弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。
職業柄,首と肩がよく張ります。そのため,定期的に事務所近くのマッサージ屋さんに行っています。
昨年,上海に行った際,気功院というところに表敬訪問して来ました。気功院といっても,公的な病院兼教育施設です。気功の先生はみな医師資格を持っ ているということでした。日本とは違い,気功・マッサージの位置は,西洋医術に劣らない権威があるようです。私もマッサージを受けたのですが,気功の 効果か,体が半日ぽかぽかしていました。
肩こりの悩みを持っていると,健康維持のために,マッサージはありがたく,それは他の医者とは変わりません。健康保険が使えたり,医療費控除の対象となったりしないものでしょうか。
さて,忘れた頃に借金返済の督促が来たという話をよく聞きます。「知人から借りたお金は返したと思うのだけど古いことだから思い出せない」,「督促 が来ないからもう大丈夫だと安心していたら多額の遅延損害金と一緒に請求された」,など事情は様々です。中には,古い債権を買い取って督促してくるような 悪質な業者もあるようです。
そこで,「忘れた頃に借金の督促が来たら」というテーマで,消滅時効のお話と注意点をお話したいと思います。
◆ 借金の消滅時効をご存知でしょうか?
忘れた頃に借金の返済の督促が来たとしたら,もうその借金は時効にかかっているかもしれません。
貸金などの債権は,権利を行使することができるときから,10年間行使しないときは消滅します。貸金業者の貸金債権は,商事債権として扱われ,5年間で消滅します。
それが,債権の消滅時効であり,誰から借りたのかによって消滅時効の期間が異なります。
貸金業者からの督促でしたら,最終返済日から5年経っていれば時効にかかっていると疑ってください。支払督促,訴訟,差押えなどの時効中断手続をとられていないかぎりは,時効にかかっている可能性が高いです。
もし時効にかかっていたら,「時効の援用」をすれば,借金は確定的に消滅します。時効の援用とは,消滅時効の効果を確定させるために必要な意思表示です。法的に形式は問われないのですが,念のため内容証明郵便で行った方が安心です。
時効制度の詳細は,また機会を見つけてお話します。
◆ 督促に対してはどのように対応したらいい?
消滅時効にかかっているのでしたら,あなたが時効を援用すれば支払わなくてすみます。相手には支払義務があるか調べると答えればいいです。
また,借金をすべて返済したはずだが,古い話だからその証拠(領収書など)が見つからないという場合も,時効を援用すればいいのです(返済した事実を証明しなくても支払い義務を免れることができます)。
しかし,時効制度を知っている人物や業者は,もし自分の貸金が消滅時効にかかっていたとしても,その上で,あなたに対し「少しでもいいから払ってくれ」「誠意を見せてくれたらいい」と言ってきます。
しかし,「時効にかかっているかもしれない」と思うなら,あなたはそのような言葉に応じて支払ってはいけません。それが小さい金額でもです。債務承認書に署名したり,返済の約束もしてはいけません。
実は,時効が完成した後,あなたがそれを知らずに一部でも返済等債務の承認をしてしまうと,信義誠実の原則により,あなたの時効の援用は認めないというのが判例です。
それを知っている人物は,あなたに対して,小さい金額でも払わせたり,債務の承認をさせようとしたりします。払ってしまうと,残りの金額も「時効は援用できないから返せ」と言ってきます。
実際にしばしばある話です。
判例の理屈は次のとおりです。
時効の完成後に債務者が債務の承認をすることは,時効の主張と相容れない行為である。債権者は,債務者がもう時効の援用をしないだろうと信頼するだろう。したがって,その後は債務者に時効の援用を認めないことが信義則上相当である。
でも,時効が完成した後に返済すると時効の援用を認めないということが,常に正義に適うでしょうか?現実にそれを悪用する人物はいます。時効を知らない人がそのような人物にだまし討ちを食らう可能性があります。
そこで,最高裁の判例ではなく,下級審の裁判例ですが,時効が完成した後に返済があっても例外的に時効の援用を認めたものがあります。
先にお話したように,時効完成後の返済があれば時効援用を認めない判例の理屈は,もう時効援用はないだろうと債権者が信頼・期待する以上,そのとお り時効援用を認めないのが信義則に適うというものでした。そのような理屈であったら,相手方がそのような期待をしない場合には,債務者の時効の援用を否定 する必要はないはずです。
そこで,裁判例では,「債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上,信義則に照らして,債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護す べき信頼が債権者に生じたとはいえないような場合には,債務者にその完成した消滅時効の援用を認めるのが相当といわなければならない。」として,その事例 では消滅時効の援用を認めました。
どういう事情があれば債権者に保護するべき信頼が生じていないと認められるのかは,まだ裁判例の蓄積がないため,判断しずらい状況です。ただし,もし返済などの債務承認をしてしまった後でも,争う余地があることは確かです。
◆ 最後に
忘れた頃に請求が来たという相談は意外に多いです。
その場合には,遅延損害金が加算され,元金の2倍の請求が来たりして,驚かれるようです。
その中には,時効にかかっていたり,引き直し計算をすると逆に過払金が出たりするケースも多いです。
ご自分で判断するのではなく,弁護士に相談して対応するのが安心です。