広島市の弁護士仲田誠一です。
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
まずは、損害賠償の範囲の話です。
【損害賠償の範囲(民法416条)】
債務不履行に基づく損害賠償の範囲の規定です。
損害賠償は通常損害と特別損害に分かれます。
債務不履行によって一般的に生ずる損害を通常損害、特別の事情によって生じた損害は特別損害ですね。
例えば、債務の履行がされないことによって、債権者の転売利益も失った場合、転売利益は特別の事情によって生じた特別損害と言えるでしょう。
旧法では、特別損害は、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときに損害賠償の対象となる旨規定されていました.
新法では、「当事者がその事情を予見すべきであったとき」という表現に改められました。
具体的な当事者の現実の予見あるいは予見可能性という事実問題ではなく、べき論として予見すべきであったかという規範的評価の問題である旨が明記されたと説明されています。
訴訟で争うときは、微妙な問題なのですが、形式上は、新しい条文に沿った主張をすることになります。
【中間利息の控除(民法417条の2)】
新設規定です。
損害賠償額の算定に当たり、将来において取得すべき利益についての損害賠償(逸失利益)、将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定めるにあたっては、中間利息の控除がなされます。
将来の利益を現在に賠償してもらうのですから、あるいは将来の費用を現在に賠償してもらうのですから、将来の利息分は控除するという考え方です。
お金は置いているだけで利息相当額の利益が生まれるという考え方ですね。先に貰うなら利息相当部は控除しないということです。
それが条文上明記されました。
損害賠償請求権が生じた時点の法定利率により中間利息を控除するとされています。
実務上、ライプニッツ係数などを使って計算していた分野です。
なお、法定利率が5%から3%に引き下げになります。
単純に考えて、控除される利息額が減り、その分現在の損害賠償額が高額化します。
【賠償額の予定(民法420条)】
契約により当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます。
所謂、違約金条項ですね。
旧法では第1項に、裁判所はその額を増減することはできない旨、誤解を招く文言がありましたが、改正により削除されました。
違約金条項は公序良俗違反等で無効になり得ますし、一部無効も考えられ実質減額ということもあり得ますからね。
【代償請求権(民法422条の2)】
新設規定です。
債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務者がその債務の目的物の代償である権利または利益を取得した場合には、債権者が当該権利の移転または利益の償還を求めることができるという代償請求権を判例が認めていました。
明文規定がなかったため新設されました。
目的物が滅失した場合の損害保険金が典型例でしょうか。
ここからは債権者代位権の条文の紹介が続きます。
【債権者代位権の要件(民法423条)】
債権者代位権をご存知でしょうか。
債権者が債務者の資力がない等により債務者の財産保全が必要と認められる場合に、債権(被保全債権)を保全するため、債務者に代わって(代位して)、債務者の権利(被代位債権)を行使する制度です。
実務上そんなに使うことはないですが、よく使う代位登記は似たような考え方に基づきます。
改正により次のとおり要件が整理されました。
差押えを禁じられた権利は代位行使できないことが明記されました。債権者があてにする責任財産ではないから当然ですね。
例えば年金受給権です。
強制執行により実現できない債権を被保全債権として債務者の権利を代位行使できないと明記されました。
債権者代位権は強制執行の準備として責任財産を保全する制度という建前なので。
なお、被保全債権が期限未到来の場合の裁判上の代位の制度は廃止されました。
【代位行使の範囲(民法423条の2)】
新設規定です。
判例法理に従い、債権者は被保全債権の範囲でのみ被代位債権を行使できること、すなわち金銭のように被代位権利の目的が可分であるときは、代位債権者は自己の債権の額の限度においてのみ権利を行使できることが明文化されています。
当然ですね。
【債権者への支払又は引渡し(民法423条の3)】
新設規定です。
債権者代位権は、債権回収の観点からは、非常に強い効力のある権利です。
金銭請求権、動産引渡請求権を代位行使した場合、相手方(第三債務者)に対し、自分に対する支払い、引き渡しを請求することができるのです。
確実に債権回収が図れますね。しかも、差押えと異なり他の債権者の介入もありません。
このことは判例で認められていましたが、それを明文化しています。
【相手方の抗弁権(民法423条の4)】
新設規定です。
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる、と規定されました。
これも判例法理の明文化です。
抗弁とは、権利の実現を阻む相殺や同時履行などの主張ですね。
非代位権利の債務者は、債権者代位権の行使によって不利な立場に置かれる謂れはありませんから、当然ですね。
【債務者の取立てその他処分の権限等】
新設規定です。
判例法理と異なる規定という点で珍しいですね。
判例法理では、債権者が債権者代位権を行使し債務者がそれを知った時には債務者は被代位権利の処分権限を失うとしていました。
これに対しては、債権者代位権は債務者が権利を行使しないときに限って認められるべき、債権者は仮差押えや差押等の保全・執行手続により債務者の処分権限を奪うべき等の反対がありました。
新法は、債権者代位権が行使されても債務者は被代位権利について自ら取立てその他の処分をすることができる。相手方も債務者に対して履行することができると規定しています。
これにより債権者代位権の効力が弱まったと思います。
訴訟をしてもその間に債務者が権利を処分すれば無駄になりますね・・・
【被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(民法423条の6)】
新設規定です。
債権者が被代位権利の行使に係る訴えを提起した時は、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない、とされました。
債権者代位訴訟の判決の効力は債務者にも及びます。
難しい言葉で、法定訴訟担当という概念があります。
そうであれば、債務者に債権者代位訴訟手続きに関与する機会を与える必要があります。
そのため、このような規定が新設されました。
【登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権(民法423条の7)】
新設規定です。
弁護士がよく接する場面ですね。
解釈上認められていた登記または登録請求権を保全するための債権者代位権が明文化されました。
今回はここまでです。
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