広島市の弁護士仲田誠一です。
相続共有株式(遺産分割が完了していない)株式がある場合のM&Aのお手伝いをすることがあります。
相続をきっかけにM&Aをするということも珍しくありません。
相続共有株式が50%、形式は株式譲渡とします。
全体の株式譲渡は遺産分割を待たなければ事実上できませんが(相続により法定相続分に応じて自動的に分割されるわけではありません。遺産分割が完了しないと共有状態が続くのですぐに株式そのものを譲渡することができません)、経営体制の変更のために先行して役員変更を行わないといけないことも考えられます。
取締役は株主総会で選解任を行います。
有効に取締役選任の株主総会決議ができるかということが問題となります。
相続共有株式(正確には株式は物ではないので準共有株式と称します)は、権利行使者の届出をしないと権利行使をすることができません。
ただ、届け出がなくとも会社が権利行使をすることに同意すればよいとされています(会社法106条)。
しかし、判例があります。
株主権の行使は、それが株式の処分に匹敵するような特段の事情がない限り、民法の共有物の管理行為(民法252条)に該当し、権利行使者の選定は各共有者の持ち分の価格に従いその過半数で決するとされました。会社からの権利行使の同意も持分過半数の共有者の同意がなければならないとされています。
相続持分が2分の1ずつの場合、遺産分割で争いが起きているときは、権利行使者の届出に関する合意ができないことが多いのではないでしょうか。
その場合、共有株式について権利行使ができないということになりますね。
ところが、株主総会の定足数には、相続共有株式も入ります。
通常の株主総会決議(普通決議)の定足数は、過半数株主の出席とされている場合が多いでしょう。会社法の原則なので(会社法309条1項)。
半数の株式が相続共有株式で権利行使者を届けることもできない、会社も権利行使を認めることができないということになれば、過半数の定足数を満たさず役員変更決議が有効にできないことになりますね。
その場合は定款を確認します。
会社法所定の定足数は定款の定めにより下げることができます。
なお、役員選任決議は特殊な決議として3分の1までしか定足数を下げることはできません(会社法341条)。
そのため、定款にて3分の1に定足数を下げているかどうか確認しないといけないことになりますね。
定款にて定足数を3分の1まで下げている場合には、上述の例においても、半数株主の出席により役員の選任決議が可能ということになります。
なお、株主総会を開催する場合には、全員株主が出席できるわけではないため、株主総会の招集通知を出さないといけませんね。
会社法126条3項・4項に共有株式の場合の会社からの通知方法が定められています。共有者が通知等を受領する者1人を定め会社に通知しないといけない、それがない場合には、会社は共有者のうちの1人に対する通知等をすれば足りるとされています。
共有者からの通知は、先の判例から推測するとやはり過半数持分で決めるのでしょう。
そうであれば、上の例では共有者の1人(M&Aの売主)に通知をすれば足りるということになるでしょう。
このような次第で、定款の定めによっては、上記の例でも取締役の選任決議ができることになります。
なお、相続共有株式を作出しないようにすることが肝心なことは当然です。生前贈与あるいは遺言書にて後継者に引き継がないといけません(遺言に対する遺留分については民法改正で今後は金銭請求となります。遺留分減殺請求という形で共有株式を作出することはなくなるわけです)。
勿論、共有相続に限らず、中小企業において株式の分散は避けた方が無難です。少なくともM&A、事業承継においては困りますね。
顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602