広島県広島市の弁護士仲田誠一です。当事務所では、破産、民事再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしております。
会社、法人破産は、業種、業態、現在の業況あるいは資金繰りなど、個々のケースに応じたオーダーメイド的な対応が必要となります。段取りが大事なのですね。
会社、法人の自己破産をご検討されている方へ、できるだけ共通項を探った解説をさせていただきます。
目次
法人の破産とは
法人の破産は最後の手段か
法人の破産の選択
弁護士に相談するタイミングなど
法人の破産の流れ
破産に必要な費用の目安・費用の捻出
取引先との関係は
従業員との関係は
準備にあたっての留意点
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
まとめ
法人の自己破産とは
1.自己破産とは
簡単に申し上げると、破産手続は、資産・債務の清算手続です。破産開始決定時の資産を現金化し開始決定時の債権を弁済(配当)していくイメージです。
実際には配当ができずに破産が終了する事件も多いです(「異時廃止事件」と呼ばれます)。
自己破産とは、破産手続開始の申立てを自分(法人・個人)が行う場合です。自己が破産の申立てをするから自己破産なのですね。破産というと僅かな例外を除いてほぼ自己破産に当たります。
他に、数は少ないですが、取締役、理事、業務執行社員あるいは清算人が申立てる「準自己破産」や、債権者が申し立てる「債権者申立て」の破産もあります。
債権者申立ての破産についても破産管財人として携わったことがありますが、広島本庁でも年数件あるかないかでしょうか。
2.法人と個人の自己破産との違い
法人の自己破産と個人(自然人)の自己破産は次のような違いがあります。
◆法人破産には免責手続がありません◆
法人破産の場合には、手続完了により法人格が消滅します。そのため、破産手続が完了すれば債務を負う状態はなくなります。
これに対し、個人(自然人)の破産の場合には、破産をしても人格は残りますから、破産手続(財産負債の清算手続)を経ても清算後残った債務が残った状態になります。そのため、別途借金支払義務を免れるための「免責」手続が用意されています。
◆法人破産では必ず破産管財人が選任されます◆
法人破産では、必ず破産管財人が選任されます。破産管財人が財産の換価、配当等を行っていきます。いわゆる「管財事件」です。予納金が標準100万円と高額になります。破産手続開始決定により会社、法人の財産管理処分権は破産管財人に移行します。
これに対し、個人破産の場合には、破産管財人が選任されない事件(「同時廃止事件」といいます)の方が多いです。広島地方裁判所本庁では、個人破産のうち70パーセント前後が同時廃止事件でしょうか。同裁判所では、免責不許可事由の程度が大きいケース、過去5年以内に経営あるいは事業を行っているケース、明らかにオーバーローンと認められない不動産を所有しているケース、一定額の財産があるケース(預貯金50万円、その他の財産は項目毎に20万円)などに限り破産管財人が選任されます。
なお、法人破産と同時に法人代表者の個人破産を申し立てることが多いですが、代表者は上述の基準によって管財事件になります。
◆自由財産の有無◆
法人破産の場合には、法人の財産は原則すべからく換価されて残りません。法人格がなくなりますから。
一方、個人破産の場合には、自由財産拡張手続を経て裁判所の許可を得れば、一定の財産が手元に残すことができます。破産後の生活が保障される形です。
◆事業の整理◆
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めなければならないことが特徴です。必要書類を揃えればいいだけで準備が済むことが多い個人(自然人)のケースと異なります。
法人の自己破産は最後の手段か
1.事業継続の可能性の見極め
会社・法人の営む事業はそれ自体に社会的価値が存在します。かつ、従業員さん、取引先など多様な利害関係者も存在します。その事業をなくしてしまうのは偲びないことですし、社会的な損失です。
そのため、事業継続に悩まれる経営者の方は、まず金融機関のリスケジュール(条件変更)あるいはM&Aでの事業継続の可能性を見極めるべきでしょう。
例えば、金融債務の返済をストップすれば資金繰りが回るのであれば、リスケ中に経営改善を図ればいいわけです。
企業再生は、企業の収益力が維持あるいは向上されることが前提になります。再生協議会や銀行主導のリスケを経て破産に至った法人の破産管財人をすることもありますが、コストダウンに重点を置きすぎた安易な資産の切り売り、事業縮小は、多くは企業価値を毀損するだけで傷を深くするだけに終わる可能性が高いので慎重にするべきです。
また、企業価値あるいは事業価値がある事業のM&Aによる承継も考えられます。それだけでは負債の抜本的解決にはならないことが多いのですが事業は残りますね。経済的危機状態のM&Aは法的リスクも大きので慎重におこないます。
当職は、銀行で企業再生にも携わりました。事業継続の可能性の見極めからご相談ください。
また、現在は認定経営革新等支援機関でもあります。事業計画策定のお手伝い、リスケジュールのお手伝いもしております。M&Aのサポートも主業務の1つとしております。事業継続、M&Aも含めてご相談ください。
2.法人の自己破産は最後の手段か
会社、法人の自己破産は、上述のような意味では、最終手段といえるかもしれません。しかし、破産はぎりぎりまで引き延ばすべき手段でもありません。余力を全く残さない状態での破産は困難です。
他の選択肢と並行して検討し、早期に決断しなければならない事柄です。その決断も大切な経営判断です。
◆破産費用の捻出◆
破産費用(弁護士費用・予納金)を用意できなくなれば破産もできません。
事業継続を引き延ばした結果として費用が用意できずに、会社の破産を断念された経営者さんもいらっしゃいます。
◆早期の決断も大事な経営判断◆
早期の決断が結果的に迷惑をかける範囲を拡げません。給与の未払いが残らない形での事業廃止ができるタイミングが望ましいです。
また、破産は利害関係者に対する最後のけじめとも言い得ます(夜逃げや休眠状態で放っておかれるよりは破産手続を望まれるのが通常です)。
◆経済的再建◆
経営者様とそのご家族の早期の生活再建も図らなければなりません。
経営者家族の生活を極限まで切り詰め、働き通しで体調を崩すなど苦労を重ねてきた末に弁護士に相談される方も多いです。その責任感には頭の下がる想いですが、「もう少し早くご相談に来ていただければ。」「そこまで思い詰める必要はなかったのではないか。」と思われる事例も多く目にします。
会社、法人の自己破産の選択
1.自己破産を選択するべきケース
金融機関のリスケで対処できるケースであれば自己破産を選択する必要はありません。あるいは、M&Aで事業自体は残す途も検討してよいでしょう。
一次的な資金繰りの悪化を改善するだけで経営が持ち直す余地があるなら、金融機関のリスケジュール(条件変更)により資金繰り手当てができる限りで対応が可能です。金融機関の支援を受ける間に経営改善策の実施により経営が持ち直す見込み、計画が立てられるのであれば、また同様です。利払いのみのリスケをすれば資金繰りがある程度余裕をもって回る、かつリスケ期間中に金融機関への弁済計画が立つまでの経営改善を図る見込みが立ちそうだというケースでは、経営改善策を試すべきでしょう。経営改善計画や資金繰り表などを金融機関に提出し交渉をします。
例えば、設備投資等による債務過多が業績不振の主な原因であり、事業の収益力自体は相応に残っているケースでは、リスケ対応により資金繰りを改善しつつ計画的に債務を削減することで難局を乗り切れるでしょう。
しかしながら、企業の業績不振には多種多様な要因が絡みます。企業努力では如何ともしがたい外在的な要因も大きいです。単純明快かつ解決可能な原因による業績不振で簡単に改善できる、あるいは一時的に資金繰り手当てをすれば簡単に業績が持ち直すと計画が立案できるケースは少ないです。
リスケによる企業再生を図る際には、単なる時間稼ぎになってしまわないのかをよく吟味する必要があります。延命だけでは傷口が深くなる、あるいは拡がることになります。
企業再生あるいは事業再生には、事業自体の収益力がある、あるいは収益力が改善する見込みがある、ということが前提となります。慢性的な赤字体質であり事業継続をしても今後の状況を悪化させる、あるいは現在の厳しい状況が続くだけというケースでは、早い自己破産の決断が必要でしょう。金融債務の返済を一時ストップしても資金繰りが余裕をもって回らないケースでは、慢性的な赤字体質といえます。
経営者に企業再生への気力・体力が残っているかも重要な要素です。当職に相談に来られる経営者の方は経営努力をされた結果として現在に至っているのであり、疲弊されて余力も残っていないという方が多いです。
その責任感は尊敬されるべきです。結果として自己破産を選択しても非難されるものでは決してありません。
2.民事再生との違い
会社、法人がとる法的債務整理手段としては自己破産のほかに民事再生もあります(なお、大企業向けの会社更生という手続もあります)。
民事再生は、債務を大幅に減額した上で、経営者の交替もなく事業を継続できるという大きなメリットがあります。
しかし、仕入先・外注先の協力が必要なこと(あるいは現金決済に耐えうるスポンサーが必要なこと)、事業用資産の担保権者の協力がいること、債務免除益の課税がなされること、及び申立てに多額の費用がかかること、という条件が揃わないと選択できません(事実上必要となる条件も含んでいます)。実際には、民事再生に適合するケースは少ないです。
弁護士に相談するタイミングなど
1.弁護士に相談、依頼するタイミング
弁護士に相談、依頼するタイミングは早いに越したことはありません。
早めに弁護士に相談をし、金融機関へのリスケ要請、自己破産申立て、民事再生申立てなどの手続選択の方針を決定し、それに応じた準備をしていかなければなりません。
自己破産を選択するにも、費用の捻出の問題を始め、破産を前提として事業廃止に向けた準備を段取りを組んで進めることが理想です。
残された時間や、相談時の状況によって、できる準備や選択肢が異なります。
弁護士への依頼も、早期になされることが肝要です。会社・法人の自己破産では、事業整理に向けた段取りを計画的に組んで進める必要があります。段取りが悪いと混乱をいたしますし、破産法上問題となる行為がなされることがあります。準備段階での出来不出来が、後の手続に響くのです。
できるだけ早くから弁護士の指示を受け、あるいは弁護士のナビゲーションによりご準備をされた方が、効率的ですし、ご負担も小さくなります
◆相談時の注意点◆
弁護士への相談時には、少なくとも直近の決算申告書類一式をお持ちください(勿論、3期分程度を拝見した方が検討はしやすいです)。
資金繰表を作成されているのであればそれもお持ちいただいた方がありがたいです(資金繰り予想ができる入出金のメモ程度でもかまいません)。
連帯保証人の方の資産・負債状況もわかればありがたいです。会社、法人と連帯保証人である経営者を一体としての債務整理の方策を考えるべきです。
◆緊急の場合もあります◆
手形・小切手の不渡りが見込まれるなど急を要する場面もございます。
緊急の対応が必要なケースはそれに応じた対応をすることになりますが、1日が惜しいケースもありますのでやはり早めにご相談ください。
2.事業廃止のタイミング
破産手続をスムーズに進めるには事業廃止のタイミングが重要です。事業廃止のタイミングを間違えば、要らぬ混乱を招く、破産手続に移行することができないという事態を招きかねません。弁護士とよく相談の上で決めてください。
事業廃止のタイミングは、買掛金等の支払いをストップすればお金が一番残る時点がベストになることが通常です。破産費用の手当てが必要ですし、残る財産は各債権者に平等に配当されるべきともいえます。
勿論、未払給与はできるだけないようにしたいところです。
事業廃止のタイミングの決定には、資金繰りのほかに、
銀行取引停止処分の時期
従業員解雇あるいは退職のタイミング(解雇予告手当の問題もあります)
資産整理の状況(弁護士関与の下で資産を処分して破産費用を用意することもあります)
も絡んでくる問題です。
事業形態によっては、新規の仕事を取らずに既存の仕事は時間をかけて順次止めていくほかないケースもあります。
ご事情に応じてベストなタイミングでの事業廃止を図ります。
法人の自己破産の流れ
1.会社、法人の自己破産の流れ(申立準備)
会社、法人の自己破産の相談~申立準備までの一般的な流れは次のようにイメージしてください。
①方針・スケジュールの決定
方針と段取りを話し合い、事業廃止のタイミングをターゲットに定め、準備の段取りやスケジュールを立てていきます。
悩む必要はありません。弁護士の指示やサポートを受けて進めるだけです。
②受任通知の発送
弁護士との契約後、事業廃止のタイミングで受任通知を発送することがスタンダードでしょうか。債権者毎に受任通知発送のタイミングを図ることもあります。
受任通知が債権者に届いてからは、債権者対応はすべて弁護士が窓口になります。
勿論、既に取立てが厳しい、あるいは銀行取引停止処分が予定されているなど急を要する場合は早急に発送します。
③申立ての準備・事業の整理
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めます。事業廃止の前後にわたり、例えば、従業員退職・解雇の手続、賃借物件の明渡し及び交渉、売掛金の入金先口座変更等売掛金の回収手立てをする、管理のための事業廃止時点の売掛金リスト・在庫リストの作成、債権者リスト作成、整理のための在庫や新規仕事の圧縮、財産の逸失を防ぐ資産保全、整理のための資産譲渡、継続的契約関係の解消(水道・電気を除く)、リース物件・所有権留保物件の返還、等々の準備をしていただくことになります。資産のうち簡単に現金化できるものは現金化をします(それにより破産費用を捻出することもあります、資産や在庫の処分、代金の管理等は必ず弁護士の関与の下で行ってください。後の破産手続に問題が生じることがあります)。
個々のケースで必要な準備は異なります。段取り、整理の程度、あるいは整理の方法など、すべて弁護士の指示を受けて負担なくご準備ください。その方が後々問題になりませんので弁護士としても安心です。
◆お金の管理◆
事業廃止時の現預金を弁護士に預けていただき、弁護士管理の下でどうしても必要なもののみに支出していくことが多いです。ある程度お手元に管理していただいて出納を記録してもらいながら、そこから事業の整理にかかる費用を支出していただくこともありますね。売掛金や貸付金の回収も弁護士が代理人として進めていきます。資産の処分代金も弁護士が管理します。
破産を見据えて、弁護士がお金を管理し、お金の散逸を防ぎ、適正な管理状況を報告できるようにすることが大事なのです。
④申立て
通常は、2か月~3か月程度の準備期間を経て、自己破産申立てを行います。
資産の整理及び売掛金の回収など段取りを組んだ事業の整理が終わるタイミングも待つことも多いです。
申立て先は、原則として、本店所在地を管轄する地方裁判所です。広島地方裁判所本庁ですと、民事第4部になります。
2.会社、法人の自己破産の流れ(申立て後)
申立て後の一般的な流れは次のようにイメージしてください。
①破産開始決定まで
自己破産を申し立てると、裁判所から追加資料の提出や質問事項の回答を求められることがほとんどです。それを補正連絡と呼びます。
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示がある予納金を納めると、破産手続開始決定が出ます。
法人破産には必ず破産管財人が就任いたしますので、破産管財人候補者も同席する債務者審尋の日に破産開始決定が出ることが多いです。申立後1か月前後先がスタンダードでしょうか。
急を要する場合や債務者審尋が開かれない場合(最近増えています)では、予納金を納めるとすぐに破産開始決定が出ます。
②破産開始決定後~第1回債権者集会
破産開始決定が出ると、2~3か月に1度のペースで債権者集会などの期日が開かれます。代表者の方には、申立代理人弁護士と共に同期日に出席していただきます。
第1回の債権者集会までの間には、破産管財人弁護士の事務所に赴いて面談をする機会が数度設けられます。第1回の債権者集会の後は、破産管財人に呼ばれることはあまりありませんが、在庫や資産の処分などのため引き続き破産管財人から協力を求められることがあります。
③第2回債権者集会~
配当ができるまでの財産が形成されない場合、手続が異時廃止の形で終了します。配当ができる見込みがあるケースでは、債権調査、配当の手続がありますので、その分手続が長引きます。
第1回債権者集会が終わると、破産管財人からの聞き取り調査等はほとんどなくなります。期日に出頭する負担だけになりますので、それほど負担は大きくありません。
◆破産手続にかかる時間◆
一概には申し上げられません。不動産の処分や債権回収その他管財業務にかかる業務量にも依りますし、配当がなされる案件かどうかによっても所要期間が異なります。
資産の処分もない、配当もないケースでは3か月から6か月程度、それらがある場合には1年前後がスタンダードでしょうか。ただ、1年を超えるケースも珍しくはありません。
破産に必要な費用の目安、費用の捻出
1.破産に必要な費用の目安
破産に必要な費用は、弁護士に申立代理を依頼するための弁護士費用、申立時に裁判所へ納める予納金及び予納郵券です。
◆裁判所へ納める予納金◆
裁判所に破産開始決定を出してもらうためには予納金を納めなければいけません。法人破産の場合は原則100万円です。大型管財と呼ばれる大規模な破産の場合にはより多額の予納金を要求されますし、休眠会社や資産の整理が必要のない会社等破産管財人の労力が相対的に少なく見積もられるケースでは交渉次第で減額も可能です。
なお、2社同時に申し立てると単純に倍となるわけではありません。
そのほか、裁判所が債権者等に書類を送る際に使用される予納郵券(債権者数に応じて納付します)がかかりますが、多額ではありません。
◆弁護士費用◆
弁護士を申立て代理人とする場合には、弁護士費用の手当が必要です。費用額は弁護士と相対での契約で決まりますので、定価はありません。費用の面の相談も弁護士相談の大きな目的の1つですので、お気軽にご相談ください(費用の面がご相談の大きな部分を占めているのが実情です)。
110万円(税込み)を確保できればありがたいです。一応の目安であり、必須というわけではありません。事情に応じて話し合いで設定しており、手間がかからないような案件ではより少額の金額設定もありますし、資産が相応にあるケースではより高額の金額設定もあります。
着手時に全額揃っている必要はなく、売掛金回収や資産売却などで捻出することもあります。
◆諸費用◆
多額ではないですが数万程度の諸費用もかかります。
◆余裕のある準備のためには◆
以上を踏まえて、当職は、法人1社の場合、トータル(弁護士と裁判所にかかる費用)で250万円を「目標」に準備していただくようお願いしています。
250万円用意できればある程度余裕をもって準備ができるという意味の目標であり、必須という意味ではありません。
ご依頼時に全額揃っていなければいけないということではありません。費用の手当の可能性を探る、手当の段取りを組むことも相談内容です。
◆代表者個人破産との関係◆
連帯保証人となっている代表者の自己破産も同時に受任するケースがほとんどです。
個人の破産での裁判所の予納金は30万円前後がスタンダードですが、減額交渉ができるケースもあります。
弁護士費用は法人・個人トータルで調整しております。例えば、個人で多くいただける場合は法人の分を減らす、あるいは法人で多くいただける場合には個人はいただかないというようなこともしております。
2.破産費用の捻出をどうするか
破産費用の捻出はほぼ例外なく頭を悩ませる事項です。依頼時によく吟味をして段取りを組みます。
すべてを説明できるわけではありませんので、概要をお話します。
◆口座のお金◆
まずは、事業廃止時点で会社、法人の口座にあるお金が基本ですね。
支払いをストップして一時的に資金が多く残るタイミング(多くはそれが事業廃止のタイミングともなります)で、残った資金を弁護士に預けていただくことが多いです。
その準備として、借入銀行口座から順次資金を移す、あるいは入金先口座を借り入れのない銀行に変更する必要もあるかもしれません。
破産法は、債権者平等原則が理念となっております。支払いをストップさせてお金を移すことは、債権者の平等を期するための資産保全ですので、何ら問題がありません。
なお、取引先は勿論、租税公課や銀行も資金を確保しようとしますので段取りが大切になります。
◆弁護士に依頼した後に資金を捻出するケース◆
弁護士への依頼時に資金が揃っていなければならないわけではありません。売掛金回収、資産売却、金融資産の解約等で用意していただくこともあります。
弁護士関与の下で資産を現金化して破産費用に充てることは許されております。資金を弁護士が管理しつつ、その経過を裁判所にきちんと報告します。弁護士の関与なく資産を現金化して費消することは後に問題を生じさせる恐れがあります。
売掛金は、事業廃止後に、順次、依頼者が引き続きあるいは弁護士が回収し、回収金は弁護士が管理します。売掛金リストを作成していただき管理をしますね。滞納処分により売掛債権が差し押さえられると現金化ができなくなることには注意を要します。
資産を売却・換価することにより、費用の捻出をすることもあります。弁護士との相談時には、早期に換価できる財産がどれくらいあるのかも検討します。
取引先との関係は
1.買掛先への対応
相談者がよく悩まれることですね。仕入先、買掛先も、借入をされている金融機関と同様に、債権者です。弁護士が受任通知を発送した上で対応しますのでご安心ください。
商品引き揚げの要請には応じられないのが基本です。後の破産手続で問題視される可能性もあるためです。在庫の所有権が仕入先にあることが契約書上明確である場合は返還することもあります。
買掛先からの取り付け騒ぎの危険もなくはありません。無断で商品等を引き上げることは厳密に言えば犯罪ですが、そのようなことが起きないよう、事業廃止時には事務所・倉庫や車などのセキュリティーにも気を付けていただきます。
場合によっては弁護士名の張り紙をして牽制をすることもあります。
混乱を避けるために弁護士名の受任通知を事業廃止の当日か翌日に届くように手配することも心掛けています。
2.売掛先への対応
販売先、売掛先は債務者の立場になりますので、事業廃止後も売掛金の回収を行わなければいけません。破産開始決定までに回収できなかった売掛金は、破産管財人が回収を図ります。
事業廃止時の売掛金リストを作成していただき回収します(事業廃止したことを知ると支払いを渋る先も見受けられます)。
借入のある金融機関口座は弁護士の受任通知が届くと口座を凍結してしまい、基本的にその後の入金の引き出しには応じません。入金先を借入のない銀行口座あるいは弁護士口座へ振り込むよう依頼しなければなりません。
小口集金形態のご商売の場合には集金を引き続きお願いして回収するケースもあります。
在庫の処分を並行して行うこともありますね。
従業員との関係は
1.従業員の解雇・退職
残念ながら、事業廃止日が決まれば、従業員の方々を解雇する、あるいは従業員の方々に退職してもらうことになります。解雇には解雇予告手当が必要ない30日間の解雇予告手続をとることが多いでしょうが、ケースバイケースです。
破産申立て準備にどうしても必要となる従業員がいらっしゃる場合(多くは経理担当でしょうか)、給料あるいは相応の費用をお支払いすることで引き続き残っていただくこともございます。
退職あるいは事業廃止に伴う社会保険、特別徴収住民税の異動手続、ハローワークの手続、源泉徴収票の発行等の退職に伴う手続は忘れないでください。
◆事業廃止をいつ従業員に伝えるか◆
事業廃止をいつ従業員さんにお伝えするかは悩ましい問題です。
従業員さんの生活等のことを考えると、できるだけ早くお伝えした方がいいとは思います(小規模会社であれば事情の説明により自主的に退職してもらえるケースも多いです)。
一方、あまりにも早く事業廃止を伝えると業務に支障を来すこともございます。
◆税理士・社会保険労務士
少し話はズレますが、税理士さんの協力が必要な場合もあります。費用との兼ね合いもありますが、事業廃止時点までは数字を作成してもらった方がありがたいです。
また、破産管財人が就任後に税理士に申告を依頼することもあります。
社会保険労務士さんがいらっしゃる場合には、退職手続等でご協力をいただくこともありますね。
2.未払給与等の扱い
賃金の未払いはないようにしたいと思われるのが経営者の常です。労働基準法上罰則も定められています。
未払給与がない形で事業廃止できることが理想形ですが、支払えないケースがあるのも当然です。
◆破産手続における労働債権の扱い◆
労働債権は、破産手続開始決定前3か月間の未払給与と退職金の一部が財団債権として一般の債権者より優先して支払えることができます。
ただ、時間がかかりますし、支払えるだけの財産が破産手続の中で残るかどうかわかりません。また、事業廃止後できるだけ早く破産申立てをしなければいけませんね。
◆労働福祉事業団立替制度◆
そのため、労働福祉事業団立替制度の利用も考える必要があり、事業廃業時には従業員さんへの同制度の説明をするでしょう。
破産管財人の証明書の発行により未払い給与の8割が立替払いされますが、時間の制約があります。大まかに申し上げると、退職、解雇から6か月以内に破産申立てをしなければ対象になりませんので早期の破産申立てが必要になります(なお、破産手続外の認定制度もあります)。
賃金台帳、タイムカード、就業規則等、未払給与を確認できる資料も破産管財人に引継ぐことになります。
◆役員報酬の扱い◆
未払いの役員報酬は(従業員兼務役員のケースでは従業員分給料と認められ得る限りで別ですが)、一般の破産債権となります。経営者家族であっても従業員の立場のケースでは一般の従業員の給与と同じ扱いです。
◆中退金がある場合◆
退職金制度が中退共の場合は、請求手続をしていただければ(開始決定後は破産管財人が協力しますが)、従業員さんが受け取ることができます。
準備にあったっての留意点
1.やるべきことの整理をするべき
破産を準備するといっても、経験がある方ではない限り、何にどの順番で手を付けていいかわからず途方にくれるものと思います。
また、破産をするためには事業の清算が必要ですが、どこまで清算すべきか事情により異なります。場当たり的な準備は、疲弊しますし、効率も悪く、中には後で問題となる行為をしてしまうこともあります。弁護士のサポートを受けて整理をしてください。
◆やるべきことの整理◆
準備の仕方や優先順位には勘所があります。様々な問題点や課題を整理してシンプルに段取りを組むのが弁護士の腕の見せ所です。
最低限必要なこと、できればやっておきたいこと、放っておいても仕方がないこと等々、やるべきことの整理をします。そうすれば全体像がつかめますし、優先順位も決めることができ、悩まずに準備ができます。
当職は、優先順位をつけたリストを作成し、それをチェックしながら打ち合わせを重ねています。
◆要望や問題点は早めに弁護士に伝える◆
なお、準備にあたって、様々なご要望もあることと思います。また、説明が難しい、準備が難しい等の問題点もあることが多いです。弁護士へは、早めにそれら要望や問題点を伝えてください。
破産法上問題がない形で、可能な限り、ご要望等を形にするよう心掛けています。問題点への退職も準備しなければいけません。遅くなるとそれだけ手当ができなくなる可能性が高くなります。
2.やってはいけないこともある
破産手続をスムーズに進行させるため、あるいは問題視されないためには、準備にあたってやってはいけないこともあります。
◆書類の廃棄は慎重に◆
事業を廃止したからといっても、すべての書類の廃棄をするのは止めてください。破産手続の中で提出しなければならない書類も多々あります。
◆否認対象行為◆
否認対象行為を行ってはいけません。否認とは、破産管財人がその行為の効力を否定し財産等を取り戻す制度ですが、破産管財人が否認できる行為、その要件は破産法で定められています。主要なものだけ簡単に説明させていただきます。
偏頗弁済は否認の対象です。偏頗弁済とは支払停止状態等の経済的危機状態での不公平な債務の弁済です。問題となるのは、経営者家族、親族に対する弁済が多いです。弁済の相手、時期、債務の内容等によって判断が異なります。
事業廃止のタイミングも含め、支払っていいもの、いけないもの振り分けを弁護士と相談してください。
財産の散逸行為も否認の対象です。会社の資産の廉価売買、放棄など、財産を減少させる行為にお気を付けください。中には合理的な説明が可能なものもありますので、実行に移す前に弁護士に判断をしてもらってください。
◆法人と個人の財産の混同◆
破産手続は法人格毎の手続です。法人と個人とは明確に区別されます。会社、法人の資産と個人との間の混同を避けてください。特に会社、法人から個人への財産移転は慎重にしなければなりません。
この点で、経営者家族の役員報酬、給与も問題になり得ます。事業廃止までの役員報酬、給与は、支払う原資があるのであれば支払って問題はないでしょうが、その他は弁護士と相談してください。
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
1.破産申立代理を弁護士に依頼する意味
会社、法人の破産の申立てには、代理人弁護士を依頼することが通常です。会社、法人の破産は複雑であり、弁護士の助けがなければ難しいです。
◆地図を作りナビゲーションを行う◆
ご相談者は初めは何をどのようにすればいいかわかりません。弁護士に複雑な状況を法的かつシンプルに整理してもらい(地図を作ってもらい)、弁護士の助言(ナビゲーション)に従って、効率的なご準備をしてください。
暗中模索の中で今後のことを悩まれるのは大変な心労です、「何もわからなかった頃が一番辛かった。依頼してよかった。」とおっしゃる方が多いです。
◆債権者対応を弁護士に任せる◆
取引先や金融機関への支払を停止すると、程度の差はあれ混乱が生じます。債権者の対応を弁護士に任せられることは安心です。
◆申立後のサポート◆
破産手続が開始されてからは破産管財人が破産手続を主宰しますが、申立代理人弁護士も破産手続の最後までサポートをします。ご安心ください。
2.倒産弁護士
◆申立代理人の腕が手続の帰趨を決める◆
申立代理人弁護士の腕が、破産申立ての準備のご苦労の程度や申立て後の手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると、申立て後に苦労を強いられかねませんし、行為が問題視されることもあります。
当職が破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
◆倒産案件の弁護士業務は職人芸◆
破産手続は、破産法に則っています。当然、破産の準備には、破産法の知識・倒産事件の経験が必要です。かつ、破産手続には、独特のルールや考え方があり、それに携わる弁護士も職人的な能力が必要とされます。場数も必要でしょう。
破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。特に法人破産の破産管財人の経験が豊富でなければ手続の勘所がわかりません。その時々の破産裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、それらもキャッチアップしなければなりません。
破産等倒産手続に精通した弁護士のサポートを得てください。
◆企業会計の知識◆
会社・法人破産の申立ては、資金繰り、事業廃止・受任通知のタイミング、資産・契約関係の整理など様々な段取りを考えないといけませんね。そのため、企業会計に関する諸知識も必要です。
まずは決算申告書類等の会計書類を拝見して事案の見立てを行い、個々の問題を紐解いていきます。
◆倒産弁護士、破産弁護士◆
倒産法制に精通し、申立て代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を「倒産弁護士」、「破産弁護士」と呼ぶことがあります。「離婚弁護士」なんてドラマもありましたね。
会社、法人の破産の申立てを依頼するのであれば、当然、そのような弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士の質を確かめるには、相談する弁護士に細かいことでもたくさん具体的な質問を投げかけてください。あなたの望む弁護士であれば、抽象的な回答にとどまらず、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
なお、当職も、申立て代理は勿論、破産管財人経験も豊富で、破産等の倒産案件を業務の柱の1つとしています。裁判所との破産等に関する協議会のメンバーにもなっております。また、銀行出身であり、企業会計の諸知識も豊富です。安心してご相談いただけるものと自負しております。
まとめ
1.会社、法人の自己破産の決断にあたって
自己破産の説明や自己破産を選択すべきケースなどの説明をさせていただきました。
社会的価値のある事業はできるだけ継続するべきですので、リスケやM&Aにより事業継続を図ることが優先されるでしょう。
しかし、会社、法人の自己破産は最後の手段ではありません。事業継続の可能性を見極め、自己破産の決断を早期に行うことも大事な経営判断です。
弁護士に相談するタイミングの説明もさせていただきました。できるだけ早く弁護士に相談し、事業継続の可能性を見極め、事業継続の可能性に沿った適切な選択をしてください。
費用面も説明させていただいたとおり、弁護士と相談すればいいことです。
経営者に必要なのは、適切な助言を得ることと決断することです。当事務所にぜひご相談ください。
2.会社、法人の自己破産の準備にあたって
自己破産の流れ、取引先や従業員との関係あるいは破産準備の注意点等をお話しいたしました。
会社、法人の自己破産は、様々な課題を抱えており、それを整理して1つ1つ紐解いていかなければいけません。
海図と羅針盤なくして進んではいけません。準備の内容や程度はケースバイケースで異なり、やってはいけないことも存在します。倒産弁護士とともに、事業廃止のタイミングを見極め、やるべきことを整理した上で、ナビゲーションに沿った準備を進めてください。効率的な、かつ適切な準備が後の破産手続のスムーズな進行に直結します。
当事務所にご相談いただければ幸いです。
この記事を書いた人
弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月 あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、認定経営革新等支援機関(中小企業庁)