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「相続放棄はいつまでできるか?」【相続家庭問題14-1】

弁護士の仲田誠一です(広島弁護士会所属)。


最近「ぬた」をよく食べています。「わけぎ」と酢味噌があれば簡単にできるからいいですね。葱で作るよりも「わけぎ」で作るほうが,やはり食感がよく,おいしいです。

「ぬた」に和えるのは,タコがいいです。今,タコは高いですね。高級魚並みです。昔は安かった記憶があるのですが。
私の育った家の近所の海では,蟹型の疑似餌を投げれば,数時間で何回かタコがかかりました。餌になる蟹やエビが減ってきているのでしょうか。


さて,相続放棄については以前にもお話ししましたが,今回と次回にわたり,相続放棄はいつまでできるか?についてお話しようと思います。


◆ 被相続人に借金がある場合にとる手段

田舎で1人残っていた母親が亡くなり,葬式も終わり,あなたが家を片付けました。その際,母親に多額の借金があることがわかったらどうしましょう?

相続人(母親)の借金などの債務は,相続分に応じて,相続人(あなたなど)に承継されるのが原則です。

原則どおり母親の借金をあなたが返すかどうか,選択肢は3つあります。

まず,財産よりも借金が明らかに大きいときには,特別な事情がない限り,「相続放棄」をすることになるでしょう。
相続放棄をした相続人は, 初めから相続人ではなかったものと取り扱われます。その結果,先順位の相続人が全員いなくなれば,後順位の推定相続人相続人となります。そのため,相続 順位ごとに相続放棄を順次検討する必要があります(第1順位の推定相続人が全員相続放棄をすれば,次に第2順位の推定相続人相続人となるから,再度その 時点で相続放棄をするか検討しなければなりません)。

次に,財産と借金のどちらが大きいかわからない場合には,「限定承認」をすれば,相続財産の範囲で借金を返済することができます(負債が返済しきれない場合も相続人は相続債務を負担しません)。
相続人全員が行う必要があることや手続が煩雑であるなどの理由から,あまり使われてはいません。

最後に,「単純承認」です。財産を受け継ぐ代わりに,原則どおり債務も受け継ぎます。
財産の方が借金よりも明らかに大きい場合や,負債の方が大きくてもどうしても手放せない財産があるなどの理由で放棄などができないケースには,単純承認することになります。

単純承認には手続は要りません。しかし,「相続放棄」および「限定承認」をするには家庭裁判所に申し立てる必要があります。また,いつまでもそれらを申し立てることができるわけではなく,申し立てる期間(「熟慮期間」)が決められています。

 

相続放棄はいつまで申し立てれば良いのか

先ほどのとおり,相続の放棄には,申し立てることができる期間(「熟慮期間」)が決められています。母親の借金を引き継ぎたくないと思っても,何もせずに放っておくと,結局は引き継ぐことになってしまいます(単純承認)。

民法で定められた熟慮期間とは,「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内というものです。

短いですよね。なお,熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申請すれば認めてくれることもあります。

遠く離れて住んでいた母親の借金は簡単にわからないことが多いでしょう。
また,悪知恵の働く債権者は,お母さんが亡くなってから3ヵ月経過後にあなたに対して返済を要求するかもしれません。

そのようなケースではあなたを保護して,お母さんが亡くなられてから3ヶ月経過後に借金がわかったときに,なお相続放棄を認めてもよさそうと考えられます。

そこで,民法で定められている「自己のために相続の開始があったことを知った時」とはどの時点か?が議論されることになります。
その時点を後にずらせば,より相続放棄がし易くなるのです。

この点は,相続放棄制度の捉え方によって考え方が異なります。

相続人が亡くなっても,財産・負債の存在を知らなければ,相続放棄等の手続はとらないで放っておくのが通常ですね。それなのに,被相続人の死亡の 事実だけ知れば3ヶ月の計算がスタートしており,3ヵ月経過後に借金が判明しても,もはや相続放棄をすることができないとするのは,少し酷だと考えられま す。

そこで,相続放棄相続人を保護するための制度だと考えれば,「自己のために相続の開始があったことを知った時」は,自分が受け継ぐべき財産または債務の一部でも知った時だ,と言いたくなります。

一方で,相続は単純承認が原則だ,相続放棄や限定承認は例外的に認められる,と考える人もいます。相続人は財産負債を受け継ぐのが当然だということですね。

そう考えれば,「自己のために相続の開始があったことを知った時」は,被相続人の死去(相続発生)の事実さえ知ったときでいい,財産・負債を知らなくて3ヶ月経っても,単純承認の原則に戻るだけだからいいじゃないか,となるのでしょう。

 

最高裁の判例は,相続人の保護を例外的に認める立場をとっています。

まず,熟慮期間の起算点(3ヶ月の計算の出発)は,原則として,相続人が相続開始の原因となった事実および自己が法律上の相続人となった事実を知った時だとします。

ここまでだと単純承認が原則で相続放棄は例外という考えと基本的に一緒ですね。

ただし,例外的に相続人を保護します。

3ヶ月以内に相続放棄または限定承認をしなかった理由が,被相続人に相続財産がまったくないと信じたことであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて相続人に対し相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人がそう信じることに相当 な理由があるときは,「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した又は通常これを認識しうべき時」を熟慮期間の起算点にするとしました。

要するに,あなたが母親には財産も借金もないと信じて放っておいた,そしてあなたが母親とは疎遠でよく母親の事情がわからず,母親の家を片付けても 財産も借金も見つからなかったなど,あなたが母親には財産も借金もないと信じたことがもっともだという事情があるときは,1年後に債権者から借金の返済を 要求されたなど,母親の債務の存在を知ってから3ヶ月以内に相続放棄手続をすればいい,ということです。


◆ 最後に

少し長くなりました。

どのような場合に相続放棄がなお認められるか,具体的に判断するのは難しいところです。

例えば,財産は少しあることは知っていた,しかし後に多額の借金を請求された,というケースではどうなるのでしょうか?
実際にありえそうな話です

次回に,上記の判例を踏まえた,具体的な裁判例を紹介したいと思います。


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