広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
相続問題コラムとして、2019年7月1日から順次施行される改正相続法(民法)のお話をさせていただいております。
遺留分に関する改正点のお話の続きです。
【金銭請求に一本化されました】
改正民法1046条1項のお話です。
改正民法1046条1項は、遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額に相当する金銭支払のみの請求ができることとしました。
これは大きな改正ですね。
改正により、遺留分減殺請求権はなくなり、遺留分侵害額の(金銭)請求権に代わると説明もされています。
慣れ親しんだ言葉がなくなるのは寂しいです。
現行法の解釈では、遺留分減殺請求(遺留分減殺通知書を出します)により、当然に物権的効果が生じます(物権的効果とは例えば不動産の所有権から遺留分侵害分の持ち分が移転するというイメージです)。
例えば、相続不動産等については、受遺者・受贈者と遺留分権利行使者の共有状態が生じます。
そこで、遺留分減殺請求訴訟では、まず原告が相続不動産の遺留分侵害分の持ち分移転請求をしなければならず(具体的には持分移転登記手続訴訟)、被告が不動産の持ち分を渡す代わりに金銭賠償を選択して(価額賠償権の行使をして)初めて、原告が金銭請求できる建前となっていました。
勿論、実際の解決は金銭解決による和解で終了することが多かったのですが。
折り合いが付かなければ、不動産等共有状態が作出する可能性があります。
改めて共有物分割請求による換価処分を求めなければ金銭解決あるいは終局的な解決が図れない事態も想定できました。
改正民法では、遺留分減殺権者が請求できるのは金銭請求のみとなっております。
現物で渡すのではなく、金銭で渡すということになります。現実に即した改正でしょう。
徒に共有関係を作出することは問題を大きくしかねません。
したがって、「遺留分減殺」を登記原因とする登記もなくなるとの説明もありました。
同族中小企業のオーナーの相続にも影響がありますね。
事業承継対策として遺言により後継者に株式を全部相続させても、やり方が悪ければ他の相続人の遺留分を侵害します(遺留分侵害がないように遺産の構成及び遺言内容を整理するのが無難です)。他の相続人から遺留分減殺請求があると、理屈上、自社株式について望ましくない共有状態を作出することになってしまいます。
これに対して、改正民法では、遺留分減殺請求権者が請求できるのは金銭請求のみですから、不必要な共有状態を作出することがなくなります。
事業用資産についても同様のことが言えますね。
相続法改正には事業承継対策の効果もあるということでしょう。
遺留分侵害額の請求権は形成権であることは現行法の遺留分減殺請求権と変わりません。
請求権を行使して初めて金銭請求権が発生します。
期間制限があるため、内容証明郵便にて通知を行うことが通常です。
なお、金銭請求を受けても直ちに現金化できる相続財産がないと困りますね。
そこで、改正民法では、裁判所は、請求があれば金銭請求の全部または一部の支払について相当の期限を許与することができると手当をしています。
【遺留分侵害額の算定方法】
改正民法1046条2項のお話です。
遺留分侵害額は次のように計算されます。
遺留分額
- 遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益
- 遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
+ 遺留分権利者が承継する相続債務の額
です。
計算の枠組みは現行民法の解釈と変わりません。
遺留分額は、改正民法1042条の規定により、遺留分額を算定するための財産の価額×遺留分割合×遺留分権利者の法定相続分ですね。
寄与分は、遺留分制度においては考慮されません。現行法の解釈どおりです。
そのような制度設計なので仕方がありません。
遺留分権利者が承継する相続債務の額は、法定相続分のことですね。
遺言に債務の承継方法の指定があっても、第三者である債権者には対抗できませんからそうなります。
ただし、改正民法1047条3項にて、遺留分侵害額の金銭請求を受けた者が相続債務の弁済等債務消滅行為をした場合には、消滅した債務の限度において、負担債務の消滅を請求できると手当がなされています。
それをすれば、被請求者の遺留分侵害額の請求権者に対する求償権(負担部分を超える債務を弁済すれば他の相続人に求償することができます。法的性質は不当利得返還請求権でしょうか。)は消滅します。遺留分侵害の金銭請求と被請求者の請求権者に対する求償権の相殺的処理を定めたものですね。
【遺留分侵害の金銭請求に対する負担の順序】
改正民法1047条関係です。
遺贈と贈与があるときは受遺者が先に負担します。
遺贈あるいは贈与が複数ある場合には、同時になされたケースでは目的物の価額の割合に応じて負担します(遺言者が遺言に指定している場合はそれに従います)。
受贈者が複数あり同時になされていないケースでは、後の贈与を受けた者から順次負担します。
なお、死因贈与の扱いについては、明文化されず、解釈に委ねられます。
最高裁判例がなく争いがあるから明文化されなかったという説明を目にしました。
遺留分制度の改正に関するお話はひとまず終わりです。
ややこしい制度だったのですが、改正によりやや単純化されました。
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