広島市の弁護士仲田誠一です。
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
民法は私法関係(私人と私人の間の法律関係)を規律する基本法です。
我々弁護士も最も活用している法律といえるでしょう。大事な法律なので、順次、改正点をかいつまんでですが、説明させていただこうと思います。
【意思能力の明文化】
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
意思能力に関する新しい条文です。
これまでも、意思能力を欠く者がした法律行為は無効であるとされていました。改めて明文化したということになります。
意思能力が問題となるのは、成年後見制度を利用していないが認知症等で判断能力がない方、あるいは泥酔・薬物などによる一時的な能力の喪失のケースでしょうか。
実務上は、意思能力がなかったとはなかなか認めてもらえません。高齢者の消費者被害などしか使わないかもしれません。
判断能力がなくなった場合には成年後見を開始しておいた方が無難です。
なお、意思能力は問題となる法律行為ごとに判断される傾向にあります。
その行為によって必要な能力は異なりますからね。
勿論、意思能力がないとは認められない場合でも、本人の意思決定過程に問題があるのであれば、金融トラブルなどの際の適合性原則違反、説明義務違反(専門家責任)、錯誤、詐欺等を主張して契約の効力を争う、あるいは解除をすることを主張することになります。
【錯誤】
旧95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
新95条
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくもので、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な物であるときは、取り消すことができる。
① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
② 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項による意思表示の取消しをすることができない。
① 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
まず、錯誤の効果が無効から取消しに変更されました。
無効は最初から法律行為の効力が発生しない、取消しは取り消された初めて法律効果が遡ってなくなるという理論上の違いがあります。
実務上、一番大きい違いは、取消しには取消し通知が必要ですが、無効は当然無効ですので通知行為は必要ないです。
錯誤も、詐欺等ほかの規定と平仄を合わせて(意思決定過程に瑕疵がある点は同じですからね)、今回取消しに変更されました。
その他の変更点は、判例法として既に確立している点、講学上争いがない点を明文化したものです。
基本的には、旧法の解釈と変わらないのであろうと思います。
錯誤とは勘違いですが、重要な事項に関する勘違いでなければなりません。
契約の目的や社会通念(常識)から、錯誤がなければ本人も普通一般人もその意思表示をしなかったであろうと考えられる重要なものでなければなりません。
また、実務上錯誤が出てくるのは、ほぼ動機の錯誤と言われるものです。
その内容の契約をすることについては勘違いがないが、その基礎事情(動機)に勘違いがあるということですね。
それが明文化されました。従前の解釈と同様、動機の表示が必要とされています。
この点は、契約書やパンフレット等から黙示に表示されていても動機の表示がありとされ得ます。
実務上、錯誤は、説明義務違反による解除、損害賠償請求、詐欺による取消し、消費者契約法が使えるときには消費者取消権の行使、と一緒に主張することが多いです。
相手方から何らかの不適切な情報提供などによる意思決定への不当な働きかけがあり、本人が騙された!と感じるケースですね。
当職が現在携わっている違約金充当合意の効力を争う控訴審でも、錯誤の有無が争点となっております。一審ではあまり争点とはならなかったのですが、裁判官によって焦点の当て方が異なることは珍しくはありません。
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