広島市の弁護士仲田誠一です。
租税法の総論的なお話は今回で終わりです。
【租税とは】
考えると、税金ってなんだろうと思いますよね。学術的に議論されており、かつ判例でも定義されています。
判例の定義は、次のとおりです。
「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてではなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付はその形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税」(旭川国民健康保険料事件最大判H18.3.1)
租税は金銭的給付です。徴兵などは税金ではありません。
租税は公益性(公共サービス)のための資金調達です。制裁目的の罰金は租税ではありませんね。
課税権に基づき強制的に徴収されるのが租税です(強行性権力性)。国税徴収法により租税債権は大変強い効力を与えられています。租税債権の優先が定められていますし、裁判所を通じなくても差押等の滞納処分ができます(自力執行力)。寄付金は強制ではないから租税ではありません。
租税債権の優先という点で、破産管財人をしていると銀行の根抵当権と租税債権の優先関係をケアしないといけない場面に出くわします。登記と差押えの先後ではなく、登記と法定納期限の先後で決まるのです、滞納租税の法定納期限なんて確認しないとわかりませんから怖いですね。
非対価性も租税のメルクマールです。特別の給付に対する反対給付の性質ないということで、国民健康保険や各種手数料は租税ではありません。判例で、国民健康保険は、強制加入、強制徴収等において租税に類似する性質だから憲法84条の趣旨は及ぶとはされていますが。
【租税法の機能】
租税法の機能は大きくわけて2つです。
1つ目は、行動規範(マニュアル)です。
戦後、基本的に申告納税制度になりました。納付すべき税額を納税者の申告によって確定させる制度ですね。所得税申告時期の2/16~3/15は、知り合いの税理士さんは大変です。お祭りみたいなもののようです。
「租税法律主義+申告納税制度=租税民主主義」と言われます。
もっとも、先払いの制度があります。予定納税制度と源泉徴収制度です。前者の意義は、納税者の負担軽減、国庫歳入平準化、所得発生時期と納期を近くするのが理想という理由が挙げられていますが、どうなのでしょう。後者は、申告納税制度を補完する制度で納税者の取引相手に納付義務を課すものです。多くの給与所得者は納税が完結しますね。
2つ目は、裁判規範(事後的解決基準)です。
法律ですからね。
【私法と税法の関係】
国と納税者の関係は租税法律関係とされています。
私法上の法律関係を前提に租税法律関係が構築されますから、租税法律関係は第1次的には私法により規律されます。売買なら所得税、贈与なら贈与税といったように私法上の契約関係が前提なのですね。民事訴訟法の理論に処分証書の法理というものがあり、裁判では私法上の契約関係の認定に契約書類がかなり重要視されます。
① 経済取引事実の発生 個人A→お金→個人B
② 私法上の要件事実の認定 労働契約、預金契約、棚卸資産と対価
③ 私法上の法律構成 雇用、消費寄託、売買、贈与、相続
④ 租税実体法の発見 所得税法、相続税法
租税法と実体経済にはギャップが存在します。
私経済は不断に変化します(私的自治、法律形式選択の自由)。
租税法は法律の改正が必要です。追いついていけません。
解釈で実体経済をどこまで捕捉できるかという問題が出てきます。
【借用概念と固有概念】
条文の解釈の問題です。借用概念は、「売買」「贈与」など租税法に定義がない概念で、本来の法分野である私法と同一意義に解釈されます。課税庁によって自由に解釈されて課税をされてしまうと、租税法律主義の要請である国民の予測可能性、法的安定性を害しますからね。
「住所」の解釈が争われた裁判があります。民法の解釈に沿って、贈与税回避目的があるからといって客観的な生活の実態は消滅するものではない(立法により解決するべき)と国が負けました(最高裁H23.2.18判決)。
固有概念は、租税法に定義規定が有る概念です。「同族会社」「みなし配当」などですね。
租税法に定義規定がない、かつ私法から借りてきた概念でもない文言というのもあります。
住宅借入金等特別控除にいう「改築」の意味が争われた裁判で、特段の事情がない限り、言葉の通常の用法に従って解釈するとされました。
【まとめ】
総論のまとめです。
① 租税法律主義の貫徹
租税憲法の話ですね。
② 私法の重視(借用概念)
租税法律関係は第一義的に私法で規律される。特別な定義が租税法にないならば借用概念として私法と同じ解釈をするべきということですね。
③ 当事者の契約内容重視
租税法律関係は第一義的に私法で規律されます。契約の意味内容も私法で解釈されるべきで、課税庁が勝手に売買を交換等の別の法形式として扱っては駄目ということですね。そこに処分証書の法理という民事訴訟の理論も関わってきます。基本的には、契約書と同じ内容の法的効果の発生し、それに対応した課税しかできないのが原則です。
総論的な話が続きましたがこれで終わりです。次回から皆さんになじみの深い所得税法のお話に入っていこうと思います。
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