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旧コラム 不動産問題: 2022年1月

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不動産を利用した節税スキームの法的リスク【不動産問題】

弁護士の仲田誠一(なかた法律事務所、広島市)のコラムです。

相続税対策のために不動産を購入するということは銀行やディベロッパーなどから日常的にセールスされます。そのような動産を使った相続税対策が否認された事例(ニュースにもなった事例です。)の控訴審判決がありました。今回は、そのご紹介を兼ねて不動産を利用した節税スキームの法的リスクについてお話します。

目次
Ⅰ 不動産を利用した節税スキーム
Ⅱ 第一審判決の内容
Ⅲ 控訴審判決の内容
Ⅳ まとめ

Ⅰ 評価と価値の違いによる節税スキーム

1.不動産の相続税評価
まずは前提のお話です。
相続税法によると、相続税の算定の基礎となる相続財産は時価評価されます。現預金は額面そのままが評価額です。
一方で、不動産については財産評価基本通達に則って、土地については路線価ベース、建物については固定資産評価ベースでの評価がなされます。
通達は法律ではないのですが、画一的・大量的処理の便宜、公平な課税の観点から、通達による評価は合理的なものとして許容されています。

2.節税スキーム
路線価、固定資産評価は市場価格よりも低く設定されています(一般的には、前者が8割、後者が7割と言われています)。
さらに、土地については貸家建付け地評価等、建物については減価償却等により評価額を下げることができます。
1億円を現金で持つよりも市場価格1億円の不動産を持つ方が、相続時の評価が低くなり、相続税の節税ができるわけです。借入れによる不動産投資も同じ節税効果があります。

ちなみに、タワーマンションの高層階については、固定資産評価と資産価値の乖離が大きいことから(平成29年税制改正までは高層階と低層階が同じ評価でした)、特に節税効果が高いとして人気です(税制改正により上記乖離を是正する措置がとられましたが必ずしも十分ではないようです)。


Ⅱ 節税スキームが否認された第一審

1.事例の内容
不動産を使った一般的な相続税対策に対する否認が裁判所により是認されたのが東京地裁令和2年11月12日判決でした。
事例は次のようなものです。
被相続人は89歳で死亡しました。肺がんに罹患していることが発覚し、銀行の薦めで亡くなる直前に借入れにより多額(15億円)の収益不動産を購入しました。相続人らは、財産評価基本通達にしたがって不動産を評価(約4億8000万円)し相続税を申告しました。
ところが、課税庁は、財産評価基本通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」を適用し、不動産鑑定士の鑑定評価により不動産を評価(10億4000万円)しました。
そして、更正処分および過少申告加算税賦課決定処分が出されたという事案です。

2.判決内容
納税者は当然怒ります。いつもは通達どおりの評価で何も言われないのに、今回だけ不意打ちですね。不平等感もあります。
しかし、判決は次のとおり課税庁の処分を是認しました。
評価通達による課税は、その定めが時価算定方法として合理性を有するものである場合には、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減といった観点から相当である。しかし、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるといえるような「特別な事情」がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許される。本件には特別な事情が認められ、かつ課税庁の不動産鑑定評価は合理的な方法だった。


Ⅲ 控訴審判決の内容

1.控訴審の判断
控訴審はどうだったでしょうか。残念ながら納税者が負けました。東京高等裁判所令和3年4月27日判決です。
「租税平等主義の観点に照らして、租税負担の実質的公平を著しく害することが明らかな場合まで、評価通達の定めにより評価すべきものではないし、そのような場合について評価通達の定めによらないで個別に財産を評価したとしても租税法律主義に違反するとうことはできない。」などとして控訴を棄却しました。

2.コメント
憲法上、租税法律主義が定められています。課税は法律に依らなければなりません。相続税法には時価評価をすると定められていますから、鑑定評価による評価は当然に合理的な時価評価と見られますね。かつ、通達による課税は禁止されています。通達に従ったにもかかわらず否認をされたという事例には法律違反はありません。結局、納税者が文句をいうには、自分だけ通達評価を否定されることは憲法で定める平等主義(租税公平主義)に反するとの主張に帰結してしまいます。
判示のとおり、平等主義には形式的平等と実質的平等の2つの相反するかのような原則が含まれます。裁判所は、実質的公平を害してまで形式的平等を貫く必要はないと判断したのですね。
租税法律主義の観点からは、仕方がない判断なのでしょう。


Ⅳ まとめ

1.本事案の捉え方
本事案は、評価通達による評価が鑑定評価の2分の1未満という極端な乖離があり、かつ多額の節税効果のあったというレアケースかもしれません。しかし、そもそも不動産を利用した相続税対策のスキームは、市場価格より相続税評価が低いことを前提にしています。否認しようとすれば簡単かもしれません。評価通達を無視した更正処分が一般化すると、影響は大きいです。

2.今後の対応
今後は前記「特別な事情」がどの程度であれば認められるかが焦点となります。事例判断の蓄積を待つほかないですが、現段階では余り極端なことはしない方がよろしいでしょう。節税スキームには、常に否認リスクが存在することをご注意ください。


弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格その他
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)

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