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民法改正講座5 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。

まず、法定利率が変わります。 
【民法404条(法定利率)】
利息を生ずべき債権について利率に関する合意がない場合には、その利息が生じた最初の時点における法定利率が適用されます。
勿論、無利息貸付等、無償での債権も存在します。
個人間の貸付について「これまでの利息は請求できないのか。」と、質問を受けることがあります。
しかし、利息が生ずべき債権ではない限り、法定利率で利息を請求することができません。
遅延損害金は約束がなくとも請求できますが、利息は約束がないと請求できないのです。
貸付であれば、利息が発生することが契約書に明記される等が必要です。
 
法定利率が、5%⇒3%となりました。
近時の低金利に合わせた形です。それでも高いような気もするかもしれません。
 
かつ、法定利率が、3年毎の見直しにより変更されることになりました。
過去5年間の短期貸し付けの平均利率として法務大臣が告示する基準割合を基準にして調整する形です。条文を見てもイメージが湧き難いところです。慣れないといけませんね。
ただ、1%未満の端数は切り捨てる調整ですので、簡単に変動するわけではありません。
 
あわせて商事法定利率6%の商法規定が削除されました。商人が貸すのと個人が貸すのとでは異なった利率だったのですが、統一されます。
施行後は、弁護士が訴状を書く際に、商事利率が適用されるか民事法定利率が適用されるか悩まなくてもよくなります。
 
金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)では、利息の支払合意があるのであれば利率に関する合意も当然ありますよね。
利息の支払い合意がなければそもそも利息は発生しないことは上述したとおりです。
法定利率はあまり関係がないじゃないかと思われるかもしれません。
 
実は、法定利率は実はいろいろなところで出てきます。
遅延損害金の利率や、不当利得の悪意の受益者に対する利息、損害賠償請求権の行使の際の中間利息の控除にも影響を及ぼします。
弁護士も訴状にて法定利率を請求することが多いのです。
特に中間利息の控除の考え方は損害賠償以外でも利用されます。要するに現在価値の計算ですからね。影響が大きいのではないでしょうか。

次に履行不能のお話です。履行ができない債務を内容とする契約をした場合ですね。
 
【履行不能(民法412条の2)】
1項 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
 
履行不能に関する新設規定です。
1項では、履行不能の効果として、債権者が履行請求権を失うことが明文化されました。
考え方は変わっていません。履行が不可能で会ったら履行を請求しても意味がないですからね。勿論、履行を不能にした責任のある当事者は損害賠償義務を負います。
 
2項では、契約のはじめから不能であった場合(「原始的不能」といいます。)でも、契約は有効に成立したとの前提で、債務不履行による損害賠償請求が可能であることが明文化されました。
従来は原始的不能の場合には契約が無効である、そのため給付すべき者に過失がある場合には契約締結上の過失責任として損害賠償責任が生じうるとされていました。
しかし、契約締結上の過失責任は、債務不履行責任と異なって、履行利益の賠償が含まれていない信頼利益のみとされています(儲けがなくなった損とイメージすればわかりやすいでしょうか)。
履行利益、信頼利益は、弁護士泣かせの概念で、具体的事案に当て嵌めると非常に判断が難しい場合もあります。
原始的不能か後発的不能かの違いは偶然の事情によるのに損害賠償の範囲が違うとおかしいということで、効果を同じにしたようです。
 
続いて受領遅滞のお話です。債務の目的物の受取を拒んだ場合等ですね。

【受領遅滞(民法413条)】
受領遅滞という言葉をご存知でしょうか。
履行の提供をする側が怠った場合は履行遅滞ですね。わかりやすいです。
その反対に履行の提供を受ける側が受けなかった場合が受領遅滞です。
受領遅滞の効果が整理されています。
そんなことあるのか、と思われる方がいらっしゃると思います。
契約内容に争いがあるなどの思惑があって履行の提供を受けないことは珍しくありません、弁護士はけっこう出逢う事態です。
 
まず1項で、受領遅滞の効果として、債務の目的物が特定物の引渡しであるときは、履行の提供後は「自己の財産に対するのと同一の注意」をもってその物を保存すればいいとされています。
特定物ではなく種類物が目的の場合(例えば缶ジュース)には、保存ということ自体考えられないですね。
ただ、実務上は、いつの時点で特定物になるかは難しいところです。汎用性がある物も(これは種類物といいます。)、どこかの過程で特定されることになりますね。
「自己の財産に対するのと同一の注意」は善良な管理者の注意(善管注意義務)を軽減する際に使われる言葉です。保存義務の程度を軽減する意味です。少し乱暴かもしれませんが、軽過失があっても責任が生じるのが善管注意義務、そうではないので自己の財産に対するのと同一の注意というイメージでしょうか。
 
次に2項では、履行に要する費用が増えた場合には、増加額は債権者の負担とすることが明文化されました。
 
【履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由(民法413条の2)】
新設規定です。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能となった場合、履行遅滞の間であれば債務者の責めに帰すべき事由によるもの、受領遅滞の間であれば債権者の責めに帰すべき事由によるもの、と各みなすとされています。
従来の考え方を明文化したものです。

今回のお話した内容は実務にも影響がある改正点かと思います。
 
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
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不動産を利用した節税スキームの法的リスク【不動産問題】

弁護士の仲田誠一(なかた法律事務所、広島市)のコラムです。

相続税対策のために不動産を購入するということは銀行やディベロッパーなどから日常的にセールスされます。そのような動産を使った相続税対策が否認された事例(ニュースにもなった事例です。)の控訴審判決がありました。今回は、そのご紹介を兼ねて不動産を利用した節税スキームの法的リスクについてお話します。

目次
Ⅰ 不動産を利用した節税スキーム
Ⅱ 第一審判決の内容
Ⅲ 控訴審判決の内容
Ⅳ まとめ

Ⅰ 評価と価値の違いによる節税スキーム

1.不動産の相続税評価
まずは前提のお話です。
相続税法によると、相続税の算定の基礎となる相続財産は時価評価されます。現預金は額面そのままが評価額です。
一方で、不動産については財産評価基本通達に則って、土地については路線価ベース、建物については固定資産評価ベースでの評価がなされます。
通達は法律ではないのですが、画一的・大量的処理の便宜、公平な課税の観点から、通達による評価は合理的なものとして許容されています。

2.節税スキーム
路線価、固定資産評価は市場価格よりも低く設定されています(一般的には、前者が8割、後者が7割と言われています)。
さらに、土地については貸家建付け地評価等、建物については減価償却等により評価額を下げることができます。
1億円を現金で持つよりも市場価格1億円の不動産を持つ方が、相続時の評価が低くなり、相続税の節税ができるわけです。借入れによる不動産投資も同じ節税効果があります。

ちなみに、タワーマンションの高層階については、固定資産評価と資産価値の乖離が大きいことから(平成29年税制改正までは高層階と低層階が同じ評価でした)、特に節税効果が高いとして人気です(税制改正により上記乖離を是正する措置がとられましたが必ずしも十分ではないようです)。


Ⅱ 節税スキームが否認された第一審

1.事例の内容
不動産を使った一般的な相続税対策に対する否認が裁判所により是認されたのが東京地裁令和2年11月12日判決でした。
事例は次のようなものです。
被相続人は89歳で死亡しました。肺がんに罹患していることが発覚し、銀行の薦めで亡くなる直前に借入れにより多額(15億円)の収益不動産を購入しました。相続人らは、財産評価基本通達にしたがって不動産を評価(約4億8000万円)し相続税を申告しました。
ところが、課税庁は、財産評価基本通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」を適用し、不動産鑑定士の鑑定評価により不動産を評価(10億4000万円)しました。
そして、更正処分および過少申告加算税賦課決定処分が出されたという事案です。

2.判決内容
納税者は当然怒ります。いつもは通達どおりの評価で何も言われないのに、今回だけ不意打ちですね。不平等感もあります。
しかし、判決は次のとおり課税庁の処分を是認しました。
評価通達による課税は、その定めが時価算定方法として合理性を有するものである場合には、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減といった観点から相当である。しかし、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるといえるような「特別な事情」がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許される。本件には特別な事情が認められ、かつ課税庁の不動産鑑定評価は合理的な方法だった。


Ⅲ 控訴審判決の内容

1.控訴審の判断
控訴審はどうだったでしょうか。残念ながら納税者が負けました。東京高等裁判所令和3年4月27日判決です。
「租税平等主義の観点に照らして、租税負担の実質的公平を著しく害することが明らかな場合まで、評価通達の定めにより評価すべきものではないし、そのような場合について評価通達の定めによらないで個別に財産を評価したとしても租税法律主義に違反するとうことはできない。」などとして控訴を棄却しました。

2.コメント
憲法上、租税法律主義が定められています。課税は法律に依らなければなりません。相続税法には時価評価をすると定められていますから、鑑定評価による評価は当然に合理的な時価評価と見られますね。かつ、通達による課税は禁止されています。通達に従ったにもかかわらず否認をされたという事例には法律違反はありません。結局、納税者が文句をいうには、自分だけ通達評価を否定されることは憲法で定める平等主義(租税公平主義)に反するとの主張に帰結してしまいます。
判示のとおり、平等主義には形式的平等と実質的平等の2つの相反するかのような原則が含まれます。裁判所は、実質的公平を害してまで形式的平等を貫く必要はないと判断したのですね。
租税法律主義の観点からは、仕方がない判断なのでしょう。


Ⅳ まとめ

1.本事案の捉え方
本事案は、評価通達による評価が鑑定評価の2分の1未満という極端な乖離があり、かつ多額の節税効果のあったというレアケースかもしれません。しかし、そもそも不動産を利用した相続税対策のスキームは、市場価格より相続税評価が低いことを前提にしています。否認しようとすれば簡単かもしれません。評価通達を無視した更正処分が一般化すると、影響は大きいです。

2.今後の対応
今後は前記「特別な事情」がどの程度であれば認められるかが焦点となります。事例判断の蓄積を待つほかないですが、現段階では余り極端なことはしない方がよろしいでしょう。節税スキームには、常に否認リスクが存在することをご注意ください。


弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格その他
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)

民法改正講座13 【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
今回は、個別の契約類型の話に入ります。
講学上は、契約各論と呼ばれます。
 
【贈与に関する改正(民法549条から551条)】

めぼしい改正点は、贈与者の担保責任が削除され、贈与者の引渡義務に関する規定に改められたことだけです。

贈与者は、目的物あるいは目的である権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定されます。
当事者の意思推定規定です。

以下は、売買契約に関する条文の主な改正点です。
 
【瑕疵担保責任に関する改正】

売買などの有償契約の担保責任については、法定責任説(法律が特別に定めた責任)と契約責任説(契約上の責任)の考え方があり、従来は法定責任説をベースに解釈されてきました。

改正により、契約責任説に則った条文に変更されました。

そのため、「瑕疵」という言葉がなくなり、「契約の内容に適合しない」という言葉になっています。
 
【権利移転の対抗要件に係る売主の義務(民法560条)】

売主は買主に対し、登記等の対抗要件を備えさせる義務を負うことが明文化されました。
当然ですね。
 
対抗要件とは、その権利を主張するための要件です。
不動産なら登記、普通自動車なら登録、債権なら譲渡通知、動産なら引渡しですね。
 
【買主の追完請求権(民法562条)】

契約責任説の観点から、目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるときは、買主は、修補請求、代替物の引渡し請求、不足分の引渡し請求(これらを追完請求権と呼びます)ができる旨定められました。
 
これに対し、売主は、買主に不当な負担を課するものではない限り、買主の請求した方法による追完(修補を請求されたが代替物を引き渡すなど)ができます。
 
勿論、契約不適合が買主の責任である場合には、買主は追完請求をすることができません。
 
【買主の代金減額請求権(民法563条)】
契約不適合のケースの買主の代金減額請求権の規定が定められました。
 
追完が不能であるとき、追完拒絶の意思が明確に表示されたとき、特定の日時・期間に履行しなければ契約目的を達成できない契約のその時期の徒過、以外のケースでは、相当の期間を定めて追完の催告をした上で、不適合の程度に応じた代金の減額を請求することができます。
 
このようなケースでは解除もできますね。解除しないで代金減額請求もできるということです。
  
【買主の損害賠償請求及び解除権の行使(民法564条)】

担保責任(追完請求権、代金減額請求権)が発生する場合でも、債務不履行による損害賠償請求、解除ができることが定められています。
契約責任説によっています。
 
また、以上の3条は、物ではなく権利の契約内容の不適合のケースへも準用されます(民法565条)。
 
【目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限(民法566条)】

種類または品質(数量不足は一般の債務不履行の期間制限です。)に関して契約内容不適合のケースでは、買主はその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権を保全できません。

権利行使ができなくなるということですね。
期間内に通知をすれば、個別の請求権は一般の消滅時効に服します。

ただし、売主が引渡しの時に不適合を知りあるいは重大な過失によって知らなかったときは、上の期間制限に服しません。
 
【目的物の滅失等についての危険の移転(民法567条)】

目的物の引渡し後、または買主の受領遅滞(履行の提供があったにもかかわらず受領しない場合)後に、当事者双方の責めに帰すことができない事由により目的物が滅失・毀損した場合は、買主がその危険を負担する旨明文化されました。
 
買主が危険を負担する場合、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除はできませんし、代金の支払い義務を免れることはできません。
 
目的物の引渡しあるいは受領遅滞を危険の移転時期としたものです。
 
次回も売買関係の続きからです。

ここら辺は大きく変わっているところで、他にも細かい変更がありますが大所だけ挙げています。
なお、今回の売買契約の条文は、多くが他の有償契約にも準用されます点をご注意ください。
有償契約の総論規定のような性質の条文なのです。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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民法改正講座12 【身近な法律知識】

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
今回は、契約の総論の続きです。
 
【催告による解除(民法541条)】
元々は履行遅滞(期限になっても債務を履行しないこと)の解除に関する条文でしたが、履行遅滞、不完全履行(債務の本旨に従った履行をしないこと)、履行不能(債務が履行できなくなったこと)の債務不履行共通の催告による解除の条文になりました。
 
債務の履行がない場合には、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内の履行がないときには解除できます。
 
相当期間は、感覚的には10日間から2週間でしょうか。
催告と同時に履行がないときの解除も合わせて内容証明郵便で通知することが多いですね。
停止条件付解除通知といいます。
 
新法では、解除の要件として債務者の帰責事由を外しています。
相手方へのペナルティの問題ではなく、契約関係からの離脱の問題とされたからです。
 
ただし、不履行が契約及び取引通念に照らして「軽微」であるときは、解除ができないことも定められました。
そのケースでは、損害賠償請求ができるだけです。
 
【催告によらない解除(民法542条)】
上述の催告をすることなく解除できる場合が整理されました。
 
催告をしないで契約の全部を解除できるのは、
債務の全部の履行が不能であるとき(全部履行不能)
債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
一部履行不能あるいは一部履行拒絶のケースで残存部分だけでは契約目的を達成できないとき
特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約目的を達成できない場合に履行がないとき
催告をしても契約目的を達成する履行がなされる見込みがないことが明らかであるとき
です。
 
催告をしないで契約の一部を解除できるのは、
債務の一部の履行が不能であるとき(一部履行不能)
債務者が債務の一部を拒絶する意思を明確に表示したとき
です。
 
催告をしても意味がないケースですね。

こちらも、解除の要件として債務者の帰責性が外されています。
 
【債権者の責めに帰すべき事由による場合(民法543条)】
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合は債権者は解除することができないことが明文化されました。
当然ですね。
 
【定型約款(民法548条の2~548条の4)】
約款取引というものがあります。
ガスとか電気とか預金など契約時に具体的な交渉により取引条件が合意されることなしに約款どおりの契約をするケースですね。
そのうち「定型取引約款」について、民法の条文に取り込まれました。
 
定型取引(不特定多数の者を相手方として行う取引)の約款は該当するものと考えていいでしょう。
事業者間取引の約款や契約書は該当しないとされています。
 
約款を読んで契約を申し込むことはあまりないかもしれません。
内容を知らない事も多いでしょう。
しかし、定型契約をする合意をしたとき、あるいは定型約款を準備した者が契約内容とする旨を表示していたとき、は約款が契約の内容となります。
ただし、信義則に反し相手方の利益を一方的に害する条項は合意がなかったものとみなされます。
 
定型約款準備者には定型約款の内容の表示義務が課されます。
 
次の一定の場合には、定型約款の変更を相手方との合意なしにすることもできます。
変更が相手方一般の利益に適合するとき
変更が契約目的に反せず、必要性・相当性・変更がある旨の定め有無等の事情に照らして合理的なものであるとき
です。
一方的な変更が認められる場合でも、変更について周知義務が課されています。
 
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民法改正講座11 【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
今回は、契約の総論です。
 
【契約の締結及び内容の自由(民法521条)】

契約の自由が明文で定められました。
契約締結の自由、相手方選択の自由、方式の自由、内容決定の自由は元々認められている原則です。
契約をするかどうか、誰と契約するか、どのような形式で契約するか、どのような内容で契約するか、は本来自由です。
 
勿論、法律に反しない限りです。

例えば、公序良俗に反する内容の契約は無効になります。
また、消費者契約法など特別法にて、契約の効力は制限されています。
 
自由だからこそ、契約締結は慎重にしなければなりません。
契約を締結してしまうと、その効力を覆すことは大変です。

訴訟では、争いの解決は契約条項の解釈によることが多いです
一度立ち止まって考えてから、内容をきちんと確認して契約を締結してください。
 
【契約の成立と方式(民法522条)】

契約は、申込に対して相手方が承諾したときに成立する旨明文化されました。
申込みに際して、承諾の期間を定めたり、撤回する権利を留保することは勿論できます。
民法523条で明文化されました。
 
また、契約の成立には、法令の特別な定めがない限り、書面の作成その他の方式を要しないとする方式自由の原則も明文化されました。
例えば遺言は、要式行為といって、方式が法定されています。

 
【承諾の期間の定めのない申込み(民法525条)】

申込みは承諾の通知を受けるのみ相当の期間を経過するまでは撤回できないです。
ただし、申込者が撤回をする権利を留保した場合は撤回することができます。
 
これに対し、対話者に対する申込みは、対話が継続している間は撤回できます。
対話中に承諾の通知を受けなかったときは反対の表示をしない限り申込みの効力を失います。
 
契約の成立の有無及び時期は裁判でよく争われますが、契約書などの書面が作成されていないケースでは、様々な間接事実が考慮されて判断されることになります。
 
【同時履行の抗弁(民法533条)】

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます。
これを同時履行の抗弁といいます。
 
双務契約は通常の契約ですね。
一方が他方に義務を負うだけではなく、売買の引渡義務と代金支払債務のように双方が義務を負う契約です。

実際にはどちらかが先履行である旨を定めることも多いです(代金後払い、代金先払いなど)。
気を付けてくださいね。
 
【債務者の危険負担等(民法536条)】

当事者双方に責任なく債務の履行ができなくなったとき(履行不能)、債権者と債務者のどちらが負担をするのかという問題を危険負担の問題といいます。
従来は、危険は債権者が負担するという債権者主義が定められていましたが、改めました。
不合理だからです。
 
新法では、債権者が反対給付の履行を拒むことができます。
ただし、契約関係から離脱するには、理屈上、契約解除をする必要があります。
 
勿論、債権者の責めに帰すべき事由による履行不能のケースでは、債権者は反対給付の履行を拒むことができません。
当然ですね。
 
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民法改正講座10【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
今回は、債務の消滅に関する規定です。
 
【第三者の弁済(民法474条)】
債務の弁済は第三者からもすることができますが、債権者保護の規定が整備されました。
 
弁済をするについて正当な利益を有しない第三者は、債務者の意思に反して有効な弁済はできません。正当な利益とは法律上の利益です。
ただし、債務者の意思に反することを知らなかった債権者については第三者弁済が有効になります。
また、債権者は、第三者が債務者の委託を受けていたことを知らない限り、弁済を拒絶することもできます。
 
債務の性質上第三者の弁済を許さないとき(債務者本人が履行しないと意味がない債務は金銭債務以外ではよくありますね。)は第三者弁済ができず、また、当事者の意思表示により第三者弁済を禁止することもできます。
 
【預金又は貯金の口座に対する払い込みによる弁済(民法477条)】
一般的に利用されている振り込みによる弁済の効果について規定が新設されました。
弁済の効力が発生するのは、債権者が預貯金の払戻しを請求する権利を取得した時です。
銀行等に対する預貯金債権発生の時ですね。
 
【弁済の場所及び時間(民法484条)】
弁済の時間移管する規定が追加されました。
法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる、という規定です。
 
【受取証書の交付請求(民法486条)】
弁済と受取証書の交付が同時履行の関係にあることが明示されました。
債務者は、債権者が受取証書の交付をしないときは、弁済の提供に留めて債務不履行責任を免れ、債務の履行を拒絶することができます。
 
【供託(民法494条)】
弁済供託の要件が整理されました。
債権者の受領拒絶を原因とする弁済供託の要件として、債務者による弁済の提供が必要であることが明記されました。これまでも実務上はそういう扱いでしたが。
債権者不確知を原因とする弁済供託は弁済者の無過失が要件となりますが、債権者に弁済者の過失の主張・立証責任を負わせるように規定が整備されました。
 
なお、供託に適しない金銭や有価証券以外の物品を目的物とする供託(物品供託)において、売却代金の供託に関する規定も整備されています(民法497条)。
 
【弁済による代位の要件(民法499条)】
債務者のために弁済をした者は、債権者に代位します。
債権者から弁済者へ権利が移転するのですね。
今回、弁済について正当な利益を有しない場合でも、債権者の承諾が不要とされました。
 
もっとも、弁済について正当な利益を有しない場合では、代位の対抗要件として、債権譲渡と同様の債権者からの通知または債務者の承諾が必要です(民法500条)。
 
なお、金融機関との取引では、特約により、代位には債権者の承諾が要求されていることと思います。
 
【債権者による担保の喪失等(民法504条)】
弁済をするについて正当な利益を有する者がいる場合には、債権者は担保保存義務を負います。
債権者が担保保存義務に違反した場合には、義務違反の影響に応じて免責を受けることができます。
物上保証人から担保の目的物を譲り受けた第三者及び特定承継人にも担保保存義務違反による免責の効果が承継されることが明記されました。
また、取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、免責の効果が生じないこととされました。
元々、担保の差し替えや一部解除等をすることがある金融機関では特約により担保保存義務の免除を定めていましたが、法律上手当がなされたということです。
 
他にも代位関係の規定が整備されていますが、マニアックすぎるので割愛します。
 
【不法行為等により債権受働債権とする相殺の禁止(民法509条)】
旧法では、債務が不法行為によって生じたときは、債務者がそれを受働債権(相殺の相手の債権)として相殺をすることができませんでした。
債務者が加害者、債権者が被害者に当たり、加害者が被害者に対して債権をもっている場合の相殺の問題ですね。
規律の合理化のための改正がなされています。

相殺禁止の受働債権の範囲が次の2つに限定されています。
1 悪意による不法行為に基づく損害賠償債務
悪意とは、積極的な害意が必要とされています。
不法行為の誘発防止には悪意による損害賠償債務だけを対象としたら済むと考えられたようです。
2 人の生命または身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償債務
損害賠償債務は不法行為に限らず、債務不履行責任も含むことになっています。
過失によるものも含まれます。被害者に現実の賠償を受けさせる必要が高いからです。

なお、それら損害賠償債権であっても、他人が譲り受けた債権であるときは、相殺ができるとされました。被害者保護の必要性がありませんからね。
 
【更改に関する規定の整備(民法513条から518条)】
更改は実務上あまり見ることがありませんので簡単に。
更改は、従前の債務に代えて、新たに給付の内容について重要な変更をする、債務者あるいは債権者を交替するもので、従前の債務が消滅します。
更改の意思(従前の債務を消滅させて同一性のない債務を発生させる意思)が必要と明記されました。
通常は、従前の債務を消滅する意思はなく、代物弁済契約、免責的債務引受契約、債権譲渡のケースが多いのではないでしょうか。
なお、債務者の交代は免責的債務引受に近いので、免責的債務引受に関する規律が準用されています。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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