広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
所得税における所得の種類の続きです。利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得とお話ししました。所得分類は10種類ですので、あと6種類ですね。
【給与所得】
所得税法第28条に定める給与所得です。
給与所得の計算は、収入-給与所得控除(所得税法第65条)ですね。
最近話題になっている特定支出制度(所得税法第57条の2)もあります。
源泉徴収の対象で、他に一定額を超える所得や特定支出控除、医療費控除等の所得控除がない場合には、年末調整によって課税が終了します。
多くの給与所得者が確定申告をしないのはそのためです。
給与所得の一般的な定義は次のとおりです。
① 雇用又はこれに類する原因に基づいて
② 使用者の指揮命令に属して
③ 非独立的に提供する労務の対価
④ 退職支給金を除いたもの
です。
ストックオプション事件という有名な判例があります。
米社が国内100%子会社の役員に付与したストックオプションにかかる権利行使益は、一時所得に該当するのか、給与所得に該当するのかの争いです。
従前は一時所得として扱われていたものを課税庁が給与所得として課税するようになった経緯があります。一時所得の方が納税者には有利です。
何が問題になったかというと、ストックオプションを付与した米社と国内子会社の役員との間には雇用契約がありませんよね。
そうである以上、イメージ的には給与所得とは言い難いような気がします。
しかし、最高裁は、給与所得と認めました。
米社から子会社役員への職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益だとしたのです。
支払者との雇用契約関係がなくても給与所得になり得る例です。
もう一つ、りんご生産事業組合事件という判例もあります。
こちらでは、民法上の組合の組合員が組合から委嘱された作業に従事したことの対価として得た「給与」を給与所得として認めました。
組合員は組合員の構成員なので、民法の感覚では、給与が支払われるというのには違和感があるのですが・・・。利益配当ではないかと。
判例では、労務の提供や支払いの具体的態様等を考察して客観的、実質的に判断して、給与所得と認めたわけです。
給与所得も意外に難しいものですね。
【退職所得】
所得税法第30条に定める退職所得です。
分離課税、源泉徴収の対象です。
みなし退職所得という制度もあります(所得税法第31条)。
小規模共済、中退共等も退職所得ですね。
退職所得の計算は、(収入-退職所得控除)×2分の1です。
退職所得控除が大きいです。
かつ、2分の1課税です。
そのため、退職金は中小企業の節税スキームでよく使われます。
M&Aに際しても、旧オーナーさんには退職金の形で資金を取得してもらうことを考えますね。トータルの税金が大幅に変わってきますから。
退職所得の税金が安くなっているのは、
長期間に発生する所得であること、勤務に対する報償の性質を有すること、老後の生活保障であること、
などの退職所得のもつ特別の性質を考慮されているわけです。
そうであれば、比較的短い期間を区切って退職金名義の対価の支払いがなされても、負担軽減措置は必要ないですね。
5年退職金事件と10年退職金事件という2つの判例がありました。
① 退職、すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて支給されること
② 従来の継続的な勤務に対する報酬ないし労務の対価の後払いの性質を有すること
③ 一時金として支払われること
これらの性質を有する給与が退職所得です。形式的には要件すべてを備えなくても、実質的にみて要件の要求するところと合致し、課税上「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うこと相当とするものも退職所得とされます。
実質的に勤務状態が継続していたような事案では、退職所得ではなく、給与所得として扱われることになります。
中小企業のオーナーが退職金をもらう際には気を付けないといけませんね。
せっかく支払った退職金が否認される可能性もあります。
【山林所得】
所得税法第32条に定められている、山林の伐採・譲渡による所得です。
植林には長期間を要する等の特別な性質から独立して規定されています。
正直あまり見たことはありませんが。
山林所得の計算は、収入-必要経費-特別控除額です。
分離課税で、5分5乗方式(所得税法第89条)という税負担を軽減した方法で課税されます。
今回はこの辺で失礼します。
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広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
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