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旧コラム 相続問題
現在のコラムはこちらから
相続放棄の際は固定資産税に注意を【相続問題】
相続問題のうち相続放棄のお話です。
相続放棄の際に気を付けないといけないことの1つに固定資産税があります。
なぜ気を付けないといけないかというと、他の税金と違った特殊な扱いがなされるからです。
相続放棄をすれば放棄者は相続人でなくなります。
その効果は被相続人の死亡時から、すなわち初めから相続人でなかったことになります。
相続放棄は、相続債務の負担を免れる目的でされることがほとんどですね。
相続債務はもちろん、滞納税金があっても、相続放棄申述受理証明書を提出すれば納税義務を承継していないとして、放棄した人に督促がなされることはありません。
これに対し、固定資産税は、その特殊な扱いにより、相続放棄をしても固定資産税を納めないといけないケースもあるのです。
固定資産税は何が特殊なのでしょうか。
固定資産税の納税義務者は、原則として賦課期日における固定資産の所有者に課税します。
固定資産税は所有者課税の原則ととっています。
賦課期日は、1月1日です。
所有者とは、土地又は家屋については土地登記簿(もしくは補充課税台帳)に登記・登録されている者をいいます。
その原則の例外として、賦課期日前に登記名義人が死亡した場合は、同日において不動産を現に所有している者に課税されます。
相続人が数人いて遺産分割協議がなされるまでは相続人の共有となります。その場合には、賦課期日現在共有の土地家屋として、数人の相続人が連帯納税義務を負うことになります。
共有名義不動産の固定資産税は、共有者全員に連帯納付義務があります。12月31日以前に亡くなった場合には、遺産分割・相続登記が終わっていない限り、その相続人が納税義務者になります。
そうであれば、相続放棄をすれば相続発生時から相続人でなかったことになるので、理屈上、相続放棄をした人には課税されないとなりそうですね。
しかし、固定資産税は、台帳課税主義の原則もとられています。
固定資産課税台帳に登録されたところに基づいて固定資産税を課税する原則です。
固定資産税台帳に放棄した相続人が登録されてしまう場合があるのですね。
相続放棄申述書を提出しても受理されるのには一定の期間がかかります。
12月31日までに相続放棄申述受理がなされないことは珍しくありません。
恐ろしいことに、固定資産税台帳に登録されていれば、相続放棄をしたとしても、納税通知書が届いた人に納税義務があります。台帳課税主義ですね。
台帳課税主義については判例もその有効性を認めています。
課税上の技術的考慮からという理由です。
しかし、課税をする場面では納得できますが、真実の所有者ではない者に課税した場合の事後救済処置を講じていないことには疑問があります。
判例が認めている以上、固定資産税台帳に登録されて納税通知書が来ると、結局は、一旦支払ってから、本来の所有者に対して支払いを求めるほかないです。
求償をするということですね。
しかし、相続放棄をする場合には他の相続人も順次相続放棄をして誰も相続人がいなくなるのが通常ですね。その場合は、相続財産法人(相続財産のことです。)に請求をすることになります。
これは現実的ではありませんね。
このような事態を防ぐ方法があるかというと難しいです。
相続放棄申述受理が1月1日を超える場合には相続放棄の手続中である旨を役所に連絡をすればいいのでしょうか?
しかし、理屈上、相続放棄申述受理がなされていなければまだ相続人であり、やはり台帳に登録されるかもしれません。
今のところ明快な解決策はないようです。
ただ、こういう事態が発生することがあるということを事前にわかっておくことは必要ですね。
なお、相続放棄申述受理証明書を役所に送付し、課税台帳の記載を変更してもらい、翌年度以降の固定資産税については課税されないようにしてもらった経験があります。
相続放棄をなされる際、被相続人所有不動産がある場合には、こういう問題もあることにご注意ください。
遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
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(なかた法律事務所) 2019年9月26日 11:23
登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]
不動産登記、特に相続のお話です。
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
不動産問題、遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
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(なかた法律事務所) 2019年8月29日 08:17
公正証書遺言の無効 [相続問題]
今回は相続問題のうち、相談が多い遺言公正証書の無効についてお話します。
当職も、つい最近、遺言無効確認等請求訴訟の最終準備書面を作成したところです。
遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟によらなければなりません。
遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断してくれません。地方裁判所に訴訟を提起して決着をつけないといけないのですね。
勿論、相続人間で遺言の無効を確認し、遺言はないものとして遺産分割協議が成立すればそのようなことはしなくていいです。
公正証書遺言無効は自筆証書遺言と比べて無効と判断されるにはハードルが高いです。
公証人が本人の意思を確認して作成される建前だからです。
また、遺言者の最期の意思を尊重するという観点から、遺言の有効性をかなり緩く認める傾向も否定できません。
勿論、簡単ではないですが、遺言公正証書の無効が認められるケースはあります。
公正証書遺言の無効の原因は、大きく分けて、遺言能力の欠如あるいは要式違反の2つです。
遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定しその法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力ですね。
要式違反というのは、公正証書遺言作成手続に瑕疵があるということですね。
口授手続(遺言者が公証人に遺言内容を伝えること)の違反が多いです。
要式違反も、結局は、遺言者の能力の減退を前提とすることがほとんどです。
被相続人は○○の状態であったから口授ができるはずがないといった論法になってしまいますからね。
要式違反の主張も、結局は遺言者の遺言作成時における能力が争点になります。
必然的に、公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要です。
それが発見できなければ戦いようがないため、受任をすることはしません
一番重視されるのは、当然ながら医療記録ですね。
医療記録の中に、CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあるとその結果も重視されます。
介護記録も重要な資料の1つです。
それらを基に医師の意見書などを原告被告双方が出し、場合によって鑑定に付されるなどして、遺言能力の有無が争われます。
遺言能力の有無の判断にあたっては
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、
②遺言内容それ自体の複雑性、
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、
といった諸事情が考慮されます。
①が勿論メインです。
例えば、一般に、アルツハイマー型認知症が中等度ないし高度であれば、記憶障害もまた中等度ないし高度であるため、遺言能力は欠如しているとされます。
ただ、遺言能力は抽象的にではなく、具体的に判断されます。遺言者の遺言時の精神状況が様々な資料により分析されるということです。
長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)も抽象的な点数よりも回答状況を具体的に分析しなければなりません。
介護記録は医療記録よりも証拠価値は低いとされますが、介護認定調査票などは遺言者の具体的な状況が明らかになる重要な資料ですね。
遺言作成時の医療記録等が揃っていたら割合単純な話なのですが、都合よく揃っているわけではありません。
遺言前後の医療記録等により遺言時の遺言者の状況を推認していかなければならないケースも多いです。
②は、遺言者の精神状態との関係で、その遺言内容を理解して決定できたかの問題です。
全ての遺産を特定の相続人に相続させる遺言であっても、一概に簡単な内容とはいえません。
そのような遺言の場合であっても、「本件公正証書遺言の内容自体は全財産を相続させるという単純なものであるが、そのような内容の遺言をする意思を形成する過程では、遺産を構成する個々の財産やその財産的価値を認識し、受遺者だけではなくその他の身近な人たちとの従前の関係を理解し、財産を遺贈するということの意味を理解する必要があるのであって、その思考過程は決して単純なものとはいえない。」とした裁判例もあります。
遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各法定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わり合いの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をする(最判平成23年2月22日)のですからね。
③のメインは、遺言の動機・理由です。
遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等から、合理的な遺言の動機、理由があるのかがメルクマールの1つになります。
公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多いです。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視されます。
合理的な理由がなければ、遺言者の強い働きかけにより、遺言が作成されたと疑われるのですね。
なお、公正証書遺言といえば、公証人が証人として出てくることが多々あります。
公証人が具体的な遺言作成の状況は覚えていないと証言することが多いのではないでしょうか。
多ければ年間何百件も作成しますからね。
しかし、私の担当した訴訟でも公証人が出てきましたが、十数年前の遺言の具体的な状況を覚えていると証言をしました。
しかし、俄かに信じることができませんよね。証言の信用性をかなり争いました。
遺言の効力の争いは、医学的見地から分析・検討が必須であり、また論点も多岐にわたり、大変労力のかかる訴訟の1つです。
最近書いた最終準備書面も80数頁にわたる大部なものになってしまいました。
一方、後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベターです。)を取得しておくことをお薦めします。
遺言能力が否定し難いそのような資料が残っていれば、争いが顕在化することを防ぐことができます。
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(なかた法律事務所) 2019年8月16日 08:24
遺産分割と否認 [借金問題]
法的債務整理(自己破産、個人再生)の際、遺産分割未了の財産がある場合には、基本的に法定相続分に応じた財産額が破産者の財産として把握されます。
通常は共同相続人に相続分の買取りが打診されるでしょう。
個人再生の場合は、清算価値の問題となります。清算価値が大きくなり、それが最低弁済額を押し上げ、個人再生ができない、あるいはやっても意味がないということにもなりかねません。
なお、未分割遺産が本当に田舎の物件で換価が困難で価値が見いだせないような場合には、未分割遺産を無視してくれます。
自己破産手続との関係では、同時廃止も可能です。
今回は、自己破産前に遺産分割協議を行った場合のことをお話します。
勿論、ずいぶん前に、破産者が経済的危機状態に陥る前の遺産分割協議は問題視されません。
もっとも、その場合も相続の状況は裁判所から報告を求められます。
遺産分割協議が破産者の経済的危機状態以後になされた場合が問題視されるのですね。
破産管財人による否認の問題です。
破産者に不利な遺産分割協議は詐害行為と見られかねないということです。
なお、個人再生においても否認相当行為については清算価値に計上することになっております。
趨勢は、自己破産手続における遺産分割協議に対する介入は謙抑的に考えられていると思います。
明確にそのことを示した東京高裁平成27年11月9日判決があります。
同判決の判断をかいつまんで要約すると、
・ 民法906条によれば遺産の分割は一切の事情を考慮してなされる。
・ 『遺産分割自由の原則』があり、遺産分割協議による分割は、基本的にはこれを尊重すべきある。
・ 相続人である破産者が遺産分割によって法定相続分ないし具体的相続分を下回る遺産しか取得しなかったとしても、民法906条に則り一切の事情を考慮した結果であることもあり得るから、その詐害性を直ちに認めることはできない。
・ 遺産分割協議は、元々破産者の財産でなかったものが、遺産分割の結果によって相続時にさかのぼってその効力を生じ、破産者の財産とならなかったことに帰着するものであるから(民法909条)、破産法160条3項所定の無償行為として、類型的に対価関係なしに財産を減少させる行為と解するのは相当ではない。
・ 債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、直ちにこれを共同担保として期待すべきではない。
・ 遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらない。ただし、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る。
というような判断です。
遺産分割協議が無償行為等詐害行為として否認の対象となるのは例外的なものと位置付けですね。
勿論、全ての裁判所が上記のような判断をしてくれるかどうかはわかりません。
また、上記裁判例も、具体的な事情を詳細に検討して、否認対象となる特段の事情が存在しないという判断をしています。
結局は、事案によってケースバイケースの判断になるということです。
自己破産申立ての際には、特段の事情がないこと、すなわち遺産分割合意に至る合理的な事情の説明が必要になるでしょう。
理屈だけで戦っても仕方ありません。
否認対象となるのは例外的であるという理屈を前面に出しながらも、合理的な理由を具体的に説明していくということでしょうか。
なお、遺産分割協議が否認対象とならなくとも、相続登記が破産法164条により独立に否認の対象となり得ます。
支払停止後等の対抗要件具備行為が否認対象となっているのです。
遺産分割の合意はずいぶん前にあったが、相続登記をしていなかった事例(好ましくない事態ですが珍しくはないですね)で問題になり得るでしょう。
実際にこのような案件を扱っています。
当職の私見ですが、遺産分割合意自体が否認の対象とならないのに、相続登記が遅れただけで登記が否認対象となることは疑問があります。
相続登記は、債権者を害するものではなく、有害性がないのではないでしょうか。
また、従前の遺産分割合意を正しく登記に表す行為には、所謂執行逃れのような不当な目的は存在せず、不当性がないものと考えられるのではないでしょうか。
さらに、相続登記を否認しても遺産共有状態となるだけです。
破産管財人が遺産分割審判をとろうとしても、従前の遺産分割合意を無視した審判が出るのか疑問が生じます。
本来、否認の対象とならない遺産分割合意について、それを反映する相続登記だけを取り上げて否認することには、違和感を禁じ得ません。
この点は、なかなか難しい問題で、的確な裁判例等も見当たりませんでした。
相続登記は面倒くさがらずに、忘れないうちに、しておいた方が無難ですね。
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
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(なかた法律事務所) 2019年8月11日 11:16
死亡保険金の指定受取人が先に死亡した場合の受取人 [相続問題]
お盆前は例年忙しい気がしています。
今年も訴訟や調停の期日がお盆前に集中してしまい、忙しさに負けてコラムの投稿を怠りがちになってしまっております。
8月いっぱいはこのような状態が続いてしまいます。
ということで、久しぶりの投稿になります。相続関係のお話をさせていただきます。
死亡保険金の扱いです。
厳密に言えば相続手続ではないのですが。
まず、生命保険の死亡保険金が相続財産として扱われるかどうかの話からです。
死亡保険金に受取人指定がある場合(通常ありますね)、生命保険金は指定受取人がその固有の権利として原始取得すると最高裁が結論を出しています。
したがって、死亡保険金は被相続人の相続財産になりません。遺産分割の対象とはならないです。
ただし、死亡保険金が相続財産に属さないことの結果として不公平が著しい例外的な場合に(遺産と保険金の金額の比較や被相続人と受取人との関係等諸事情が勘案されます。)、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることが判例で認められております。
その限りで遺産分割に影響があります。
ただし、特段の事情がないといけませんので、実務上簡単に認められるわけではありません。
税法上は、異なりますね。相続財産として扱われ、相続税の課税対象となっています。
ただし、被相続人が保険契約者かつ保険金の受取人になっている場合は、死亡保険金は相続財産となります。
また、受取人を相続人と指定している場合には、法定相続人が法定相続分に従って死亡保険金を受け取ることになります。
死亡保険金の保険金受取人として特定の者が指定されていても、その指定受取人が被相続人よりも先に死亡しており、その後に受取人の変更がなされていないケースもありますね。
次に、その場合には誰が死亡保険金を受け取るのかのお話です。
実は、死亡保険金の受取人の相続人(故人の相続人ではありません)が受取人になります。
保険法の定めによります。相続法の規律を定める民法によるわけではありません。
そのため、指定受取人の相続人が複数いる場合には、相続人全員が等しい割合で取得するとされています。
均等割合ですね。民法427条の規律によります。相続ではないから法定相続分ではないのです。ややこしいです。
ただ、遺産分割に盛り込むことには親和性があります。
たいていの場合は受取人が配偶者で受取人の相続人と被相続人の相続人が一致しますから、数次相続の扱いで協議をすることができますね。
勿論、以上の規律よりも保険会社との約款等の合意が優先されますので、保険会社の約款を確認しないといけません。
しかし、簡易生命保険、かんぽ生命保険の取り扱いは特殊です。注意が必要ですね。
受取人が先に死亡している場合には、死亡保険金を、指定受取人の相続人ではなく、「遺族」が受け取るのです。
相続法の規律とは異なる旧簡易生命保険法、約款にて遺族制度が定められているのですね。
遺族とは、①被保険者の配偶者、②被保険者の子、③被保険者の父母、④被保険者の孫、⑤被保険者の祖父母、⑥被保険者の兄弟姉妹、⑦被保険者の扶助によって生計を維持していた者、⑧被保険者の生計を維持していた者、です。
遺族制度にはさらに注意点があります。
①~⑧の順により遺族が定まり、先順位の遺族がいる場合には、後順位の者は遺族ではありません。
配偶者と子がいる場合には、民法で定める相続法の規律では配偶者と子が共同相続人です。
しかし、遺族制度では、遺族は第1順位の配偶者のみです。第2順位の子は遺族にはなりません。
なお、同順位の遺族が複数いる場合には、均等割合で取得します。
相続法と異なり、代襲相続の仕組みがありません。
被相続人に子が3名いるが1人は子を残して既に亡くなっている場合(配偶者が既にいない場合)、民法で定めている相続法の規律では、法定相続人は生存している子2人と亡くなった子の子(すなわち被相続人の孫)ですね。孫は亡くなった子に代わって相続人となります。これを代襲相続といいます。
しかし、遺族制度では、代襲相続を定めていませんので、被保険者の子は生存していた子2人だけになります。孫は受取人になりません。
これが公平なのかどうかは疑問ですが。
このように、死亡保険金の受取人が先に亡くなっている場合には注意が必要ですね。
特にかんぽ生命は気を付けないといけません。
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(なかた法律事務所) 2019年8月 7日 09:19
再転相続事例 [相続問題]
以前に、再転相続のお話をしました。
相続放棄のお話ですね。
再転相続は、被相続人がまず亡くなり、その相続人が熟慮期間中に相続放棄、限定承認、単純承認の選択をしないまま次に亡くなって相続が発生した場合のことでした。
めったにないのかもしれませんが、最近そのような案件を扱いました。
被相続人がなくなり、第1順位の相続人である子が相続放棄しました。
次に、第2順位の直系尊属であるお父様お母様が相続放棄をしました。
被相続人が亡くなってから、お父様の相続放棄をする間に、直系尊属の中でお父様よりも後順位となる父方の祖母さんが亡くなったのですね。
第2順位のお父様お母様の相続放棄が終わり、第三順位の兄弟姉妹が相続放棄をする段階で当職が相談を受けて受任をしたところ、上のような事情がわかったということです。
まず、上のケースが再転相続なのかという問題が生じます。
祖母は、被相続人が亡くなった際にはご存命でしたが、実際に相続人となった時点はお父様の相続放棄の時点であり、既に亡くなっています。
先順位の相続人が相続放棄する前に亡くなっているのです。
このような場合でも再転相続となるのでしょうか。
祖母が亡くなった時点で被相続人の相続人ではなかったのですから、再転相続ではない、祖母(の相続人)は相続人放棄する必要はないとも言えそうです。
一方、相続放棄をした相続人は、法律上、相続のはじめから相続人ではなかったことになります。そうすれば、理屈上は、被相続人の相続時点で祖母は相続人であったとみることになります。相続放棄が必要ですね。
さすがに書籍類には明確に記載がないため、家庭裁判所と相談しました。
その結果、後者の考え方に沿って再転相続と扱うことになりました。
相続人が被相続人の相続の発生を知らなかったときでも再転相続になるという考え方もあるためのようです。
そうなれば、第3順位の兄弟姉妹が相続放棄するには、祖母の相続人に相続放棄をしてもらわないといけませんね。第2順位の相続放棄が終わらないと相続放棄ができません。
次に、再転相続だとして何をするかです。
お父様は祖母について祖母の相続人として相続放棄をしてもいいということになります。そうすれば結局債務は引き継ぎません。
ただし、祖母の相続人が兄弟姉妹(代襲相続は1回のみなので甥姪まで)まで放棄して他に相続人がいないというところまで手続をしないといけません。
祖母の第3順位の相続人まで拡がると、会ったこともない方あるいは連絡が取れない方が増えてくるかもしれません(弁護士が連絡を取って協力を仰ぐことをよくします)。
なお、この場合、理屈上、被相続人の第3順位の相続人は登場しないのだろうと思います。祖母が被相続人の相続について相続放棄するわけではないですからね。
一方で、再転相続人として祖母の被相続人についての相続放棄選択権を行使して相続放棄をすることもできます。
勿論、祖母の相続放棄ができない事情があるケースではこの方法しかありませんね。
また、この場合には、祖母の相続人が全員相続放棄をすればいいのでしょう。
祖母の相続を相続人が承認して、選択権を行使することになります。
相続人がいなくいなるまで相続放棄をすることは必要ありません。
各再転相続人の熟慮期間の起算点の問題もありますね。
ケースバイケースで、各再転相続人が再転相続を知った時あるいは再転相続となる原因となった先順位相続人が相続放棄をしたことを知った時から起算されるのではないかと思います。
相続放棄の中でもややこしいお話である再転相続の細かい話をしてみました。
ややこしい話なので難しい点はご容赦ください。
相続放棄も簡単なようでいろいろな問題が生じます。少なくとも弁護士に相談をされてから進めてくださいね。
遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
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(なかた法律事務所) 2019年7月15日 14:28
配偶者居住権の評価 [相続問題]
「相続法改正ポイント5」というコラムにて、配偶者居住権のお話をさせていただきました。
配偶者居住権の税務上の評価方法が出てきたのでまた取り上げます。
少しだけおさらいを。
配偶者居住権は、被相続人の配偶者の保護の制度でしたね。
自宅が他の相続人と配偶者の共有の状態になると、場合によっては不動産を処分しないといけなくなる、賃料相当金の支払義務の問題が出てくる、共有物分割請求がなされる等々、配偶者が法的に不安定な立場におかれます。
そのため、改正民法は、配偶者居住権を新たに定め、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間、無償でその配偶者に居住等を認めることにしましたということでした。
配偶者居住権設定の方法は、
① 遺産分割協議による設定
② 遺言による配偶者居住権の遺贈(死因贈与でもかまわないと解釈されています。)
③ 家庭裁判所の審判
の3つでした。
もっとも、遺言を作成するのであれば、わざわざ配偶者居住権という形で保護を図る必要はないとは思っております。
遺言の内容を工夫すればいいだけですね。
配偶者居住権の期間は、原則配偶者の終身の間でしたね。
ただし、遺産分割協議、遺言あるいは家庭裁判所の審判で期間を定めたならばその期間です(改正民法1030条)。
配偶者居住権は、財産権(相続財産の一部)とみなされます(改正民法1028条)。
すなわち、配偶者はその配偶者居住権の財産的価値に相当する金額を相続したものとされます。
ただ、評価方法は難しいですということを書かせていただきました。
勿論まだ動いていない制度なので裁判上どのように評価されるのかわかりません。
そして、相続税法上の計算の方法が出てきたようです。
配偶者居住権も相続財産ですので、当然に相続税の課税対象となりますね。
一方、配偶者居住権が付いた不動産の評価は、その分下がるはずですね。
そこら辺の計算方法が出てきたということです。
あくまでも税制上の評価方法です。
しかし、民法上(すなわち、相続法)の計算も、税制上の計算方法に引っ張られていくことになると思います。
財産の評価方法について税制上の評価と、裁判所が算定する所謂時価とは異なります。
ただ、時価評価も難しい物や権利があり、税制上の評価方法が使用される、あるいは参考にされるということもあります。
建物についての配偶者居住権の評価は、
建物の相続税評価額 -
建物の相続税評価額×(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数×複利現価率
です。
建物の評価額から居住権が及ばない耐用年数分の現在価値を引いたら居住権の価値が出るというイメージでしょうか。
残存耐用年数は、法定耐用年数(住宅用)×1.5‐築後経過年数、
存続年数は、配偶者居住権の存続期間が終身であれば配偶者の平均余命、それ以外の場合には定められた期間(平均余命を上限とする)、
ということです。
平均余命というのは、年齢別に統計上出されている数字になります。
配偶者居住権の建物の相続税評価は、建物の相続税評価額-配偶者居住権の価額です。
当然ですね。
土地についても定められています。
居住建物の敷地の評価は、
土地等の相続税評価額-敷地の利用に関する権利の価額
です。
配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の価額は、
土地等の相続税評価額-土地等の相続税評価額×存続年数に応じた複利原価率
になります。
なお、同じく説明させていただいた配偶者短期居住権については、課税上の問題は生じないです。
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(なかた法律事務所) 2019年7月 3日 14:10
相続人が相続放棄や承認をする前に亡くなったとき [相続問題]
相続問題のうち相続放棄のお話です。
相続放棄に絡んで、再転相続、代襲相続、数次相続について説明します。
【再転相続】
Aが亡くなって1回目の相続が発生します。
被相続人Aの相続人Bが熟慮期間中に相続放棄も承認も行わないまま亡くなって2回目の相続が発生しました。
Bの相続人Cが相続人となることを再転相続と言います。
ここではCを便宜上、再転相続人と呼びますね。
あまりない例かもしれませんが、第2順位相続人の相続放棄の例で見ることがありますね。
祖父母、曽祖父母が御生存であれば高齢のことが多いです。
第一順位の子が相続放棄をしなければ第2順位の直系尊属の相続放棄ができませんから、第2順位の方が相続放棄するのは一定期間経過した後になります。
たまたま、亡くなってしまうこともあるのですね。
再転相続人は、AとB両方の相続人になります。
再転相続人は、勿論Aについて相続放棄ができます。
3か月の熟慮期間の起算点は、再転相続人がAの相続人になったことを知ったとき、つまりBの相続を知ったときになります。あくまでもCがAの相続人になるのはBが亡くなったからですから。
第2順位、第3順位の相続人が相続放棄できるのは自身が相続人になったときからなので、先順位の相続人の相続放棄を知ったときから熟慮期間が起算されるという理屈と同じです。
もう少しややこしい議論があります。
(先にAの相続を承認・放棄した場合)
再転相続人は、Bの相続について承認・放棄の選択ができます。
再転相続人はBの相続について固有の選択権を有しているからです。
Aの相続放棄をした後に、Bの相続放棄をしても、Aの相続について放棄の効力が遡って無効にはならないとされています。
(先にBの相続を承認した場合)
再転相続人は、Aの相続について、相続放棄・承認のいずれもすることができます。
Aの相続を承認・放棄し得る地位を承継し、選択権を有しますからね。
(先にBの相続を放棄した場合)
再転相続人は、Aの相続について、承認・放棄のいずれもなしえません(する必要がありません)。
再転相続人はBの相続を承認して初めてAの相続を承認・放棄し得る地位を承継し、選択権を有しますから。
ややこしいですね。
書籍により微妙に説明が異なっているような気がします。
実際に行うときは(現在そのような案件を受けているのですが)、よくよく吟味して手続を進めないといけません。
【代襲相続】
BがAより先に亡くなっていた場合には、単純に代襲相続の話となります。
Aの相続発生時に既にBが亡くなっている点が再転相続のケースと異なります。
Aの遺産分割はAの相続人間(Bが亡くなっているのでBの代襲相続人が当事者)で行います。
Bの代襲相続人は、勿論Aの相続について相続放棄ができますね。代襲相続人の熟慮期間の起算点はAの相続を知ったときです。
【数次相続】
BがAの相続を承認(熟慮期間を徒過など)していたが遺産分割前に亡くなった場合は数次相続の問題となります。
実務上よくある事態です。
こちらは、既にBがAの相続を受けていますね。その点で再転相続のケースと異なります。
Aの相続についてはAの相続人間で(Bの代わりにBの相続人が当事者となります)、Bの相続については勿論Bの相続人間で遺産分割協議をすることになりますね。
遺産分割協議は同時に行うことも多いです。遺産分割調停も2件同時に申し立てることになるでしょう。
勿論、Bの相続人は、Bの相続について相続放棄をすることが当然できます(その場合はBの相続人ではなくなるのでAの遺産分割協議には参加できません)。
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(なかた法律事務所) 2019年6月25日 11:36
生命保険金と相続 [相続問題]
広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
生命保険金は、相続の対象外だと聞かれることがあると思います。
保険の外交員さんなどもこのフレーズでセールスをすることがありますね。
相続税法上、生命保険金はみなし相続財産です。
基礎控除はありますが、相続税がかかります。
しかし、民法上は、受取人指定の保険金請求権は相続財産ではありません。
民法と税法が違うところですね。
受取人指定の保険金請求権は、受取人である相続人が取得する固有の権利と見られるからです。
保険の種類により扱いが異なります。
受取人が、「本人」の場合には相続財産に含まれますね。
また、受取人が「相続人」と指定されている場合には、相続人の固有の請求権になります。
この場合、相続分とは無関係に各相続人平等で取得します。
保険証券を確認してみないといけません。
なお、受取人指定の保険金であれば、相続放棄をしても受け取ることができます。
相続財産ではありませんから、単純承認行為とはなりません。
相続財産と見られる保険金は受け取って費消しては駄目です。単純承認行為となります。
ということで、冒頭の生命保険金は相続の対象外という言葉は間違いではありません。
ある相続人にある程度特別にお金を残したい際に保険を活用することも有益ですね。
ただし、法律の世界では何事も例外があります。
遺産に比べて法外な金額の生命保険金請求権を特定の相続人が取得する場合は不公平ですね。他の共同相続人が納得できません。
そこで、相続の対象外となる生命保険金も、場合によっては、特別受益に準じると見られて相続に影響を及ぼすこともあります。
判例は、受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認ですることができないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となる、としています。
持ち戻すということなので、仮に1億の遺産で1億の保険金請求権であった場合、保険金請求権1億を特別受益と同じく持ち戻し、遺産を2億と見ます。
相続人が子4人である場合、2億を法定相続分に応じて分けると1人5000万円です。
受取人は既に1億貰っているから残る相続分はないとして、1億を3人で分けることになりますね。
特段の事情は、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、「被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断するとされています。
実務的には、判例の言い回しである特段の事情はなかなか認めてくれません。
あくまでも例外だからです。
単純に遺産の額と保険金請求権の額を比べるだけではないので一概には言えないのですが、遺産の額を超える保険金額のケースや60%を超える保険金額のケースで、特別受益に準じた持ち戻しが認められた例があるようです。
遺産と比べて相当の額と言える死亡保険金請求権を共同相続人の1人が取得した場合には、このような紛争が生じるリスクがあることにご注意ください。
特に、事業承継対策などで極端な保険契約の提案を受けたときには気を付けないといけませんね。
遺言に、仮に特別受益に準じると見られた場合であっても持ち戻し免除をする意思表示を記載しておく、あるいは生命保険金の受取人を指定した事情を記載しておくことも考えられますね。
持ち戻し免除の意思表示の効力はどう判断されるのか判例がないのでわかりませんが、少なくとも上記判例の総合考慮の要素としては組み込まれるのではないかと思います。
遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
(なかた法律事務所) 2019年6月18日 13:14
収益物件の相続 [相続問題]
広島市の弁護士仲田誠一です。
相続問題の投稿です。
今回は、収益物件の相続をまとめてお話しようと思います。
収益物件とは賃貸している物件ですね。
相続が起きたとして今後の賃貸料の扱いが気になりますね。
賃料は遺産の果実です。遺産の果実は遺産そのものではないので遺産分割の対象外です。
賃料債権は可分債権なので、相続発生後の賃料は相続分に応じて各相続人に帰属します。
固定資産税等の管理費用はどうでしょうか。
民法上、相続財産に関する費用は相続財産から支弁することになっています(885条)。
それでは相続財産ではない家賃と精算できないですね。
しかも、マンションやアパートだと保守管理費用や清掃費用も出てくるところ、相続財産の管理費用か相続発生後の賃貸行為の費用なのか微妙な感じもします。
勿論、合意で解決する場合には、賃貸にまつわる費用は家賃から精算する(相続開始後の賃料から管理費用を控除した残額を分配する。)のが通常でしょう
相続物件たる不動産は、遺産分割前では、遺産共有状態です。
保存行為は各共同相続人単独で、管理行為は過半数持分で決めることになります。
固定資産税、火災保険の支払、不法占有者に対する明渡し請求あるいは破損部分の修繕などは保存行為として各相続人単独でできます。
その場合の費用の精算は上述のとおりの問題が出てきます。
相続預金口座は、相続発生の連絡により(中には銀行が新聞を見て動く場合もあります)、凍結されますね。
凍結されても家賃の振込入金は継続できるケースもあります。ただ、手続を踏まないと引き出せません。
同意ができる範囲で同意書を取り交わし、家賃等管理口座を作成して、賃借人に振り込み先の変更をお願いするのが現実的でしょうか。
実際には、事実上1人の相続人が管理を引き継いで振込みを受けることもありますが、他の相続人に対して清算義務が勿論あります。
かつ、本来は共同相続人共同の事業として各人が申告をしないといけないことになります(実際には代表して誰かが申告すればそれ以上突っ込まれないところですが)。
一人で申告した場合には後の清算の場面で所得税の扱いが面倒ですね(また、共同事業として各相続人が申告した方が税金は通常安くなります)。
遺産分割前に、空室について新規の賃貸借契約ができるかの問題もありますね。
新規の賃貸借は、管理行為になるか変更行為になるか争いがあります。
管理行為なら持分の過半数で決められる(民法252条)、変更行為なら共有者全員の同意が必要です(民法251条)
事例判断に依らざるを得ないことになります。目的不動産の利用形態、期間の長短がメルクマールとなるようです。
まず、利用形態を大きく変更する賃貸借は変更行為と見られるでしょう。
次に期間ですが、民法602条の短期賃貸借(土地5年、建物3年)であれば理屈上大丈夫でそうですが、借地借家法の問題があります。
借地借家法の適用のある賃貸借契約(通常の賃貸借は適用があります。適用がないのは、建物所有を目的としない土地賃貸借や一時使用目的の建物賃貸借などです。)であれば、短期賃貸借であっても更新がなされて長期間の契約になる可能性が高いのですね。そのため、変更行為と判断された裁判例もあります。
無難に考えるのであれば、借地借家法の適用のない短期賃貸借かつ利用形態を大きく変えない賃貸借は過半数持分の同意でできるというべきでしょうか。
更新の場合も、自動更新の場合には問題がなさそうですが、都度更新の場合には変更行為となる場合があるでしょう。
事実上、一人の相続人が管理をして賃貸借契約を締結するということもあります。それは法律的には無断賃貸借になります。
なお、賃貸借契約の解除は管理行為です。過半数持分での決定ですね。
このように、遺産分割前の収益物件の管理は法律的に見るとかなりややこしいです。
最近も、お母さまの相続後何年も一人の相続人が遺産分割なしで事実上ビルの収益管理を継続した上でその方も亡くなったという事例がありました。
遺産分割は勿論、不当利得返還請求や相続後の家賃・管理費用等問題が多岐にわたっており、訴訟で紐解くのも可能ながら効率的ではなかったため、なんとか和解的解決を図りました。
できれば、遺産分割前の物件管理等について合意書面を作っておく方がいいですね。
遺言、相続、遺留分減殺、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
(なかた法律事務所) 2019年6月 7日 08:20