広島市の弁護士仲田誠一です。
法人税法のお話の最後です。
同族中小企業は、私法上、会社法等が想定する本来の法人の姿とは異なった実態であるという特殊性があります。
事業承継問題、オーナーの相続、オーナーの離婚が経営継続に影響を及ぼします。会社法ではなく民法の世界ですね。
同族中小企業は税法上も特殊な扱いを受けております。
個人事業とあまり異ならない実態から来る扱いです。
今回は、そのような同族中小企業の特殊性についてお話ししようと思います。
【私法上の特殊性】
まず、前提として私法上の同族中小企業の特殊性です。
会社法の建前は、株式会社は大規模公開会社を想定しています。
所有と経営の分離された会社です。株主がプロの経営者を雇う形ですね。
株主の有限責任(直接金融)が定められています。
また、株主保護の規定、厳格なルールを定めた規定が用意されています。
同族中小企業の実態は、所有と経営の一致です。
経営者である社長が会社の所有者である株主ですね。
有限責任は形骸化されています。社長が連帯保証人となっていますよね。
組織の形骸化し、会社法所定の手続の不履行も多いところです。
同族中小企業は、個人(民法)と会社(会社法)が未分離の状態なので、会社法だけではなく民法でも規律されます。
株主の相続が事業承継問題に直結しますし、離婚も関係してきます。持ち株、事業用財産は、相続の対象ですし、場合によっては財産分与の対象となります。
社長の責任は民法の連帯保証債務で無限化されていますしね。
【税法上の特殊性】
次に、同族中小企業は、税法においても、特殊な扱いがなされています。
税法は、同族中小企業に、
① 家族構成員(役員あるいは従業員として)に所得を分割する傾向
② 利益を内部に留保して法人税より高い所得税率の適用を回避する傾向
③ 所有と経営が結合しているためお手盛りによる取引や経理がされる傾向
があるとみているのです。
経営者が株主のチェックなしに何でも決められますからね。
そのため、租税負担の減少を図る行為に対応するための創設規定が用意されています。
ちなみに、
同族会社には、同族会社(法人税法2条10号等)と特定同族会社(法人税法67条)の2種類があります。
簡単に説明しますと、前者は株主3人及び同族関係者で過半数以上の株式を保有、後者は1人の株主及び同族関係者で過半数を保有とイメージしておいてください。
典型的な同族中小企業は、たいてい両者に当てはまります。逆に、それに当てはまらなければ経営権が盤石ではなく、事業承継にも支障を来すなど、問題が大きいです。
同族中小企業である以上、株式の集中は経営のスピード維持、事業承継対策に必須です。
□ 留保金課税
特定同族会社には、特別税率(留保金課税)があります。利益を会社に貯めると税金がかかるのですね。
どうしてこんな税金がかかるのか不思議な方もいらっしゃるかと思います。
同族会社は利益を内部に留保して株主の所得税を回避する傾向があるため、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るべく、利益の内部留保に対して特別の法人税を課す趣旨です。
□ 同族会社等の行為・計算否認規定
包括的な否認規定があります。
法人税(所得税、相続税、地方税)の負担を「不当に減少させる」結果になると認められる場合に、税負担の公平を維持するため、正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限を税務署長に認めるものです。
これが怖いですね。
その適用は、当該行為計算が、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算と認められるか否を基準として判定されます(経済合理性説)。
・ 当該行為・計算が異常ないし変則的であるか否か
・ その行為・計算を行ったことにつき正当な理由ないし事業目的があったか(租税回避の意図)
ですね。
所得税法157条の例としては、
会社への無利息融資に利息相当額を所得加算
同族会社への不動産管理料過大部分の必要経費否認
同族会社への過少賃貸料部分の差額加算
があります。
例えば、同族会社に対する又貸し方式で過少な賃借料を設定した例で、同族関係ではない不動産管理会社に託した場合の管理料の賃料収入の金額に対する割合と比準する方法によって適正賃貸得額に引き直して課税することが許容されました(最高裁H6.6.21判決)。
法人税法132条の例としては、
役員報酬・退職給与の過大な部分の損金算入を否認
役員出張に同行した家族に支給した旅費を役員賞与
役員への無利息融資につき利息を認定
債務の無償引受けを寄付金ではなく利益処分
資産の高価買入につき時価超部分を贈与
があります。
相続税法64条の例としては、
駐車場経営を目的として法人を設立し、被相続人との間で存続期間60年の地上権を設定したような例で、通常の経済人であれば到底採らない不自然、不合理な取引であるとして、地上権前提の90%控除の評価を認めなかった課税庁の行為が是認された例があります(大阪地裁H12.5.12判決)。
その他同族会社に限られないものとして、法人税法22条、法人税法34条から36条等の規定も同族会社にありがちな行為の実質的な否認規定として利用されます。
このように、同族中小企業は、私法上特殊な存在であるだけではなく(勿論そのため生じる同族中小企業特有のリスクはケアしなければなりません)、税法上も特殊な存在になります。
特に、身内間で取引をする場合には、よくよく税務リスクを考えないといけません。
今回で法人税法のお話を終わりにさせていただきます。
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