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旧コラム 仲田 誠一 4ページ目

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遺産分割と否認 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
法的債務整理(自己破産、個人再生)の際、遺産分割未了の財産がある場合には、基本的に法定相続分に応じた財産額が破産者の財産として把握されます。
通常は共同相続人に相続分の買取りが打診されるでしょう。
 
個人再生の場合は、清算価値の問題となります。清算価値が大きくなり、それが最低弁済額を押し上げ、個人再生ができない、あるいはやっても意味がないということにもなりかねません。
 
なお、未分割遺産が本当に田舎の物件で換価が困難で価値が見いだせないような場合には、未分割遺産を無視してくれます。
自己破産手続との関係では、同時廃止も可能です。
 
今回は、自己破産前に遺産分割協議を行った場合のことをお話します。
 
勿論、ずいぶん前に、破産者が経済的危機状態に陥る前の遺産分割協議は問題視されません。
もっとも、その場合も相続の状況は裁判所から報告を求められます。
 
遺産分割協議が破産者の経済的危機状態以後になされた場合が問題視されるのですね。
破産管財人による否認の問題です。
破産者に不利な遺産分割協議は詐害行為と見られかねないということです。
なお、個人再生においても否認相当行為については清算価値に計上することになっております。
 
趨勢は、自己破産手続における遺産分割協議に対する介入は謙抑的に考えられていると思います。
明確にそのことを示した東京高裁平成27年11月9日判決があります。
同判決の判断をかいつまんで要約すると、
・ 民法906条によれば遺産の分割は一切の事情を考慮してなされる。
・ 『遺産分割自由の原則』があり、遺産分割協議による分割は、基本的にはこれを尊重すべきある。
・ 相続人である破産者が遺産分割によって法定相続分ないし具体的相続分を下回る遺産しか取得しなかったとしても、民法906条に則り一切の事情を考慮した結果であることもあり得るから、その詐害性を直ちに認めることはできない。
・ 遺産分割協議は、元々破産者の財産でなかったものが、遺産分割の結果によって相続時にさかのぼってその効力を生じ、破産者の財産とならなかったことに帰着するものであるから(民法909条)、破産法160条3項所定の無償行為として、類型的に対価関係なしに財産を減少させる行為と解するのは相当ではない。
・ 債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、直ちにこれを共同担保として期待すべきではない。
・ 遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらない。ただし、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る。
というような判断です。
 
遺産分割協議が無償行為等詐害行為として否認の対象となるのは例外的なものと位置付けですね。
勿論、全ての裁判所が上記のような判断をしてくれるかどうかはわかりません。
 
また、上記裁判例も、具体的な事情を詳細に検討して、否認対象となる特段の事情が存在しないという判断をしています。
結局は、事案によってケースバイケースの判断になるということです。

自己破産申立ての際には、特段の事情がないこと、すなわち遺産分割合意に至る合理的な事情の説明が必要になるでしょう。
理屈だけで戦っても仕方ありません。
否認対象となるのは例外的であるという理屈を前面に出しながらも、合理的な理由を具体的に説明していくということでしょうか。
 
なお、遺産分割協議が否認対象とならなくとも、相続登記が破産法164条により独立に否認の対象となり得ます。
支払停止後等の対抗要件具備行為が否認対象となっているのです。
遺産分割の合意はずいぶん前にあったが、相続登記をしていなかった事例(好ましくない事態ですが珍しくはないですね)で問題になり得るでしょう。
実際にこのような案件を扱っています。
 
当職の私見ですが、遺産分割合意自体が否認の対象とならないのに、相続登記が遅れただけで登記が否認対象となることは疑問があります。
 
相続登記は、債権者を害するものではなく、有害性がないのではないでしょうか。
 
また、従前の遺産分割合意を正しく登記に表す行為には、所謂執行逃れのような不当な目的は存在せず、不当性がないものと考えられるのではないでしょうか。
 
さらに、相続登記を否認しても遺産共有状態となるだけです。
破産管財人が遺産分割審判をとろうとしても、従前の遺産分割合意を無視した審判が出るのか疑問が生じます。
 
本来、否認の対象とならない遺産分割合意について、それを反映する相続登記だけを取り上げて否認することには、違和感を禁じ得ません。
 
この点は、なかなか難しい問題で、的確な裁判例等も見当たりませんでした。
 
相続登記は面倒くさがらずに、忘れないうちに、しておいた方が無難ですね。
                   
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
https://www.nakata-law.com/smart/


譲受人による使用貸借人の退去請求 [不動産]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
久しぶりに不動産問題について投稿します。
 
法律家でない限り、使用貸借契約という言葉は馴染みがないかもしれません。
意味は、無償の貸借契約のことです。
不動産を賃料を取らずに人に貸したら使用貸借です。
これに対して、有償だと(賃料を支払合意があると)、賃貸借契約ですね。

なお、不動産を借りるにあたって固定資産税の負担等金銭の授受があったとしても賃料支払の実質がなければ使用貸借契約と解釈されます。
 
不動産の賃貸借であれば、借地なら建物登記、借家なら引渡しで第三者に対する対抗要件を具備することができます。
借地借家法の規律です。
第三者対抗要件を具備するというのは、第三者に権利を主張できるようになるということを意味します。
そのため、物件が第三者に対して譲渡されても、賃借人が対抗要件を具備しているのであれば、譲受人の第三者に対して賃借権を主張できますから、結局、物権の譲受人は賃貸人の地位を引き継ぐことになります。
 
これに対し、無償行為である使用貸借は、借地借家法の適用外であり、そのような効力はありません。
無償であるから借地借家法によって保護されていないのですね。効力が弱いのです。
そのため、物件が第三者に譲渡されてしまうと、第三者たる譲受人に対抗できず、譲受人に使用貸借関係を主張できませんから、結局、譲受人からの建物収去請求、明渡請求が認められます。
これが原則です。
 
ところが、土地の使用貸借をして建物を所有する者に対して行われた土地の譲受人からの建物収去土地明渡請求について、権利濫用を理由に排斥した高裁の裁判例を見ました。東京高裁平成30年5月23日判決。
 
同判決は、土地の借主兼建物所有者の土地の占有権原は使用貸借であって土地譲受人に対抗し得る占有権原を有していないから、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、土地譲受人は土地所有権に基づいて建物収去・土地明渡を求めることを確認しています。
その前提の下、本事例ではその権利濫用に当たる特段の事情が認められるとしたわけです。
 
同事例は、低廉な売買価格(更地価格の3割にも満たない額)で売買・同日転売されたいかにも怪しい事例だったようです。
譲渡人も合理的に価格を検討していないでいいなりで安く売却したようです。
また、建物所有者・居住者に権利関係を尋ねることなく秘して取引が行われた異常性も指摘されています。
勿論、建物所有者も高齢で体調も悪いという気の毒な事情もあったようです。

上記裁判例は、土地譲受人は、権利関係を十分に把握していると思われない譲渡人から極めて低廉な底地価格で購入して巨額な経済的利益を得た上、借主の生活等に及ぼす影響を考慮していない、などと断罪し、権利濫用にあたる特段の事情を認めました。
 
明渡請求が信義誠実の原則に反して権利濫用に当たるかどうかは、使用貸借関係の当事者間で検討されるべきで、第三者たる譲受人は本来関係のないことです。
債権関係は当事者間の関係で第三者は関係ありません。
第三者にも主張できる所有権など物権と異なり(対抗要件は必要ですが)、債権は債権者が債務者に要求するだけの権利であり、第三者に何ら要求できないのが原則なのですね(土地建物賃貸借は借地借家法により対抗力を認められて第三者にも主張ができるという意味で、物権化されています)。
 
当事例では、売買の異常性を認め、土地譲受人側そのものの暴利性を認定したのでしょう。
 
一方で、上記裁判例は、明渡しが1億円の立退料を支払えば、権利濫用に当たらないとします。
そして、1億円の支払いとの引き換えに建物収去・土地明渡を認めました。
支払いと引き換えに請求を認める形の判決を引換給付判決といいます。
 
立退料は、賃貸借の更新拒絶における正当事由の存否の判断の場面において典型的に出てくるものですね。
〇〇円の支払いとの引き換えに更新拒絶の正当事由を認めて明渡しを認めるわけです。
前記裁判例では、使用貸借を前提とする権利濫用の判断においても、同じような考え方をしたということですね。
 
なお、更地価格は2億6000万円超だとのことです、使用貸借で立退料1億円というのはかなり高いですね。
対抗力ある賃借権であれば相応の借地権価格が認められますが、使用貸借は違います。
建物収去費用(土地上の建物を壊して撤去する費用)が2000万円ほどと認定されているようで、それも加味されているのでしょうが。
 
勿論、使用貸借は効力が弱いのは確かです。
権利濫用が認められるのは、特別なケースだけだと思います。
今回は、その特別なケースをご紹介しました。
 
不動産に関するご相談はなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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死亡保険金の指定受取人が先に死亡した場合の受取人 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
お盆前は例年忙しい気がしています。
今年も訴訟や調停の期日がお盆前に集中してしまい、忙しさに負けてコラムの投稿を怠りがちになってしまっております。
8月いっぱいはこのような状態が続いてしまいます。
 
ということで、久しぶりの投稿になります。相続関係のお話をさせていただきます。

死亡保険金の扱いです。
厳密に言えば相続手続ではないのですが。
 
まず、生命保険の死亡保険金が相続財産として扱われるかどうかの話からです。
 
死亡保険金に受取人指定がある場合(通常ありますね)、生命保険金は指定受取人がその固有の権利として原始取得すると最高裁が結論を出しています。
したがって、死亡保険金は被相続人の相続財産になりません。遺産分割の対象とはならないです。

ただし、死亡保険金が相続財産に属さないことの結果として不公平が著しい例外的な場合に(遺産と保険金の金額の比較や被相続人と受取人との関係等諸事情が勘案されます。)、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることが判例で認められております。
その限りで遺産分割に影響があります。
ただし、特段の事情がないといけませんので、実務上簡単に認められるわけではありません。
 
税法上は、異なりますね。相続財産として扱われ、相続税の課税対象となっています。
 
ただし、被相続人が保険契約者かつ保険金の受取人になっている場合は、死亡保険金は相続財産となります。
また、受取人を相続人と指定している場合には、法定相続人が法定相続分に従って死亡保険金を受け取ることになります。
 
死亡保険金の保険金受取人として特定の者が指定されていても、その指定受取人が被相続人よりも先に死亡しており、その後に受取人の変更がなされていないケースもありますね。
 
次に、その場合には誰が死亡保険金を受け取るのかのお話です。
 
実は、死亡保険金の受取人の相続人(故人の相続人ではありません)が受取人になります。
 
保険法の定めによります。相続法の規律を定める民法によるわけではありません。
そのため、指定受取人の相続人が複数いる場合には、相続人全員が等しい割合で取得するとされています。
均等割合ですね。民法427条の規律によります。相続ではないから法定相続分ではないのです。ややこしいです。
 
ただ、遺産分割に盛り込むことには親和性があります。
たいていの場合は受取人が配偶者で受取人の相続人と被相続人の相続人が一致しますから、数次相続の扱いで協議をすることができますね。
 
勿論、以上の規律よりも保険会社との約款等の合意が優先されますので、保険会社の約款を確認しないといけません。
 
しかし、簡易生命保険、かんぽ生命保険の取り扱いは特殊です。注意が必要ですね。
 
受取人が先に死亡している場合には、死亡保険金を、指定受取人の相続人ではなく、「遺族」が受け取るのです。
相続法の規律とは異なる旧簡易生命保険法、約款にて遺族制度が定められているのですね。
 
遺族とは、①被保険者の配偶者、②被保険者の子、③被保険者の父母、④被保険者の孫、⑤被保険者の祖父母、⑥被保険者の兄弟姉妹、⑦被保険者の扶助によって生計を維持していた者、⑧被保険者の生計を維持していた者、です。
 
遺族制度にはさらに注意点があります。
 
①~⑧の順により遺族が定まり、先順位の遺族がいる場合には、後順位の者は遺族ではありません。
配偶者と子がいる場合には、民法で定める相続法の規律では配偶者と子が共同相続人です。
しかし、遺族制度では、遺族は第1順位の配偶者のみです。第2順位の子は遺族にはなりません。
なお、同順位の遺族が複数いる場合には、均等割合で取得します。
 
相続法と異なり、代襲相続の仕組みがありません。
被相続人に子が3名いるが1人は子を残して既に亡くなっている場合(配偶者が既にいない場合)、民法で定めている相続法の規律では、法定相続人は生存している子2人と亡くなった子の子(すなわち被相続人の孫)ですね。孫は亡くなった子に代わって相続人となります。これを代襲相続といいます。
しかし、遺族制度では、代襲相続を定めていませんので、被保険者の子は生存していた子2人だけになります。孫は受取人になりません。
これが公平なのかどうかは疑問ですが。
 
このように、死亡保険金の受取人が先に亡くなっている場合には注意が必要ですね。
特にかんぽ生命は気を付けないといけません。
 
遺言、相続、遺留分相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
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婚姻費用と特有財産、年金収入 [離婚問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
久しぶりの離婚問題のコラムの投稿かもしれません。

刊行物にて婚姻費用分担審判の抗告審例を見ましたので紹介をいたします。
 
別居中の夫が会社を経営し、役員報酬のほかに、年金収入がある、同社から役員報酬のほかに配当をもらっている、また不動産所得もあるケースで、婚姻費用が争われた事例です。
 
論点は2つあったとされています。

一つは、特有財産から生ずる法定果実(賃料収入と配当)が婚姻費用算定の基礎となる収入になるかです。

もう一つは、年金収入を算定表ないし算定式に組み込む(給与収入に換算する)場合の方法です。
 
まず、夫の収入が役員報酬に限られるか、配当、不動産所得も含まれるか、の問題です。
 
夫が経営する会社の株式及び不動産は夫が婚姻前から取得していたあるいは相続・贈与で得た特有財産であるということを前提として、
配当金や不動産所得は特有財産から生じた法定果実であり、婚姻費用分担算定の基礎となる収入に入らないと言えるかです。
                                      
大阪高裁は、特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきとしました。
 
勿論、特有財産は、原則として財産分与の対象になりません。
共有財産か特有財産かの区別は財産分与の場面で出てくるものですね。
これに対して、婚姻費用の分担義務は、自分と同じ程度の生活を保持される義務(生活保持義務)の場面だと言われています。
今までの生活を維持する義務ですね。
そうであれば、その収入が特有財産から生まれたかどうかは基本的には関係ないですね
 
裁判所は、その上で、配当金、不動産収入を含めた収入を基に裁判所が算定した婚姻費用金額と、従前に妻に支払われたとされる生活費とが、近い金額であることから、同居中の生活費の原資には配当金、不動産収入も含まれていたと判断したようです。
結果として、婚姻費用分担額算定の基礎となる収入に配当金、不動産収入も含めました。
理屈としては少しわかりにくいなあとは思います。
 
ただ、実際にこの点が争われることはあまりない印象ですね。
偶発的、一時的な収入(例えば一過性の株式譲渡益や不動産売却益)は別として、現に収入がある以上は、婚姻費用分担額算定に当たって考慮されるという感覚の方が多いのではないでしょうか。
 
続いて、年金収入を算定表の給与収入に換算する場合の計算方法についての判断もありました。
 
標準的算定表というのをご存知でしょうか。離婚成立前の婚姻費用離婚成立後の養育費の相場が出されている表です。
実務上はこの算定表(ないしその基礎となっている算定式)が金額決定の基準となっています。
勿論、必ずしも算定表どおり決められるわけではありません。個々の事情を勘案して金額は決定されます。
ただ、ベースはこの算定表ないし算定式であることは確かです。
 
標準的算定表ないし算定式は、お互いの収入とこの年齢・数により金額を算定する仕組みです。
基礎となる収入については、給与収入と自営収入(所得)の2本立てとなっています。
複数の収入がある、あるいはそれと違った収入がある場合には、給与収入あるいは自営収入に換算して収入金額を一本化して計算する必要があります。
例えば、給与収入と自営収入がある場合、自営収入を給与収入に換算する際、算定表のだいたい同じところを参考に給与収入に換算するということが基本です。
もっとも、自営の経費をどこまで認めるかなど実際の当てはめは単純ではありません。
 
標準的算定表ないし算定式上、給与収入には職業費(経費だと思ってください)が収入の20%程度考慮されています。
一方、年金はただ貰うだけですから職業費がかかりません。
そこで、年金収入を給与収入に換算する場合のルールが問題になるのですね。
 
裁判所は、年金収入は職業費を必要としておらず、職業費の割合は給与収入の2割程度であるから、年金収入を給与収入に換算した額は、年金収入を0.8で除した金額とすると判示しています。
これが唯一の方法でないのですが、高裁の判断は割合重いものですね。
 
裁判例を見て他の点も気になりました。
 
まず、審判も抗告審も、算定表をそのまま引用して金額を決定しています。
調停では、算定表でだいたいこの辺だから〇〇万円ですね、という話がよく出ます。
一方、審判、訴訟になると、算定表の下になっている算定式を使って金額を算出するイメージがあります。
この事件では、裁判所は、算定表の〇万円から〇万円の帯の中辺りだから〇〇万円というような判断をしていました。
このようなパターンもあるのですねと再認識した次第です。
 
また、原審から、夫の婚姻費用算定の基礎となる給与収入の金額について経営会社から妻に対して支払われていた給与も夫の報酬と同視されて合計額が夫の給与収入とされているようでした。
一人会社であるという特殊性もあるのだろうと思います。
 
婚姻費用養育費の算定は、一見簡単なようですが、突き詰めると論点がたくさんあり、奥が深い問題です。
 
離婚婚姻費用養育費財産分与等、離婚問題のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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民法改正講座7 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
詐害行為取消請求の条文が続きます。
かなりの条文が新設されるなど、旧法では簡単だった詐害行為取消請求の条文が判例法理の明文化を中心に整理されています。
 
【詐害行為取消請求(民法424条)】
従来の詐害行為取消権が整理されました。
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができます。ただし、その行為によって利益を受けた受益者が行為の時に債権者を害することを知っていた時に限ります。
財産隠しや執行逃れ的な行為に対する債権者の対抗措置です。
最近は会社分割や事業譲渡などが対象とされることを見ますね。
破産手続における否認と同じ考え方です。
まず、詐害行為取消請求という名称になっていますね。
また、取消請求の対象が、法律行為から行為に変わっています。法律行為以外の債務承認や法定追認行為などの事実行為も取消しの対象となると考えられるからと説明されています。
さらに、3項で、判例法理に従い、債権者の有する債権(被保全債権)は詐害行為の前の原因に基づいて生じたものでなければならないことを明文化しています。
 
【相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(民法424条の2)】
新設規定です。
詐害行為取消請求における要件の「債権者を害する」(詐害性)の判断は難しいです。
相当の対価を得てした財産尾処分行為であれば財産がプラスマイナスゼロだから問題がないかというとそうではありません。
不動産をお金に換えると費消・隠匿しやすくなりますよね。
改正法では、判例などに沿って、相当の対価を得てした処分行為が詐害行為取消請求の対象となる要件を定めています。
①財産の種類の変更により隠匿、無償供与その他の詐害行為となる処分をするおそれを現に生じさせること。
②債務者が行為当時隠匿など詐害行為となる処分をする意思を有していたこと。
③受益者が、行為の当時、債務者がそのような意思を有していることを知っていたこと。
の3要件です。
破産法の否認権と同様に詐害行為取消請求の要件を明確化したと説明されています。
倒産危機にある会社のM&Aなど実務に影響がありますかね。
 
【特定の債権者に対する担保の供与等の特則(民法424条の3)】
新設規定です。
こちらも詐害行為取消請求の要件の明確化ですね。
不公平な弁済行為等を偏頗行為といいます。破産法における否認権の対象にもなりますが、同じように詐害行為になるのですね。
担保供与または債務の消滅行為(弁済など)は、
①債務者の支払不能状態の時に行われたこと
②債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと
が要件となり、詐害行為取消請求の対象となります。

それらの行為が、債務者の義務に属さず、または時期が債務者の義務に属しない場合には(繰り上げ返済などですね)、
①支払不能前30日以内に行われたこと
②債務者と受益者の通謀
という緩和された要件で認められます。

経済的危機状態においては、債権者平等という観点も考慮しないといけません。特定の債権者(仲間内や親族など)に優先的に有利な行為をすると、詐害行為取消請求や否認権の対象となりうるのです。
 
【過大な代物弁済等の特則(民法424条の4)】
新設規定です。
こちらも詐害行為取消請求の要件の明確化ですね。
代物弁済という言葉をご存知でしょうか。
典型的なものは、金銭債務の弁済として金銭を弁済する代わりに不動産や物を譲渡する行為です。
弁護士も和解の際などで使うことがあります。
債務の額と物の価値がぴったり一致することはなかなかないですね。代物弁済はそれでも有効です。
ただ、過大な代物弁済をすると他の債権者が害しますね。
そこで、詐害行為取消請求の要件に該当する場合は、消滅した債務額を超える部分については詐害行為取消権を請求できると規定しています。
破産法と同様の考え方です。
 
【転得者に対する詐害行為取消請求(民法424条の5)】
新設規定です。
詐害行為により処分された不動産が転々流通することはありますね。
不動産などはあまり動かないように思いますが、詐害行為のようなケースでは、様々な登場人物が出てきて所有権が転々することも珍しくありません。
転得者に対する詐害行為取消請求の要件を整理しています。

①受益者に対して詐害行為取消請求をすることができること。
②各転得時に転得者(その前に転得したすべての転得者)が債権者を害すべき事実を知っていたこと。
を要件としています。

判例の考え方が一部変更されていますのでご注意を。
要件が厳しくなりました。
 
ほかにも詐害行為取消請求の条文が続きますが、ごく簡単に済まします。
 
【財産の返還又は価額の償還の請求(民法424条の6)】
新設規定です。
判例法理に従って詐害行為取消請求の効果が整理されています。
取消しだけではなく財産の返還も請求することができ、返還が困難である場合には価額償還を請求することができます。
 
【被告及び訴訟告知(民法427条の7)】
新設規定です。
詐害行為取消請求の被告は、受益者または詐害行為取消請求の相手方たる転得者です。
債権者は、訴訟提起したときは、遅滞なく、債務者に対し訴訟告知をしないといけないと規定されました。債権者代位訴訟と同じ趣旨で、債務者の手続き関与の機会を与えるためです。
 
【詐害行為の取消の範囲(民法424条の8)】
新設規定です。
判例法理を明文化しています。
詐害行為取消請求の対象詐害行為の目的物は可分であるときは自己の債権(被保全債権)の額の限度においてのみ取消しが可能ということですね。
 
【債権者への支払又は引渡し(民法424条の9)】
新設規定です。
判例法理上、債権者は、受益者または転得者に対し、目的物の返還ないし価格償還請求に際し、自己に対する支払あるいは引渡しを請求することができました。それが明文化された形です。
債務者に対する返還を求められるだけではないのですね。
取消権なのに自己に対する支払い等請求ができる点が債権者取消請求権が債権回収の強力な武器である所以です。
 
【認容判決の効力が及び者の範囲(民法425条)】
詐害行為取消請求を認容する判決の確定判決の効力は債務者にも及ぶことが明記されました。
 
【債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利(民法425条の2)】
新設規定です。
詐害行為たる処分行為が取り消された場合、受益者は、債務者に対して反対給付返還請求権があることを明記しています。
民法425条の4にて転得者の場合も同様に規定されています。
 
【受益者の債権の回復(民法425条の3)】
新設規定です。
詐害行為たる債務消滅行為が取り消された場合、受益者の債権者に対する債権は原状回復する旨が明記されました。
民法425条の4にて転得者の場合も同様に規定されています。
 
【詐害行為取消権の期間の制限(民法426条)】
詐害行為取消請求は、詐害行為を知った時から2年以内に、かつ詐害行為の時から10年以内に、訴訟提起しなければいけません。
除斥期間・出訴期間とされており、時効と異なり中断事由がありません。
 
以上が、詐害行為取消請求のお話でした。
 
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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民法改正講座6 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
まずは、損害賠償の範囲の話です。

【損害賠償の範囲(民法416条)】
債務不履行に基づく損害賠償の範囲の規定です。
損害賠償は通常損害と特別損害に分かれます。
債務不履行によって一般的に生ずる損害を通常損害、特別の事情によって生じた損害は特別損害ですね。
例えば、債務の履行がされないことによって、債権者の転売利益も失った場合、転売利益は特別の事情によって生じた特別損害と言えるでしょう。
旧法では、特別損害は、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときに損害賠償の対象となる旨規定されていました.
新法では、「当事者がその事情を予見すべきであったとき」という表現に改められました。
具体的な当事者の現実の予見あるいは予見可能性という事実問題ではなく、べき論として予見すべきであったかという規範的評価の問題である旨が明記されたと説明されています。
訴訟で争うときは、微妙な問題なのですが、形式上は、新しい条文に沿った主張をすることになります。
 
【中間利息の控除(民法417条の2)】
新設規定です。
損害賠償額の算定に当たり、将来において取得すべき利益についての損害賠償(逸失利益)、将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定めるにあたっては、中間利息の控除がなされます。
将来の利益を現在に賠償してもらうのですから、あるいは将来の費用を現在に賠償してもらうのですから、将来の利息分は控除するという考え方です。
お金は置いているだけで利息相当額の利益が生まれるという考え方ですね。先に貰うなら利息相当部は控除しないということです。
それが条文上明記されました。
損害賠償請求権が生じた時点の法定利率により中間利息を控除するとされています。
実務上、ライプニッツ係数などを使って計算していた分野です。
なお、法定利率が5%から3%に引き下げになります。
単純に考えて、控除される利息額が減り、その分現在の損害賠償額が高額化します。
 
 
【賠償額の予定(民法420条)】
契約により当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます。
所謂、違約金条項ですね。
旧法では第1項に、裁判所はその額を増減することはできない旨、誤解を招く文言がありましたが、改正により削除されました。
違約金条項は公序良俗違反等で無効になり得ますし、一部無効も考えられ実質減額ということもあり得ますからね。
 
【代償請求権(民法422条の2)】
新設規定です。
債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務者がその債務の目的物の代償である権利または利益を取得した場合には、債権者が当該権利の移転または利益の償還を求めることができるという代償請求権を判例が認めていました。
明文規定がなかったため新設されました。
目的物が滅失した場合の損害保険金が典型例でしょうか。
 
ここからは債権者代位権の条文の紹介が続きます。
 
【債権者代位権の要件(民法423条)】
債権者代位権をご存知でしょうか。
債権者が債務者の資力がない等により債務者の財産保全が必要と認められる場合に、債権(被保全債権)を保全するため、債務者に代わって(代位して)、債務者の権利(被代位債権)を行使する制度です。
実務上そんなに使うことはないですが、よく使う代位登記は似たような考え方に基づきます。
改正により次のとおり要件が整理されました。
 
差押えを禁じられた権利は代位行使できないことが明記されました。債権者があてにする責任財産ではないから当然ですね。
例えば年金受給権です。
 
強制執行により実現できない債権を被保全債権として債務者の権利を代位行使できないと明記されました。
債権者代位権は強制執行の準備として責任財産を保全する制度という建前なので。
 
なお、被保全債権が期限未到来の場合の裁判上の代位の制度は廃止されました。
 
【代位行使の範囲(民法423条の2)】
新設規定です。
判例法理に従い、債権者は被保全債権の範囲でのみ被代位債権を行使できること、すなわち金銭のように被代位権利の目的が可分であるときは、代位債権者は自己の債権の額の限度においてのみ権利を行使できることが明文化されています。
当然ですね。
 
【債権者への支払又は引渡し(民法423条の3)】
新設規定です。
債権者代位権は、債権回収の観点からは、非常に強い効力のある権利です。
金銭請求権、動産引渡請求権を代位行使した場合、相手方(第三債務者)に対し、自分に対する支払い、引き渡しを請求することができるのです。
確実に債権回収が図れますね。しかも、差押えと異なり他の債権者の介入もありません。
このことは判例で認められていましたが、それを明文化しています。
 
【相手方の抗弁権(民法423条の4)】
新設規定です。
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる、と規定されました。
これも判例法理の明文化です。
抗弁とは、権利の実現を阻む相殺や同時履行などの主張ですね。
非代位権利の債務者は、債権者代位権の行使によって不利な立場に置かれる謂れはありませんから、当然ですね。
 
【債務者の取立てその他処分の権限等】
新設規定です。
判例法理と異なる規定という点で珍しいですね。
判例法理では、債権者が債権者代位権を行使し債務者がそれを知った時には債務者は被代位権利の処分権限を失うとしていました。
これに対しては、債権者代位権は債務者が権利を行使しないときに限って認められるべき、債権者は仮差押えや差押等の保全・執行手続により債務者の処分権限を奪うべき等の反対がありました。
新法は、債権者代位権が行使されても債務者は被代位権利について自ら取立てその他の処分をすることができる。相手方も債務者に対して履行することができると規定しています。
これにより債権者代位権の効力が弱まったと思います。
訴訟をしてもその間に債務者が権利を処分すれば無駄になりますね・・・
 
【被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(民法423条の6)】
新設規定です。
債権者が被代位権利の行使に係る訴えを提起した時は、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない、とされました。
債権者代位訴訟の判決の効力は債務者にも及びます。
難しい言葉で、法定訴訟担当という概念があります。
そうであれば、債務者に債権者代位訴訟手続きに関与する機会を与える必要があります。
そのため、このような規定が新設されました。
 
【登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権(民法423条の7)】
新設規定です。
弁護士がよく接する場面ですね。
解釈上認められていた登記または登録請求権を保全するための債権者代位権が明文化されました。
 
今回はここまでです。

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
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訴訟を提起された場合と自己破産 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
債権者に訴訟を提起されたこと(支払督促が申し立てられたこと)をきっかけに債務整理のご相談に来られる方がいらっしゃいます。

また、自己破産を選択して受任通知を出した後に、債権者から訴訟を提起されるケースもあります。

今回は、そういった自己破産と訴訟との関係をお話しようと思います。
 
まず、債権者に訴訟を提起されたこと(支払督促が申し立てられたこと)をきっかけに債務整理、特に自己破産を決意される場合です。
 
基本は、急いで受任通知を送ります。
また、訴訟の場合には裁判所には委任状と答弁書、支払督促の場合は異議申立書と委任状を送ります。
いずれも期限があるので気を付けてください。支払督促の場合は特に短いです。

そうすれば、債権者が訴訟(支払督促の場合は異議申し立てによって訴訟手続に移行します)を取り下げてくることが多いです。

取り下げない場合には、急いで自己破産申立を行います。
通常は債権調査を行うのですが、それを省いてでも早く申立てることが多いです。
また、家計収支表は、広島本庁では2ケ月分必要ですが、申立てを急ぐ場合には1か月分でいいこととされています。
 
どうして急ぐかというと、強制執行が怖いからですね。
特に給与等差押えです。
理屈上、破産開始決定を得ると債権者は判決を取っても強制執行ができません。
債権者が破産申立の事実を知ると、通常は訴訟を取り下げます。
訴訟をできるだけ時間稼ぎしておいて、その間に自己破産申立てを急ぎ、早期に破産開始決定を取ることを考えるのです。
 
勤務先を債権者が知らない場合には、通常調べることはできないですし、調べる手間もかけません。
その場合には、預貯金の差押えが怖いぐらいでしょうか。動産執行などは原則してきません。不動産がある場合には差し押さえられても直ちに換価されるわけではないので、自己破産を考えている限りでは、あまり怖くありません。

預貯金で困るのは、給与口座、年金口座、生活保護受給口座の差押えですね。
年金、生活保護を受ける権利自体は差押え禁止財産ですが、入ってくる口座自体は差押えが可能です。それが有効かどうかはまた別の議論があり争うことができますが、お金が一時的にでも引き出せなくなることには変わりがありません。
債権者が債務者の預金口座の所在を調べられるわけではありません。債権者に振り込んだ銀行・支店名、融資金を振り込んだ口座ぐらいしかわかりません。
ただ、ゆうちょ銀行口座と自宅近辺の代表的な金融機関の支店へ差押えをかけてくることがあります。
遠方の銀行あるいは支店であれば債権者の差押えがヒットしないでしょう。
年金受取口座等を念のため変更してもらうことがあります。

やはり、訴訟提起、支払督促申立てがなされている場合には、申立てを急いだ方が無難でしょう。
 
これに対し、弁護士が受任通知を出した後に、訴訟提起をしてくる債権者もいます。
 
典型的なケースは、自己破産申立て準備が遅れ、債権者が待ちきれずに訴訟提起をしてくる場合です。

受任通知から数か月経つと、債権者から進捗確認の連絡が弁護士宛に来ます。
それでも申立てがなされずに半年を優に超えるような状態になると、債権者から法的手続を進めるとの連絡が来ます。
当然、弁護士も依頼者様に準備を促すのですが、中にはなかなか連絡が取れなくなる方もいらっしゃいます。

急かされて準備を頑張ってくれる方は急いで申立てをするのですが、準備を進めてくれないあるいは連絡が取れなくなる方については、弁護士も辞任をすることになります。

弁護士が辞任をすると、期限の利益が喪失された(一括請求されて遅延損害金も発生している)状態で、代理人がいないことになります。督促もされますし、訴訟提起もされます。
自己破産の申立て準備を遅らせることは百害あって一利なしなので、お気を付けください。

勿論、敢えて申立てを遅らせる必要があるケースでは、きちんと債権者に弁護士が説明をします。たいていの債権者は待ってくれます。
 
ところが、中には、受任通知後間もないのに訴訟提起をしてくる債権者もいます。
2,3社の名前が挙がりますが、具体名はここで挙げません。

債権者がそのような対応を取った場合には、できるだけ訴訟の進行を遅らせ、その間に自己破産申立て、破産開始決定を取るほかありません。
受任通知後1~2か月で訴訟提起をされたことが2回あります。
債権者にとっても自己破産されてしまうと訴訟費用と手間が無駄になるだけだと思うのですが、特定の債権者はそのような対応をすることがあります。
 
債権者から訴訟が提起された、あるいは支払督促の申立てがなされたときは、他の督促状や訴訟予告と異なり、裁判所から書類が来ます。
裁判所から書類が届いたら、すぐに、弁護士に相談する、あるいは依頼している弁護士に渡す必要がありますね。
 
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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債務免除益の課税区分 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
経営者などの個人が会社に対する債権について会社に債務免除を行うことはよくあります。
決算書の見栄えをよくするため、あるいはM&Aの下準備として、個人の会社に対する貸付を放棄することはよく見ますね。
 
債務免除益も原則として課税の対象となることは争いがありません。
数千万もの会社に対する貸付金を免除すると同額の益金が会社に発生します。
繰越欠損が潤沢にあり課税がなされない、あるいは高額な税金がかからない場面に限って考えることでしょう。
 
その逆、会社から個人に債務免除を行うことはあまりないかもしれません。
ただ、法人から経営者の離婚、相続対策の前提で行うことなど、いろいろな場面で考えることができると思います。
 
その場合に債務免除益を受けた個人の税金は所得税ですね。
所得税には、法人税と異なり、所得区分という問題があります。
所得税課税がありますよという注意だけではなく、所得の種類を考える必要があるのです。
法人から個人が受けた贈与は、一般的には、一時所得か、個人が役員・従業員の場合には給与所得になる、というイメージなのではないでしょうか。
私も、広島大学のロースクールにて(租税法を教えています)、法人からの贈与は一時所得か給与所得だよ、と教えています。
 
ちなみに贈与税は、個人から個人への贈与の場面での課税です。
 
法人から個人に対する債務免除について、債務免除益の所得区分が争われた地裁の裁判例を目にしましたので投稿します。
 
金融機関が、賃貸用の建物の建築資金とするための借り入れの返済に充てられた借入金の債務免除、農業用機械の購入資金とするための借入金の借り換え等にかかる債務の返済に充てられた借入金の債務免除、をおこなった事案です。
事案自体は特殊かもしれません。
 
納税者たる個人は、債務免除益を一時所等として申告したんですね。まあ、無茶な申告ではないと思います。
しかし、課税庁は、借入れ目的に応じて、事業所得、不動産所得、一時所得に該当するとして更正したのです。
 
所得税は所得区分に応じて税金のかけ方が違います。
一時所得は所謂2分の1課税の所得区分ですので税金が安いのですね。
更正により、当然税金が上がります。過少申告加算税賦課決定も合わせてされています。
裁判の事件名は、所得税更正処分等取消請求事件です。「等」の中に過少申告加算税賦課決定も入っています。
 
裁判所は、
所得区分の判断にあたっては、当該所得の内容及び性質、当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断される、
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、当該借入金の目的や債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断することが相当である、
とします。

そして、
不動産貸付業務に充てるため、あるいは農業用機械の購入資金に充てるための借入金の債務免除益は、不動産所得あるいは事業所得に該当するとしました。
それぞれ、不動産貸付業務あるいは事業遂行による収入ということができるからということのようです。

また、不動産貸付業務、事業の運転資金的性質を持つ借入れの返済に充てられた部分の借入金、借換資金、及びその債務免除益も同様の性質を有するとしています。

勿論、不動産所得あるいは事業所得に該当する以外の債務免除益は一時所得とされました。
 
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、借入金発生原因をよく吟味しないといけないということですね。
債務免除益は、単なる法人から個人への贈与とは場面が異なるのかもしれません。
こういう裁判例がある以上、債務免除益は法人からの受贈益として一時所得でいいのではないか、と簡単にお話することはできませんね。
 
顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。
 
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自己破産か、個人再生か、任意整理か [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
弁護士会で若手会員相手に個人再生委員研修の講師をすることとなりました。
個人再生委員の話だけではなく個人再生を申し立てたことがない会員向けに個人再生手続のポイントも講義する予定です。
そういうわけで、改めて債務整理の手続選択について考えてみました。
個人でいうと、自己破産か、個人再生か、任意整理かの選択ですね。
以前のコラムでも何度か書いた気もしますが、あらためて整理いたします。
 
債務整理の手続選択は、借金の額、借金の内容、収入(弁済原資)、保有財産、職業等をいろいろ考えて行います。
オーダーメイドで考えないといけません。
 
まずは、借金の額と収入の関係ですね。
借金総額(住宅ローンは除きます)を36回(3年)で支払うと仮定して、収入からその金額を毎月支払うことができるかどうかを考えます。
それが支払えない状態でしたら、借入元本をカットできる個人再生、自己破産という法的整理手続を考えます。
逆に支払えるのであれば任意整理で十分ということです。資金繰りの問題だけ解決すればいいケースです。
 
勿論、支払えない状態であっても、法的整理をすることに躊躇するケースもありますね。
親戚が保証人になっていて迷惑がどうしてもかけられない、ローン付の車を維持しないと生活できない、勤務先から借入れがある等々色々な事情があります。
 
任意整理でも、債権者にきちんと説明して納得してもらえたら5年間あるいはそれ以上の弁済期間での和解も不可能ではありません。
5年ぐらいであると割合簡単にOKがもらえるでしょうか。
そこで、法的整理を避けたいケースでは、和解できそうな弁済期間での弁済が可能な限りで、任意整理を選択することはあります。
 
ただ、長期間にわたってギリギリの弁済を続けていくことは危険ですし非常に苦しいですね。
また、弁済途中で頓挫してしまえばその際には自己破産等を選択せざるを得ず、それまでの苦労が無駄になることもあります。
初めに自己破産していれば弁済分は貯蓄で残ったかもしれません。
さらに、長年にわたって借金返済のために働くよりも今後の生活のために少しでも貯蓄をしてくことが望ましいのは言うまでもありません。
ギリギリの弁済計画だと、支払い完了時には財産がゼロということになります。
無理をして任意整理を選択しようとされる方には、ここら辺をお話して、その上で決断してもらいます。
 
勿論、条件が揃えばですが、法的整理を選び難い原因をクリアしつつ自己破産、個人再生を選択することがあります。
敢えて偏頗弁済をする、車を親族が買い取るなどですね。
自己破産手続、個人再生手続においてそれらの行為が問題になるとしても、結果的にはベストな選択になることも正直あります。
弁護士の腕の見せ所でしょうか。
当然のことですが、弁護士の助言の下で進めてください。
 
法的整理を選択する場合、個人再生か自己破産かの選択が残りますね。
 
財産もない、他の問題もないということであれば、自己破産を勧めます。
 
個人再生ができる借金額の場合はたいてい自己破産もできると思います。
破産は支払不能、個人再生は支払不能のおそれが要件ですが、弁護士は受任通知を出すと期限の利益は喪失されるので、たいてい支払不能と説明がつきます。
債務整理を決断されたのであれば、できればすべてリセットして、経済的に立ち直ってもらいたいです。
 
一方、自己破産ではなく個人再生を選択しないといけないケースもありますね。
 
自宅不動産を維持しないといけない場合には、個人再生しかありません。
住宅資金特別条項を利用した個人再生ですね。ただし、利用できる要件があって、借入の仕方、担保の付き方によっては利用できない場合もありますのでご注意を。
住宅ローンを控除しても不動産価値が数百万円残るような場合には手続を進めることは難しいです。その場合には別の方策を考えるしかありません。
なお、自己破産申立て前に親族に不動産を売却して自宅を維持して自己破産をしたというケースもあります。売却にあたっては弁護士がきちんと関与しました。
 
職業の関係で個人再生を選択するケースもありますね。
自己破産では一部の職業について制限があります。よく見ることがあるのは、保険外交員、警備員でしょうか。
個人再生では職業制限がないので、そのような職業の方は個人再生を利用するということです。
 
数は多くないですが、自己破産を申し立てた場合の免責不許可事由の程度がかなり重くて(これは破産管財人をやっている弁護士に判断してもらってください。)、とても免責許可が得られそうにない場合も、個人再生を選択しますね。
免責不許可事由の程度がある程度という場合であれば自己破産でもかまわないです。
よほどでないと免責不許可にはなりません。
ただ、ある程度の免責不許可事由が存在する場合、管財事件になる可能性を見越して、無難に個人再生を選択することも珍しくはありません。
 
後は、大きな保険など、特に維持したい財産がある場合も個人再生を選択するでしょうか。
自己破産では、自由財産あるいは自由財産拡張対象の範囲を超える財産は処分をされてしまいかねません(超える分のお金を別途用意する方法もありますが)。
個人再生であれば、清算価値が上がって最低弁済額が大きくなるだけで済みます。
 
特殊な例であると、自己破産の免責決定確定後7年以内の場合には、自己破産を申し立てても原則免責を受けることができません。個人再生を選択しないといけませんね。
その場合、個人再生でも給与所得者等再生は利用できません。小規模個人再生のみになります。
なお、過去の個人再生においてハードシップ免責確定後7年以内、給与所得者等再生の再生計画認可確定後7年以内の場合も小規模個人再生しか選択できません。
 
一方、個人再生での計画弁済額も支払い続けることはできないケースでは、自己破産を選択しますね。
 
上述のいずれにも該当しない場合には、基本的には自己破産でも個人再生でもいいということになります。
 
経済的更生の観点からは自己破産ができるのであれば自己破産の方をお勧めしたいところですが、依頼者の中には、自己破産は潔しとせず、個人再生を望まれる方もいらっしゃいます。少しでも返済をしたいという思いから個人再生を利用するケースがあります。
 
以上、五月雨式ですが、自己破産、個人再生、任意整理の選択についての考え方をお話ししました。

これまでお話したほかにも、債務整理の手続選択には様々なことを考慮する必要があるのは当然です。ケースバイケースの判断になりますからね。

皆さんご事情は異なります。生活状況等も含めて、じっくりお話をしないと決断できないケースも珍しくありません。

債務整理をして経済的更生を図ると決断していただいた以上、できるだけ良い方向で進めたいです。手続選択を誤ると非常にもったいないですね。
 
債務整理の際には、是非、信頼できる弁護士と話し合って、納得できる手続選択をしてください。
 
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民法改正講座5 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。

まず、法定利率が変わります。 
【民法404条(法定利率)】
利息を生ずべき債権について利率に関する合意がない場合には、その利息が生じた最初の時点における法定利率が適用されます。
勿論、無利息貸付等、無償での債権も存在します。
個人間の貸付について「これまでの利息は請求できないのか。」と、質問を受けることがあります。
しかし、利息が生ずべき債権ではない限り、法定利率で利息を請求することができません。
遅延損害金は約束がなくとも請求できますが、利息は約束がないと請求できないのです。
貸付であれば、利息が発生することが契約書に明記される等が必要です。
 
法定利率が、5%⇒3%となりました。
近時の低金利に合わせた形です。それでも高いような気もするかもしれません。
 
かつ、法定利率が、3年毎の見直しにより変更されることになりました。
過去5年間の短期貸し付けの平均利率として法務大臣が告示する基準割合を基準にして調整する形です。条文を見てもイメージが湧き難いところです。慣れないといけませんね。
ただ、1%未満の端数は切り捨てる調整ですので、簡単に変動するわけではありません。
 
あわせて商事法定利率6%の商法規定が削除されました。商人が貸すのと個人が貸すのとでは異なった利率だったのですが、統一されます。
施行後は、弁護士が訴状を書く際に、商事利率が適用されるか民事法定利率が適用されるか悩まなくてもよくなります。
 
金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)では、利息の支払合意があるのであれば利率に関する合意も当然ありますよね。
利息の支払い合意がなければそもそも利息は発生しないことは上述したとおりです。
法定利率はあまり関係がないじゃないかと思われるかもしれません。
 
実は、法定利率は実はいろいろなところで出てきます。
遅延損害金の利率や、不当利得の悪意の受益者に対する利息、損害賠償請求権の行使の際の中間利息の控除にも影響を及ぼします。
弁護士も訴状にて法定利率を請求することが多いのです。
特に中間利息の控除の考え方は損害賠償以外でも利用されます。要するに現在価値の計算ですからね。影響が大きいのではないでしょうか。

次に履行不能のお話です。履行ができない債務を内容とする契約をした場合ですね。
 
【履行不能(民法412条の2)】
1項 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
 
履行不能に関する新設規定です。
1項では、履行不能の効果として、債権者が履行請求権を失うことが明文化されました。
考え方は変わっていません。履行が不可能で会ったら履行を請求しても意味がないですからね。勿論、履行を不能にした責任のある当事者は損害賠償義務を負います。
 
2項では、契約のはじめから不能であった場合(「原始的不能」といいます。)でも、契約は有効に成立したとの前提で、債務不履行による損害賠償請求が可能であることが明文化されました。
従来は原始的不能の場合には契約が無効である、そのため給付すべき者に過失がある場合には契約締結上の過失責任として損害賠償責任が生じうるとされていました。
しかし、契約締結上の過失責任は、債務不履行責任と異なって、履行利益の賠償が含まれていない信頼利益のみとされています(儲けがなくなった損とイメージすればわかりやすいでしょうか)。
履行利益、信頼利益は、弁護士泣かせの概念で、具体的事案に当て嵌めると非常に判断が難しい場合もあります。
原始的不能か後発的不能かの違いは偶然の事情によるのに損害賠償の範囲が違うとおかしいということで、効果を同じにしたようです。
 
続いて受領遅滞のお話です。債務の目的物の受取を拒んだ場合等ですね。

【受領遅滞(民法413条)】
受領遅滞という言葉をご存知でしょうか。
履行の提供をする側が怠った場合は履行遅滞ですね。わかりやすいです。
その反対に履行の提供を受ける側が受けなかった場合が受領遅滞です。
受領遅滞の効果が整理されています。
そんなことあるのか、と思われる方がいらっしゃると思います。
契約内容に争いがあるなどの思惑があって履行の提供を受けないことは珍しくありません、弁護士はけっこう出逢う事態です。
 
まず1項で、受領遅滞の効果として、債務の目的物が特定物の引渡しであるときは、履行の提供後は「自己の財産に対するのと同一の注意」をもってその物を保存すればいいとされています。
特定物ではなく種類物が目的の場合(例えば缶ジュース)には、保存ということ自体考えられないですね。
ただ、実務上は、いつの時点で特定物になるかは難しいところです。汎用性がある物も(これは種類物といいます。)、どこかの過程で特定されることになりますね。
「自己の財産に対するのと同一の注意」は善良な管理者の注意(善管注意義務)を軽減する際に使われる言葉です。保存義務の程度を軽減する意味です。少し乱暴かもしれませんが、軽過失があっても責任が生じるのが善管注意義務、そうではないので自己の財産に対するのと同一の注意というイメージでしょうか。
 
次に2項では、履行に要する費用が増えた場合には、増加額は債権者の負担とすることが明文化されました。
 
【履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由(民法413条の2)】
新設規定です。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能となった場合、履行遅滞の間であれば債務者の責めに帰すべき事由によるもの、受領遅滞の間であれば債権者の責めに帰すべき事由によるもの、と各みなすとされています。
従来の考え方を明文化したものです。

今回のお話した内容は実務にも影響がある改正点かと思います。
 
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
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