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「だれが相続人になる?」 【相続・家庭問題11-2】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

さっそくですが,前回の相続人の話の続きをお話いたします。

 

◆ 同時死亡の推定

事故などで,数名の人が亡くなり,そのうちある人が死亡した時点で他の人が生存していたかわからない場合には,法律上,同時に死亡したものと推定されます。これが同時死亡の推定です。

推定ですから,反証(証拠を出して覆すこと)はできます。

同時死亡とされる場合には,それらの者相互の間では相続が生じません。遺贈の効力も発生しないことになります。
例えば,祖父A,祖母B,父であるABの子C,母であるCの妻D,CDの子Eがいるケースを考えましょう。AとCが事故で亡くなったとします。

まず,Aが亡くなったら,相続人は妻Bと子Cですね。Cが亡くなったら,相続人は妻Dと子Eですね。
次に,Aに不動産があるとして,Aが先 に,次いでCが亡くなったら相続はどうなるでしょう。不動産の相続者は,まずAの妻B・子Cが1/2ずつでAを相続して,さらにCの妻Dと子EがCを1 /2ずつ相続します。結局,不動産は,祖母B1/2,嫁D1/4,E1/4の共有状態となります。
父Cが先に,次いで祖父Aが亡くなったらどうでしょう。Aの不動産の相続人は,Aの妻であるBが1/2,Aの孫Eが既に亡くなったCの代襲相続人として1/2を相続します。結局,B1/2,E1/2の共有状態となります。仮に,Eがいないとすると,Bがすべて相続します。
このように,死亡の先後によって相続の結果は大きく変わります。

そのため同時死亡の推定により,反証がない限り,その間では相続の関係がないものとして公平に扱うのです。
AとCとの間で相続の関係が生じないということは,Aの財産は,本来B1/2・C1/2で相続されるはずですが,Cがいないので,前回お話しした代襲相続により1/2をCの子であるEが相続します。Cの財産は,もちろん,DとEが1/2ずつ相続します。


◆ 遺言を破棄すると相続人でなくなる-相続欠格

民法では,一定の行為をした者は相続権を剥奪されると定めています。それが,相続欠格の制度です。

遺言の破棄は,その相続欠格事由の1つです。

相続欠格事由には,
1 被相続人,あるいは相続について先順位・同順位にある者に対する殺人・殺人未遂の刑を処せられた
2 被相続人が殺害されたことを知って,告訴・告発をしなかった
3 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人の遺言作成・取消し・変更を妨げた
4 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人に遺言作成・取消し・変更をさせた
5 被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造,破棄・隠匿した

相続欠格は,前回お話した代襲相続の原因となります。相続欠格者に子がいれば欠格者に代わって相続人となることになります。

相続欠格制度は,相続人の著しい非行行為を理由に,相続資格を法律上当然に剥奪する制度です。したがって,なんらの手続も要りません。


◆ 放蕩息子に相続させたくない -廃除

相続欠格ほどの非行や不正がなくても,被相続人が特定の推定相続人にその財産を相続させたくない場合,その意思によって相続資格を奪う制度が廃除制度です。

以前にお話したように,兄弟姉妹を除く相続人には,遺留分の権利がありますから,遺言を作成して特定の者に相続させないようにしても,限界がありま す。生前贈与で他の推定相続人に財産を移転させる場合も,税金の問題が生じますし,遺留分の問題もやはり残ります。しかし,推定相続人に対して相続させた くないという被相続人の意思に客観的に合理的な理由がある場合にまで,遺留分を保障する必要はないですよね。そのため,一定の要件の下で,裁判所が許可し た場合に限り,遺留分を有する推定相続人の相続権を奪う廃除制度があるのです。

どのような場合に廃除できるかは,法律で決まっています。推定相続人に,被相続人に対する「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」がある場合です。そ の判定は,家庭裁判所が行うのですが,被相続人の感情など主観面からではなく,あくまでも客観的に判断されます。簡単に認められるものではありません。

有名な例では,年少時代から非行を繰り返し,暴力団員との交際・元組員との結婚,反対したにもかかわらず親の名前で招待状を出す,などの行為があっ た場合に認められたものがあります。否定されたものでは,過去に少年院に入ったが現在は更生した男性と親の反対を押し切った結婚した例などがあります。

廃除をするには,被相続人の請求が必要になります。被相続人が家庭裁判所へ調停・審判を申し立てる方法か,遺言によって意思表示をして,その死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除請求をする方法があります。

なお,一旦廃除しても,素行を改めたなどの理由で,その取消しをすることもできます。


相続人がいない場合は?

調査の結果,相続人がいるようだが行方がわからない場合と,調査の結果,相続人が本当にいないとわかった場合に分けてお話します。

相続人に行方不明者がいる場合は?
生死不明の状態が7年以上の場合には家庭裁判所に失踪宣告をしてもらえば,行方不明者が死亡したものとみなされますので,その時点と被相続人の死亡時の先後を見て,必要であれば行方不明者の相続人と遺産分割協議を行えばいいことになります。
生死不明の状態が7年以上続いているとは言えないような場合には,家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらって,不在者財産管理人と協議,調停などを行えばいいことになります。

相続人がいない場合は?
戸籍上推定相続人となるべき者がいないか全員が相続放棄をした場合には「相続人不存在」の状態となります。
その場合には,利害関係人などが請求して選任される相続財産管理人が,相続財産から債務の弁済を行ったうえで,特別縁故者の請求があれば財産分与を行ったり,残りを国庫に帰属させます。

相続人に未成年者がいるとき

相続に未成年がいる場合に,困ることがあります。

父親がなくなり,相続人は母親と幼い子3人だとしましょう。親権者は母親であり,母親は子の法定代理人なのですが,母親が子を代理して行った遺産分 割協議は,法的には無効です(子が成年になって追認しない限り)。客観的には,母親と子は共同相続人として利害相反関係にあると見られ,利害相反ある代理 は本人の同意がない限り無権代理行為として無効だからです。

そのような場合は,法的には,家庭裁判所に対して,それぞれの子について特別代理人を選任してもらって,その特別代理人と遺産分割協議をする必要があります。

◆ 最後に
相続の話は,みなさんに身近なお話ですし,一般の方向けの書籍も多数あります。当事務所へ相談に来られる方も,ある程度の知識を持って相談に来られますし,自分で手続などを始めている方も少なくありません。

ただ,相続に関する話は,奥が深く,ある程度の知識だけでは対応できないものだと感じています。知識の誤解や感情的な主張や言動によって,手続を誤った方向に進めていたり,いたずらに対立を激化させているような例も少なくありません。

そのようなことにならないようご注意ください。

 


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