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旧コラム 不動産問題

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不動産を利用した節税スキームの法的リスク【不動産問題】

弁護士の仲田誠一(なかた法律事務所、広島市)のコラムです。

相続税対策のために不動産を購入するということは銀行やディベロッパーなどから日常的にセールスされます。そのような動産を使った相続税対策が否認された事例(ニュースにもなった事例です。)の控訴審判決がありました。今回は、そのご紹介を兼ねて不動産を利用した節税スキームの法的リスクについてお話します。

目次
Ⅰ 不動産を利用した節税スキーム
Ⅱ 第一審判決の内容
Ⅲ 控訴審判決の内容
Ⅳ まとめ

Ⅰ 評価と価値の違いによる節税スキーム

1.不動産の相続税評価
まずは前提のお話です。
相続税法によると、相続税の算定の基礎となる相続財産は時価評価されます。現預金は額面そのままが評価額です。
一方で、不動産については財産評価基本通達に則って、土地については路線価ベース、建物については固定資産評価ベースでの評価がなされます。
通達は法律ではないのですが、画一的・大量的処理の便宜、公平な課税の観点から、通達による評価は合理的なものとして許容されています。

2.節税スキーム
路線価、固定資産評価は市場価格よりも低く設定されています(一般的には、前者が8割、後者が7割と言われています)。
さらに、土地については貸家建付け地評価等、建物については減価償却等により評価額を下げることができます。
1億円を現金で持つよりも市場価格1億円の不動産を持つ方が、相続時の評価が低くなり、相続税の節税ができるわけです。借入れによる不動産投資も同じ節税効果があります。

ちなみに、タワーマンションの高層階については、固定資産評価と資産価値の乖離が大きいことから(平成29年税制改正までは高層階と低層階が同じ評価でした)、特に節税効果が高いとして人気です(税制改正により上記乖離を是正する措置がとられましたが必ずしも十分ではないようです)。


Ⅱ 節税スキームが否認された第一審

1.事例の内容
不動産を使った一般的な相続税対策に対する否認が裁判所により是認されたのが東京地裁令和2年11月12日判決でした。
事例は次のようなものです。
被相続人は89歳で死亡しました。肺がんに罹患していることが発覚し、銀行の薦めで亡くなる直前に借入れにより多額(15億円)の収益不動産を購入しました。相続人らは、財産評価基本通達にしたがって不動産を評価(約4億8000万円)し相続税を申告しました。
ところが、課税庁は、財産評価基本通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」を適用し、不動産鑑定士の鑑定評価により不動産を評価(10億4000万円)しました。
そして、更正処分および過少申告加算税賦課決定処分が出されたという事案です。

2.判決内容
納税者は当然怒ります。いつもは通達どおりの評価で何も言われないのに、今回だけ不意打ちですね。不平等感もあります。
しかし、判決は次のとおり課税庁の処分を是認しました。
評価通達による課税は、その定めが時価算定方法として合理性を有するものである場合には、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減といった観点から相当である。しかし、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるといえるような「特別な事情」がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許される。本件には特別な事情が認められ、かつ課税庁の不動産鑑定評価は合理的な方法だった。


Ⅲ 控訴審判決の内容

1.控訴審の判断
控訴審はどうだったでしょうか。残念ながら納税者が負けました。東京高等裁判所令和3年4月27日判決です。
「租税平等主義の観点に照らして、租税負担の実質的公平を著しく害することが明らかな場合まで、評価通達の定めにより評価すべきものではないし、そのような場合について評価通達の定めによらないで個別に財産を評価したとしても租税法律主義に違反するとうことはできない。」などとして控訴を棄却しました。

2.コメント
憲法上、租税法律主義が定められています。課税は法律に依らなければなりません。相続税法には時価評価をすると定められていますから、鑑定評価による評価は当然に合理的な時価評価と見られますね。かつ、通達による課税は禁止されています。通達に従ったにもかかわらず否認をされたという事例には法律違反はありません。結局、納税者が文句をいうには、自分だけ通達評価を否定されることは憲法で定める平等主義(租税公平主義)に反するとの主張に帰結してしまいます。
判示のとおり、平等主義には形式的平等と実質的平等の2つの相反するかのような原則が含まれます。裁判所は、実質的公平を害してまで形式的平等を貫く必要はないと判断したのですね。
租税法律主義の観点からは、仕方がない判断なのでしょう。


Ⅳ まとめ

1.本事案の捉え方
本事案は、評価通達による評価が鑑定評価の2分の1未満という極端な乖離があり、かつ多額の節税効果のあったというレアケースかもしれません。しかし、そもそも不動産を利用した相続税対策のスキームは、市場価格より相続税評価が低いことを前提にしています。否認しようとすれば簡単かもしれません。評価通達を無視した更正処分が一般化すると、影響は大きいです。

2.今後の対応
今後は前記「特別な事情」がどの程度であれば認められるかが焦点となります。事例判断の蓄積を待つほかないですが、現段階では余り極端なことはしない方がよろしいでしょう。節税スキームには、常に否認リスクが存在することをご注意ください。


弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格その他
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)

筆界未定地の解決【不動産問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
今回のコラムは、不動産問題コラムとして、筆界未定地あるいは筆界未定区域の解説をさせていただきます。筆界未定区域で地図が作成されていないケースでは売買や銀行への担保差し入れに支障があります。
境界を画定して地図を作成したいという相談をうけ、訴訟にて解決したこともあります。その経験も踏まえた解説をさせていただきます。

目次

筆界未定地
法務局備付地図
筆界未定地の問題点
筆界未定地の解決策
訴訟による解決の流れ
解決の準備
費用
まとめ

筆界未定地

1.筆界未定地とは

筆界未定地(筆界未定区域)は、地籍調査の結果、土地の筆界(境界のことです)を確認できずに筆界未定地として処理された土地(地域)です。
地積調査では筆界確認調査も行うことになっておりますが、地積調査の結果として筆界が確定できない場合、その区域を筆界未定地としておき、地図作成を完了させるのです。
法務局地図作成事業にて地図の整備がなされる中で筆界未定処理がなされることもあります。

1つの土地について境界が筆界未定あるいは所在不明となると隣地土地全てが筆界未定地となってしまいます。

筆界未定地以外では1つの土地ごとに境界線が入っており、各1筆に1つの地番が記載されています。
これに対し、筆界未定地では、個々の土地に境界線が引かれず、筆界未定地が一体として一区画のように記載されます(地図を見ると筆界未定地だけが白く浮かんだように見えます)。そして、一体の筆界未定地には、地番表示として(〇〇+〇〇+・・・・)と筆界未定地内の土地地番が連記さます。地図上で当該土地の所在が確認できない状態になっているのです。

2.筆界未定地の発生原因

筆界未定地作出の発生原因は次のとおりといわれています。要するに、調査時に筆界(境界)を確認できなかった理由ですね。
①調査時に境界について紛争があった
②調査時に土地所有者の立会いがなかった
③調査時に所在が不明の土地(地番)が存在した
などが原因といわれています。

法務局備え付けの地図

1.法第14条地図とは

不動産登記法第14条により、登記所には地図を備え付けるものとされています。
一般に法務局に備え付けられている地図を公図と呼びますが、その中には、法第14条地図と地図に準じる図面があります。

昭和35年の不動産登記法改正に伴い法第14条地図の制度が設けられてから、作成されて備え付けられた地図が、法第14条地図です。
法務局作成の地図、国土調査の成果による地積図等、筆界確認、測量に基づいて作成されていますので、基本的には正確な地図です。

2.地図に準ずる図面

一般に法務局に備えられている地図(一般にいわれる公図)のうち、法14条地図以外の、地図に準ずる図面を特に公図と呼びます。

法第14条地図の制度が創設されましたが、地図作成事業は簡単ではなく費用と時間もかかるため、なかなか日本全土で地図を作成するまで至りません。そこで、法務局がそれまで保管していた法第14条地図以外の地図を、法第14条地図が備え付けられるまでの間、地図に準ずる図面として備え付けられることにしたのです。
地図に準ずる図面は、古く、かつ土地台帳付属地図等税金を算定するための資料であることが多いので、あまり正確ではないといわれています(団子図であったり、実測よりも狭くなっているなど)。
いい加減な公図を是正しないままに造成や売買を繰り返した結果、公図と現況が一致しない公図混乱地域、地図混乱地域も多く出現しています。登記上の地番が現地で対応しない、同じ地番の重複登記があり関係がわからない、そもそも地権者がわからない等の問題が生じています。
公図は境界確定の有力な資料ですので、その公図がいいかげんであると、境界確認、地図作成は大変です。

法務局による14条地図作成事業や国土調査法に基づく地籍調査等により是正がなされつつありますが、まだまだ時間がかかるようです。
法第14条地図の有無は不動産の資産価値にも影響しますので、早く是正がなされることを願います。

筆界未定地の問題点

1.手続上の問題点

筆界と所有権は直接の関係がありません。筆界未定であっても所有権は認められます(ただし、所有権を訴訟で確認する必要がある場合があります)。

筆界未定地では手続上、直接に困ることがあります。
原則として、
①分筆・合筆登記ができない、
②地積更正登記ができない、
③地目変更登記ができない、
ということになっています。

2.事実上の問題点

筆界未定地でより深刻な問題となるのは、事実上の問題です。

①売買することが非常に困難
不動産は、現況と登記簿・地図を照合して物件を特定し売買します。地図が作成されていない土地を購入するのは躊躇しますし、転売や造成の際にもこまりますね。
仮に売買ができても、筆界未定地のままでは価格が安くなるでしょう。
現在は筆界未定地でよくても、将来の売買あるいは将来の相続への備えとして、早めに解決した方がいいです。

②不動産に担保をつけて銀行借入をすることが非常に困難
筆界未定地のままであると、銀行から不動産を担保にローンを借りることが事実上できません。銀行が担保として受け入れないのです。
将来建て直しが必要になるかもしれませんし、大きなリフォームをする必要が出てくるかもしれません。早めに地図を作成しておいた方が安心ですね。

筆界未定地の解決

1.当事者による確認

法務局や国に相談しても、筆界未定地の問題を個別に解決してくれることはありません。残念ながら当事者が解決を図る必要があります。

隣地所有者の間で境界を確認し(境界標設置)、測量図を作成した上で、法務居に対して地図訂正をお願いする方法があります(地積更正登記も絡むことがあります)。
隣地所有者全員の立会い、実測図等への実印の押印と印鑑証明書の提出が必要です。なかなか大変かもしれません。測量と合わせて土地家屋調査士に依頼することが現実的ですね。

ただし、何かしら問題があって筆界未定地となっているのですから、協力を得られない隣地所有者がいることも想定できます。1人でも協力を得られなければ当事者による確認による方法はとれません。
また、筆界未定地に所在不明な不動産があるようなケースでは、隣地所有者間での確認だけで地図訂正を実現することは難しいかもしれません。

2.訴訟による解決

筆界未定区域の解決には訴訟提起による方法をとることも多いでしょう。
境界確定請求訴訟を提起し、確定した判決を利用して、地図の訂正を法務局に依頼します。

訴訟提起による解決のメリットとして、
①隣地所有者全員の合意や印鑑等を取り付けるなどの手間をかける必要がない、
②協力を得られない隣地所有者が存在しても地図が作成できる、
ということが挙げられます。

また、判決は裁判所の公権的判断です。
③筆界未定地内に所在不明な土地が存在するような難しいケースでも地図訂正に応じてもらえる、
という点もメリットになります。
当職が訴訟による解決をお手伝いしたケースも、土地家屋調査士さんが法務局に訴訟での解決を事実上要請された案件でした。

訴訟による解決の流れ

1.一般的な流れ

訴訟による解決の一般的な流れは次のようなものでしょうか。
①土地家屋調査士による調査
②弁護士への訴訟依頼
③被告となる隣地所有者へのお手紙
④訴訟提起
⑤判決
⑥被告となった隣地所有者へのお手紙
⑦土地家屋調査士による地図訂正依頼

2.流れの説明等

①、土地家屋調査士さんの調査は必須です。後述いたします。

②、訴訟の準備には一定の期間が必要です。訴訟提起から判決をもらうまでの期間も4~10カ月程度かかるのがスタンダードです。お早めにご相談、ご依頼ください。

③⑥、現実の占有状態を変えるわけではないのでしたら隣地所有者さんも積極的な異議がないことが通常です、しかし、いきなり訴状が届いたらびっくりされますし、紛争を起こしかねません。
そこで、事前に事情を説明し、協力をお願いするお手紙を出させていただき、質問等がある隣地所有者さんから問い合わせも弁護士が対応します。多くの方はご理解いただき、スムーズに判決を得られています。
また、判決を得た際、形式上、訴訟費用の負担を被告とする旨の条項が主文の載ってしまいますので、判決を得た場合も異議がないのに控訴をしてしまわないように丁寧に結果を報告する手紙を送ることが多いでしょう。

④、すべての隣地所有者さんを被告として訴訟を提起しなければなりません。皆さんに訴状を送達しないといけませんが、住所が変わっていたり、相続登記がなされていない等のために訴状が届かないこともあります。現在の所有者や所在地を確認する作業が必要となることも多いです。
また、境界確定請求訴訟には、確認の利益が必要です。通常は境界の紛争があるケースで認められますが、筆界未定地は争いが顕在化していない点が特殊です。説明をして裁判所に確認の利益を認めてもらいます。

⑤、仮に被告の皆さんが答弁書を出さないで期日に出頭されなければ、1回の期日で結審して判決を得ることができます。
答弁書を出される、あるいは期日に出頭される被告がいるケースでは、何度か期日を重ねて主張立証をしていかなければならないケースもあります。
判決が出て被告のみなさんに送達され、控訴されることなく確定すればあとは地図の訂正手続のみが残ります。

訴訟提起から判決確定までかかる機関は、4か月~10カ月でしょうか。訴訟提起はできるだけ早くされた方がいいです。

解決の準備

1.土地家屋調査士の協力

訴訟によって筆界未定地を解決する場合であっても、土地家屋調査士さんの協力は必須です。
地図訂正の申出、それに伴う測量をお願いしないといけないのは当然です。

訴訟の基礎資料、証拠の収集、作成等もお願いしないといけません。
専門的な分野の訴訟は、例えば医療訴訟、建築訴訟などでは、医師あるいは建築士の協力を得て訴訟を進めることが多いですが(法律構成、法的な解釈、訴訟遂行は弁護士で行いますが、それらの基礎資料は専門家の助けが必要です)、この分野も同じです。

主に次のようなご協力を得ます。
①訴状、判決の基となる地積測量図の作成
②現況説明図も作成していただくこともあります
③法務局との事前打ち合わせ
課題を示唆してもらえれば効率的に進みますからね。
その一環として、地図作成作業の「成果簿」の閲覧をさせていただくことがあります(写真を撮るしかありません)。作成作業の結果がまとめられたもので、地図作成作業での境界確認はどこまで進んだのか、筆界未定地として処理された理由はどこにあるのか等の有益な情報が記載されています。地番はあるが存在しない土地があったケースでは、成果簿に検討過程を記した文書があり、その原因を突き止める助けになりました。

2.その他

地図作成事業に関連する法務局等からの手紙に、筆界未定地となった理由などが記載されていることがありますので、保管されていたら証拠として出します。
不動産を取得した際の契約書類も一つの手がかりとなります。
航空写真の利用によって、現地の状況が長期間にわたり継続していることを説明することもありあす。

費用

1.費用

弁護士費用は着手金と報酬ですね。
対象不動産の価値によっても、筆界未定となっている理由によっても、異なりますので、事案に応じて設定させていただいております。境界確定請求訴訟では経済的利益の〇%という単純な計算もできません。
費用面も含めてご相談ください。

経験からは、着手金・報酬金を合わせて、55万円(消費税込)~110万円(消費税込)の範囲で決めることが多いでしょうか。

別途実費が必要になります。訴状印紙代、予納郵券のほか、登記簿を始め様々な資料を取得しなければいけません。

勿論、土地家屋調査士さんの費用もかかりますね。

2.費用の考え方

売買や建替え等で急いで筆界未定地問題を解決しないといけないケースはもちろん、そうでなくとも筆界未定地であること自体で不動産の交換価値はかなり下がっています(実際に売買をすることが難しいので)。
本来あるべき不動産の価値を回復することを考えれば、相応のコストをかけて筆界未定地問題を解決する方がいいでしょう。

まとめ

1.筆界未定地

筆界未定地(区域)は、地図作成事業の中で発生した問題でした。地図に境界が引かれず、場所と形状を特定することができません。分筆・合併登記ができないという手続上の問題だけではなく、事実上売買や銀行ローンの担保にできないなどの支障があり、不動産の価値が大きく減殺することになります。

2.筆界未定地の解決

当事者が解決をする必要があります。不動産のあるべき価値を回復するためのコストとして専門家のサポートを得て早期に解決してください。
土地家屋調査士さんのサポートを得て解決できるケースもありますが、解決できないあるいは手間がかかりすぎるケースもあります。
そこで、今回は境界確定請求訴訟の提起による解決をご案内しました。訴訟により一挙に解決を図ることができます。特殊な訴訟でありいろいろと気を使わないといけないこともありますので、訴訟による解決を図る際には頼れる弁護士をお探しください。
ぜひ当事務所にご相談ください。経験を踏まえて適切なアドバイスをさせていただきます。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)

https://www.nakata-law.com/

https://www.nakata-law.com/smart/


◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録(なかた法律事務所)
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、宅建主任者試験合格等

昔の抵当権が残っている不動産 [不動産]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回の不動産問題コラムでは、不動産に昔の抵当権が残っているケースについてお話します。
 
相続で受け継いだ不動産に昔の抵当権設定登記が残っていて売却に支障が出ているという相談を受けたこともあります。
 
通常は、被担保債務を弁済したら、抵当権設定登記を抹消しますね。

昔の抵当権が残っているケースでは、被相続人あるいはその先代が抹消手続をするのを漏らしたのだろうと思います。
もしかしたらまだ弁済していないかもしれないケースもあるかもしれません。
ただ、昔の事情はもはやわかりません。
 
ところで、抵当権抹消登記は、抵当権者と所有者の共同申請になります。
住宅ローンを完済したら銀行から抹消書類をもらえますね。
実際には債務者が自分であるいは債務者が司法書士に依頼して抹消登記をするのですが、形上は、共同申請なのですね。
 
そうであれば、昔の抵当権も、抵当権者の協力を得られれば抹消登記をすることができます。

ただし、昔の抵当権であれば、抵当権者の相続人(勿論、相続が何回か続き、相続人が枝分かれして多数になっているかもしれません。)が相手ですね。、
 あまり現実的ではないかもしれませんし、手間がかなりかかります。
 
関係者が多い場合にはすべての方の同意が得られるかわからないし、書類取得などの協力を得ることも煩雑なため、訴訟により解決することの方が多いのではないでしょうか。
 
相続人は調べないといけませんが、相続人を相手に抹消登記手続請求訴訟を提起し、判決に基づいて抹消登記を行うのです。
 
判決に基づいて債権者の相続人の登記申請意思が擬制されますから、所有者一人で登記申請できます。
 
弁済した証拠がある場合は弁済による抵当権消滅を理由にして、ない場合には(ほとんどそうでしょうが)、消滅時効の援用による被担保債権の消滅を理由として、抹消登記を求めます。
 
勿論、訴訟提起をする場合には、事前に、被告となる相続人に対して連絡をし、事情を説明し納得してもらう努力をします。
 
訴状がいきなり届いたら驚かれますし、要らぬ紛争を生じさせてしまうかもしれません。
事情を理解してもらい、訴状が届いても放っておいてもらえつならば、スムーズに判決を得ることができます。
 
相続人による先祖名義の不動産の時効取得のケースですが、被告である現在の相続人が枝分かれをして30名を超えることになった例がありました。

事前にご理解を得て、お一人だけ裁判所に出てこられましたが、争わないというお話をその場でいただいたので、すぐに判決を得ることができました。
 
売却を予定しているケースなどでは、できるだけ早く抹消登記を実現しなければなりません。事前の根回しも必要です。
 
複雑なケースでは相続人調査だけで1~2カ月要することもあります。
できるだけ早く着手しましょう。
 
なお、昔の抵当権者が法人であった場合には、相続はありません。
 
その法人に対して抹消登記手続を依頼、あるいは抹消登記手続請求訴訟を提起します。

名前が変わっても、合併があっても、法人が存続している限り問題ありません。
 
法人がなくなっていたらどうでしょう。
なくなった、の意味によりケースバイケースで考える必要があるでしょう。
 
今回は、不動産に昔の抵当権が残っているケースでどうやって抹消をするのかをお話ししました。
 
不動産に関するご相談はなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
https://www.nakata-law.com/smart/


登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
不動産登記、特に相続のお話です。
 
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
 
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
 
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
 
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
 
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
 
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
 
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
 
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
 
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
 
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
 
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
 
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
 
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
 
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
 
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
 
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
 
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
 
不動産問題、遺言、相続、遺留分相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
 
https://www.nakata-law.com/
 
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譲受人による使用貸借人の退去請求 [不動産]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
久しぶりに不動産問題について投稿します。
 
法律家でない限り、使用貸借契約という言葉は馴染みがないかもしれません。
意味は、無償の貸借契約のことです。
不動産を賃料を取らずに人に貸したら使用貸借です。
これに対して、有償だと(賃料を支払合意があると)、賃貸借契約ですね。

なお、不動産を借りるにあたって固定資産税の負担等金銭の授受があったとしても賃料支払の実質がなければ使用貸借契約と解釈されます。
 
不動産の賃貸借であれば、借地なら建物登記、借家なら引渡しで第三者に対する対抗要件を具備することができます。
借地借家法の規律です。
第三者対抗要件を具備するというのは、第三者に権利を主張できるようになるということを意味します。
そのため、物件が第三者に対して譲渡されても、賃借人が対抗要件を具備しているのであれば、譲受人の第三者に対して賃借権を主張できますから、結局、物権の譲受人は賃貸人の地位を引き継ぐことになります。
 
これに対し、無償行為である使用貸借は、借地借家法の適用外であり、そのような効力はありません。
無償であるから借地借家法によって保護されていないのですね。効力が弱いのです。
そのため、物件が第三者に譲渡されてしまうと、第三者たる譲受人に対抗できず、譲受人に使用貸借関係を主張できませんから、結局、譲受人からの建物収去請求、明渡請求が認められます。
これが原則です。
 
ところが、土地の使用貸借をして建物を所有する者に対して行われた土地の譲受人からの建物収去土地明渡請求について、権利濫用を理由に排斥した高裁の裁判例を見ました。東京高裁平成30年5月23日判決。
 
同判決は、土地の借主兼建物所有者の土地の占有権原は使用貸借であって土地譲受人に対抗し得る占有権原を有していないから、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、土地譲受人は土地所有権に基づいて建物収去・土地明渡を求めることを確認しています。
その前提の下、本事例ではその権利濫用に当たる特段の事情が認められるとしたわけです。
 
同事例は、低廉な売買価格(更地価格の3割にも満たない額)で売買・同日転売されたいかにも怪しい事例だったようです。
譲渡人も合理的に価格を検討していないでいいなりで安く売却したようです。
また、建物所有者・居住者に権利関係を尋ねることなく秘して取引が行われた異常性も指摘されています。
勿論、建物所有者も高齢で体調も悪いという気の毒な事情もあったようです。

上記裁判例は、土地譲受人は、権利関係を十分に把握していると思われない譲渡人から極めて低廉な底地価格で購入して巨額な経済的利益を得た上、借主の生活等に及ぼす影響を考慮していない、などと断罪し、権利濫用にあたる特段の事情を認めました。
 
明渡請求が信義誠実の原則に反して権利濫用に当たるかどうかは、使用貸借関係の当事者間で検討されるべきで、第三者たる譲受人は本来関係のないことです。
債権関係は当事者間の関係で第三者は関係ありません。
第三者にも主張できる所有権など物権と異なり(対抗要件は必要ですが)、債権は債権者が債務者に要求するだけの権利であり、第三者に何ら要求できないのが原則なのですね(土地建物賃貸借は借地借家法により対抗力を認められて第三者にも主張ができるという意味で、物権化されています)。
 
当事例では、売買の異常性を認め、土地譲受人側そのものの暴利性を認定したのでしょう。
 
一方で、上記裁判例は、明渡しが1億円の立退料を支払えば、権利濫用に当たらないとします。
そして、1億円の支払いとの引き換えに建物収去・土地明渡を認めました。
支払いと引き換えに請求を認める形の判決を引換給付判決といいます。
 
立退料は、賃貸借の更新拒絶における正当事由の存否の判断の場面において典型的に出てくるものですね。
〇〇円の支払いとの引き換えに更新拒絶の正当事由を認めて明渡しを認めるわけです。
前記裁判例では、使用貸借を前提とする権利濫用の判断においても、同じような考え方をしたということですね。
 
なお、更地価格は2億6000万円超だとのことです、使用貸借で立退料1億円というのはかなり高いですね。
対抗力ある賃借権であれば相応の借地権価格が認められますが、使用貸借は違います。
建物収去費用(土地上の建物を壊して撤去する費用)が2000万円ほどと認定されているようで、それも加味されているのでしょうが。
 
勿論、使用貸借は効力が弱いのは確かです。
権利濫用が認められるのは、特別なケースだけだと思います。
今回は、その特別なケースをご紹介しました。
 
不動産に関するご相談はなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
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親族間での不動産売買の注意点 [不動産]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

今回の不動産問題コラムは、親族間での不動産売買の注意点の説明です。

 

親族間の不動産の売買をお手伝いすることがあります。
相続絡み
自己破産をしなければならいがどうしても自宅不動産を残したい場合
事業承継対策
などですね。

 

そこで、親族間での不動産売買の注意点をお話しようと思います。

 

親族間の売買でも第三者間の売買でも流れは基本的に同じです。

売買契約を締結し、
代金の支払いと所有権(あるいは持分権)移転登記
をするということになります。

 

代金ですが、勿論、法律上は自由に決められます。双方が合意した金額でいいのです。

 

ただ、親族間の不動産売買では、時価よりも価格を安くすることがよくあります。
親族間の売買にはいろいろな事情が絡みますからね。

 

ところで、不動産の時価とはなんでしょうか。

 

時価とは、流通価格、交換価値というべきでしょうか。

 

不動産の価値を示すものとしては、固定資産評価、路線価、公示価格がありますね。

一般的にはその並びで金額が上がっていきます。

固定資産評価は固定資産税等のための評価額です。
時価とイコールではありません。
昔は時価の7割と言われていましたが、ケースバイケースです。中には時価よりも高いケースもあります。

 

路線価とは相続税、贈与税のための評価額です。
これも時価とイコールではありません。昔は時価の8割と言われていました。こちらもケースバイケースです。
路線価評価は国税庁のホームページで簡単に調べることができます。
設置道路毎に価格が出ているのです。
ただし、路線価が出ていない地域もあります。
その場合は、倍率表というものがあって、固定資産評価×〇倍の評価をすることになっています。

 

公示価格は時価に最も近いものです。ただ、基準点の価格しか出ていないので、個々の不動産の評価には役にたつことは稀です。
たまたま基準値と近似した不動産だったりする場合には参考するという程度です。

 

結局、時価は簡単に調べられるものではありません。不動産業者に売買事例等を基にした評価をしてもらう、鑑定士に鑑定をしてもらう必要があります。
鑑定費用はかなりかかるので、査定書をとることが多いでしょう。

 

自己破産に絡んで自宅不動産を残すために売買をすることもあります。
自己破産絡みの売買であれば、時価相当額でなければ後に破産管財人に否認されるおそれがあります。
時価相当額での売買でなければなりません。弁護士が介入して売買をし、かつ査定を取っておいた方がいいでしょう。

持分権の売買の評価は難しいです。
時価を基本として、一定程度減価することも許されるのではないでしょうか。
事実上、持分だけを売ることはできないですからね。

 

 

自己破産絡みでない場合でも、時価は気にしなければいけません。
廉価売買は贈与税の課税対象となり得るのです。購入者に対して贈与をしたとみなされるのです。

 

基準は、時価の2分の1だと思ってください。ただ、時価がいくらかを考えるのは難しいのは上述のとおりです。
税務調査がなされた場合にきちんと説明ができるように、価格算定の根拠は残しておかなければいけません。
時価の2分の1ぎりぎりでの売買は、税務署が考える時価がいくらか分からない以上、危険です。
事情があって安くする場合でもある程度余裕を持った金額、説明がきちんとできる金額で売買をした方が無難です。
後から税務署が高い時価評価をして課税してくることもあり得ます。

 

この点で、親族間の売買であっても不動産仲介業者を介入させることや、弁護士や税理士の価格算定に関する意見書を作成することもあります。

親族間の不動産売買は、このような税金面で慎重に検討しなければなりません。

 

なお、不動産を売買で取得すると、後から不動産取得税を支払わなければいけません。
不動産業者が絡む売買(新築戸建ての購入等)だと、不動産取得税の申告(そんなに難しいものではありません)の申告を代行してくれたりすることもあり、申告が必要なことをご存じないケースがあります。購入者は不動産取得税の申告が必要である点にもご注意ください。

 

親族間だからといって、簡単に売買をしてしまうと、足元をすくわれることがありますのでご注意を。

 

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共有不動産の賃貸 【不動産問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一の不動産問題コラムです。

 

相続に基づく遺産分割により、あるいは元々共同で購入したため、共有不動産となっているケースで、これからその共有不動産を賃貸する、あるいは既に共有不動産を賃貸している場合の法律関係をお話ししようと思います。

 

民法は、共有物の変更行為には共有者全員の同意が必要(民法251条)、管理行為には持分の過半数で決める(民法252条)、保存行為は共有者単独でできる(同条ただし書)としています。

 

変更行為は、解体、処分、担保設定が典型です。

 

管理行為は、変更行為に当たらない(物件の状態を変更しないで)利用・改良する行為です。

 

保存行為は、破損部分の修繕、不法占有者に対する明け渡し請求、抵当権の解除などです。

 

賃貸借契約の締結はど変更行為・管理行為・保存行為のどれに当たるのでしょうか?
 

賃貸借は利用行為ですから管理行為と言えそうです。そして、実際に、賃貸借契約の締結も含まれるとされる見解もあります。

 

一方で、多くの賃貸契約締結には変更行為として共有者全員の同意が必要とされるとも言われています。

 
確立した判例がないため、事例判断によるしかありませんが、目的不動産の利用形態、前述の期間の長短がメルクマールとして判断されるようです。

まず、駐車場を建物建築目的で賃貸するような、共有物の利用形態を大きく変更する場合には、変更行為と見られる可能性が高いです。


次に
、期間の長短です。処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、賃貸期間は土地5年、建物3年と定められています(民法602条)。短期間の賃貸借なら合意していない少数持分権者への影響が小さいとされているのですね。長期間の賃貸借契約になると、少数持分権者への影響が大きいため共有者全員の同意が必要と言われます。

 

かつ、借地借家法の適用がある賃貸借契約は、短期賃貸借であっても更新されて長期間の契約になる可能性が高いです。借地借家法の適用のある賃貸借は共有者全員の同意が必要とした裁判例もあるようです。借地借家法の適用はないものは、建物所有を目的としない土地賃貸借や一時使用目的の建物賃貸借です。通常の賃貸借は借地借家法の適用があります。

 

無難な考え方をするのであれば、上述の借地借家法の適用のない短期賃貸借かつ利用形態を変えない賃貸借は共有者の過半数持分の同意でできる、それ以外は共有者全員の同意が必要というべきでしょうか。

 

共有物の賃貸借契約の解除を管理行為とすることは判例で確立されているようです。

 

賃貸借契約の更新の場合は難しいですね。自動更新ならいいのでしょうが、変更行為と見られる賃貸借の場合の都度更新の場合は更新契約にまた共有者全員の同意が必要と考えた方がいいでしょう。

契約内容の変更については、共有者間で決めた共有物の使用収益方法を変更する行為も共有物の変更とする見解があります。程度問題だとは思いますが。

 

共有者全員の同意が必要な賃貸借を過半数持分者の同意で賃貸借契約を締結した場合、反対の少数持分権者から異議が出たらどうなるのでしょうか。

少数持分権者分の持ち分について無断賃貸借ということになりますね、ただし契約当事者間ではただちに無効になりません。少数持分権者が明け渡しを要求できるかは難しい問題です。一般的な見解と言えるものは見当たりませんでしたが、共有者は持ち分に応じて共有物を利用できるので、賃借人は単なる不法占拠者とは見られず、かつ少数株主権者が単独の占有権がない以上、明渡しは認められない可能性が高いのではないでしょうか。勿論、共有者間では争いになりますし、賃料相当額の少数持分権者分を支払えとの請求は当然あるでしょう。正直簡単に答えが出て来ない問題ですね。

 

なお、契約手続代行、解除通知自体は共有者単独でできます。事柄に応じて、他の共有者の全員あるいは過半数持分の同意があればいいのです。

 

なお、共有物の賃貸による賃料については、特別な合意がない限り、当然共有者に持分に応じて分配する必要があります。費用も持分に応じた負担ですね。

賃料が分配されない場合には、不当利得あるいは不法行為として分配しない共有者に対して請求をすることができます。

確定申告も共有者全員がそれぞれしなければならないのが原則です。

このように共有物件は複雑です。共有状態は好ましくないですね。

 

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オーバーローンの共有不動産の分割請求 [不動産問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 
今回の不動産問題コラムは共有不動産の分割請求のお話です。


不動産は、結婚・離婚や相続により共有状態になることが多いでしょうか。
 

民法上、共有状態は異例な状態との位置づけであり、共有者はいつでも共有物の分割を請求できることが原則です。
共有物分割請求といいます。

  

共有物分割請求は、調停、訴訟ができます。訴訟で折り合いが付かなければ最終的には換価分割の判決が出る可能性があります。
勿論、現物で分けられる場合には現物分割もありえますが、実際には不動産を2つに割るのは難しいですね。
競売で換価して分けるというおそろしいことになり得ます。

通常、共有物分割請求では、お金で清算する、あるいは共同で売却して代金を分けるという和解的解決が図られます。
それが利害関係人共通の利益だと思います。合理的な解決ですね。

ただ、感情も入り、合理的な和解解決ができないこともありますね。
そういう場合は判決、競売もやむを得ないということになります。


ところで、オーバーローンの場合はよく考えないといけないことがあります。
オーバーローンというのは、不動産に担保が付いており、被担保債権が当該不動産の価値を上回っている状態です。
ローンがオーバーしている状態ですね。

離婚によって、オーバーローンの共有不動産が作出される場合が典型でしょうか。

共有物分割は、最終的には判決による解決、かつ換価分割が原則になるということは上述しました。


しかし、オーバーローンの場合、共有不動産を分割するために競売をすることはできません。そういう判例があります。

仮に、訴訟をして換価分割の判決を貰っても、執行ができなければどうしようもないですね。

 

じゃあ、オーバーローンの場合に和解的解決ができない場合はどうするかという問題があります。

ここで、全面的価格賠償による解決が出てきます。
全面的価格賠償とは、所有権を一方に認めるが他方にお金を払えという形のやや例外的な判決で、これを認めた裁判例もあります。
金銭解決ですね。

勿論、オーバーローンでない場合にも、あり得る判決です。

ただ、当事者の反対意向がなく単独所有権を取得する当事者に支払能力がある場合でないと出ない判決です。

価格賠償の判決が出る可能性があるのであれば、オーバーローンでも共有物分割請求訴訟をやって意味があるということになりますね。

 

理屈で言ったら不動産に価値が残っていない以上、価格賠償はゼロでもいいような気がしますが、そうはいかないでしょう。
離婚後のケースで、ローンの負担状況や居住利益等も含めた総合考慮により価格賠償額が決められた例もあります。

総合考慮だと金額の見通しはなかなかつけられないことになりますが。


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不動産の時効取得と税金 [不動産]

広島県広島市の弁護士仲田誠一による不動産問題コラムです。

 

不動産の問題を解決するにあたり、取得時効の援用を行うケースがあります。

 

例えば、隣地との境目の争いがあり占有部分の所有権を確定させるケースがありますね。

あるいは、自宅が曽祖父などの名義のままになっており相続人が分散して話し合いでは解決できそうもないケースも多いです。
今更、枝分かれした多数の他の共同相続人全員から合意を取り付けることは難しいことが多く、訴訟提起して解決するのですね。

 

不動産の時効取得が認められて登記を変更できた場合、所得は把握されるのでしょうか。
今回は、どんな税金がかかるかというお話です。

無償で不動産を取得することになるので贈与税が課税されるかというとそうではありません。

時効取得が、一時所得として所得が把握され課税されます。
 

課税対象は、時効援用時の当該不動産の時価になります。

民法上は時効の援用の効果は占有開始に遡るのですが、一時所得の課税時は時効援用時とされています。
遡ると税金が時効でとれないということがあるからでしょうか。

 

一時所得なので、所謂2分の1課税です。
ただし、収入が時価の2分の1で大きいかもしれません。
かつ、収入から控除できる「直接要した費用」はあまり認められません。
弁護士費用などは駄目なのですね。
そのため、相応の所得が発生する可能があります。

 

このように、不動産の時効取得により所得が把握されるということは気を付けてください。

不動産登記の名義変更をするので、時効取得の事実を税務署は容易に把握することができます。

 

そうであれば、仮に売買などの別の主張が認められそうであれば、あるいは遺産分割等他の方法で解決できるならば、税金がかからない方法を優先するという検討も必要になります。

例えば、過去の売買が認められると課税されないのは当然です(買主なので譲渡所得税はかからないですね)。

過去の遺産分割が認められた場合も相続税の話になり時期的にもはや相続税課税が難しくなるでしょう。

売買や遺産分割等の証拠があるのであれば、まずはそちらの主張を前面に出して、時効取得は予備的に主張することになるでしょう。

時効で解決できるからといって簡単に時効取得に飛びついてはいけないことになります。

勿論、時効取得を検討する案件では、他の主張が認められることが難しいから時効取得を主張しているということが多いのですが。

その場合は仕方がないですが、仮に和解の場面が出てきたら、課税関係を意識して臨まないといけません。

 

時効取得に限らず、紛争の解決には税金の検討の必要が伴う場合が多いです。
紛争の解決方法としてお金や物が動くと非課税所得等ではない限り何かしらの税金がかかる可能性があります。
思わぬ落とし穴があるかもしれません。

 

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不動産を共有することの注意点 [不動産]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 

今回の不動産問題コラムは不動産の共有のお話です。

 

様々な理由で不動産が共有になっているということがあります。
相続の際の遺産分割、遺留分減殺請求の結果共有状態となるケースや夫婦が共同で住宅ローンを組んでいるケースが多いでしょうか。

 

不動産の共有は、専有部分のある区分所有の場合と異なります。
部分的な所有ではなく、不動産「全体」の〇分の〇の持ち分があるという状態です。
理屈上は、共有者各人が共有物の全体を持分の割合で使用収益する権利があるのです。

 

不動産が共有状態である場合、どのようなことが起きうるでしょうか。

 

収益費用関係の清算関係が出てきます。
 

共有状態の場合、その不動産の利用による収益(果実)も費用も持分に応じて配分されるのが原則です。
利用していない側から利用している側に対し賃料相当額の不当利得返還請求あるいは損害賠償請求がなされる可能性があります。
固定資産税等の費用負担をしている側から、負担していない側に対して、費用負担分を不当利得返還請求、場合によっては費用償還請求の形で請求されることも考えられます。

本来は共同事業として共有者各人が申告をしなければなりません。
 

利用している側に対する利用していない側からの明け渡し請求もあります。


不動産の利用は持ち分の過半数で決定されるため、過半数持分者から明け渡し請求がなされることはあります。
原則認められそうですが、そう単純ではありません。
利用している共有者が占有するに至った事情によっては、使用貸借など利用権の設定が認められたり、明渡し請求が権利濫用であるとされて、明渡し請求が認められないこともあります。
なお民法(相続法)改正で配偶者居住権が創設されることにもなっています。

 

共有物分割の話もあります。


不動産に限らず、民法では、共有状態は異例の状態と見て、共有関係を解消する方向の手段が設けられています。
共有物分割請求です。
基本的には調停、訴訟と進めるのですが、最終的に折り合いが付かない、お金で清算もできないということになると、競売に至ってしまいます(勿論、分割できる不動産であれば現物分割もあります)。

通常は、金銭で折り合いをつけるか、あるいは共同で売却をする形の和解で解決します。
そうでないとお互い困りますからね。
勿論、利用権の設定や権利濫用なども絡んでくる話ですが。

なお、稀なケースですが、取得時効の援用により解決をする場合があります。
遺産分割がなされずに所有者名義が何代か前の方のままであるが、長年自分の物として占有し費用も負担していたというケースが典型例です。
今更合意を全員から取り付けるのが難しいとして、訴訟により解決をすることになります。

このように見ていくと、共有状態はややこしいですね。
不動産の共有は避けた方がいいかもしれません。

 

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