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筆界未定地の解決【不動産問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
今回のコラムは、不動産問題コラムとして、筆界未定地あるいは筆界未定区域の解説をさせていただきます。筆界未定区域で地図が作成されていないケースでは売買や銀行への担保差し入れに支障があります。
境界を画定して地図を作成したいという相談をうけ、訴訟にて解決したこともあります。その経験も踏まえた解説をさせていただきます。

目次

筆界未定地
法務局備付地図
筆界未定地の問題点
筆界未定地の解決策
訴訟による解決の流れ
解決の準備
費用
まとめ

筆界未定地

1.筆界未定地とは

筆界未定地(筆界未定区域)は、地籍調査の結果、土地の筆界(境界のことです)を確認できずに筆界未定地として処理された土地(地域)です。
地積調査では筆界確認調査も行うことになっておりますが、地積調査の結果として筆界が確定できない場合、その区域を筆界未定地としておき、地図作成を完了させるのです。
法務局地図作成事業にて地図の整備がなされる中で筆界未定処理がなされることもあります。

1つの土地について境界が筆界未定あるいは所在不明となると隣地土地全てが筆界未定地となってしまいます。

筆界未定地以外では1つの土地ごとに境界線が入っており、各1筆に1つの地番が記載されています。
これに対し、筆界未定地では、個々の土地に境界線が引かれず、筆界未定地が一体として一区画のように記載されます(地図を見ると筆界未定地だけが白く浮かんだように見えます)。そして、一体の筆界未定地には、地番表示として(〇〇+〇〇+・・・・)と筆界未定地内の土地地番が連記さます。地図上で当該土地の所在が確認できない状態になっているのです。

2.筆界未定地の発生原因

筆界未定地作出の発生原因は次のとおりといわれています。要するに、調査時に筆界(境界)を確認できなかった理由ですね。
①調査時に境界について紛争があった
②調査時に土地所有者の立会いがなかった
③調査時に所在が不明の土地(地番)が存在した
などが原因といわれています。

法務局備え付けの地図

1.法第14条地図とは

不動産登記法第14条により、登記所には地図を備え付けるものとされています。
一般に法務局に備え付けられている地図を公図と呼びますが、その中には、法第14条地図と地図に準じる図面があります。

昭和35年の不動産登記法改正に伴い法第14条地図の制度が設けられてから、作成されて備え付けられた地図が、法第14条地図です。
法務局作成の地図、国土調査の成果による地積図等、筆界確認、測量に基づいて作成されていますので、基本的には正確な地図です。

2.地図に準ずる図面

一般に法務局に備えられている地図(一般にいわれる公図)のうち、法14条地図以外の、地図に準ずる図面を特に公図と呼びます。

法第14条地図の制度が創設されましたが、地図作成事業は簡単ではなく費用と時間もかかるため、なかなか日本全土で地図を作成するまで至りません。そこで、法務局がそれまで保管していた法第14条地図以外の地図を、法第14条地図が備え付けられるまでの間、地図に準ずる図面として備え付けられることにしたのです。
地図に準ずる図面は、古く、かつ土地台帳付属地図等税金を算定するための資料であることが多いので、あまり正確ではないといわれています(団子図であったり、実測よりも狭くなっているなど)。
いい加減な公図を是正しないままに造成や売買を繰り返した結果、公図と現況が一致しない公図混乱地域、地図混乱地域も多く出現しています。登記上の地番が現地で対応しない、同じ地番の重複登記があり関係がわからない、そもそも地権者がわからない等の問題が生じています。
公図は境界確定の有力な資料ですので、その公図がいいかげんであると、境界確認、地図作成は大変です。

法務局による14条地図作成事業や国土調査法に基づく地籍調査等により是正がなされつつありますが、まだまだ時間がかかるようです。
法第14条地図の有無は不動産の資産価値にも影響しますので、早く是正がなされることを願います。

筆界未定地の問題点

1.手続上の問題点

筆界と所有権は直接の関係がありません。筆界未定であっても所有権は認められます(ただし、所有権を訴訟で確認する必要がある場合があります)。

筆界未定地では手続上、直接に困ることがあります。
原則として、
①分筆・合筆登記ができない、
②地積更正登記ができない、
③地目変更登記ができない、
ということになっています。

2.事実上の問題点

筆界未定地でより深刻な問題となるのは、事実上の問題です。

①売買することが非常に困難
不動産は、現況と登記簿・地図を照合して物件を特定し売買します。地図が作成されていない土地を購入するのは躊躇しますし、転売や造成の際にもこまりますね。
仮に売買ができても、筆界未定地のままでは価格が安くなるでしょう。
現在は筆界未定地でよくても、将来の売買あるいは将来の相続への備えとして、早めに解決した方がいいです。

②不動産に担保をつけて銀行借入をすることが非常に困難
筆界未定地のままであると、銀行から不動産を担保にローンを借りることが事実上できません。銀行が担保として受け入れないのです。
将来建て直しが必要になるかもしれませんし、大きなリフォームをする必要が出てくるかもしれません。早めに地図を作成しておいた方が安心ですね。

筆界未定地の解決

1.当事者による確認

法務局や国に相談しても、筆界未定地の問題を個別に解決してくれることはありません。残念ながら当事者が解決を図る必要があります。

隣地所有者の間で境界を確認し(境界標設置)、測量図を作成した上で、法務居に対して地図訂正をお願いする方法があります(地積更正登記も絡むことがあります)。
隣地所有者全員の立会い、実測図等への実印の押印と印鑑証明書の提出が必要です。なかなか大変かもしれません。測量と合わせて土地家屋調査士に依頼することが現実的ですね。

ただし、何かしら問題があって筆界未定地となっているのですから、協力を得られない隣地所有者がいることも想定できます。1人でも協力を得られなければ当事者による確認による方法はとれません。
また、筆界未定地に所在不明な不動産があるようなケースでは、隣地所有者間での確認だけで地図訂正を実現することは難しいかもしれません。

2.訴訟による解決

筆界未定区域の解決には訴訟提起による方法をとることも多いでしょう。
境界確定請求訴訟を提起し、確定した判決を利用して、地図の訂正を法務局に依頼します。

訴訟提起による解決のメリットとして、
①隣地所有者全員の合意や印鑑等を取り付けるなどの手間をかける必要がない、
②協力を得られない隣地所有者が存在しても地図が作成できる、
ということが挙げられます。

また、判決は裁判所の公権的判断です。
③筆界未定地内に所在不明な土地が存在するような難しいケースでも地図訂正に応じてもらえる、
という点もメリットになります。
当職が訴訟による解決をお手伝いしたケースも、土地家屋調査士さんが法務局に訴訟での解決を事実上要請された案件でした。

訴訟による解決の流れ

1.一般的な流れ

訴訟による解決の一般的な流れは次のようなものでしょうか。
①土地家屋調査士による調査
②弁護士への訴訟依頼
③被告となる隣地所有者へのお手紙
④訴訟提起
⑤判決
⑥被告となった隣地所有者へのお手紙
⑦土地家屋調査士による地図訂正依頼

2.流れの説明等

①、土地家屋調査士さんの調査は必須です。後述いたします。

②、訴訟の準備には一定の期間が必要です。訴訟提起から判決をもらうまでの期間も4~10カ月程度かかるのがスタンダードです。お早めにご相談、ご依頼ください。

③⑥、現実の占有状態を変えるわけではないのでしたら隣地所有者さんも積極的な異議がないことが通常です、しかし、いきなり訴状が届いたらびっくりされますし、紛争を起こしかねません。
そこで、事前に事情を説明し、協力をお願いするお手紙を出させていただき、質問等がある隣地所有者さんから問い合わせも弁護士が対応します。多くの方はご理解いただき、スムーズに判決を得られています。
また、判決を得た際、形式上、訴訟費用の負担を被告とする旨の条項が主文の載ってしまいますので、判決を得た場合も異議がないのに控訴をしてしまわないように丁寧に結果を報告する手紙を送ることが多いでしょう。

④、すべての隣地所有者さんを被告として訴訟を提起しなければなりません。皆さんに訴状を送達しないといけませんが、住所が変わっていたり、相続登記がなされていない等のために訴状が届かないこともあります。現在の所有者や所在地を確認する作業が必要となることも多いです。
また、境界確定請求訴訟には、確認の利益が必要です。通常は境界の紛争があるケースで認められますが、筆界未定地は争いが顕在化していない点が特殊です。説明をして裁判所に確認の利益を認めてもらいます。

⑤、仮に被告の皆さんが答弁書を出さないで期日に出頭されなければ、1回の期日で結審して判決を得ることができます。
答弁書を出される、あるいは期日に出頭される被告がいるケースでは、何度か期日を重ねて主張立証をしていかなければならないケースもあります。
判決が出て被告のみなさんに送達され、控訴されることなく確定すればあとは地図の訂正手続のみが残ります。

訴訟提起から判決確定までかかる機関は、4か月~10カ月でしょうか。訴訟提起はできるだけ早くされた方がいいです。

解決の準備

1.土地家屋調査士の協力

訴訟によって筆界未定地を解決する場合であっても、土地家屋調査士さんの協力は必須です。
地図訂正の申出、それに伴う測量をお願いしないといけないのは当然です。

訴訟の基礎資料、証拠の収集、作成等もお願いしないといけません。
専門的な分野の訴訟は、例えば医療訴訟、建築訴訟などでは、医師あるいは建築士の協力を得て訴訟を進めることが多いですが(法律構成、法的な解釈、訴訟遂行は弁護士で行いますが、それらの基礎資料は専門家の助けが必要です)、この分野も同じです。

主に次のようなご協力を得ます。
①訴状、判決の基となる地積測量図の作成
②現況説明図も作成していただくこともあります
③法務局との事前打ち合わせ
課題を示唆してもらえれば効率的に進みますからね。
その一環として、地図作成作業の「成果簿」の閲覧をさせていただくことがあります(写真を撮るしかありません)。作成作業の結果がまとめられたもので、地図作成作業での境界確認はどこまで進んだのか、筆界未定地として処理された理由はどこにあるのか等の有益な情報が記載されています。地番はあるが存在しない土地があったケースでは、成果簿に検討過程を記した文書があり、その原因を突き止める助けになりました。

2.その他

地図作成事業に関連する法務局等からの手紙に、筆界未定地となった理由などが記載されていることがありますので、保管されていたら証拠として出します。
不動産を取得した際の契約書類も一つの手がかりとなります。
航空写真の利用によって、現地の状況が長期間にわたり継続していることを説明することもありあす。

費用

1.費用

弁護士費用は着手金と報酬ですね。
対象不動産の価値によっても、筆界未定となっている理由によっても、異なりますので、事案に応じて設定させていただいております。境界確定請求訴訟では経済的利益の〇%という単純な計算もできません。
費用面も含めてご相談ください。

経験からは、着手金・報酬金を合わせて、55万円(消費税込)~110万円(消費税込)の範囲で決めることが多いでしょうか。

別途実費が必要になります。訴状印紙代、予納郵券のほか、登記簿を始め様々な資料を取得しなければいけません。

勿論、土地家屋調査士さんの費用もかかりますね。

2.費用の考え方

売買や建替え等で急いで筆界未定地問題を解決しないといけないケースはもちろん、そうでなくとも筆界未定地であること自体で不動産の交換価値はかなり下がっています(実際に売買をすることが難しいので)。
本来あるべき不動産の価値を回復することを考えれば、相応のコストをかけて筆界未定地問題を解決する方がいいでしょう。

まとめ

1.筆界未定地

筆界未定地(区域)は、地図作成事業の中で発生した問題でした。地図に境界が引かれず、場所と形状を特定することができません。分筆・合併登記ができないという手続上の問題だけではなく、事実上売買や銀行ローンの担保にできないなどの支障があり、不動産の価値が大きく減殺することになります。

2.筆界未定地の解決

当事者が解決をする必要があります。不動産のあるべき価値を回復するためのコストとして専門家のサポートを得て早期に解決してください。
土地家屋調査士さんのサポートを得て解決できるケースもありますが、解決できないあるいは手間がかかりすぎるケースもあります。
そこで、今回は境界確定請求訴訟の提起による解決をご案内しました。訴訟により一挙に解決を図ることができます。特殊な訴訟でありいろいろと気を使わないといけないこともありますので、訴訟による解決を図る際には頼れる弁護士をお探しください。
ぜひ当事務所にご相談ください。経験を踏まえて適切なアドバイスをさせていただきます。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)

https://www.nakata-law.com/

https://www.nakata-law.com/smart/


◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録(なかた法律事務所)
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、宅建主任者試験合格等

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