広島市の弁護士仲田誠一です。
債務整理のうちの自己破産における否認についてお話をします。
否認とは破産管財人が否認対象行為の効力を否定して財産を取り戻すこととイメージしてください。
否認権は破産管財人が行使するものですが、自己破産申立て準備の際には、否認対象行為と見られる行為があるかどうか、あるいは否認対象行為と見られないようにはどのような説明・準備をするべきか、よくよく吟味しなければいけません。
当職も、破産管財人として否認権を行使することはありますし、申立代理人としては否認対象行為と見られないように財産処理や説明を工夫することはよくしていることです。
否認の要件は細かいので、機会があればまた説明しますが、弁護士に自己破産や個人再生を相談する場合には、資産を譲渡、贈与等移転している事実があれば必ず報告してくださいね。
また、親御さんが既にお亡くなりになって遺産分割が済んでいない場合、離婚をしたい場合、資産の整理をしようと思う場合などにも、必ず弁護士の意見を聞いて進めるようにしてください。
否認対象行為になるかどうか判断してもらわないといけません。
個人破産の場合、否認対象行為が疑われる場合には、それ自体で管財事件の扱いになることがある点にも注意してください。
なお、法人破産あるいは経営者の個人破産は管財事件になります。
否認には、狭義の詐害行為の否認と、偏頗行為の否認とがあります。
狭義の詐害行為否認は、その行為による破産財団の減少分取り戻す趣旨の否認です。
破産法160条、161条に規定されています。
①破産者、受益者とも債権者が害することを知ってした行為、②支払停止または破産手続開始の申立て後にした債権者を害する行為(受益者が当該事実を知っていたときに限ります)、③過大な代物弁済、④無償行為、⑤破産法161条規定の要件のもとでの相当な対価を得てした財産の処分行為、です。
偏頗行為の否認は、債権者間の平等を図る趣旨の否認です。
破産法162条に規定されています。
問題となることが多い点をかいつまんでお話していきます。
【経済的危機状態での資産処分行為】
破産直前の財産処分が問題となるのが破産法162条です。
勿論相当対価を得ているということが前提となっています。
財産の隠匿、無償の供与その他債権者を害する処分に該当しないか吟味されます。
破産者の特定関係人が取引相手である場合には、要件の推定規定があり否認しやすくなっています。
不動産、車、機械、事業譲渡、保険名義変更など、法人破産の会社整理の過程でよく出てくる話です。
勿論、個人破産の場合も例外ではありません。様々な相談を受けます。
破産法上問題なしと判断される見込みが相応にある限りで(そういう形で行えるのであれば)協力もさせていただいております。
後の破産手続を考えると、破産直前の財産処分は、弁護士に関与をしてもらって、相当な価格であること、有用の資に充てる目的等合理的な行為であることを弁護士が説明できるように行うべきです。
かつ、処分代金は散逸しないように弁護士が管理し、有用の資(破産申立費用、生活費、医療費、転居費用、学費、公租公課の支払、資産整理費用等)に充てるだけとするのが基本となります。
離婚に伴う財産分与・慰謝料もこの点に絡んでくるでしょうか。
抽象的には、相当な財産分与・慰謝料は否認の対象とはならないと言えるでしょう。
相当な範囲を超えると否認され得ます。
しかし、具体的な進め方も大事です、必ず弁護士に相談して進めてください。
なお、偽装離婚ではないかと必ず疑われます。個人的には経済的破綻を機に離婚をするということは決して不自然ではないと思っていますが。
【贈与等無償行為】
無償行為の否認もよく出てきます。
無償行為は、基本的に債権者を害する行為ですから、
破産者の詐害性を要件としない、
支払停止等の前6か月まで否認の対象が拡大されている、
受益者の悪意を要件としない、
など軽減された要件で認められます。
親族への贈与行為、無償の営業譲渡などが問題となります。
仮にどうしても行う必要がある場合にはそれなりの理由があるはずです。
法的に問題がないと説明できるかどうか弁護士と事前に打ち合わせをして実行しなければなりませんね。
この点では遺産分割協議も問題となりますね。
遺産分割は財産行為ですから、否認の対象となります。
遺産分割が終わらないまま放っておいた事例を何件も扱っております。問題視は確実にされますが、説明の仕方によってはセーフの場合もあります。
必ず弁護士に相談して進めてください。
これに対し、相続放棄は否認の対象とはなりません。
【偏頗行為】
偏頗行為の否認は破産法162条です。
偏頗行為は、不公平な弁済、担保提供行為等です。典型的なものは一部の債権者だけに弁済をする偏頗弁済行為です。
支払不能状態または自己破産申立後の弁済行為等は、否認の対象となります。
支払停止後行為があった場合には要件が緩和され(受任通知が出された後はこれに該当します)、支払不能であったと推定されます(申立前1年以内のものに限ります)。
また、受益者が支払不能等について悪意あることが要件ですが、受益者が一定の関係者である場合には悪意が推定されます。
なお、所有権留保自動車の場合、所有者名義登録の仕方によって債権者に返すと否認対象行為として問題になることがあります。
かといって、財産として計上すると管財事件になるケースもあり、悩ましい問題です。
一方、個人再生では否認というものがありません。
ただし、否認対象行為がある場合、典型的には偏頗弁済がある場合には、その金額を清算価値に計上することになっております。
最低弁済額が大きくなることがありますね。
個人再生委員が選任されてその辺を吟味することもあります。
破産には細かいルールがあります。できるだけ早めに、破産に詳しい弁護士に相談をして準備を進めてください。
債務整理(任意整理、民事再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
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