広島市の弁護士仲田誠一です。
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。
今回は時効の話ですね。時効は馴染みがある言葉だと思います。
刑事で言われる場合は公訴提起時効のことですが、民事で言われる時効は、取得時効と消滅時効です。
【時効の援用(145条)】
時効の援用とは消滅時効、取得時効を主張することですね。援用により権利が消滅あるいは権利を取得します。
改正前では、「当事者」が時効を援用できると規定されていましたが、改正法は、「当事者」のほかに「消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有するものも含む。」と判例法理に従って明確にされました。
【裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新(147条)】
時効の完成猶予について旧条文を整備したものです。
時効の完成猶予は時効の停止と言われていた概念です。時効期間の進行が止まることですね。
裁判上の請求(訴訟等です)、支払督促、和解・調停手続、破産手続・再生手続・会社更生手続参加があれば、それが終了するまで時効期間は経過しません。
確定判決等によって時効期間が延びることなく手続が終わった場合には手続が終わってから6カ月は時効が完成しません。
時効が完成しそうなときは、時効完成を阻むにはとりあえず訴訟を提起する等をしないといけません。
確定判決等によって権利が確定したときは、上記手続が終了した時から新たに時効の進行が始まります。
消滅時効を援用して債務整理する際には、確定判決等の債務名義があるかどうか確認をしないといけませんね。
【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(148条)】
こちらも強制執行等と時効の完成猶予の関係を整理した条文ですね。
強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続中は時効の完成が猶予されます。手続が取り消されて終了した場合には終了から6か月は時効が完成しません。
同手続が終わった時は、その時から新たに時効が進行します。ただし、取消しによって終了した場合にはその効果はありません。
なお、強制執行が空振り、あるいは費用を支弁するほどの物がなく、取下げられたため手続が取り消された場合の時効の進行については争いがあります。
ケースバイケースの判断にならざるを得ないですね。
【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(149条)】
仮差押え、仮処分は改正前では時効中断事由(時効がリセットされる事由)とされていたましたが、終了から6か月間時効が完成しない時効の完成猶予事由に変更となりました。
【催告による時効の完成猶予(150条)】
催告は、裁判外での請求行為、請求書の送付等だとイメージしてください。
規定が整理されました。
催告があった場合には、その時から6ケ月を経過するまで時効は完成しません。
催告によって時効の完成が有訴されている間に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力がないという判例法理も明文化されました。
催告を繰り返して時効の完成を延ばすことはできません。完成猶予中に訴訟等をしなければなりませんね。
【協議を行う旨の合意による時効完成猶予(151条)】
新しい制度ですね。
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効完成が猶予されます。
合意があった時から1年を経過した時
当事者間で定めた協議期間
協議続行拒絶通知の時から6か月
のいずれか早い時までです。
再度の合意もできます。時効完成が生ずるべき時から通算5年までです。
催告による時効完成猶予との併用はできないとされています。
上記合意は電磁的記録によってすることもできます。
このような合意ができる場合には時効が完成しそうだからといって急いで訴訟を提起する必要はないということですね。
【承認による時効の更新(152条)】
規定の整備だけですね。
承認は時効の中断事由でしたが、更新事由と改められました。
承認があったかどうか争われる例も珍しくありません。一部弁済をすれば原則承認になりますが、例外的には承認と見られないケースもあります。
【時効の完成猶予または更新の効力が及ぶ者の範囲(153条)】
改正前148条は時効中断事由は当事者及び承継人の間にのみ効力を有するとしていましたが、時効の更新(中断が更新と変わりました)及び完成猶予にについて同様の規定が整備されました。
【債権等の消滅時効(166条)】
割合大きな改正ですね。
改正前は、消滅時効は権利行使ができるときから10年間、所有権以外の財産権は20年間が時効期間でした。
改正により、債権は、
債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき
または
権利を行使することができるときから10年間行使しないとき
に消滅します。
後者は客観的な権利行使可能時点です。
前者は主観的な権利行使可能時点です。
通常は両者が一致しますね。結局、債権は5年が原則と考えておいた方がいいでしょう。
あわせて、商事消滅時効5年(旧商法522条)が削除され、商事、民事とも統一的な判断がなされることになります。
さらに、改正前170条から174条の短期消滅時効が削除されました。債権の種類によっては、1年から3年という短期消滅時効が定められていたのです。
統一的な規定にしたため、短期消滅時効に該当する債権に該当するか、商事債権に該当するかどうかを考えなくても済みます。
【人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(167条)】
実質的に債権の消滅時効は短くなりました。
そこで、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特則が設けられています。
債権者が権利を行使できることを知った時から10年間行使しないとき
または
権利を行使することができるときから20年間行使しないとき
に消滅します。
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