弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。
ウナギの卵が見つかりましたね。店頭に出ているウナギの多くは養殖ウナギですが,それらは川に上ろうとするシラスウナギ(稚魚)を捕まえて養殖していることはご存知でしたか?
私が育った地域は,シラスウナギ漁もウナギ養殖も盛んでした。川で魚を捕まえていると,ウナギの稚魚が採れたり,大きなウナギを見つけたりしました,懐かしいです。
それにしても,養殖ウナギが餌を食べる姿は迫力があります,そのため,今でも養殖ウナギは少し苦手です。
さて,話は突然に変わりますが,セクシュアル・ハラスメント,略してセクハラ,の話をしたいと思います。従業員がセクハラをしたら,企業はどうしたらいいのでしょうか?
今回はセクハラに対する企業の責任について,次回はセクハラをした従業員に対する対応について,お話したいと思います。
◆ セクハラとは?
セクハラとは,相手の意に反する不快な性的言動のことです。
セクハラは,人事権の行使を伴う(パワハラの要素も含む)対価型セクシュアル・ハラスメントと,それを伴わない環境型セクシュアル・ハラスメントに区別されたりします。
◆ 従業員のセクハラに対する企業の責任
少しややこしい話になります。
企業がセクハラに関して負う責任は,セクハラ行為自体の責任とセクハラに対する対応の責任があります。
そして,企業が従業員等に代わって責任を負う場合と,企業自体の責任を負う場合があります。
◆ 従業員等の責任を企業が代わって負う
企業は,従業員などの行ったセクハラ行為自体の責任も負います。
民法715条には,従業員が業務に関連して行った不法行為について,使用者である企業も責任を負うという,「使用者責任」が定めています。
従業員が行なったセクハラが業務に関連した不法行為だと判断されれば,企業がその責任を追及されます。
同じように,代表者が事業に関連してセクハラをした場合には,会社法350条によって会社が責任を負うこともあります。
これらの責任は、セクハラが事業・業務に関連してされたときに成立しますが,近時は,より緩やかに「事業・業務に関連している」と認定される傾向があります。
◆ 企業自体の責任
企業自体の不法行為責任,あるいは債務不履行責任の追及もされるケースがあります。
セクハラ行為自体の責任という意味合いよりも,企業のセクハラ行為への対応についての責任と言えるでしょう。
労働契約に付随する義務として,使用者は,従業員に対して,適切な職場環境の構築・維持に配慮する義務を負っています。「職場環境配慮義務」と言います。使用者の指揮命令下で従業員が働かされるわけですから,使用者はその環境に配慮すべきだということです。
セクハラは,従業員にとって,安心な職場環境を破壊する行為です。
そこで,「職場環境配慮義務」の内容の1つとして,セクハラが発生することを予防する,セクハラが発生したら適切な措置をとる,という義務も含まれます。
「職場環境配慮義務」は,労働契約上使用者が負う信義則上の付随的義務であると同時に,不法行為法上の義務であるとも考えられています。
セクハラが起きたら,またはその対処が不適切であれば,企業が負っている職場環境配慮義務に違反したという事実を不法行為として民法709条の固有 の不法行為責任を,あるいは,職場環境配慮義務を民法415条の債務不履行だとして債務不履行責任を,追及される可能性があります。
使用者責任のほかに企業自体の責任を追及するのに何の意味があるかというと,まずは,従業員のセクハラの業務関連性が肯定しがたいケースや,加害者 が特定できないケースでも,(その場合には上記の責任が追求できません),使用者に対する損害賠償責任の追及が可能となる点です。
また,債務不履行責任の追及は,証明責任が有利なこと、消滅時効が長いこと、裁判の中で企業の行為規範を具体化できること,などの意味もあります。
さらに,セクハラ発覚後の企業の不適切な対応を捉えると,損害賠償の範囲も拡がっていきます(退職せざるを得なくなったなど)。
◆ セクハラに関する「職場環境配慮義務」
上のように,職場でセクハラが発生すると,企業はさまざまな責任を負います。
企業としては,セクハラが発生して使用者責任を負わないように措置をとっておく必要がありますし,かつ企業自体の責任が問われないように事前・事後の措置をとる必要もあります。
セクハラに関する「職場環境配慮義務」の内容としては,裁判例で言われているところによると,
①まず事前の防止措置として、セクハラに関する方針を明確にして周知・啓発することや相談体制の整備が要求され、
②また事後対応として、セクハラ行為が発生した場合の適切・迅速な事後対応をすることが要求される,
とされています。
どういう措置をするべきか,は次回にお話しようと思います。
◆ セクハラ事件に関する損害
セクハラ裁判では、被害の甚大性に比べて賠償額の低いことが批判の対象となっていましたが、近時は高額化の傾向が見られます。
また,企業がセクハラに適切に対応しなかった結果、労働者が退職せざるを得なくなったケースでは、「職場環境配慮義務」違反がなければ賃金不支給の 事態も生じなかったという意味で、義務違反と賃金相当額の財産的逸失利益と相当因果関係が認められ、半年から1年程度の賃料相当額の損害賠償責任が肯定さ れるケースもあります。
もっとも,職場で発生するセクハラによる企業損害としては,それ以上のものがあります。
少なくとも社員のモラルの低下は避けられません。モラルの低下は企業にとって,サイレント・キラーです。企業を蝕んでいきます。
また,加害者あるいは被害者が優秀な社員であっても失ってしまいかねません。
企業としては,セクハラを防ぐ,起きてしまったら早期に発見する,発見したらすぐに適切な対処をする,という当たり前のことを当たり前に準備しておく必要があります。
◆ 最後に
今回は,セクハラに関してやや一般的なお話をしました。
セクハラも企業が従業員を抱える限りに常に伴うリスクの1つです。
金銭的な損害のリスクの面は他のリスクと比べて小さいかもしれませんが,企業組織に与えるダメージという面では非常に大きいリスクと言えます。
企業活力が減退するというのは企業にとって致命傷ですし,なかなか気付かないことなのでとても怖いです。
次回は,企業のセクハラ対応について,お話したいと思います。