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給与所得者等再生のお話 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
債務整理のうち、個人再生、それも給与所得者等再生のお話をします。
 
債務整理の手続選択として、自己破産ではなく個人再生を選択したとして、個人再生のうち給与所得者等再生を利用するケースはどのような場合でしょうか。
 
どちらでも利用できるケースであれば(給与所得者等再生の要件を充たすのであれば)、小規模個人再生と給与所得者等再生はどちらを選択してもいいです。
 
選択にあたって、特に考慮する両者の大きな違いが3つあります。
 
1つ目の大きな違いは、再生計画認可に債権者の消極的同意が必要かどうかです。
 
小規模個人再生では債権者(再生債権者といいます。)による再生計画案の決議が必要です。
再生債権者の頭数の半数以上の不同意、債権額(正確には議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されたものとして扱われます。
再生債権者が2社以内、再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、否決のリスクが高まります。
中には、過半数の債権を保有していたら再生計画案に同意をしないと、何を目的としているのかよくわからないような方針をとっていると説明をしてきた金融機関もいます。
仮に再生計画案が否決されると再生計画案が認可されないため、自己破産あるいは給与所得者等再生を申し立てることになります。
認可されなかったために自己破産を申立てし直したという例は経験しています。
 
これに対し、給与所得者等再生では、再生債権者による決議は必要ありません。
裁判所がOKすればいいだけです。
 
そうなると、再生債権者が2社以内、あるいは再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、給与所得者等再生の選択が視野に入りますね。
再生計画に不同意をされて申立てをし直さないといけないリスクを考えて、最初から給与所得者等再生を申立てるということですね。
 
2つ目の大きな違いは、給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも要件が厳しいということです。
給与所得者朗再生では、小規模個人再生よりも要件が加重されていることは勿論、裁判所の見方自体も厳しくなります。
給与所得者等再生は、小規模個人再生と違って、債権者の消極的同意を必要としないため、要件が厳しくなり、裁判所も厳しく見るのです。
 
これと付随する問題として、給与所得者等再生は、その要件該当性の判断のため、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高くなるということがあります。
当職も、給与所得者等再生の要件該当性の判断のため、個人再生委員を拝命したことがあります。
 
給与所得者等再生に加重される要件として、例えば、給与所得者等再生計画認可確定、破産免責許可確定から7年を超えていることという要件があります。
破産後間もない場合は給与所得者等再生が利用できないわけです。
 
また、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入額の変動の幅が小さいと見込まれることという要件があります。
過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動があれば、収入額の変動の幅が大きいとみられてしまい、簡単には手続が進みません。
 
これは小規模個人再生と同様の要件ですが、厳しく見られるものとして、債務者が将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることという要件もあります。
小規模個人再生であれば、契約社員でもアルバイトでも裁判所からあまりとやかく言われません。
これに対し、給与所得者等再生では、職業の安定性がよく吟味されます。
 
3つ目の大きな違いは、最低弁済額の違いです。
 
小規模個人再生では、
・清算価値(財産として把握される価値です。自己破産の自由財産拡張対象相当額は控除できます。)
・再生債権額の5分の1
・100万円
のいずれか大きい金額が最低弁済額となります。
 
これに対し、給与所得者等再生では、可処分所得の2年分の額以上に返済額を設定する必要性が加わります。
可処分所得の計算は、手取収入額-費用額で算出します。
手取収入額の算出の際に収入から控除できるのは、所得税額、住民税額、社会保険料額に限られます。
かつ、費用額は、実費ではなく、再生債務者の収入と年齢、あるいは被扶養者の数と年齢から、政令等により機械的に定まっており、通常は実費よりも低くなります。
その結果、収入が一定額以上ある、あるいは被扶養者が少ない場合には、可処分所得が大きくなり、小規模個人再生よりも弁済額が大きくなってしまうことが多いです。
 
そのため、実務感覚では、小規模個人再生を優先して考えることが多く、給与所得者等再生の申立件数は圧倒的に少ないと思います。
勿論、収入が低い、あるいは被扶養者が多いなどのケースでは、給与所得者等再生を利用しても弁済額は変わりません。
 
小規模個人再生と給与所得者等再生の大きな3つの違いをお話ししました。
結局は、ケースバイケースでどちらかを選ぶということになります。

なお、小規模個人再生における再生債権者の不同意が増えてきたようにも思えます(増えたといってもあまり反対をされることはないのは確かですが)。
今後、債権者の消極的同意が必要のない給与所得者等再生の活用の場面も増えてくるかもしれません。
                   
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
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