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旧コラム 6ページ目

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配偶者居住権の評価 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
「相続法改正ポイント5」というコラムにて、配偶者居住権のお話をさせていただきました。

配偶者居住権の税務上の評価方法が出てきたのでまた取り上げます。

少しだけおさらいを。
 
配偶者居住権は、被相続人の配偶者の保護の制度でしたね。
自宅が他の相続人と配偶者の共有の状態になると、場合によっては不動産を処分しないといけなくなる、賃料相当金の支払義務の問題が出てくる、共有物分割請求がなされる等々、配偶者が法的に不安定な立場におかれます。
そのため、改正民法は、配偶者居住権を新たに定め、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間、無償でその配偶者に居住等を認めることにしましたということでした。
 
 配偶者居住権設定の方法は、
① 遺産分割協議による設定
② 遺言による配偶者居住権の遺贈(死因贈与でもかまわないと解釈されています。)
③ 家庭裁判所の審判
の3つでした。
 
もっとも、遺言を作成するのであれば、わざわざ配偶者居住権という形で保護を図る必要はないとは思っております。
遺言の内容を工夫すればいいだけですね。
 
配偶者居住権の期間は、原則配偶者の終身の間でしたね。
ただし、遺産分割協議、遺言あるいは家庭裁判所の審判で期間を定めたならばその期間です(改正民法1030条)。
 
配偶者居住権は、財産権(相続財産の一部)とみなされます(改正民法1028条)。
すなわち、配偶者はその配偶者居住権の財産的価値に相当する金額を相続したものとされます。
 
ただ、評価方法は難しいですということを書かせていただきました。
勿論まだ動いていない制度なので裁判上どのように評価されるのかわかりません。
 
そして、相続税法上の計算の方法が出てきたようです。
配偶者居住権も相続財産ですので、当然に相続税の課税対象となりますね。
一方、配偶者居住権が付いた不動産の評価は、その分下がるはずですね。
そこら辺の計算方法が出てきたということです。
 
あくまでも税制上の評価方法です。
しかし、民法上(すなわち、相続法)の計算も、税制上の計算方法に引っ張られていくことになると思います。
財産の評価方法について税制上の評価と、裁判所が算定する所謂時価とは異なります。
ただ、時価評価も難しい物や権利があり、税制上の評価方法が使用される、あるいは参考にされるということもあります。
 
建物についての配偶者居住権の評価は、

建物の相続税評価額 - 
建物の相続税評価額×(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数×複利現価率

です。

建物の評価額から居住権が及ばない耐用年数分の現在価値を引いたら居住権の価値が出るというイメージでしょうか。

残存耐用年数は、法定耐用年数(住宅用)×1.5‐築後経過年数、
存続年数は、配偶者居住権の存続期間が終身であれば配偶者の平均余命、それ以外の場合には定められた期間(平均余命を上限とする)、
ということです。
平均余命というのは、年齢別に統計上出されている数字になります。
 
配偶者居住権の建物の相続税評価は、建物の相続税評価額-配偶者居住権の価額です。
当然ですね。
 
土地についても定められています。
 
居住建物の敷地の評価は、
土地等の相続税評価額-敷地の利用に関する権利の価額
です。
 
配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の価額は、

土地等の相続税評価額-土地等の相続税評価額×存続年数に応じた複利原価率

になります。
 
なお、同じく説明させていただいた配偶者短期居住権については、課税上の問題は生じないです。
 
遺言、相続、遺留分相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
 
https://www.nakata-law.com/
 
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相殺の担保的機能と破産 [企業法務、借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
相殺の担保的機能と破産の相殺禁止との関係のお話をします。
企業法務の観点からは、相殺は債権保全の方策として重視されます。
ただ、破産手続との関係で無限定に相殺の効力が認められるわけではない。
というお話です。
 
【相殺の担保的機能】
相殺は、担保権と同じような機能を有します。
売掛先から別途仕入債務がある場合には、売掛先が債務不履行をした場合に少なくも仕入債務については売掛金債権を自働債権として相殺すれば実質的に回収ができることになります。
他の担保権よりも手続が簡単であり、強力な担保ですね。
業績が芳しくない売り先に対しては、仕入を立てることで一部債権保全をしておくということもお勧めをすることがあります。
 
銀行も貸付先に預金を積んでもらうことがありますが、相殺の担保的機能を意識しているのですね。弁護士から受任通知が銀行に届くと期限の利益喪失事由になりますので、即相殺をしてきます。
主債務者の預金だけではなく、保証人の預金も相殺してきますので、ご注意ください。
 
取引先が破産をした場合でも相殺権は有効です。
当職が法人の自己破産の代理をした際にも、売掛先から相殺の主張をされることが珍しくありません。
 
ただ、破産法を貫く債権者平等原則から、一定の場合には相殺が禁止されます。相殺禁止に該当すると、相殺は無効です。
破産管財人は相殺の無効を前提に債務の履行を請求することができます。
 
相殺禁止が定められている場面を説明していきますね。
 
【破産手続開始後に債務を負担したとき】
当然ですね。相殺を許すと、破産手続開始後に債務を負担することによって特別の担保権を付与することになってしまいます。
破産手続開始というのは、自己破産であれば、申立て後、予納金を納めて破産管財人が就任した時点です。
破産管財人との契約によって債務を負担した場合や破産管財人が否認権を行使して返還債務を負担する場合等ですね。
通常の取引関係では出てきません。
 
【危機時期に債務を負担したとき】
破産債権者が破産者に対する債務を負担したときは、相殺の担保的機能から、担保が供与されたと等しいことになりますね。
危機時期の担保供与は否認の対象になります。それと平仄を合わせて相殺を禁止しているものです。
 
1 支払不能を知った後の債務負担
債務者の支払不能状態を知って債権者が債権者に対して債務を負った場合には相殺が禁止されます。
支払不能とは期限の利益が到来した債務を一般的・継続的に支払うことができない状態です。
専らその契約によって負担する債務を破産債権と相殺に供する目的で破産者の財産を処分する契約を締結したときか、破産者に対する他人の既存の債務を引き受けた場合です。
前者のケースでは、少し要件が厳しくなっています。
 
2 支払停止があったことを知った後の債務負担
支払停止があったことを知った後の債務負担をした場合にも相殺が禁止されます。
ただし、破産者が当時支払不能ではなかった場合には相殺は禁止されません。ただし支払停止があった場合には支払不能が推定されます。
弁護士から自己破産を前提とする受任通知が届いたとします、受任通知は支払停止の通知です。その後は債務を負担しても相殺ができないということになりますね。
 
銀行が弁護士から受任通知後に口座に入金になった預金を相殺できない、相殺すると後に破産管財人から否認されると返還しないといけないというのはこの理屈からです。
 
3 破産手続開始申立てがあったことを知った後の債務負担
破産手続開始申立てがあったことを知った後の債務負担にも相殺禁止が及びます。
まあ、そうですよね。
 
例外が3点あります。
1 債務の負担が法定の原因に基づく場合
相続、合併、事務管理、不当利得にように当然に債務が発生しまたは帰属する場合です。
破産債権者が殊更に債権債務の対立状態を作出した場面ではないからです。
まあ、めったにないことでしょうが。
 
2 債務の負担が危機状態またはその兆表を知る前に生じた原因に基づく場合
危機状態またはその兆表を知る前に生じた原因に基づいて債務を負担する場合には、破産債権者の相殺への合理的期待を保護する趣旨です。
具体的な判断は難しい条文です。個々の事例における相殺の期待度の程度を検討するとされています。
 
3 債務の負担が破産手続開始申立ての時より1年前に生じた原因に基づく場合
破産債権者の予測可能性を害することのないようにしたという規定ですが、あまり想定できる場面がありませんね。
 
このように見ていくと、相殺の担保的機能は強いのですが、弁護士から破産申立てを前提とする受任通知が届いた後は債務を負担しても駄目なのが基本ですね。
相殺に限らず、債務者の状況をよく把握し、弁護士が受任するまでに債権保全を図らないといけないということですね。
 
企業法務サポート、顧問弁護士、債務整理(民事再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
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相続人が相続放棄や承認をする前に亡くなったとき [相続問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
相続問題のうち相続放棄のお話です。
相続放棄に絡んで、再転相続、代襲相続、数次相続について説明します。
 
【再転相続】
Aが亡くなって1回目の相続が発生します。
被相続人Aの相続人Bが熟慮期間中に相続放棄も承認も行わないまま亡くなって2回目の相続が発生しました。
Bの相続人Cが相続人となることを再転相続と言います。
ここではCを便宜上、再転相続人と呼びますね。
 
あまりない例かもしれませんが、第2順位相続人の相続放棄の例で見ることがありますね。
祖父母、曽祖父母が御生存であれば高齢のことが多いです。
第一順位の子が相続放棄をしなければ第2順位の直系尊属の相続放棄ができませんから、第2順位の方が相続放棄するのは一定期間経過した後になります。
たまたま、亡くなってしまうこともあるのですね。
 
再転相続人は、AとB両方の相続人になります。
 
再転相続人は、勿論Aについて相続放棄ができます。
3か月の熟慮期間の起算点は、再転相続人がAの相続人になったことを知ったとき、つまりBの相続を知ったときになります。あくまでもCがAの相続人になるのはBが亡くなったからですから。
第2順位、第3順位の相続人が相続放棄できるのは自身が相続人になったときからなので、先順位の相続人の相続放棄を知ったときから熟慮期間が起算されるという理屈と同じです。

もう少しややこしい議論があります。
 
(先にAの相続を承認・放棄した場合)
再転相続人は、Bの相続について承認・放棄の選択ができます。
再転相続人はBの相続について固有の選択権を有しているからです。
Aの相続放棄をした後に、Bの相続放棄をしても、Aの相続について放棄の効力が遡って無効にはならないとされています。
 
(先にBの相続を承認した場合)
再転相続人は、Aの相続について、相続放棄・承認のいずれもすることができます。
Aの相続を承認・放棄し得る地位を承継し、選択権を有しますからね。
 
(先にBの相続を放棄した場合)
再転相続人は、Aの相続について、承認・放棄のいずれもなしえません(する必要がありません)。
再転相続人はBの相続を承認して初めてAの相続を承認・放棄し得る地位を承継し、選択権を有しますから。
 
ややこしいですね。
書籍により微妙に説明が異なっているような気がします。
実際に行うときは(現在そのような案件を受けているのですが)、よくよく吟味して手続を進めないといけません。
 
代襲相続
BがAより先に亡くなっていた場合には、単純に代襲相続の話となります。

Aの相続発生時に既にBが亡くなっている点が再転相続のケースと異なります。

Aの遺産分割はAの相続人間(Bが亡くなっているのでBの代襲相続人が当事者)で行います。
Bの代襲相続人は、勿論Aの相続について相続放棄ができますね。代襲相続人の熟慮期間の起算点はAの相続を知ったときです。
 
【数次相続】
BがAの相続を承認(熟慮期間を徒過など)していたが遺産分割前に亡くなった場合は数次相続の問題となります。
実務上よくある事態です。

こちらは、既にBがAの相続を受けていますね。その点で再転相続のケースと異なります。

Aの相続についてはAの相続人間で(Bの代わりにBの相続人が当事者となります)、Bの相続については勿論Bの相続人間で遺産分割協議をすることになりますね。

遺産分割協議は同時に行うことも多いです。遺産分割調停も2件同時に申し立てることになるでしょう。

勿論、Bの相続人は、Bの相続について相続放棄をすることが当然できます(その場合はBの相続人ではなくなるのでAの遺産分割協議には参加できません)。
 
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破産、個人再生と保険の契約者貸付 [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

債務整理と保険の契約者貸付のお話です。
 
債務整理のうち、自己破産、個人再生のお話になると、保険契約があるかどうかを必ず確認します。
保険の解約返戻金が財産と評価されますからね。

自己破産の場合であると、管財事件か同時廃止事件かの振り分けに直接かかわります。

個人再生の場合であると、最低弁済額を決める清算価値の問題にかかわりますね。

保険がある場合には、保険証券と解約返戻金証明書(証券上、解約返戻金の額あるいは解約返戻金がないことが明確な場合には保険証券のみで大丈夫です。)が必要書類になっております。
なお、県民共済あるいは月払いの自動車保険等は解約返戻金証明書が要求されません。
 
ところで、保険を長年かけているけど、契約者貸付を受けているというケースもあります。
今回は、保険の契約者貸付と自己破産、個人再生手続との関係をお話いたします。
 
まず、契約者貸付をうけている保険会社は債権者なのでしょうか?
 
実は、契約者貸付を行っている保険会社は破産債権者、再生債権者とは見られません。
借入れではなく返戻金の一部払い戻しを受けているとみられるからです。
 
定期預金担保の貸越と同じ扱いですね。その場合も銀行を債権者としてみません。
まあ、通常は定期預金を解約して清算してもらうことが多いですが。
 
そのため、弁護士が保険会社に対して受任通知を送る必要はありません。
裁判所に提出する債権者一覧表にも保険会社の記載は必要ありません。
債権者として扱わないので、必ず保険を解約しないといけないということにはなりません。
 
次は、財産評価の方法です。
 
本来の解約返戻金から契約者貸付分を控除した金額が財産評価額となります。
保険会社から解約返戻金証明書を取得すれば、そのような金額が出てくると思います。
解約返戻金が50万円あっても契約者貸付が40万円あったら、財産評価額は10万円ですね。
 
自己破産の場合、広島本庁では、保険解約返戻金が20万円を超えると管財事件の扱いとなります。
上の例であると、何もしていなければ解約返戻金が50万円なので同時廃止基準を満たさず管財事件になります。手間暇費用が余分にかかりますね。
契約者貸付を受けていると、保険の評価額は10万円です。
同時廃止基準だけで管財事件になるということは防ぐことができます。
勿論、契約者貸付金をどう使うかは慎重に扱わないといけません。
 
ただし、中には契約者貸付ができない保険もあります。
また、契約者貸付は解約返戻金の全額について受けることはできませんね。
 
そういうことで、解約をしないと管財事件になってしまうケースはどうしても残ります。
どうしても残したい保険であれば、管財事件で破産手続を進めて、自由財産拡張手続の中で当該保険を拡張対象として認められるように働きかけることになります。
 
個人再生の場合には、清算価値(財産評価額)に契約者貸付額を控除した金額を記載するだけです。
自己破産の場合と異なり神経質に考える必要はありません。
 
理屈上は、契約者貸付を受けて現金化すれば、自己破産における自由財産拡張対象として清算価値から控除しやすくなるということはあるでしょうか(個人再生では自己破産との均衡上、自由財産拡張対象相当財産分は清算価値から控除することができます)。もっとも、保険の形のままであっても、通常は自由財産拡張対象相当財産と認めてくれると思います。
 
債務整理(自己破産、民事再生、任意整理等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
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生命保険金と相続 [相続問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

生命保険金は、相続の対象外だと聞かれることがあると思います。

保険の外交員さんなどもこのフレーズでセールスをすることがありますね。

 

相続税法上、生命保険金はみなし相続財産です。

基礎控除はありますが、相続税がかかります。

 

しかし、民法上は、受取人指定の保険金請求権は相続財産ではありません。

民法と税法が違うところですね。

受取人指定の保険金請求権は、受取人である相続人が取得する固有の権利と見られるからです。

 

保険の種類により扱いが異なります。
 

受取人が、「本人」の場合には相続財産に含まれますね。
また、受取人が「相続人」と指定されている場合には、相続人の固有の請求権になります。
この場合、相続分とは無関係に各相続人平等で取得します。

保険証券を確認してみないといけません。

 

なお、受取人指定の保険金であれば、相続放棄をしても受け取ることができます。

相続財産ではありませんから、単純承認行為とはなりません。
相続財産と見られる保険金は受け取って費消しては駄目です。単純承認行為となります。

 

ということで、冒頭の生命保険金は相続の対象外という言葉は間違いではありません。

ある相続人にある程度特別にお金を残したい際に保険を活用することも有益ですね。

 

ただし、法律の世界では何事も例外があります。

 

遺産に比べて法外な金額の生命保険金請求権を特定の相続人が取得する場合は不公平ですね。他の共同相続人が納得できません。
そこで、相続の対象外となる生命保険金も、場合によっては、特別受益に準じると見られて相続に影響を及ぼすこともあります。

 

判例は、受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認ですることができないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となる、としています。

 

持ち戻すということなので、仮に1億の遺産で1億の保険金請求権であった場合、保険金請求権1億を特別受益と同じく持ち戻し、遺産を2億と見ます。
相続人が子4人である場合、2億を法定相続分に応じて分けると1人5000万円です。
受取人は既に1億貰っているから残る相続分はないとして、1億を3人で分けることになりますね。

 

特段の事情は、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、「被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断するとされています。

 

実務的には、判例の言い回しである特段の事情はなかなか認めてくれません。
あくまでも例外だからです。

 

単純に遺産の額と保険金請求権の額を比べるだけではないので一概には言えないのですが、遺産の額を超える保険金額のケースや60%を超える保険金額のケースで、特別受益に準じた持ち戻しが認められた例があるようです。

 

遺産と比べて相当の額と言える死亡保険金請求権を共同相続人の1人が取得した場合には、このような紛争が生じるリスクがあることにご注意ください。

特に、事業承継対策などで極端な保険契約の提案を受けたときには気を付けないといけませんね。

 

遺言に、仮に特別受益に準じると見られた場合であっても持ち戻し免除をする意思表示を記載しておく、あるいは生命保険金の受取人を指定した事情を記載しておくことも考えられますね。
持ち戻し免除の意思表示の効力はどう判断されるのか判例がないのでわかりませんが、少なくとも上記判例の総合考慮の要素としては組み込まれるのではないかと思います。

 

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破産直前の財産の現金化 [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

債務整理のうち自己破産と直前の現金化のお話をさせていただきます。

 

自己破産で現金化というと、クレジット枠の現金化も頭に浮かんできます。
クレジット枠の現金化は免責不許可事由と扱われています。違法な行為ですが、宣伝されていることもあって、よく目にする行為です。

程度が軽いと同時廃止で済んでいる傾向にありますが、金額・回数によっては管財事件になります。

追い詰められてクレジット枠の現金化に走るぐらいなら、弁護士に債務整理を相談してくださいね。

 

今回お話しする現金化は、自己破産申立直前に、保険の解約、定期預金の解約、車の売却、不動産の売却等、資産を売却・解約して現金化したケースのお話です。

 

なぜ現金化が問題となるのでしょう。

財産を隠匿・費消しやすくなるからですね。

場合によっては、不当な財団価値減少行為として免責不許可事由となり得ます。

 

広島本庁では、自己破産申立ての際、2年以内の財産処分について報告を求められています。
処分の内容と処分代金の使途の報告ですね。
直前の現金化はあまりお勧めできない行為であることは確かです。

 

当該処分の妥当性はよくよく吟味されます。申立時にはきちんと説明をします。

説明が不十分あるいは合理的な説明ができない場合には、管財事件になり、破産管財人がその当否を判断することになります。

特に不動産の任意売却が絡むケースでは管財事件になるケースが多いですね。
勿論、何年か前に住宅ローン債権者に促されて自宅を売却して残債が残っているというようなケースでは同時廃止で済んでおります。

 

一方、有用の資として利用するための現金化は相当の範囲内で許容されます。

有用の資とは、破産申立費用(弁護士費用含む)、必要な生活費、医療費、転居費用、葬儀費用、学費、公租公課の支払いなどですね。

どうしても必要な費用、あるいは債権者共同の利益になる費用です。

 

特に、申立費用、転居費用、明渡し費用を捻出するために資産を処分するということはよくします。
勿論、弁護士に関与してもらい、お金も管理してもらった方がベターです。

当職の場合は、後に裁判所にきちんと説明するために、売買なら値段設定や契約書作成から関与し、換金額が大きければお金を当職が管理し、有用な資と確認できる限りで依頼者にお金をお渡しして領収書等をもらう、ということまでやっております。
処分の結果として、後述の同時廃止基準の適用により同時廃止事件での処理が可能になるケースもあります。

 

不動産、車など日常生活に必要な物は、親族間での売買をすることも多いですね。

その場合には裁判所への説明により神経を使うことになります。資産隠し、低廉譲渡ではないかと疑いの目で見られますからね。

適正価格であることを説明できる資料を用意して、お金の管理も必ず弁護士が行うようにしています。
弁護士が関与する以上、きちんと説明できるようにしていただきます。
弁護士と裁判所との信頼関係にも繋がります。弁護士があまり無茶なことをすると破産裁判所の信頼を失ってしまうのですね。
弁護士の信頼は依頼者のために維持しないといけません。

 

なお、同時廃止基準(同時廃止事件と管財事件の振り分け基準)には、財産評価額の基準があります。

広島本庁では現金・預貯金は50万円、個別の財産は20万円の評価額を各超えると、管財事件になります。
ちょっと前までは財産全体で60万円を超えるかの基準だったのですが、全国的に基準を合わせてきているようです。

例えば、保険ぐらいしか財産がない場合、保険の解約返戻金が30万円だと、解約して預金化すれば基準上は同時廃止、保険のままだと管財事件となってしまいます。
資産を換価して預金の形にして(かつ有用の資に充てて)、同時廃止事件として申し立てることを考えないわけにはいきません。

 

保険の解約や契約者貸付を受けて同時廃止事件として自己破産を申し立てることは許容される傾向にあります(あくまでも広島本庁です)。
他の財産はどこまで許容されるかどうかはケースバイケースでしょう。

なお、あくまでも現金化前の財産として評価する裁判所もあるようです(その場合でも前述のとおり弁護士費用等有用の資に充てれば評価額は下がります)。

破産法上財産の基準時は開始決定ですから、開始決定時の財産の形で取り扱うべきだとは思っておりますが。

 

自己破産も法的手続ですから、法的な申立て方によって、選択される手続や問題視される行為が変わってくることは致し方ないことです。
当職のスタンスとしては、あくまでも破産法で許容される範囲内ですが、依頼者に有利な行為が可能である限りはその実現をサポートしたいと考えています。

 

イレギュラーなことをする場合、余計な説明や手間がかかることは仕方がありません。
破産裁判所が
OKを出しやすいようにきちんと資料を添付して説明をすることが大事ですね。
「〇〇弁護士は変なことはしない。」と評価されつつチャレンジすることを心掛けています。

 

債務整理(任意整理、民事再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

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別居時に一方配偶者が持ち出した財産 [離婚問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

離婚に伴う財産分与のお話です。
別居時に一方配偶者が持ち出した財産のお話をします。
よくあることです。

 

財産分与の基準時は別居時が基本です。
別居時に存在した財産をベースに財産分与額が算定されます(別居時の財産を半分にするというイメージです)。

夫婦共同生活により形成された財産を清算するという清算的財産分与の要素が財産分与の基本だからです。

 

例えば車を持ち出したという場合は簡単です。
当然財産分与の対象となります(勿論、どうやって整理をするのか、車検の問題、保険の問題も絡んで面倒ですが)。

 

よく相談を受けるのは、別居前に預金から多額のお金が引き出されているという例です。

 

勿論、引き出されたお金が別居時に残っていたということであれば財産分与の対象となることは当然です。

 

よくわからないときが困りますね。

別居時に本当に近い時期の引き出しであれば、引き出した配偶者が何に費消したのか合理的な説明ができない限り、そのまま残っていたとみられる可能性が相応にあるでしょう。
また、多額の金銭が生活費に必要とは思われませんから金額が大きければお金が残っていると判断される方向になるでしょう。

ケースバイケースの判断になりますね。

 

別居直前の預金の引き出しは相続直前の預金の引き出しと考え方が近いですね。

 

相続直前の預金の引き出しの場合には、合理的な説明が引き出した相続人から出て来ない限り、遺産として残っていた、あるいは被相続人に無断でなされた不法行為として損害賠償請求権が遺産である、といった扱いになります。

 

ただ、離婚の際には、他方配偶者の預金の無断引き出し行為は直ちには不法行為になりません。実質的な共有財産と見られるからです。
実質的な共有財産なので名義人に無断で引き出しても直ちに違法ではないということですね。勿論限度はあります。

 

また、離婚の際には、他方配偶者の預金の無断引き出しは、婚姻費用との関係で処理される余地もあります。
そういう経験もありました。婚姻費用を支払ってもらえなかったので引き出して使ったのであるから婚姻費用の支払いと同視して財産に戻さないという扱いです。
調停段階のことですが。

 

さらに、相続の場合には被相続人の認知症がある場合などある程度期間を遡って預金の引き出し行為を問題とできますが、離婚の場合にはなかなか期間を遡るのは難しいです。
かなり前の引き出しであると突っ込み難い、あるいは突っ込まれ難いでしょう。財産調査の問題になるのだろうと思います。

 

他方配偶者名義口座からの多額の預金の引き出し行為は、褒められた行為ではないのは勿論ですし、トラブルの元になる行為ですのでお勧めはしません。勿論、やむを得ない場合もあることは承知しております。そういう場合には、あとで文句を言われることを承知で説明の準備をしてください。

 

また、婚姻費用をもらう立場からすれば、いつでも通帳、カードの紛失届をして持ち出した通帳、カードを利用できなくされてしまうことを念頭に置かなければなりません。

やはり、婚姻費用はできるだけ早くかつ正式に請求するべきでしょう。

 

子供名義の通帳、カードを持っていくという例もありますね。

少なくとも、子供名義の預金の原資が夫婦の収入であり、口座の管理も親がしているという典型的な例では、夫婦共有財産として清算的財産分与の対象となりますね。

逆の典型的なケースは、子供のお年玉、小遣いを貯めている通帳ですね。

微妙なケースもあり、その場合にはケースバイケースの判断になります。

学資のために積み立てていた等の預金の目的な財産分与とは直接の関係はありません。

財産分与は財産の整理の問題、学資は離婚後の養育費の問題と、別の問題となります。勿論、協議離婚、調停離婚であれば、養育費の問題と絡めて、自由に合意により解決ができます。

 

離婚問題は、判決による解決になると柔軟な解決ができない、かつケースバイケースの判断がなされて読みがたいという点が否めません。
できれば相応が譲り合って円満な解決を図れればいいとは思います。
そういうこともあり、離婚につきましては、調停段階では勿論、訴訟になっても一般の訴訟よりも和解的解決が図れるかどうか促されます。

 

個人的には、離婚の問題は、(最後までは)すべからく争うのではなく、主張に優先順位をつけて話し合いに臨む方がベターだと思います。
勿論、判決で片を付けないといけない相手というのも珍しくはないのですが・・・

 

離婚婚姻費用養育費財産分与慰謝料請求等、離婚問題のサポートはなかた法律事務所にご用命を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

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民法改正講座4 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。

大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。

 

今回は時効の話ですね。時効は馴染みがある言葉だと思います。

 

刑事で言われる場合は公訴提起時効のことですが、民事で言われる時効は、取得時効と消滅時効です。

 

時効の援用(145条)】

時効の援用とは消滅時効、取得時効を主張することですね。援用により権利が消滅あるいは権利を取得します。

改正前では、「当事者」が時効を援用できると規定されていましたが、改正法は、「当事者」のほかに「消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有するものも含む。」と判例法理に従って明確にされました。

 

【裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新(147条)】

時効の完成猶予について旧条文を整備したものです。

時効の完成猶予は時効の停止と言われていた概念です。時効期間の進行が止まることですね。

裁判上の請求(訴訟等です)、支払督促、和解・調停手続、破産手続・再生手続・会社更生手続参加があれば、それが終了するまで時効期間は経過しません。

 

確定判決等によって時効期間が延びることなく手続が終わった場合には手続が終わってから6カ月は時効が完成しません。

時効が完成しそうなときは、時効完成を阻むにはとりあえず訴訟を提起する等をしないといけません。

 

確定判決等によって権利が確定したときは、上記手続が終了した時から新たに時効の進行が始まります。

消滅時効を援用して債務整理する際には、確定判決等の債務名義があるかどうか確認をしないといけませんね。

 

【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(148条)】

こちらも強制執行等と時効の完成猶予の関係を整理した条文ですね。

強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続中は時効の完成が猶予されます。手続が取り消されて終了した場合には終了から6か月は時効が完成しません。

同手続が終わった時は、その時から新たに時効が進行します。ただし、取消しによって終了した場合にはその効果はありません。

 

なお、強制執行が空振り、あるいは費用を支弁するほどの物がなく、取下げられたため手続が取り消された場合の時効の進行については争いがあります。

ケースバイケースの判断にならざるを得ないですね。

 

【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(149条)】

仮差押え、仮処分は改正前では時効中断事由(時効がリセットされる事由)とされていたましたが、終了から6か月間時効が完成しない時効の完成猶予事由に変更となりました。

 

【催告による時効の完成猶予(150条)】

催告は、裁判外での請求行為、請求書の送付等だとイメージしてください。

規定が整理されました。

催告があった場合には、その時から6ケ月を経過するまで時効は完成しません。

催告によって時効の完成が有訴されている間に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力がないという判例法理も明文化されました。

 

催告を繰り返して時効の完成を延ばすことはできません。完成猶予中に訴訟等をしなければなりませんね。

 

【協議を行う旨の合意による時効完成猶予(151条)】

新しい制度ですね。

権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効完成が猶予されます。

合意があった時から1年を経過した時

当事者間で定めた協議期間

協議続行拒絶通知の時から6か月

のいずれか早い時までです。

 

再度の合意もできます。時効完成が生ずるべき時から通算5年までです。

催告による時効完成猶予との併用はできないとされています。

上記合意は電磁的記録によってすることもできます。

 

このような合意ができる場合には時効が完成しそうだからといって急いで訴訟を提起する必要はないということですね。

 

【承認による時効の更新(152条)】

規定の整備だけですね。

承認は時効の中断事由でしたが、更新事由と改められました。

承認があったかどうか争われる例も珍しくありません。一部弁済をすれば原則承認になりますが、例外的には承認と見られないケースもあります。

 

時効の完成猶予または更新の効力が及ぶ者の範囲(153条)】

改正前148条は時効中断事由は当事者及び承継人の間にのみ効力を有するとしていましたが、時効の更新(中断が更新と変わりました)及び完成猶予にについて同様の規定が整備されました。

 

【債権等の消滅時効(166条)】

割合大きな改正ですね。

改正前は、消滅時効は権利行使ができるときから10年間、所有権以外の財産権は20年間が時効期間でした。

改正により、債権は、

債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき

または

権利を行使することができるときから10年間行使しないとき

に消滅します。

 

後者は客観的な権利行使可能時点です。

前者は主観的な権利行使可能時点です。

通常は両者が一致しますね。結局、債権は5年が原則と考えておいた方がいいでしょう。

 

あわせて、商事消滅時効5年(旧商法522条)が削除され、商事、民事とも統一的な判断がなされることになります。

 

さらに、改正前170条から174条の短期消滅時効が削除されました。債権の種類によっては、1年から3年という短期消滅時効が定められていたのです。

統一的な規定にしたため、短期消滅時効に該当する債権に該当するか、商事債権に該当するかどうかを考えなくても済みます。

 

【人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(167条)】

実質的に債権の消滅時効は短くなりました。

そこで、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特則が設けられています。

債権者が権利を行使できることを知った時から10年間行使しないとき

または

権利を行使することができるときから20年間行使しないとき

に消滅します。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

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破産と否認 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

債務整理のうちの自己破産における否認についてお話をします。

 

否認とは破産管財人が否認対象行為の効力を否定して財産を取り戻すこととイメージしてください。

 

否認権は破産管財人が行使するものですが、自己破産申立て準備の際には、否認対象行為と見られる行為があるかどうか、あるいは否認対象行為と見られないようにはどのような説明・準備をするべきか、よくよく吟味しなければいけません。

当職も、破産管財人として否認権を行使することはありますし、申立代理人としては否認対象行為と見られないように財産処理や説明を工夫することはよくしていることです。

 

否認の要件は細かいので、機会があればまた説明しますが、弁護士に自己破産や個人再生を相談する場合には、資産を譲渡、贈与等移転している事実があれば必ず報告してくださいね。
また、親御さんが既にお亡くなりになって遺産分割が済んでいない場合、離婚をしたい場合、資産の整理をしようと思う場合などにも、必ず弁護士の意見を聞いて進めるようにしてください。
否認対象行為になるかどうか判断してもらわないといけません。

 

個人破産の場合、否認対象行為が疑われる場合には、それ自体で管財事件の扱いになることがある点にも注意してください。
なお、法人破産あるいは経営者の個人破産は管財事件になります。

 

否認には、狭義の詐害行為の否認と、偏頗行為の否認とがあります。

 

狭義の詐害行為否認は、その行為による破産財団の減少分取り戻す趣旨の否認です。

破産法160条、161条に規定されています。

①破産者、受益者とも債権者が害することを知ってした行為、②支払停止または破産手続開始の申立て後にした債権者を害する行為(受益者が当該事実を知っていたときに限ります)、③過大な代物弁済、④無償行為、⑤破産法161条規定の要件のもとでの相当な対価を得てした財産の処分行為、です。

 

偏頗行為の否認は、債権者間の平等を図る趣旨の否認です。

破産法162条に規定されています。

 

問題となることが多い点をかいつまんでお話していきます。

 

【経済的危機状態での資産処分行為】

破産直前の財産処分が問題となるのが破産法162条です。

勿論相当対価を得ているということが前提となっています。

財産の隠匿、無償の供与その他債権者を害する処分に該当しないか吟味されます。
破産者の特定関係人が取引相手である場合には、要件の推定規定があり否認しやすくなっています。

 

不動産、車、機械、事業譲渡、保険名義変更など、法人破産の会社整理の過程でよく出てくる話です。
勿論、個人破産の場合も例外ではありません。様々な相談を受けます。
破産法上問題なしと判断される見込みが相応にある限りで(そういう形で行えるのであれば)協力もさせていただいております。

 

後の破産手続を考えると、破産直前の財産処分は、弁護士に関与をしてもらって、相当な価格であること、有用の資に充てる目的等合理的な行為であることを弁護士が説明できるように行うべきです。

かつ、処分代金は散逸しないように弁護士が管理し、有用の資(破産申立費用、生活費、医療費、転居費用、学費、公租公課の支払、資産整理費用等)に充てるだけとするのが基本となります。

 

離婚に伴う財産分与慰謝料もこの点に絡んでくるでしょうか。

抽象的には、相当な財産分与慰謝料は否認の対象とはならないと言えるでしょう。
相当な範囲を超えると否認され得ます。
しかし、具体的な進め方も大事です、必ず弁護士に相談して進めてください。

なお、偽装離婚ではないかと必ず疑われます。個人的には経済的破綻を機に離婚をするということは決して不自然ではないと思っていますが。

 

【贈与等無償行為】

無償行為の否認もよく出てきます。

無償行為は、基本的に債権者を害する行為ですから、

破産者の詐害性を要件としない、

支払停止等の前6か月まで否認の対象が拡大されている、

受益者の悪意を要件としない、
など
軽減された要件で認められます。

 

親族への贈与行為、無償の営業譲渡などが問題となります。

仮にどうしても行う必要がある場合にはそれなりの理由があるはずです。

法的に問題がないと説明できるかどうか弁護士と事前に打ち合わせをして実行しなければなりませんね。

 

この点では遺産分割協議も問題となりますね。
遺産分割は財産行為ですから、否認の対象となります。
遺産分割が終わらないまま放っておいた事例を何件も扱っております。問題視は確実にされますが、説明の仕方によってはセーフの場合もあります。
必ず弁護士に相談して進めてください。

これに対し、相続放棄は否認の対象とはなりません。

 

【偏頗行為】

偏頗行為の否認は破産法162条です。

偏頗行為は、不公平な弁済、担保提供行為等です。典型的なものは一部の債権者だけに弁済をする偏頗弁済行為です。

支払不能状態または自己破産申立後の弁済行為等は、否認の対象となります。

支払停止後行為があった場合には要件が緩和され(受任通知が出された後はこれに該当します)、支払不能であったと推定されます(申立前1年以内のものに限ります)。

また、受益者が支払不能等について悪意あることが要件ですが、受益者が一定の関係者である場合には悪意が推定されます。

 

なお、所有権留保自動車の場合、所有者名義登録の仕方によって債権者に返すと否認対象行為として問題になることがあります。
かといって、財産として計上すると管財事件になるケースもあり、悩ましい問題です。

 

一方、個人再生では否認というものがありません。

ただし、否認対象行為がある場合、典型的には偏頗弁済がある場合には、その金額を清算価値に計上することになっております。
最低弁済額が大きくなることがありますね。
個人再生委員が選任されてその辺を吟味することもあります。

 

破産には細かいルールがあります。できるだけ早めに、破産に詳しい弁護士に相談をして準備を進めてください。

 

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収益物件の相続 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

相続問題の投稿です。

 

今回は、収益物件の相続をまとめてお話しようと思います。

収益物件とは賃貸している物件ですね。

 

相続が起きたとして今後の賃貸料の扱いが気になりますね。

賃料は遺産の果実です。遺産の果実は遺産そのものではないので遺産分割の対象外です。

賃料債権は可分債権なので、相続発生後の賃料は相続分に応じて各相続人に帰属します。

 

固定資産税等の管理費用はどうでしょうか。

民法上、相続財産に関する費用は相続財産から支弁することになっています(885条)。

それでは相続財産ではない家賃と精算できないですね。

しかも、マンションやアパートだと保守管理費用や清掃費用も出てくるところ、相続財産の管理費用か相続発生後の賃貸行為の費用なのか微妙な感じもします。

 

勿論、合意で解決する場合には、賃貸にまつわる費用は家賃から精算する(相続開始後の賃料から管理費用を控除した残額を分配する。)のが通常でしょう

 

相続物件たる不動産は、遺産分割前では、遺産共有状態です。
保存行為は各共同相続人単独で、管理行為は過半数持分で決めることになります。

固定資産税、火災保険の支払、不法占有者に対する明渡し請求あるいは破損部分の修繕などは保存行為として各相続人単独でできます。

その場合の費用の精算は上述のとおりの問題が出てきます。

 

相続預金口座は、相続発生の連絡により(中には銀行が新聞を見て動く場合もあります)、凍結されますね。
凍結されても家賃の振込入金は継続できるケースもあります。ただ、手続を踏まないと引き出せません。

 

同意ができる範囲で同意書を取り交わし、家賃等管理口座を作成して、賃借人に振り込み先の変更をお願いするのが現実的でしょうか。

 

実際には、事実上1人の相続人が管理を引き継いで振込みを受けることもありますが、他の相続人に対して清算義務が勿論あります。
かつ、本来は共同相続人共同の事業として各人が申告をしないといけないことになります(実際には代表して誰かが申告すればそれ以上突っ込まれないところですが)。
一人で申告した場合には後の清算の場面で所得税の扱いが面倒ですね(また、共同事業として各相続人が申告した方が税金は通常安くなります)。

 

遺産分割前に、空室について新規の賃貸借契約ができるかの問題もありますね。

新規の賃貸借は、管理行為になるか変更行為になるか争いがあります。

管理行為なら持分の過半数で決められる(民法252条)、変更行為なら共有者全員の同意が必要です(民法251条)

事例判断に依らざるを得ないことになります。目的不動産の利用形態、期間の長短がメルクマールとなるようです。

まず、利用形態を大きく変更する賃貸借は変更行為と見られるでしょう。

次に期間ですが、民法602条の短期賃貸借(土地5年、建物3年)であれば理屈上大丈夫でそうですが、借地借家法の問題があります。

借地借家法の適用のある賃貸借契約(通常の賃貸借は適用があります。適用がないのは、建物所有を目的としない土地賃貸借や一時使用目的の建物賃貸借などです。)であれば、短期賃貸借であっても更新がなされて長期間の契約になる可能性が高いのですね。そのため、変更行為と判断された裁判例もあります。

無難に考えるのであれば、借地借家法の適用のない短期賃貸借かつ利用形態を大きく変えない賃貸借は過半数持分の同意でできるというべきでしょうか。

更新の場合も、自動更新の場合には問題がなさそうですが、都度更新の場合には変更行為となる場合があるでしょう。

事実上、一人の相続人が管理をして賃貸借契約を締結するということもあります。それは法律的には無断賃貸借になります。

 

なお、賃貸借契約の解除は管理行為です。過半数持分での決定ですね。

 

このように、遺産分割前の収益物件の管理は法律的に見るとかなりややこしいです。


最近も、お母さまの相続後何年も一人の相続人が遺産分割なしで事実上ビルの収益管理を継続した上でその方も亡くなったという事例がありました。
遺産分割は勿論、不当利得返還請求や相続後の家賃・管理費用等問題が多岐にわたっており、訴訟で紐解くのも可能ながら効率的ではなかったため、なんとか和解的解決を図りました。

 

できれば、遺産分割前の物件管理等について合意書面を作っておく方がいいですね。

 

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