広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
今回の相続問題コラムは、相続から長期間経てからの相続放棄のお話です。
最近被相続人が亡くなってから長期間(20年以上)経った相続放棄申述をお手伝いしました。
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(「熟慮期間」といいます。)におこなわないといけません、事前に申請をすれば3か月の期間を伸長してくれます(民法915条)。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」というのは、判例上、相続人が相続開始の原因たる事実の発生、かつそのために自己が相続人となったことを覚知した時を指します(死亡かあるいは先順位相続人の相続放棄ですね)。
相続人が何人かいるときは、各人がそれぞれ相続人となったことを覚知した時になります。誰かが知っていたとしてもその人が知らなければ関係ありません。
かつ、判例で、さらに緩和されています。
3か月の熟慮期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から起算されるとされているのです。
相続人となったことを知った時から3か月を経ていても相続放棄ができるケースが認められているのです。
亡くなったことは知っていたけど、遺産も債務もわからないし放っておいたところ、急に債権者から相続人に対する督促状が来た場合が典型例です。
実務上も、珍しくありません。その場合には、督促状が来てから3か月以内に相続放棄をすれば家庭裁判所が相続放棄申述を受理してくれます。
勿論、その辺の事情を説明しないといけませんし、督促状などの資料も提出します。イレギュラーな事例なので弁護士に代理してもらった方がいいかもしれません。
相続人が被相続人の事情をどの程度知っていれば相続放棄申述が制限されるかは、ケースバイケースかつ微妙な問題です。
典型的な、同居もしておらず、何も相続手続をしていない例では、これまで問題なく相続放棄申述が受理されています。
ただし、理屈上は、相続放棄申述受理証明を貰えれば解決するということではありません。実は、相続放棄の法的効果は相続放棄申述受理によっては決まらないのです。
放棄の法的効果は、債権者が放棄した相続人に対して、貸金返還請求訴訟などの訴訟を提起した際に、その中で判断されることになります。
だからリスクは残るのですね。
ただし、相続放棄申述が受理した旨を債権者に通知すると、通常はそれ以上突っ込んでくることはありません。
そのため、実務上、あまり細かい所が問題になることはありませんし、ひっくり返されるリスクが大きいとも言えません(なお、当職は今まで1度も債権者から突っ込まれたことはありません)。
勿論、相続財産の処分行為など、これは相続放棄ができないなという事例もあります。そうでない限りは、とりあえず相続放棄申述受理をしてもらえればいいという意味です。
冒頭の事例は、被相続人が死去されて20年以上とめったにお目にかかれない期間経ていた事例でした。
実家とは疎遠で、被相続人が亡くなったことも御存じなく、他の相続人が相続放棄をしていて、今になって突然役所から被相続人の固定資産税の滞納金の請求が来た例でした。
何が困ったかというと全く資料、記憶もない点でした。役所からの通知内容を基に、何とか最低限の提出資料を揃えることができました。
また、理屈上は、相続放棄申述が許される事例ですが、事実上あまりにも相続発生から長期間経ているため、手続がスムーズに進むのか危惧がありました(かつ、遠方の家庭裁判所でしたので来てくれと言われると大変だなと思っていました)。
この点は、事情をきちんと裁判所に説明する書面を作成し、スムーズに相続放棄申述受理証明書をもらうことができました。
少し変わった事例でしたのでお話をさせていただいた次第です。
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