広島市の弁護士仲田誠一です。
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。
【詐欺又は強迫(96条)】
詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができます。詐欺強迫により適切な意思決定ができない場合の保護規定ですね。意思表示の瑕疵の場面です。
実務上、詐欺の主張はよく使います。消費者被害の裁判であれば、消費者取消、錯誤、説明義務違反と一緒に主張することが多いです。
強迫は使う場面が限定されますね。大人が自由な意思決定の余地がない状況に置かれていたと立証できるのはなかなか難しいです。要件が緩和された消費者取消権の利用に頼ることが多いでしょう。
変更点は、
①第三者による詐欺の場合、取り消すことができるのが、相手方が悪意に限られていたのを、過失がある場合にも取り消すことができるとしたこと、
②詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者には対抗できないとされていたものが、善意かつ無過失の第三者には対抗できないとしたこと、
です。
いずれも通説に沿った改正です。
①については、詐欺商法の場合のクレジット会社への取消し効果の主張の場面のうち、割賦販売法の適用がさえない場面での活用がなされそうだと言われていますね。
【意思表示の効力発生時期等(97条)】
1項 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
これを到達主義と言います。
旧97条1項では、隔地者間のことについて定めていましたが、一般に到達主義は認められているので、一般的に到達主義を認める規定に変わりました。
到達主義のため、解除通知等の法的効果に直結する意思表示は、基本的には内容証明郵便、場合によっては特定記録郵便で送ります。到達の事実、日時を証明できますから。
2項 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
新設規定です。判例で、到達は相手方が了知可能な状態に置けば足りるとされていましたし。また、受領できるのにしない場合も到達したものと認められていました。
住所に送付すれば基本的には到達は認められますね。内容証明郵便の不在通知があると、放っておいたらいいというわけにはいきません。
【意思表示の受領能力(98条の2)】
意思表示の受領には、意思能力、行為能力が必要です。改正内容自体は表現の調整だけでしょうか。
意思表示をする場合には、相手方が未成年なら親権者に対して、成年被後見人であれば後見人に対してするのが基本です。
未成年者相手の裁判も身分関係の訴訟や相続関係でありますが親権者を被告として訴訟提起します。訴訟の途中で成人するということもありましたね。
【代理行為の瑕疵(101条)】
読みにくい規定です。判例の明文化による改正です。
代理人による意思表示の効力が、心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫によって影響を行ける場合あるいは悪意もしくは過失によって影響を受ける場合には本人ではなく代理人について判断します(1項)。
相手方が代理人に対して行った意思表示の効力が、意思表示受領者の悪意、過失に関わる場合には、本人ではなく代理人について判断します(2項)。
実際に意思表示を行う、あるいは意思表示を受領するのは代理人ですからね。本人が知らんといってもダメなわけですね。
ただし、特定の法律行為を委託された代理人がその行為をしたときは、本人に悪意あるいは過失があれば、本人は代理人が知らなかった、過失がなかったと主張することはできません(3項)。これも当然ですね。
意識する、しないは別として、法的に見ると代理人が本人に代わって交渉等を行っていると捉えられる場面は珍しくないです。実務上、意外に使うことがある条文です。
【代理人の行為能力(102条)】
旧民法102条が、「代理人は行為能力者であることを要しない」と簡単に規定していましたが、その趣旨を明確化した改正です。
改正民法102条1項本文は、制限行為能力者が代理人としてした行為は行為能力の制限によっては取り消すことができないとしています。本人が代理人を選んだのだからリスクを負うべきですからね。
ただし、法定代理人(法律により包括的な代理権が与えられる)場合にはそうではありません。そこで、改正民法102条但し書きでは、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、行為能力の制限によって取り消すことができると例外を定めました。
【代理権の濫用(107条)】
代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
という規定が新設されました。代理権の濫用の規定です。
判例では、代理権濫用の場面では、心裡留保(93条但し書き)の規定を類推適用して、代理行為を無効としていました。代理人の目的と本人の真意の違いが、本人の真意と表示の食い違いに似ているということでしょうか。
上記条文はその明文化です。
ただし心裡留保の効果は無効であるところ、代理権濫用の効果は無権代理の扱いになりました。
後処理は無権代理の問題になります。
【自己契約及び双方代理等(108条)】
自己契約とは、法律行為の一方(契約の一方当事者等)が他方の代理人となることです。
双方代理とは、法律行為の当事者双方(契約当事者双方等)の代理をすることです。
改正前は、自己契約、双方代理は、債務の履行でない場合、あるいは本人があらかじめ許諾しない限り、できないと規定されていました。
改正法は、判例法理を明文化して整理しています。
1項では、自己契約、双方代理行為は、無権代理行為となると定めました。
ただし、債務の履行、本人の事前の許諾ある行為は有効な代理行為となることは変わりません。
2項で、代理人と本人間の利益相反行為についても、無権代理行為になると規定しました。この場合も本人の許諾あれば別です。
ちなみに、利益相反行為かどうかは、行為者の目的・動機は捨象して、外形的・客観的に判断することになっています。
弁護士が自己契約をすることは考えられませんが、双方代理はあり得ますね。
勿論民法上許される範囲で、かつ双方の同意を得て行います。
なお、弁護士は、依頼者間の利益相反行為も業法にて制限があります。
双方の同意があれば受任をすることになりますが、仮に利害相反が顕在化すれば双方とも辞任をします。相続問題の解決の際などにあり得る話です。
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