広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
放っておいた借金の債権者から突然督促状が来て、驚いてご相談に来られる方も多いです。
はじめから消滅時効援用のご相談に来られる方だけではなく、債務整理をしたいというご相談の中で消滅時効援用により解決できるのではないかとアドバイスをする方もいらっしゃいます。
消滅時効はご存知でしょうか。
債権は一定の時効期間を経過し、かつ時効中断事由がなければ、消滅時効にかかります。
債務者が消滅時効を援用(具体的には消滅時効の援用通知を送ります。)すれば、支払義務から免れることになります。
一定の期間というのは、商人である銀行や貸金業者から借りている場合は5年間です。商人以外から借りている場合は10年です。
改正民法が施行されると期間は変わりますが。
しかし、時効中断事由があれば、それまで進行した時効期間がリセットされ、時効中断事由が終わってから再度時効期間が経過します。
判決等の場合は時効期間が10年に延びるということにもなります。
時効中断事由は、改正前の現行民法では、請求、差押え・仮差押え・仮処分、承認です(民法147条)。
請求には裁判上の請求と裁判外の請求(催告)があり、裁判外の請求については特殊で時効完成の猶予というイメージで捉えた方がよろしいです。
一番多いのは承認です。少額でも返済したら時効は中断します。
時効中断事由には様々な議論があるのですが、今回は差押えについてお話しします。
差押えがなされる場合には、判決あるいは支払督促等の債務名義によりなされますが(基本的には時効が判決等から10年に伸びている)、判決から10年経っており、その間に預貯金等の差押えがなされたが結局取下げられている、差押えからは時効期間が経過していないが、判決から10年経過していることをもって消滅時効の援用が認められるか、という事例に接したことがあります。
民法154条は、差押えが取下げらたら時効中断の効力は始めからなかったことになると読めます。
では、取り下げられた場合必ず時効中断の効力が及ばないのでしょうか。
ここは実は争いがあるのです。100%の確度をもって法律的な判断をくだせません。
所謂空振り、預金の差押えでは差し押さえる預金がなかった場合ですね。そのような場合には、時効中断の効力がなくならないと言うような古い裁判所の判断もあります。
債権者は権利の上に眠っていないということで、その判断を支持する見解もあります。
一方で、動産執行のケースですが、売却しても費用が支弁できない状態で執行官から取下げを勧められて取下げをした場合であっても、取り下げた以上は時効中断の効力は失うとした割合新しい裁判所の判断もあります。
最終的には債権者が自らの意思で取り下げたという事実を重視したものでしょう。
具体的な事例判断が集積されておらず、かつ明確な最高裁判例もないため、なかなか判断が難しい問題です。
調べても、この問題は本にもほとんど書いていないのですね。書きずらいのでしょう。
民法の条文からすれば、後者が正しいような気もします。
事例によって違うと法的安定性も損ないますね。
ということで、差押えの取下げがあった場合には、債務者からすれば時効中断の効力がなくなったとの主張をすることになります。
しかし、債権者からは時効中断があるという主張がなされてしまいます。
このような状況であると、裁判でないと決着が付かないですね。困ります。
なお、私が接した事例では預金に数十円は口座にありました。空振りの場合に時効中断の効力がなくならないという見解を前提としたとしても、全くの空振りではなく取り下げているはずですですから、時効中断の効力がなくなったと言うことも十分理由があります。
相手は強硬な態度を示すことで有名な業者でしたが、法的に争いがあるということで、和解で解決することになりました。
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広島の弁護士 仲田 誠一
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