広島市の弁護士仲田誠一です。
相続問題のうち相続放棄のお話です。
相続放棄の際に気を付けないといけないことの1つに固定資産税があります。
なぜ気を付けないといけないかというと、他の税金と違った特殊な扱いがなされるからです。
相続放棄をすれば放棄者は相続人でなくなります。
その効果は被相続人の死亡時から、すなわち初めから相続人でなかったことになります。
相続放棄は、相続債務の負担を免れる目的でされることがほとんどですね。
相続債務はもちろん、滞納税金があっても、相続放棄申述受理証明書を提出すれば納税義務を承継していないとして、放棄した人に督促がなされることはありません。
これに対し、固定資産税は、その特殊な扱いにより、相続放棄をしても固定資産税を納めないといけないケースもあるのです。
固定資産税は何が特殊なのでしょうか。
固定資産税の納税義務者は、原則として賦課期日における固定資産の所有者に課税します。
固定資産税は所有者課税の原則ととっています。
賦課期日は、1月1日です。
所有者とは、土地又は家屋については土地登記簿(もしくは補充課税台帳)に登記・登録されている者をいいます。
その原則の例外として、賦課期日前に登記名義人が死亡した場合は、同日において不動産を現に所有している者に課税されます。
相続人が数人いて遺産分割協議がなされるまでは相続人の共有となります。その場合には、賦課期日現在共有の土地家屋として、数人の相続人が連帯納税義務を負うことになります。
共有名義不動産の固定資産税は、共有者全員に連帯納付義務があります。12月31日以前に亡くなった場合には、遺産分割・相続登記が終わっていない限り、その相続人が納税義務者になります。
そうであれば、相続放棄をすれば相続発生時から相続人でなかったことになるので、理屈上、相続放棄をした人には課税されないとなりそうですね。
しかし、固定資産税は、台帳課税主義の原則もとられています。
固定資産課税台帳に登録されたところに基づいて固定資産税を課税する原則です。
固定資産税台帳に放棄した相続人が登録されてしまう場合があるのですね。
相続放棄申述書を提出しても受理されるのには一定の期間がかかります。
12月31日までに相続放棄申述受理がなされないことは珍しくありません。
恐ろしいことに、固定資産税台帳に登録されていれば、相続放棄をしたとしても、納税通知書が届いた人に納税義務があります。台帳課税主義ですね。
台帳課税主義については判例もその有効性を認めています。
課税上の技術的考慮からという理由です。
しかし、課税をする場面では納得できますが、真実の所有者ではない者に課税した場合の事後救済処置を講じていないことには疑問があります。
判例が認めている以上、固定資産税台帳に登録されて納税通知書が来ると、結局は、一旦支払ってから、本来の所有者に対して支払いを求めるほかないです。
求償をするということですね。
しかし、相続放棄をする場合には他の相続人も順次相続放棄をして誰も相続人がいなくなるのが通常ですね。その場合は、相続財産法人(相続財産のことです。)に請求をすることになります。
これは現実的ではありませんね。
このような事態を防ぐ方法があるかというと難しいです。
相続放棄申述受理が1月1日を超える場合には相続放棄の手続中である旨を役所に連絡をすればいいのでしょうか?
しかし、理屈上、相続放棄申述受理がなされていなければまだ相続人であり、やはり台帳に登録されるかもしれません。
今のところ明快な解決策はないようです。
ただ、こういう事態が発生することがあるということを事前にわかっておくことは必要ですね。
なお、相続放棄申述受理証明書を役所に送付し、課税台帳の記載を変更してもらい、翌年度以降の固定資産税については課税されないようにしてもらった経験があります。
相続放棄をなされる際、被相続人所有不動産がある場合には、こういう問題もあることにご注意ください。
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