• 刑事事件
  • 所属弁護士
  • 用語集
  • よくある質問
  • コラム
  • リンク集

HOME > 旧コラム > アーカイブ > 仲田 誠一: 2022年1月

旧コラム 仲田 誠一: 2022年1月

現在のコラムはこちらから

非免責債権の徹底解説【借金問題】

広島市の弁護士による借金問題コラムです。

今回は自己破産です。テーマは「非免責債権の徹底解説」です。

非免責債権があるとないとでは経済的更生への段取りが変わります。
非免責債権はどういうものなのか、非免責債権があればどのような手続になるのかなどを解説いたします。

目次

破産における非免責債権とは
租税等の請求権
悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権
故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権
親族関係に係る請求権
雇用関係に基づく使用人の請求権等
知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
罰金等の請求権
まとめ

破産における非免責債権とは

1.破産における非免責債権とは

破産手続において、免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ柱書本文)。これが破産における免責です。

しかし、上記条文には続きがあります。「ただし、次に掲げる請求権については、この限りではない。」として1号から7号までの請求権が定められています(破産法253Ⅰ柱書ただし書)。この1号から7号に定められている請求権を、非免責債権といいます。「この限りではない」という意味は、破産免責の効果が及ばない、すなわち破産者が支払義務を免れることができないことを意味します。

結局、破産における免責は、非免責債権を除いて、弁済義務を免れるということになります。

勿論、これは個人破産のお話です。法人の破産は法人格自体が消滅しますので、免責手続自体が存在しません。

2.非免責債権の破産における扱い

非免責債権も破産債権です。配当を受けることができます。配当されない部分について免責の効果が及ばない点が異なります。

免責許可決定が確定すると非免責債権は破産債権者表に記載され、債務名義となります。強制執行をするには執行文を得ます。

なお、裁判所書記官において当該破産債権が非免責債権に該当するか否かの判断が容易でない場合があることに照らして、破産後に債権者が非免責債権についての給付訴訟を提起したとしても訴えの利益に欠けないとした判例があります。

非免責債権か、一般の破産債権なのか争いがある場合でも、破産手続では判断がなされません。非免責債権かどうかは、債権者から提起した給付訴訟、あるいは債権者からなされた強制執行に対して破産者が提起した請求異議の訴えという訴訟手続の中で判断されます。免責許可決定が確定しているのであれば、非免責債権と認められない限り、給付判決では棄却判決が出て、請求異議の訴えは認容されて強制執行が失効します。

以下、非免責債権にどのようなものがあるか具体的に見ていきましょう。

租税等の請求権(1項1号)

1.租税等の請求権

租税等の請求権とは、「国税徴収法又は国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権」です(破産法97④)。国税徴収法によって徴収することができる請求権は国税ですね。国税徴収法の例による請求権は、地方税やその他の公租公課(例えば国民健康保険料、国民年金保険料)などで、地方税法、行政代執行法、厚生年金保険法、地方自治法などの各法律において「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」などと定められている請求権です。

結局、国税徴収法または国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権とは、法律で自力執行力を認められた請求権(債務名義を取得し裁判所を通じて強制執行を申し立てる一般の債権と異なり、自らの滞納処分等を執行できる請求権)ということになります。

1号は国庫等の収入を図るとの趣旨から設けられた規定と言われています。

2.租税公課の滞納がある場合

租税公課は自己破産をしても免れることはできないと考えておいてください。

自己破産をしただけでは租税公課の支払義務は残ります。支払いに困ったら税務所、区役所の課税課などの相談窓口に相談しなければいけません。各租税公課について、滞納処分の停止およびそれが3年間継続したときの支払義務の消滅、納付猶予・免除、保険料免除・保険料納付猶予等の救済措置が定められています。もちろん、容易に免除はされないことになっています。

自己破産は経済的更生を図る手段です。依頼者さんには、破産とは別途、滞納租税公課やこれからかかる租税公課について担当窓口と相談をしておくようお願いしています。

悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権(1項2号)

1.悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権

加害者に対する制裁、被害者救済、加害者の人格的・道徳的責任などの観点から定められた規定と言われています。

不法行為の被害者は加害者に対し損害賠償請求権を取得します(民法709)。不法行為の主観的な成立要件は、加害者の故意または過失です。

これに対し、本号の免責不許可事由の主観的成立要件は「悪意」です。
「悪意」は単なる故意では足りません。一般に、他人を害する積極的な意欲(「害意」)が要求されるとされます。すなわち、不法行為のうち、特に「害意」があるケースだけ、本号の非免責債権になるということです。

例えば、預託金の横領、債務超過を認識した上でのクレジットカードによる商品購入や飲食、虚偽の説明をした上での金融業者からの借入れ、売買代金の詐取などのケースで本号の適用を認めた裁判例があるようです。

2.債務不履行、不貞行為

本号の適用は、あくまでも「害意」のある不法行為による損害賠償請求権です。

個人の債権者の中には、破産者に「騙された。」と感じて本号の非免責債権であると主張される方もいらっしゃいます。しかし、借入時に多少の虚偽説明があったとしても、詐取といえるケースは限定されます。債権者に対して「害意」があると認められるケースは少ないでしょう。
仮に、破産者に当初は弁済する気があり、実際に弁済をしていたようねケースでは、不法行為ではなく、単なる債務不履行(約束違反)とみられるケースが多いでしょう。

不貞行為の慰謝料請求権の非免責債権該当性も問題となります。不貞行為の場合、通常は故意による不法行為ですね。問題は「害意」があるかどうかです。
実は、非免責債権に該当しないとされる傾向にあります。恋愛感情からなされる不貞行為は、原則として、配偶者に向けた積極的な害意を目的とするものではないという考え方です。
不貞行為の悪質性や、配偶者の多大な精神的苦痛といった事情は、破産者に「害意」があったかどうかのに判断とは直結しません。

故意・重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく賠償請求権(1項3号)

1.故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権

被害者の保護が特に必要なために本号が設けられています。

本号は故意または重過失による不法行為に適用されます。重過失とは、僅かな注意をすれば容易に結果を予見し、回避することができたのに、漫然と看過したような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態です。
一方、軽過失による不法行為に基づく損害賠償請求権には本号の適用がありません。破産免責の対象となります。

また、本号は、生命・身体を侵害する不法行為に適用されます。
財産を侵害する不法行為については、故意・重過失による不法行為であっても、本号の対象ではありません。
財産的損害に対する損害賠償請求権については、2号に該当しない限りは、破産免責の対象になります。

2.交通事故の損害賠償請求権

加害車両が無保険であった場合など、交通事故の加害者が自己破産をすることもあります。

その場合、赤信号無視、飲酒・酒気帯び、無免許運転など、無謀運転による交通事故被害者の損害賠償請求権は、本号により非免責債権となります。加害者に重過失があればいいので、必ずしも危険運転致死傷罪が成立するようなケースに限られません。

ただし、非免責債権となるのは、生命・身体を被侵害法益とする損害賠償請求権のみです。これに対し、物損部分など財産の侵害に基づく損害賠償請求部分は、本号が適用されない結果、免責対象となります。

親族関係に係る請求権(1項4号)

1.親族関係に係る請求権

親族関係にかかる請求権は要保護性が高いこと、およびモラルハザードを防ぐ必要があること等から、本号が設けられています。

夫婦間の協力・扶助義務(民法752)
婚姻費用分担義務(民法760)
子の監護義務(民法766)
扶養義務(民法877~880)に基づく請求権
並びにそれらに類する契約上の請求権が対象となります。

2.離婚時給付は免責の対象か

離婚時に合意であるいは判決で決められる給付は、婚姻費用分担、養育費財産分与慰謝料ですね。

婚姻費用分担請求権、養育費支払請求権は、請求権の成立が認められる限りで、過去の分も含めて本号の非免責債権です。

離婚に伴う財産分与請求権は、夫婦共有財産の清算として基本的に財産請求権とみられます。したがって、本号の非免責債権に該当しません。
ただし、財産分与には、清算的要素のほか、慰謝料的要素、扶養的要素を含みます。扶養的財産分与の部分を明確に区別できるようにしてあるのであれば、本号の非免責債権となる余地があるでしょう。

離婚に伴う慰謝料請求権については、2号の「害意」のある不法行為による損害賠償請求権、あるいは3号の故意または重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権と認められない限り、免責対象となります。不貞行為は2号に該当しない傾向にあることは上述のとおりです。

雇用関係に基づく使用人の請求権等(1項5号)

1.雇用関係に基づく使用人の請求権等

雇用関係に基づく使用人の請求権と使用人の預り金返還請求権です。
雇用関係に基づく請求権一般が対象となります。

2.雇い主が法人の場合

本号の適用があるのは、雇い主が個人事業主の場合です。
雇い主が法人である通常のケースでは関係がありません。法人破産の場合には、破産により法人格が消滅する結果、免責手続は存在しません、非免責債権もありません。従業員の給与請求権と退職金請求権が、財団債権あるいは優先的破産債権として保護されるだけとなります。

知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(1項6号)

1.知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

債権者名簿(代用される債権者一覧表)に記載されない債権者に対しては、裁判所から意見申述期間の通知(破産法251②)がなされません。そのような債権者がいれば、意見申述の機会を奪われることになります。したがって、本号が設けられています。債権者一覧表に記載のない債権者には免責の効果が及びません。ただし、破産債権者が破産開始決定の事実を知っている場合には除きます。この場合は債権者が意見申述の機会を奪われないという理由です。

2.過失により債権者一覧表に記載しなかった請求権

条文には「債権者名簿に記載しなかった請求権」と表現されているのですが、故意にではなく、過失によってうっかり債権者名簿に記載しなかった請求権も含まれます。
債権者の記載漏れ等に破産者の過失がないケースは少ないかもしれません。債権者一覧表に記載漏れがあった場合は、当該債権者の請求権は非免責債権になり、破産免責の効果が及ばない可能性が高いことに注意してください。もちろん、破産手続中に債権者の漏れが判明した場合には、債権者を追加するだけで対応できます。気付かずに手続が終わった場合に本号が問題となります。

なお、仮に記載漏れのまま破産手続が終わってしまっても、当該金融機関が免責されたものとして処理してくれるケースがあります。

罰金等の請求権(1項7号)

1.罰金等の請求権

罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料です。本人に負担させるべきとして非免責債権となっています。

2.破産手続での扱い

罰金等の請求権は、劣後的破産債権とされます。通常は配当対象とはならないが、非免責債権であるということになります。

まとめ

1.非免責債権とは

非免責債権は破産免責の効力が及ばない請求権です。
破産法253条1項1号から7号に定められています。各号の内容を説明してまいりました。どんなものが非免責債権に当たるかどうかのイメージを持っていただければ幸いです。

2.非免責債権があるケース

非免責債権があるケースでは、自己破産手続だけでは経済的更生を図ることができない可能性があります。準備段階で非免責債権があるかどうかを確認し、トータルでの経済的更生を検討しなければいけません。

また、債権者から非免責債権であると主張されるケースもあります。免責に反対するであろう債権者が想定できる場合には、それを前提とした手続の見通しを立てておくことが大事です。

以上、非免責債権の徹底解説と題して、破産免責の効果が及ばない非免責債権について解説しました。

信頼できる弁護士選びが経済的更生の第一歩です。
ぜひ、当事務所にご相談してみてください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

破産免責の徹底解説【借金問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一による借金問題コラムです。

今回は、自己破産の話、テーマは「破産免責の徹底解説」です。
個人が自己破産をする目的は免責を受けることです。そこで、破産免責とは何か、免責不許可事由とは何か、免責手続ってどう進んでいくのかなど、堀り下げた解説をさせていただきます。


目次

破産免責とは何か
権利免責と裁量免責の違い
免責不許可事由の種類
免責手続とは
免責を得られる可能性
免責に反する債権者が要いるケース
まとめ

破産免責とは何か

1. 免責の申立て

破産手続自体は、破産者資産負債の清算をするだけです。資産負債を清算して残った債務の支払義務は残ります。個人の債務者が債務の責任を免れるためには、免責許可の申立てをし、免責許可決定をもらわなければなりません。

これに対して、法人の破産では、破産手続終了により法人格自体が消滅すれば、債務も消滅します。債務が残るということはありませんから、免責手続はありません。免責は個人破産特有の制度です。

免責許可申立てを忘れることは基本的にありません。債務者が破産手続開始の申立てをした場合(自己破産の場合)は、反対の意思を表示していない限り、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248Ⅳ)。裁判所が用意している申立書書式も、破産手続開始と免責許可をセットで申し立てる形式になっています。

なお、自己破産ではなく、債権者申立ての破産手続では、免責許可の申立てをしたものとみなされません。したがって、破産者が免責を得るためには、破産開始決定が確定した日から1月以内に免責許可申立てをしなければいけません(破産法248Ⅰ)。


2. 破産免責の意味

破産法253条1項柱書本文は、「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と定めます。これが破産免責です。破産債権について支払義務を免れるという意味ですね。

 

破産法253条1項柱書のただし書きでは、「ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。」と、1号から7号までの請求権が掲げられています。それら1号から7号の請求権を「非免責債権」といいます。破産免責によっても責任を免れることができない債権です。非免責債権の詳細は後述いたします。

 

結局、破産免責は、非免責債権を除いて、破産債権について弁済義務を免れるということになります。

 

なお、復権と免責は少し意味が違います。
復権とは、自然人に対する破産手続開始決定に伴い、同人に対して課せられていた行使の資格制限を消滅させ、破産者に本来の法的地位を回復させることです。免責許可決定の確定は基本的な復権事由となっています(破産法255)


権利免責と裁量免責の違い

1. 権利免責

裁判所は、破産者に破産法第252条第1項各号に掲げる免責不許可事由がいずれも該当しない場合、免責許可の決定をします(破産法252Ⅰ柱書)。
この場合には必ず免責決定を得られますから、権利免責といいます。権利として免責を受けられることができるという意味合いです。

破産者について、免責不許可事由(破産法252Ⅰ各号)が該当する場合は、権利免責を得ることができません。裁量免責が認められるかという話にはります。

 

2. 裁量免責

破産法第252条第2項は、「前項の規定(注:権利免責)にかかわらず、同項各号に掲げる事由(注:免責不許可事由)のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」と定めます。これが、裁量免責です。

免責不許可事由があれば権利免責はありません。しかしながら、免責を許可することが相当である事情があれば、例外として、裁量によって免責許可を与えてもいいという建前です。

破産制度は破産者の経済的更生を図るための制度です。そのため、実際の運用では、上記原則と例外が逆転しています。免責不許可事由があって権利免責を得られなくても、ほとんどケースでは裁量免責を得られます。免責不許可となるケースは稀です。免責不許可事由の程度が大で、救済する事情もないような事例に限られます。

なお、免責不許可事由の程度が大きい場合には、同時廃止手続にはよらず、破産管財人を選任して一定期間破産者の調査や指導を行わせ、破産管財人から出された免責意見を踏まえた免責判断がなされることがあります。この場合の手続を、免責調査型管財事件といいます。予納金は20万から25万円程度です。

 

免責不許可事由の種類

1. 法252条1項1号から6号

債権者を害する目的で行う財産の価値を不当に減少させる行為(1号)

破産財団に属する、あるいは属すべき財産は、総債権者の配当原資となります。そのため、同財産の価値を減少する行為は、総債権者を害する行為として免責不許可事由となっています。財産には、不動産、動産、債権、知的財産権など財産的価値を有するもの一切を含みます。ただし、破産財団を構成しない差押禁止財産などは含みません。価値を不当に減少させる行為は、隠匿(秘匿)、損壊その他の価値減少行為の一切を含みます。

なお、生活資金捻出のための売買など、その行為に不当性がなければ本号の免責不許可事由に該当しません。弁護士管理の下で、財産を有用の資(生活費、弁護士費用、破産費用、引越し費用その他どうしても必要な支出)に供することはよくあることであり、問題視されません。

破産手続開始を遅延させる目的で行う不利益処分行為等(2号)

破産手続を遅延させる目的で行われる(破産者が支払不能状態にあって、同事実を認識していることが必要です)、著しく不利益な条件での債務負担行為、信用取引により買い入れた商品を著しく不利益に処分する行為などです。
著しく不利益な条件は、取引社会の実情からみて不合理な程度に債権者にとって不利益なものをいいます。不利益な処分とは、著しく低廉な価格で処分すること(廉価売買)、権利放棄などの行為を指します。要するに、経済的合理性を欠く行為ですね。破産手続開始を遅延させる目的には、破産手続開始自体を免れる目的を含むとされています。

なお、クレジットで購入した商品を低廉で売却することはよく見られる行為ですが、破産手続を遅延させる目的でなされた行為とまで言えるケースは少ないでしょう。きちんと説明をしていれば過度には問題視されない傾向です(勿論5号に該当するかが吟味されます)。

不当な偏頗行為(3号)

一部の債権者に対し、特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で、義務に属さない担保提供または債務消滅行為をすることです。担保提供は、抵当権、質権、譲渡担保など、債務消滅行為は、弁済、代物弁済などです。配当原資となるべき責任財産を毀損させて総債権者の利益を害する行為ですね。

偏頗的な(不公平な)弁済を、特に偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼びます。親類や知人など金融会社以外に偏頗弁済をしてしまうことが多いでしょうか、よく見る免責不許可事由の1つです。否認対象としても典型的な例です。当職が受任する際には、個人間のものを含めて、一切の弁済行為を止めるようお願いしています。

浪費又は賭博その他射幸行為による著しい財産減少等(4号)

頻繁に目にする免責不許可事由です。
浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したことです。浪費とは、必要かつ通常の程度を超えた不相応な支出です。社会的地位、境遇、財産など諸般の事情を考慮して判断されます。賭博にはギャンブル一般を含み、射幸行為は投機目的の証券取引、商品先物取引、FX取引、先物オプション取引などが該当します。射幸行為かどうかも、資力、職業、知識などから判断されます。著しく財産を減少させたかどうか、または過大な債務を負担したかどうかは、債務者の財産状況との関係において社会通念によって判断されますので、その判断は人により異なります。要するに、分相応か分不相応かということでしょうか。

浪費や射幸行為と、著しい財産減少や過大な債務負担との間には、相当因果関係が必要です。ギャンブル等が遠因となっているにすぎない、一因となっているが他に主要な原因があるといった場合には、本号の免責不許可事由に該当しません。


詐術を用いた信用取引による財産取得(5号)

破産手続開始の申立日から1年以内にされた、破産手続開始の原因(支払不能)となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得する行為です。

詐術には、消極的態度によって相手を誤信させる場合も含まれます。ただし、ほとんどの破産者は支払不能になっても引き続き信用取引を続けるのが通例です。支払不能状態であることの単なる不告知という消極的態度によっては詐術に該当しないと考えられています。そのためか、本号の免責不許可事由はあまり見かけません。


帳簿等の隠滅、偽造等(6号)

破産者の業務および財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件一般について、隠滅、偽造(名義の冒用)、または変造(内容を改変する行為)する行為を対象とします。それらの行為は破産財団の管理を困難とし、破産債権者の利益を害するため、免責不許可事由になっています。
あまり見かけない免責不許可事由になります。

 

2. 法252条1項7号から11号

虚偽の債権者名簿の提出(7号)

債権者名簿あるいは債権者名簿とみなされる債権者一覧表に事実に反する内容を記載し、記載すべき債権者名等を記載しない行為が対象となります。免責手続の適正な遂行を妨害する行為として、免責不許可事由となっています。
通常の自己破産手続では債権者一覧表が債権者名簿とみなされています。免責不許可事由に該当するのは、破産者が手続の遂行を妨害し、または債権者を害する目的がある場合に限られるべきといわれています。免責不許可事由という制裁に相応しい行為に限るべきということです。

なお、債権者一覧表に誤りがある、抜けていた債権者が破産手続中に判明する、といったようなことは多々あります。途中で訂正・追加すれば問題はありません。過失により債権者名簿に債権者名等を漏らし手続を終えた場合には、非免責債権(破産法253Ⅰ⑥)となる可能性はありますが、免責不許可事由には該当しません。

調査協力義務違反(8号)

裁判所は、破産手続の全般について調査をすることができます(破産法8Ⅱ)。裁判所は、書記官に調査させ、破産管財人を通じた調査も行います。これら裁判所の調査に対し、説明を拒み、または虚偽の説明をする行為は、免責不許可事由に該当します。説明の拒絶には正当な理由のない審尋期日の欠席を含みます。虚偽の説明には当然に説明すべき事項について消極的に説明しないことも含みます。退職金や所有不動産を報告しないケースが典型的ですね。ただし、うっかりした報告漏れは補正をすればいいだけです。実務上、申立書の記載に誤りや漏れがあることは珍しくありませんが、本号の免責不許可事由を問題とすることはあまりありません。

このように、申立書類に嘘を書くと免責不許可事由のペナルティがありますから、申立てにあたっては、あくまでも嘘はつかない範囲内で、できるだけ有利に説明することが大事です。

不正な手段による破産管財人等の職務の妨害(9号)

破産管財人等とは、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理または保全管理人代理です。別途、破産管財人等に対する職務妨害罪(破産法272)も定められています。職務妨害罪に該当する行為のほか、財産持ち出し、引渡しや明渡しの拒絶、脅迫、郵便物の発送回避等が免責不許可事由に該当します。

過去に受けた免責(10号)

次の①から③に掲げる日(債権者の同意を問題としない免責あるいは一部免責の確定日になります。)から7年以内に申立てがあった場合には、免責不許可事由に該当します。モラルハザードを防ぐ趣旨です。
他の免責不許可事由と比べても厳しく運用され、裁量免責が容易には認められない印象があります。7年間は原則として再度の自己破産はできないと考えていた方がいいでしょう。
①破産の免責許可決定の確定日
給与所得者等再生における再生計画認可決定の確定日
③ハードシップ免責にかかる再生計画認可決定の確定日
各決定から確定日までは、ざっくり1か月ぐらいだと思ってください。

①~③から7年を経過すれば、自己破産を申し立てて免責を求めても問題ないこととなります。複数回の破産免責を法も許容しているのですね。2回目の破産でも、それだけでは免責不許可事由に該当しません。かつ、2回目というだけで管財事件になるわけでもありません。勿論、反省文などで反省を示す必要があるなど、初めての破産に比べてより厳しく見られるのは仕方がありません。また、管財事件になる可能性は初回に比べると高いのも確かです。

破産法上の義務違反(11号)

破産手続中の説明義務(破産法40Ⅰ①)、重要財産開示義務(同41)、免責手続における調査協力義務(同250Ⅱ)、「その他のこの法律に定める義務」への違反があった場合には、免責不許可事由となります。「その他のこの法律に定める義務」違反は、保全処分(同28)、居住等の制限義務(同37Ⅰ)、債権調査期日への出頭義務(同121Ⅲ)などへの違反です。

 

免責手続とは

1. 免責についての意見申述

破産法では免責についての意見申述制度を設けています(破産法251)。免責手続における破産債権者に対する手続保障ですが、破産管財人も意見申述をすることができます(破産管財人は必ず免責意見を提出する運用です)。免責決定の影響を受けない非免責債権者(破産法253Ⅰ)には、意見申述権が認められていません(破産法251Ⅰかっこ書)。

意見申述は、原則として、裁判所から指定された意見申述期間に、書面を提出して行います。意見申述期間は、破産手続開始時から3カ月程度先というイメージです。

破産債権者の免責についての意見は、裁判所を拘束するものではなく、裁判所が判断する際の参考資料にすぎません。裁判所は意見申述に対する応答をする必要もありません。個人の債権者からは意見申述がなされることがときどきありますが、それにより免責不許可となる例は見たことがありません(なお、金融業者は基本的に意見申述をしません)。


2. 免責の効力発生(許可の確定)

免責許可決定が確定すると、破産者は、破産債権についてその責任を免れます(破産法(253Ⅰ本文)。

利害関係人は、免責責許可申立ての裁判に対し、即時抗告をすることができます(同252Ⅵ)。利害関係人とは、免責許可決定では破産管財人および破産債権者(非免責債権者も含みます)、免責不許可決定では破産者です。
即時抗告期間は、決定を受けた日から1週間です(破産法13、民訴法13)。破産債権者に対して送達代用公告がなされた場合は公告の効力が生じた日から起算して2週間です(破産法9)。破産債権者については通常後者ですね。

即時抗告期間が終了すれば免責許可が確定します。即時抗告がなさない通常のスケジュールでは、免責許可決定日から約1か月後が確定日となります。2週間前後に官報公告され、それから2週間で確定ですから。

一方、即時抗告がなされれば確定はしません。抗告審によって免責許可申立ての裁判の当否が判断されます。勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースといえるでしょう。

 

免責を得られる可能性

1. 裁量免責にあたって考慮される主な事項

裁量免責の判断にあたっては、主に次のような事情を考慮するとされています。

破産手続開始の決定までの事情

①破産者の年齢、職業、収入、家族構成など、②債務を負担するに至った経緯、③支払不能に至った事情、④破産手続開始の申立てに至った事情です。
どれも申立書に記載する事項ですね。この説明内容が一番大事になります。

免責不許可事由に関する事情

免責不許可事由の種類、内容、程度、②免責不許可事由の行われた時期、③同行われた経緯、④破産者の主観的状況、⑤破産手続に与えた影響
要するに免責不許可事由の悪質性の程度です。
免責不許可事由があると想定されるケースでは、管財事件になるリスクを下げるため、免責不許可にならないため、これらの事情をきちんと整理・説明します。

債権者側の事情

①債権者の属性、②破産者との関係、③与信内容、現在額、④与信の経緯、⑤債権者の審査能力の有無、⑥調査内容、⑦債権管理状況、⑧債権回収状況です。
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、債権者側の事情は一般的には重視されない傾向にあります。

破産手続開始後の事情

①配当状況、②破産者の協力状況、③破産者の反省の有無程度、④破産者の生活状況、⑤再生への意欲、⑥再生の見込み、⑦関係者の評価です。
主に破産管財人が免責意見を出すときに破産者を救う方向の事情として挙げるものです。プラスの事情があまりないケースでは、②の破産者の協力と、⑤⑥の経済的更生の可能性が、免責意見のメインになります。
なお、③については、手書きの反省文を初めから提出しておくといいでしょう。スムーズに同時廃止手続に進む傾向にあります。

免責許可決定のもたらす影響

①破産者の再生に及ぼす影響、②債権者に及ぼす影響、③免責許可についての債権者の意見です
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、免責許可についての債権者の意見は、あくまでも参考資料として取り扱われるべきといわれています。

 

2. 免責を得られる可能性

免責不許可決定がでるのは非常に稀なケースです。免責不許可事由の程度が重大であり、かつ救う材料がまったくないようなケースでした。

広島地方裁判所本庁で免責不許可の決定がでるのは、年間数件程度にすぎません。もっとも、明らかに免責不許可となるような事案では、別途、裁判所から申立てを取下げるよう勧奨を受けることがあります。それを含めるともう少し多いのかもしれません。いずれにせよ、全体の申立件数からはごく少数です。ほとんどの案件では、最終的には免責決定を得られています。

当職の経験でも免責不許可決定を得たことはありません(勿論、免責を得られることが明らかに難しいと判断したケースでは個人再生手続を勧めています)。破産管財人として免責不許可相当の意見を提出したことも、1度しかありません。そのほかは全件について免責相当の意見を申述しています。

一方、免責を得るための努力が必要なケースは多々あります。浪費やギャンブルの案件では説明を尽くした上で反省文を書く、
家計の収支状況を報告する、否認が疑われるような案件では財団に金銭を拠出して和解的解決をする、などの努力が典型的でしょうか。
個別の事情に応じて努力の仕方は変わります。肝心なのは、資料をできるだけ集めて事情をわかりやすく説明することです。当職もその一人ですが、破産管財人の経験が豊富な弁護士は、説明するツボや説明を要求される程度を肌感覚で理解しています。
なお、広島地裁では、一定期間金銭を積み立てて任意弁済をするという方法は採られなくなりました。

 

免責に反対する債権者がいるケース

1. 免責に対する意見申述、即時抗告

破産法では免責についての意見申述制度を設けていますから(破産法251)、免責に反対する債権者が免責不許可の意見を申述する可能性があります。
裁判所は債権者の意見に拘束されるわけではありません。債権者の意見は参考資料にすぎません。

仮に、裁判所、破産管財人が免責許可を相当と考えていた場合、結論が覆ることはなかなかありません。同時廃止事件は裁判所が免責を許可する方向で選択した手続です。管財事件での破産管財人も免責不許可相当の意見を出すのは免責不許可事由が重大で救う方法もないような稀なケースです。あまり効果がないことを知っていてか、
金融会社が反対意見を提出してくることはまずありません。

なお、結論は変わらなくとも、場合によっては、集団免責審尋から個別免責審尋に切り替えられる、免責決定が一定期間留保されるなど対応が必要となることがあります。裁判所あるいは破産管財人から意見書の提出を求められることもあります。

免責許可申立ての裁判に対しては、利害関係人が即時抗告をすることができますから(破産法252Ⅴ)、免責許可決定に対して債権者が即時抗告を申し立てる可能性があります。即時抗告がなされると、免責許可決定は確定せず、抗告審により当否が判断されることになります。破産者の意見を抗告審に提出する必要もあるでしょう。
勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースです。だからでしょうか、あまり利用されない印象です。

 

2. 給付訴訟、強制執行

免責許可決定が確定すると、破産者は、非免責債権を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ本文)。ただし、非免責債権には免責の効力が及びません(破産法253Ⅰただし書)。

貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟が提起された場合、免責決定が確定していれば、請求債権が非免責債権に該当しない限り、請求が棄却される形で訴訟が終わります。
既に訴訟が提起されていたときも同様です。免責許可決定が確定し次第棄却されます。

また、強制執行がなされた場合には、破産者は、責任の消滅を理由として、請求異議の訴え(民事執行法36)を提起することになります。

非免責債権であると主張している債権者がいれば、破産手続および免責手続の終了後、貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟を提起する、あるいは既に債務名義を取得していればそれに基づいて強制執行をしてくる可能性があるでしょう。
非免責債権かどうかに争いがある場合でも、破産手続では判断してくれません。債権者から提起された給付訴訟の中で、あるいは破産者から提起された請求異議の訴えの中で、非免責債権に該当するかどうかが判断されます。

 

まとめ

1. まとめ

免責とは非免責債権を除き破産債権についてその責任を免れることです。その免責には、権利免責と裁量免責の2つがありました。
免責決定をするためには、意見申述期間が設けられます。
免責決定後、即時抗告がなされなければ確定し、免責の効力が発生します。決定から約1カ月後です。

実務上は、免責が原則、免責不許可が例外として運用されています。

債権者の意見は参考資料にすぎません。
給付訴訟、あるいは強制執行では、債権者免責許可決定が確定していれば、非免責債権でない限り、訴訟は棄却され、請求異議が認容されます。非免責債権かどうかは破産手続の中で判断してくれません。

 

2. 最後に

弁護士による破産免責の徹底解説と題して、破産免責について詳しく解説してまいりました。免責を得られない自己破産は意味がありませんね。破産の準備にあたっては、免責を得られるかどうか、何を準備すればいいのか、見通しをもって段取りを考えます。

スムーズに免責を得る第一歩は、破産手続に詳しい、経験が豊かな弁護士のサポートを得ることです。ぜひ、広島の破産弁護士である当職までご相談ください。

 

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属) 

◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

中小企業の株式対策エッセンス【企業法務】

広島市の弁護士、仲田誠一による企業法務コラムです。

今回は、中小企業の株式対策として、株式の分散、株式の集中、株価対策、議決権の集中、自己資本比率など、中小企業に必須な株式対策のエッセンスを解説します
。個々の問題の詳しい解説は改めてさせていただきます。

目次

株式の分散
株式の集中
株価
議決権の集中
自己資本比率
まとめ

株式の分散

1.株式の分散とは

オーナーが自社株式の100%を保有しておらず、他の親族、役員、従業員、共同経営者らも株式を保有している状態を、株式の分散と呼びます。

過去には、株式会社の設立時の発起人が7名必要だった時代がありました。また、中小企業でも従業員に株式を持たせることが奨励された時代もありました。
また、民法の原則は分割相続です。オーナーが100%保有していたとしても、相続により各相続人に分割承継されることがあります。
そのため、株式が分散している会社は少なくありません。


2.株式の分散の弊害

株式の分散は、上場あるいは株式公開をしていない中小企業にとって、特別にそれを必要とする事情がない限り、百害あって一利なしです。
特別なケースとは、外部資本からベンチャー投資などを受け入れるなど、どうしても経営者以外が株式を保有する必要がある場合ですね。

この点は見解が統一されつつあります。株式の分散は、株主総会等のコストが増える、経営のスピードを阻害する、M&A事業承継の障害になるなど、経営の足かせになるからです。
株式の分散は、中小企業の強みである機動力・スピードに反するのですね。

そもそも、会社の所有者は株主です。オーナー企業であればその実態に合わせてオーナーが100%保有するべきでしょう。


株式の集中

1.株式の集中

上述のように、株式の分散はよくないということで見解が一致しつつあります。
株式が分散している会社は、現オーナーあるいは後継者に株式を集めます。これを、株式の集中あるいは集約といいます。

最近は、株式の集中に関する提案が、金融機関やコンサルタント会社から
事業承継対策としてなされることが当たり前になってきました。ただし、株式の集中は法律問題です。弁護士にきちんと相談してから進めてください。

2.株式集中の方法

株式の買取りが一番穏当な手段です。
なお、他人名義の株式が名義株であるときは、別途名義株の解消をします。

株式を強制的に集約する法制度も整備されつつあるところです。
事業承継問題への対策の一つとも位置付けられますでしょうか。
強制的な集約手段として特別支配株主の株式買取請求制度ができました。
以前からあった株式併合の手段を活用した少数株主排除の手段もとりやすくなっております。


株価

1.株式の集中と株価

株式の集約をするにあたって一番困るのは株価が高いケースです。株価が高いケースとしては、長年、適切な役員報酬をとらず会社に利益をプールした結果であることが多いですね。

株価が高いと、株式の集約にかかるコストが跳ね上がります。税務上問題のない形での売買、株式買取請求、株式併合等のコストは株価次第ですからね。

2.株価の引下げ

M&Aで株式を売却する場面は別として、株価が高いことには何らのメリットもありません。むしろ弊害が多いといえます。

事業承継が絡むケースであれば、役員退職金が即効性のある株価引き下げ策として利用できます。
ただ、経営権が移譲できないケースでは使えません。

ある程度の所得税を払っても中長期的な報酬戦略をとって、会社から個人(オーナーあるいは後継者)への資産移転を進めなければなりません。

議決権の集中

1.議決権の集中

株価が高すぎるケースなど、どうしても株式の集中ができない事情があることもあります。
その場合には、次善の策として、議決権の集中を図ります。
オーナーあるいは後継者の保有する株式に議決権を集めるのです。

株式の集中ができなくとも、議決権を集中することで、経営のスピード・機動力の確保、円滑な事業承継には耐えられます。


2.議決権の集中の例

議決権の集中は、種類株式あるいは属人株式を活用します。

種類株式の活用とは文字どおり種類の違う株式を発行することです。
経営者以外の株主の株式を議決権なし優先配当の種類株式とするケースがイメージされやすいでしょうか。


属人株式は株主によって株式の取扱いを変えることです。{C}{C}{C}代表取締役の保有する株式の議決権を100倍にすると株主総会の開催も決議も簡単になりまね。

勿論、種類株式、属人株式の導入は高いハードルがあり、かつ法的なリスクも伴います。弁護士に相談の上で進めてください。


自己資本比率

1.自己資本比率とは

法律論とは少し離れます。

自己資本比率は、自己資本/総資産(%)で表されます。
自己資本比率が高いほど、自己資金が豊富ということなので、経営の
安全性が高いといわれます。
自己資本比率は、ひと昔前の銀行の与信審査では大きなウェイトを占めました。

株価が高いということは、基本的に利益を内部留保し自己資本比率も高くなるということになります。


2.自己資本比率は高いほどいいのか

大企業は別として、少なくとも中小企業に限っては、自己資本比率が高ければ高いほどいいとはいえません。もちろん、自己資本比率が低すぎると危険ですよ!

営業活動をすれば、資産(売掛金等)あるいは負債(買掛金等)が膨れ、自己資本/総資産で表される自己資本比率は低くなります。
また、会社の信用を生かして銀行から借り入れて商売の幅を拡げる、あるいは資金の回転を多くして利益を増やそうとすると、当然に自己資本比率が低くなります。

中小企業は、銀行からお金を借りて(間接金融により)調達した資金を運用して、利益を拡大させるものです。すなわち、儲けようとすれば自己資本比率は下がるはずです。自己資本比率が過度に高い中小企業には成長性がありませんし、経営効率が悪いことになります。


まとめ

1.今回お話したこと

株式の分散は望ましい状態ではありませんでした。株式の集中を図る必要があり、そのための法制度も整備されつつありました。高すぎる株価の弊害は多くありました。株式の集中の障害にもなります。即効性のある役員退職金や継続的な報酬戦略が求められました。株式の集中が困難な場合には議決権の集中を考えることができます。なお、自己資本比率は高いほどいいわけではありませんでした。

株主は会社の所有者です。したがって、株式対策は経営の基本となります。
株式対策を決して先送りにしないでください。


2.企業法務に詳しい弁護士に相談を

株式の集約などの株式対策は、すぐれて法律問題です。法的なリスクを伴い場面が多いですし、スキーム作りには税法の問題意識も必要とします。必ず、企業法務に精通した弁護士にご相談の上で進めてください。

弁護士仲田は、企業法務に精通しているのは勿論、税法の専門知識も併せ持っております。M&A事業承継案件での株式対策サポートの経験も豊富です。ぜひご相談ください。


この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)

◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)

◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)

1

« 仲田 誠一: 2021年9月 | メインページ | アーカイブ | 仲田 誠一: 2022年2月 »

このページのトップへ