広島市の弁護士仲田誠一です。
法人税法の続きです。
法人税と所得税の大きな違いをまずお話します。
まず、所得税は所得の種類によって税金のかけ方が違います。
所得税法は、担税力に応じて所得を10種類に分け、異なる税金のかけ方をしています。
これに対し、法人の所得は1つです。
一律課税ですね。
個人の場合は、所得の分類によって税金が変わりますので、どの所得で申告するべきかが問題となりますが、法人はそのようなことは考える必要はありません。
また、所得税は超過累進課税ですね。
これに対して法人は基本的に一律税率です。
個人の場合は所得の分散ができればそれだけ節税になります。法人の場合はそうではないですね。
個人の節税のために法人と個人との所得分散を図ることはよく考えられることになります。
ちなみに、事業承継対策のスキームを考える際には、上述のような法人と個人とでの税金の違いを意識してスキームを組み立てる必要があります。
事業承継対策は、オーナー・会社・後継者の間のスムーズな資産移転を考えることになるからです。
さて、前回は、法人税法の所得計算の柱の1つである「益金」について簡単にお話ししました。
今回は、もう1つの柱である「損金」について簡単にお話しします。
簡単と言っても2回に分けざるを得ません。
まず、「損金」を定める法人税法22条3項では、
1 売上原価、完成工事原価その他の原価
2 販売費、一般管理費その他の費用
3 損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
を損金に計上すると定められています。
【売上原価について】
□ 費用収益対応の原則
法人税法は「当該事業年度の収益に係る・・・原価の額」と定めています。
個別に収益と対応する費用ですね。
収益をある事業年度に計上する場合には、当該収益に係る売上原価も当該事業年度に計上し、適正な期間損益計算を確保する原則です。
□ 棚卸資産の評価方法(法人税法29条、同施行令28)
売上原価計算の基本は、期首棚卸資産+当期仕入額‐期末棚卸資産ですね。
期首棚卸資産と登記仕入額の2つは確定しているはずですから、決算内容そして所得内容は、期末棚卸資産の評価により左右されるわけです。
棚卸資産の評価方法として、法人税法は例外規定(63条、64条)のみおき、明文規定がありません。
そこで、基本的には企業会計原則(法人税法22条4項)に従います。
自由に評価していいわけではありません。
棚卸資産の評価は粉飾・脱税の方法によく使われるため、施行令により、棚卸資産の評価方法の税務署長への届出、変更する場合の税務署長の承認が必要となっています。
注意してください。
認められている評価方法はいくつもあります。
個別法、先入先出法、平均原価法、売価還元原価法、総平均法、最終仕入原価法(これが一応の法定評価方法です)、売価還元法ですね。
業種・業態によって向き不向きがあります。
【販管費、営業外費用について】
□ 債務確定主義
債務が確定したもののみ損金に計上できます。条文で「債務の確定しないもの」を費用から除外しています(法人税法22条3項2号)。
期間対応費用ですので、計上の恣意性を排除し会計報告の客観性確保する趣旨です。債務確定基準といいます。
したがって、資産の評価損(法人税法33条)は、例外を除いて、原則として損金計上できません。
また、費用見越・引当金の損金算入も原則として禁止されます。
なお、最高裁H16.10.29判決では、売上原価の例ですが、費用の見積り計上が、支出の相当程度の確実性、金額の適正な見積りの可能性が認められる事実関係の下では、当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していないときであっても売上原価として損金の額に算入することができると、認められています。
【損失の額で資本等取引以外の取引に係るものについて】
□ 貸倒損失
例として貸倒損失をお話しします。
金銭債権の評価減は原則認められません(法人税法33条)。
したがって、金銭債権の貸倒損失を損金の額に算入するには、その全額が回収不能であることが必要です(一部貸倒処理は認められていないのです)。
かつ、回収不能であることが客観的かつ確実であることが必要とされています
この点で、有名な興銀事件最高裁H16.12.24判決では、住専処理計画に沿った母体行による債権放棄の例で、「当該事業年度の損失の額」として損金に計上できる基準について「債権者側の事情」「経済的環境」等も考慮するべきとしています。
長くなりましたので、今回はここで終わりとさせていただきます。
次回に損金の続きをお話します。
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