広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
今回の借金問題コラムでは、債務整理と給与差押えの関係について改めてまとめておきたいと思います。
◇ 金融債務延滞と給与差押え
金融債務を延滞すると、まず督促状が来て、その後約款に基づいて期限の利益が喪失されます。
期限の利益の喪失とは、支払期限の約束(債務者の利益ですから期限の利益です)がなくなり、一括請求されることです。
保証会社がある場合には代位弁済をされた上で、支払督促あるいは訴状が届き、判決等の債務名義(強制執行ができる文書のこと)が取られ、給与等に強制執行がなされます(なお、執行認諾文書のある公正証書を作成されている場合には法的手続なしに差押え可能です)。
強制執行が申し立てられると、裁判所から勤務先に通知が届き、給与が差し押さえられます。その後は、給与から税金・社会保険を控除した額の4分の1(ただし、33万円を超える部分は全額)の支払いを受けられなくなります。通常、給与明細上控除されます。
なお、理屈上は、支払督促あるいは訴状提出の前に仮差押えという手続きを採ることも考えられますが、あまり見受けられません。
勤務先が知られている債権者に対して延滞が発生した場合には、できるだけ早く債務整理を行った方が得策です。給与差押えの危険が伴います。
◇ 任意整理と給与差押え
任意整理で解決することは困難です。
既に債務名義を取られているので、債務全額に加え執行費用の支払いをするしかないのが基本です。
分割払いの交渉に応じてくれる例はほとんどないと考えていいです。
◇ 自己破産と給与差押え
(相談時に既に差押えがなされている場合)
できるだけ急いで自己破産を申し立てることになります。そして、裁判所からの宿題に答える等して破産開始決定を得ます。裁判所にできるだけ早い開始決定をお願いすることもあります。
破産開始決定が出て、それが管財事件の場合は、強制執行手続が失効することになります。
給与を全額貰えるようになるわけです(もちろん新得財産となり裁判所に取られることはありません)。
同時廃止事件の場合は、申立人側から強制執行の中止の申立てをすることになります。
ただし、強制執行が中止されても、差押え自体がなくなるわけではありません。免責許可が確定したときに強制執行が失効します。
勤務先はその間は、差押え額をプールして(債権者への支払いを留保して)、免責許可が確定したときにプール金を破産者に渡すことになります。複数の債権者から差押えがある場合には勤務先は供託をしないといけないので大変ですね。
もっとも、強制執行中止の申立てをすると(中には、受任通知時、あるいは破産申立て時のこともあります)、債権者は強制執行を取り下げることが多いです。弁護士からも取下げを促します。
(相談時にまだ差押えがなされていない場合)
弁護士が受任して自己破産の準備をしている間は、債権者は法的手続を取ることを待つのが通常です。
最近は、あまり待たずに法的措置をとるようになった債権者もいますので注意してください。そうでない債権者でも受任後半年経てくると問い合わせが弁護士のところに来ます。申立予定が決まっていないと、たいてい法的手続を進める旨伝えられます。
弁護士に依頼する場合には弁護士からスケジュールを示されるはずです。弁護士に自己破産申立てを依頼して受任通知を出してもらって安心してはいけません。きちんとスケジュールに従って準備をしてください!遅くなると給与差押えのリスクが高まります。
訴訟等がなされると弁護士が時間稼ぎをしてくれることもありますが、限界があります。
また、差押えは受任通知後の偏頗弁済となり(破産管財人が否認することもできる行為になり)、金額によっては管財事件になる可能性が高まります。
なお、訴訟等がなされる段階になってまだ準備が進んでいないとなると、弁護士から辞任をさせることも多いでしょう。弁護士も依頼者さんが準備をしてくれないと困りますから。
◇ 個人再生と給与差押え
(相談時に既に差押えがなされている場合)
個人再生の場合、再生手続開始決定により強制執行は中止されます。
そして、最終的に再生計画の認可決定が確定した場合に失効します。
なお、申立て後に強制執行の中止命令を裁判所が出せる制度、差押えの取消しにより留保分を受け取れる制度もあります。裁判所に認められる必要がありますが。
個人再生の場合には、差押え分を偏頗弁済として清算価値(清算価値保障原則により最低弁済額を画するものです)に計上されて、他の財産状況によってですが最低弁済額が大きくなるリスクがあります。。
給与差押えとは違いますが、給与天引きでの共済借入金弁済などは天引きが開始決定まで止まらないことがほとんどです。この場合も清算価値に計上するということがあります。
(相談時にまだ差押えがなされていない場合)
自己破産の場合と同じです。弁護士に示されたスケジュールに従ってきちんと準備をしてください。遅くなると給与差押えのリスクが高まります。
なお、差押えをされている場合、弁護士費用に困ってしまう場合があります。よく弁護士と相談してください。法テラスの基準を満たしていればいいのですが、収入基準を超えていて法テラスは利用できない、しかし給与差押えにより弁護士費用を捻出することが難しい、という事態もあり得ます。その場合は弁護士費用の支払い方法も柔軟に考えないといけません。
債務整理(任意整理、民事再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
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