広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
今回の企業法務コラムでは、中小企業のM&Aの代金額の決定方法のお話しです。
当職は、M&Aに関わることが割合多く、最近は常に案件に携わっている状態が続いています。
すべて中小企業のM&Aです。
M&Aといっても、その形態はほぼ株式譲渡か事業譲渡です。
合併や会社分割を絡めたM&Aのニーズやメリットは中小企業にはあまりありませんので。
関わり方はケースバイケースです。
交渉から関わるケース、買い手売り手双方のコーディネーターとしてかかわるケース、契約関係や法定手続だけサポートするケースなど、依頼者のニーズに合わせた関わり合いをします。
いただく費用も関わり合いに応じて千差万別です。
しっかり財務デューデリジェンスをする案件では、税理士と弁護士がセットでお手伝いします。
今回は買収価格の決定方法の話です。
勿論、買収価格の決め方には決まりはありません。
当事者が自由に決められます。
不当に安いあるいは不当に高い価格での売買には税務上のリスクがあるだけです。
もっとも、決めるのには目安がないといけませんね。
株式譲渡であれば、株式の価格です。
事業譲渡では対象事業(物も含めて)の価格です。
税務上の株式評価(相続税評価)は使いません。税金のための評価ですからね。
評価方法はいくらかありますが、経験上、中小企業の株式譲渡は、
時価純資産価格+営業権価格
あるいは
そのどちらか一方、
を目安に決めることが多いです。
時価純資産は、決算書あるいは試算表の純資産をベースに、含み益をプラスし、含み損をマイナスして算出された、所謂、清算価値・純資産価格ですね。
要するに、株式が表章する会社のモノ・カネの価格です。
この純資産価格ベースでの価格決定も多いです。
利益があまり出ていない会社はこれだけで十分だからです。
営業権価格は、会社が将来生む利益あるいはキャッシュフローを価格に反映させるものです。
営業権価格の計算は、
利益(キャッシュフロー)×1~5年
で行いますが、それぞれどの数字を持ってくるかが重要になります。
それにより数字はかなり変わりますから。
利益には、基本的に営業利益を持ってくるでしょうか。
減価償却費をプラス、時にはオーナー役員報酬の全部または一部をプラスするなどして、キャッシュフロー的な数字を持ってくることも多いです。
経常利益を使うこともあるでしょう。こちらの方が収益力が正しく反映されていることがあります。
ケースバイケースですね。
期間は、3年がスタンダードでしょうか。
業種や業態により、短ければ1年、長ければ5年でしょうか。
価格の目安が決まったとして、実際の契約価格を決めるには別の考慮をします。
売主が個人の株式譲渡のほとんどでは、前オーナーは会社を退きます。
株式譲渡による譲渡所得税よりも退職所得の方が一般的に有利です。
そこで、売り手には株式譲渡代金と退職金とを分けて受け取ってもらうことが多いです。
買い手にも損はありませんし。
総額を決めて、役員退職金をいくら受け取れるか検討し、残額を代金額にするというイメージです。
退職金支給により株式の価値は下がりますから当然といえば当然です。
次は事業譲渡の価格ですが、基本点には株式譲渡の価格の考え方に準じます。
全ての資産を含めた全事業を譲渡する場合には、株式譲渡と変わりませんね。
ただ、看板名を変えることのリスク、従業員を引き継げるかのリスク、取引口座を引き継げるかのリスクなど、価格マイナス要因はあるでしょう。
全ての事情譲渡であれば株式譲渡でもいいのですが、売り手の債務・リスクを遮断したいときには、債務を引き継がない形の事業譲渡にすることがありますね。
逆に、免許や取引先の関係で株式譲渡の方法しかとれないケースもあります。
一部の事業譲渡、あるいは資産を引き継がない事業譲渡では、引き継ぐ資産の時価に引き継ぐ事業の営業権価格を加えた金額が一応の価額の目安になります。
最初にお話ししたように、M&Aの価格は自由に決められます。
実際に、売り手・買い手のパワーバランスによって価格は大きく左右されます。
また、業種によっても様相が変わります。
いろんな業種のM&Aに携わると、様々なことに気付きます。
事業承継の一環として、後継者のいない会社のM&Aが増えているようです。
事業承継は後継者に引き継ぐか売却するかの2者択一ですからね。
逆に言えば、現在では、会社を買うチャンス、顧客・市場を獲得するチャンスも増えているということです。
事業承継の一環として、あるいは経営戦略の1つとしてM&Aをお考えになることもいいと思います。
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