借契約ですね。
なお、不動産を借りるにあたって固定資産税の負担等金銭の授受があったとしても賃料支払の実質がなければ使用貸借契約と解釈されます。
不動産の賃貸借であれば、借地なら建物登記、借家なら引渡しで第三者に対する対抗要件を具備することができます。
借地借家法の規律です。
第三者対抗要件を具備するというのは、第三者に権利を主張できるようになるということを意味します。
そのため、物件が第三者に対して譲渡されても、賃借人が対抗要件を具備しているのであれば、譲受人の第三者に対して賃借権を主張できますから、結局、物権の譲受人は賃貸人の地位を引き継ぐことになります。
これに対し、無償行為である使用貸借は、借地借家法の適用外であり、そのような効力はありません。
無償であるから借地借家法によって保護されていないのですね。効力が弱いのです。
そのため、物件が第三者に譲渡されてしまうと、第三者たる譲受人に対抗できず、譲受人に使用貸借関係を主張できませんから、結局、譲受人からの建物収去請求、明渡請求が認められます。
これが原則です。
ところが、土地の使用貸借をして建物を所有する者に対して行われた土地の譲受人からの建物収去土地明渡請求について、権利濫用を理由に排斥した高裁の裁判例を見ました。東京高裁平成30年5月23日判決。
同判決は、土地の借主兼建物所有者の土地の占有権原は使用貸借であって土地譲受人に対抗し得る占有権原を有していないから、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、土地譲受人は土地所有権に基づいて建物収去・土地明渡を求めることを確認しています。
その前提の下、本事例ではその権利濫用に当たる特段の事情が認められるとしたわけです。
同事例は、低廉な売買価格(更地価格の3割にも満たない額)で売買・同日転売されたいかにも怪しい事例だったようです。
譲渡人も合理的に価格を検討していないでいいなりで安く売却したようです。
また、建物所有者・居住者に権利関係を尋ねることなく秘して取引が行われた異常性も指摘されています。
勿論、建物所有者も高齢で体調も悪いという気の毒な事情もあったようです。
上記裁判例は、土地譲受人は、権利関係を十分に把握していると思われない譲渡人から極めて低廉な底地価格で購入して巨額な経済的利益を得た上、借主の生活等に及ぼす影響を考慮していない、などと断罪し、権利濫用にあたる特段の事情を認めました。
明渡請求が信義誠実の原則に反して権利濫用に当たるかどうかは、使用貸借関係の当事者間で検討されるべきで、第三者たる譲受人は本来関係のないことです。
債権関係は当事者間の関係で第三者は関係ありません。
第三者にも主張できる所有権など物権と異なり(対抗要件は必要ですが)、債権は債権者が債務者に要求するだけの権利であり、第三者に何ら要求できないのが原則なのですね(土地建物賃貸借は借地借家法により対抗力を認められて第三者にも主張ができるという意味で、物権化されています)。
当事例では、売買の異常性を認め、土地譲受人側そのものの暴利性を認定したのでしょう。
一方で、上記裁判例は、明渡しが1億円の立退料を支払えば、権利濫用に当たらないとします。
そして、1億円の支払いとの引き換えに建物収去・土地明渡を認めました。
支払いと引き換えに請求を認める形の判決を引換給付判決といいます。
立退料は、賃貸借の更新拒絶における正当事由の存否の判断の場面において典型的に出てくるものですね。
〇〇円の支払いとの引き換えに更新拒絶の正当事由を認めて明渡しを認めるわけです。
前記裁判例では、使用貸借を前提とする権利濫用の判断においても、同じような考え方をしたということですね。
なお、更地価格は2億6000万円超だとのことです、使用貸借で立退料1億円というのはかなり高いですね。
対抗力ある賃借権であれば相応の借地権価格が認められますが、使用貸借は違います。
建物収去費用(土地上の建物を壊して撤去する費用)が2000万円ほどと認定されているようで、それも加味されているのでしょうが。
勿論、使用貸借は効力が弱いのは確かです。
権利濫用が認められるのは、特別なケースだけだと思います。
今回は、その特別なケースをご紹介しました。
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(なかた法律事務所) 2019年8月 9日 07:16
死亡保険金の指定受取人が先に死亡した場合の受取人 [相続問題]
お盆前は例年忙しい気がしています。
今年も訴訟や調停の期日がお盆前に集中してしまい、忙しさに負けてコラムの投稿を怠りがちになってしまっております。
8月いっぱいはこのような状態が続いてしまいます。
ということで、久しぶりの投稿になります。相続関係のお話をさせていただきます。
死亡保険金の扱いです。
厳密に言えば相続手続ではないのですが。
まず、生命保険の死亡保険金が相続財産として扱われるかどうかの話からです。
死亡保険金に受取人指定がある場合(通常ありますね)、生命保険金は指定受取人がその固有の権利として原始取得すると最高裁が結論を出しています。
したがって、死亡保険金は被相続人の相続財産になりません。遺産分割の対象とはならないです。
ただし、死亡保険金が相続財産に属さないことの結果として不公平が著しい例外的な場合に(遺産と保険金の金額の比較や被相続人と受取人との関係等諸事情が勘案されます。)、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることが判例で認められております。
その限りで遺産分割に影響があります。
ただし、特段の事情がないといけませんので、実務上簡単に認められるわけではありません。
税法上は、異なりますね。相続財産として扱われ、相続税の課税対象となっています。
ただし、被相続人が保険契約者かつ保険金の受取人になっている場合は、死亡保険金は相続財産となります。
また、受取人を相続人と指定している場合には、法定相続人が法定相続分に従って死亡保険金を受け取ることになります。
死亡保険金の保険金受取人として特定の者が指定されていても、その指定受取人が被相続人よりも先に死亡しており、その後に受取人の変更がなされていないケースもありますね。
次に、その場合には誰が死亡保険金を受け取るのかのお話です。
実は、死亡保険金の受取人の相続人(故人の相続人ではありません)が受取人になります。
保険法の定めによります。相続法の規律を定める民法によるわけではありません。
そのため、指定受取人の相続人が複数いる場合には、相続人全員が等しい割合で取得するとされています。
均等割合ですね。民法427条の規律によります。相続ではないから法定相続分ではないのです。ややこしいです。
ただ、遺産分割に盛り込むことには親和性があります。
たいていの場合は受取人が配偶者で受取人の相続人と被相続人の相続人が一致しますから、数次相続の扱いで協議をすることができますね。
勿論、以上の規律よりも保険会社との約款等の合意が優先されますので、保険会社の約款を確認しないといけません。
しかし、簡易生命保険、かんぽ生命保険の取り扱いは特殊です。注意が必要ですね。
受取人が先に死亡している場合には、死亡保険金を、指定受取人の相続人ではなく、「遺族」が受け取るのです。
相続法の規律とは異なる旧簡易生命保険法、約款にて遺族制度が定められているのですね。
遺族とは、①被保険者の配偶者、②被保険者の子、③被保険者の父母、④被保険者の孫、⑤被保険者の祖父母、⑥被保険者の兄弟姉妹、⑦被保険者の扶助によって生計を維持していた者、⑧被保険者の生計を維持していた者、です。
遺族制度にはさらに注意点があります。
①~⑧の順により遺族が定まり、先順位の遺族がいる場合には、後順位の者は遺族ではありません。
配偶者と子がいる場合には、民法で定める相続法の規律では配偶者と子が共同相続人です。
しかし、遺族制度では、遺族は第1順位の配偶者のみです。第2順位の子は遺族にはなりません。
なお、同順位の遺族が複数いる場合には、均等割合で取得します。
相続法と異なり、代襲相続の仕組みがありません。
被相続人に子が3名いるが1人は子を残して既に亡くなっている場合(配偶者が既にいない場合)、民法で定めている相続法の規律では、法定相続人は生存している子2人と亡くなった子の子(すなわち被相続人の孫)ですね。孫は亡くなった子に代わって相続人となります。これを代襲相続といいます。
しかし、遺族制度では、代襲相続を定めていませんので、被保険者の子は生存していた子2人だけになります。孫は受取人になりません。
これが公平なのかどうかは疑問ですが。
このように、死亡保険金の受取人が先に亡くなっている場合には注意が必要ですね。
特にかんぽ生命は気を付けないといけません。
遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
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(なかた法律事務所) 2019年8月 7日 09:19
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