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「委託販売員からの未払賃金を請求される?」【企業法務6】

弁護士の仲田誠一です。catface


昨日のYahooニュースで,蛇の目ミシン工業が完全歩合制の「委任販売員」に対して労働基準法に基づく賃金(最低賃金相当額や有給休暇分給与)を支給していないとして,労働基準監督署から未払賃金を支払うよう是正勧告を受けたとのニュースを見ました。

労働基準監督署は,「委任販売員」を労働者と認めたようです。

以前に,プロ野球選手は労働者か?も問題になったことがありましたね。

コストカットのため,営業を完全歩合制の委託販売員に委ねている企業はかなりあると思われます。専属的な請負契約も多いですね。
この勧告は,今後他の企業にも大きな影響がありそうです。

そこで,今回は,どういうケースに労働基準法が適用される労働者と見られる可能性があるかをお話しようと思います。


◆ 労働基準法が適用される労働者とは?

労働基準法が適用される「労働者」は,労働基準法9条に定められています。最低賃金法も,労災保険上の労働者も,労働基準法の「労働者」と同じとされています。

労働基準法9条は,「労働者」を,①「事業又は事務所に使用される者」で,②「賃金を支払われる者」と定義してます。

②の賃金は名目は問われませんので,問題は,①の「事業又は事務所に使用される者」に該当するかです。

そこで,「労働者」に該当するか否かは、労働者が使用者に従属していることに伴う危険や弊害を除去,軽減,緩和するという労働法の目的に照らして、現実の労務給付の実態(働き方の実態)に即して,当事者間に「使用従属関係」が成立しているかによって判断されます。


◆ 「使用従属関係」とは

少し難しい話になります。

「使用従属関係」の有無は、労働基準法の適用をすることがこのケースで適切かどうかという観点から、労務受領者(企業)と供給者(働く人)の間に,指揮命令関係があるかどうかを中心的な判断基準とします(「人的従属性」と言われます)。
かつ,働く人に払われる報酬が労働力の提供に対する対価としての実質を持っているか(「経済的従属性」),就労の実態が独立した事業性をもたず企業組織の中に組み込まれているか(「組織的従属性」),を付加的して総合的に判断されます。

具体的要素としては、①業務遂行過程での指揮命令の有無(企業からの具体的な指示で働いているか)、②勤務時間や勤務場所の拘束の有無(企業に決め られたとおりの働き方をしているか)、③仕事の依頼・業務従事に対する許諾の自由の有無(決裁権があるかどうか)、④専属性の有無(兼業禁止などの就労制 限があるか)、⑤業務の第三者による代替性の有無(替わりはいるか)、⑥材料・生産器具などの使用者の提供の有無(働く人は労務の提供だけか)、⑦報酬の 性格が給与制か出来高払い制か、などが挙げられています。

名目は関係なく,上記のような具体的事情によって,労働者に当たるかどうかが判断されます。


◆ 争われた例

下級審の裁判例では比較的緩く「労働者」だと判断している例もあるようですが,最高裁の態度はやや固いようです。

最高裁で争われた例としては,専属的傭車運転手,一人親方の大工があるようです。

前者は,業務用機材のトラックを所有して自分の危険と計算の下運送をしていた,運送業務に当然に伴う指示以外は指揮監督をされていなかった,時間的・場所的拘束も一般従業員と比べてはるかに緩やかだったことを重視して,「労働者」ではないと判断されました。

後者は,工務店から指揮命令を受けていなかった,自己の道具を持ち込んでいた,報酬は仕事の完成に対して払われたものだ,と否定したようです。

下級審の裁判例としては,否定したものとして,証券外務員,受信料集金受託者,などがあるようです。ただし,あくまでも具体的事情によって判断されています。

下級審の肯定例としては,大学病院の研修医,映画制作プロダクションと契約するカメラマン,テレビ局専属のタイトルデザイナー,などがあるようです。
こちらも,あくまでも具体的事情によって判断されます。


◆ 最後に

労働者か否かは具体的事情によって判断されます。さらに,以前にも書かせていただきましたが,裁判所の判断は,時代によって変わっていくこともあります。

ワーキングプア問題など,非正規労働者等の生活権が問題となっている現在の状況や,冒頭のニュースの勧告を見てみると,コストカットのために犠牲となる形の就労者の保護が,今後重視される傾向も予想されます。

もしかしたら,裁判所の判断も徐々に変わっていくかもしれません。

企業にとっては,現在のやり方を,再検討する必要がありそうです。

penじっくり話し合い、問題解決に導く法律のプロ 弁護士仲田誠一の取材記事はこちら!(http://pro.mbp-hiroshima.com/nakata-law/)

 


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