広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
とりあえず所得税法は今回までです。
【所得控除】
各種所得の金額の計算の結果を一定のルールの下で合算して(損益通算)算出した①総所得金額、②退職所得金額、③山林所得金額から控除することが認められている負担の控除です。
所得控除が認められる理由は、控除の種類によって異なります。基礎的人的控除として控除する、担税力の減殺を表す事情に応じて控除する、担税力を持たない所得分を控除する、支出奨励のために控除する、といった理由です。
所得税法に定められている所得控除には、雑損控除(所得税法72条)、医療費控除(同73条)、社会保険料控除(74条)、小規模共済等掛金控除(75条)、生命保険料控除(76条)、地震保険料控除(77条)、寄付金控除(78条)、障害者控除(79条)、寡婦(夫)控除(81条)、勤労学生控除(82条)、配偶者控除(83条)、配偶者特別控除(83の2条)、扶養控除(84条)がありますね。
あくまでも所得控除で、税額控除ではありません。税金がそのまま安くなるわけではありません。
税率が高い方の方が効果ありますね。
【税額控除】
政策目的等から算出税額からさらに控除して年税額を計算するものです。税金がそのまま安くなります。
配当控除(92)、外国税額控除(95)、住宅借入金等特別控除がありますね。
所得税法のさわりをざっと説明してきました。本当はいろいろ複雑な話もあります。
最後に、譲渡所得に関する頭の体操をしてみようと思います。頭の体操といっても、机上の空論ではありません。実務上よく考えないといけないことです。
【無償譲渡】
まずは、無償譲渡の事例です。
A、Bが、各個人か法人で場合分けをして、それぞれの課税関係を検討してみましょう。
① A個人 ⇒ B個人 の無償譲渡
これは分かりやすいですね。所謂贈与のお話です。
Bに贈与税課税があります。贈与が物等の場合には、その評価は相続評価によります。表族税評価通達に沿って計算されることになります(法律ではないですが一定の合理性が認められています)。
なお、贈与されたBはAの取得価格の引継があります。売却をするときに忘れないということですね。
② A個人 ⇒ B法人 の無償譲渡
贈与税は個人から個人への贈与だけに課税されます。相続税法の中に定められている税金(相続財産の逸失による相続税逃れを防ぐ税金とも言われています。)ですから、当事者に法人がいる場合には適用がありません。
A個人には、譲渡所得課税があります。いくらで譲渡したことになるかというと実勢価格(時価)で譲渡されたとみられます。所得税法第59条です。譲渡益は、時価-取得費で計算しますね。
B法人には法人税課税があります。実勢価格で計算した益金が認定されます。
③ A法人 ⇒ B個人 の無償譲渡
A法人には法人税課税です。益金は、実勢価格-取得費です。法人税法でも無償譲渡は時価で譲渡したものとみなされます。個人の譲渡所得税とは別の理屈からなのですが。
B個人には、一時所得あるいは給与所得課税(実勢価格)があります。個人からの贈与ではないため贈与税課税ではありません。
B個人がA法人の従業員あるいは役員である場合には給与所得課税があり得ますね。
それ以外は一時所得になるはずです。
④ A法人 ⇒ B法人 の無償譲渡
A法人に法人税課税(実勢価格―取得費が益金)があります。
B法人にも法人税課税(実勢価格です)があります。
【低廉譲渡(低額譲渡)】
続いて、低廉譲渡(低額譲渡とも呼ばれます。)を考えてみましょう。時価の1/2未満の代金の譲渡と思ってください。同じく、A、Bが各個人か法人で場合分けをして課税関係を検討します。
実務的には、親族間の紛争の解決によく出てきます。売買代金は当事者で自由に決めることができます。しかし、あまりに安いと、別の課税関係が生じます。税金を知らないと怖いですね。弁護士が解決を図る際も税金を考慮したスキームを考える方がいいですね。
① A個人 ⇒ B個人 の低廉譲渡
Aに譲渡所得税課税がありますね。ただ、実際の代金ベースです、取得価格が不明な場合や相続を受けて取得価格が低い場合以外は低廉譲渡で譲渡所得が発生することはないでしょう。ただ、代々引き継いだ不動産を低廉譲渡する場合はけっこうあります。
Bには、理屈上、贈与税課税があります。贈与額は、相続税評価額と実際の代金の差額となるでしょう。
② A個人 ⇒ B法人 の低廉譲渡
法人が当事者になると贈与税課税は関係ないですね。
A個人には、譲渡所得税課税があり得ます。実勢価格での譲渡があったことになります。所得税法第59条です。
B法人には法人税課税です(実勢価格と代金との差額が益金です)。
③ A法人 ⇒ B個人 の低廉譲渡
A法人に法人税課税(実勢時価が益金)ですね。無償譲渡と同じ扱いになります。
B個人には、一時所得あるいは給与所得の課税があります。無償譲渡の場合と同様ですが、所得は実勢価格と実際の代金の差額でしょう。
④ A法人 ⇒ B法人 の低廉譲渡
Aに法人税(実勢価格―取得費)課税があります。
Bに法人税(実勢価格と実際の代金の差)課税があります。
無償譲渡、低廉譲渡の課税判断は、実務でもよく考えないといけないのですが、明確な基準がない(そもそも時価をどう見るかで判断が変わる)ため、難しい判断になります。また、理屈上の考え方を一応の目安として整理しています。実際に課税されるかどうかはわかりませんが、リスクがあり、課税されても文句が言えないということですね。和解や事業承継のスキームを考えるときは、合理的な根拠を説明できるようにしないといけません。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602