広島市の弁護士仲田誠一です。
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
詐害行為取消請求の条文が続きます。
かなりの条文が新設されるなど、旧法では簡単だった詐害行為取消請求の条文が判例法理の明文化を中心に整理されています。
【詐害行為取消請求(民法424条)】
従来の詐害行為取消権が整理されました。
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができます。ただし、その行為によって利益を受けた受益者が行為の時に債権者を害することを知っていた時に限ります。
財産隠しや執行逃れ的な行為に対する債権者の対抗措置です。
最近は会社分割や事業譲渡などが対象とされることを見ますね。
破産手続における否認と同じ考え方です。
まず、詐害行為取消請求という名称になっていますね。
また、取消請求の対象が、法律行為から行為に変わっています。法律行為以外の債務承認や法定追認行為などの事実行為も取消しの対象となると考えられるからと説明されています。
さらに、3項で、判例法理に従い、債権者の有する債権(被保全債権)は詐害行為の前の原因に基づいて生じたものでなければならないことを明文化しています。
【相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(民法424条の2)】
新設規定です。
詐害行為取消請求における要件の「債権者を害する」(詐害性)の判断は難しいです。
相当の対価を得てした財産尾処分行為であれば財産がプラスマイナスゼロだから問題がないかというとそうではありません。
不動産をお金に換えると費消・隠匿しやすくなりますよね。
改正法では、判例などに沿って、相当の対価を得てした処分行為が詐害行為取消請求の対象となる要件を定めています。
①財産の種類の変更により隠匿、無償供与その他の詐害行為となる処分をするおそれを現に生じさせること。
②債務者が行為当時隠匿など詐害行為となる処分をする意思を有していたこと。
③受益者が、行為の当時、債務者がそのような意思を有していることを知っていたこと。
の3要件です。
破産法の否認権と同様に詐害行為取消請求の要件を明確化したと説明されています。
倒産危機にある会社のM&Aなど実務に影響がありますかね。
【特定の債権者に対する担保の供与等の特則(民法424条の3)】
新設規定です。
こちらも詐害行為取消請求の要件の明確化ですね。
不公平な弁済行為等を偏頗行為といいます。破産法における否認権の対象にもなりますが、同じように詐害行為になるのですね。
担保供与または債務の消滅行為(弁済など)は、
①債務者の支払不能状態の時に行われたこと
②債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと
が要件となり、詐害行為取消請求の対象となります。
それらの行為が、債務者の義務に属さず、または時期が債務者の義務に属しない場合には(繰り上げ返済などですね)、
①支払不能前30日以内に行われたこと
②債務者と受益者の通謀
という緩和された要件で認められます。
経済的危機状態においては、債権者平等という観点も考慮しないといけません。特定の債権者(仲間内や親族など)に優先的に有利な行為をすると、詐害行為取消請求や否認権の対象となりうるのです。
【過大な代物弁済等の特則(民法424条の4)】
新設規定です。
こちらも詐害行為取消請求の要件の明確化ですね。
代物弁済という言葉をご存知でしょうか。
典型的なものは、金銭債務の弁済として金銭を弁済する代わりに不動産や物を譲渡する行為です。
弁護士も和解の際などで使うことがあります。
債務の額と物の価値がぴったり一致することはなかなかないですね。代物弁済はそれでも有効です。
ただ、過大な代物弁済をすると他の債権者が害しますね。
そこで、詐害行為取消請求の要件に該当する場合は、消滅した債務額を超える部分については詐害行為取消権を請求できると規定しています。
破産法と同様の考え方です。
【転得者に対する詐害行為取消請求(民法424条の5)】
新設規定です。
詐害行為により処分された不動産が転々流通することはありますね。
不動産などはあまり動かないように思いますが、詐害行為のようなケースでは、様々な登場人物が出てきて所有権が転々することも珍しくありません。
転得者に対する詐害行為取消請求の要件を整理しています。
①受益者に対して詐害行為取消請求をすることができること。
②各転得時に転得者(その前に転得したすべての転得者)が債権者を害すべき事実を知っていたこと。
を要件としています。
判例の考え方が一部変更されていますのでご注意を。
要件が厳しくなりました。
ほかにも詐害行為取消請求の条文が続きますが、ごく簡単に済まします。
【財産の返還又は価額の償還の請求(民法424条の6)】
新設規定です。
判例法理に従って詐害行為取消請求の効果が整理されています。
取消しだけではなく財産の返還も請求することができ、返還が困難である場合には価額償還を請求することができます。
【被告及び訴訟告知(民法427条の7)】
新設規定です。
詐害行為取消請求の被告は、受益者または詐害行為取消請求の相手方たる転得者です。
債権者は、訴訟提起したときは、遅滞なく、債務者に対し訴訟告知をしないといけないと規定されました。債権者代位訴訟と同じ趣旨で、債務者の手続き関与の機会を与えるためです。
【詐害行為の取消の範囲(民法424条の8)】
新設規定です。
判例法理を明文化しています。
詐害行為取消請求の対象詐害行為の目的物は可分であるときは自己の債権(被保全債権)の額の限度においてのみ取消しが可能ということですね。
【債権者への支払又は引渡し(民法424条の9)】
新設規定です。
判例法理上、債権者は、受益者または転得者に対し、目的物の返還ないし価格償還請求に際し、自己に対する支払あるいは引渡しを請求することができました。それが明文化された形です。
債務者に対する返還を求められるだけではないのですね。
取消権なのに自己に対する支払い等請求ができる点が債権者取消請求権が債権回収の強力な武器である所以です。
【認容判決の効力が及び者の範囲(民法425条)】
詐害行為取消請求を認容する判決の確定判決の効力は債務者にも及ぶことが明記されました。
【債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利(民法425条の2)】
新設規定です。
詐害行為たる処分行為が取り消された場合、受益者は、債務者に対して反対給付返還請求権があることを明記しています。
民法425条の4にて転得者の場合も同様に規定されています。
【受益者の債権の回復(民法425条の3)】
新設規定です。
詐害行為たる債務消滅行為が取り消された場合、受益者の債権者に対する債権は原状回復する旨が明記されました。
民法425条の4にて転得者の場合も同様に規定されています。
【詐害行為取消権の期間の制限(民法426条)】
詐害行為取消請求は、詐害行為を知った時から2年以内に、かつ詐害行為の時から10年以内に、訴訟提起しなければいけません。
除斥期間・出訴期間とされており、時効と異なり中断事由がありません。
以上が、詐害行為取消請求のお話でした。
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