広島市の弁護士、仲田誠一による企業法務コラムです。
今回は、中小企業の株式対策として、株式の分散、株式の集中、株価対策、議決権の集中、自己資本比率など、中小企業に必須な株式対策のエッセンスを解説します。個々の問題の詳しい解説は改めてさせていただきます。
目次
株式の分散
株式の集中
株価
議決権の集中
自己資本比率
まとめ
株式の分散
1.株式の分散とは
オーナーが自社株式の100%を保有しておらず、他の親族、役員、従業員、共同経営者らも株式を保有している状態を、株式の分散と呼びます。
過去には、株式会社の設立時の発起人が7名必要だった時代がありました。また、中小企業でも従業員に株式を持たせることが奨励された時代もありました。
また、民法の原則は分割相続です。オーナーが100%保有していたとしても、相続により各相続人に分割承継されることがあります。
そのため、株式が分散している会社は少なくありません。
2.株式の分散の弊害
株式の分散は、上場あるいは株式公開をしていない中小企業にとって、特別にそれを必要とする事情がない限り、百害あって一利なしです。
特別なケースとは、外部資本からベンチャー投資などを受け入れるなど、どうしても経営者以外が株式を保有する必要がある場合ですね。
この点は見解が統一されつつあります。株式の分散は、株主総会等のコストが増える、経営のスピードを阻害する、M&Aや事業承継の障害になるなど、経営の足かせになるからです。
株式の分散は、中小企業の強みである機動力・スピードに反するのですね。
そもそも、会社の所有者は株主です。オーナー企業であればその実態に合わせてオーナーが100%保有するべきでしょう。
株式の集中
1.株式の集中
上述のように、株式の分散はよくないということで見解が一致しつつあります。
株式が分散している会社は、現オーナーあるいは後継者に株式を集めます。これを、株式の集中あるいは集約といいます。
最近は、株式の集中に関する提案が、金融機関やコンサルタント会社から事業承継対策としてなされることが当たり前になってきました。ただし、株式の集中は法律問題です。弁護士にきちんと相談してから進めてください。
2.株式集中の方法
株式の買取りが一番穏当な手段です。
なお、他人名義の株式が名義株であるときは、別途名義株の解消をします。
株式を強制的に集約する法制度も整備されつつあるところです。
事業承継問題への対策の一つとも位置付けられますでしょうか。
強制的な集約手段として特別支配株主の株式買取請求制度ができました。
以前からあった株式併合の手段を活用した少数株主排除の手段もとりやすくなっております。
株価
1.株式の集中と株価
株式の集約をするにあたって一番困るのは株価が高いケースです。株価が高いケースとしては、長年、適切な役員報酬をとらず会社に利益をプールした結果であることが多いですね。
株価が高いと、株式の集約にかかるコストが跳ね上がります。税務上問題のない形での売買、株式買取請求、株式併合等のコストは株価次第ですからね。
2.株価の引下げ
M&Aで株式を売却する場面は別として、株価が高いことには何らのメリットもありません。むしろ弊害が多いといえます。
事業承継が絡むケースであれば、役員退職金が即効性のある株価引き下げ策として利用できます。
ただ、経営権が移譲できないケースでは使えません。
ある程度の所得税を払っても中長期的な報酬戦略をとって、会社から個人(オーナーあるいは後継者)への資産移転を進めなければなりません。
議決権の集中
1.議決権の集中
株価が高すぎるケースなど、どうしても株式の集中ができない事情があることもあります。
その場合には、次善の策として、議決権の集中を図ります。
オーナーあるいは後継者の保有する株式に議決権を集めるのです。
株式の集中ができなくとも、議決権を集中することで、経営のスピード・機動力の確保、円滑な事業承継には耐えられます。
2.議決権の集中の例
議決権の集中は、種類株式あるいは属人株式を活用します。
種類株式の活用とは文字どおり種類の違う株式を発行することです。
経営者以外の株主の株式を議決権なし優先配当の種類株式とするケースがイメージされやすいでしょうか。
属人株式は株主によって株式の取扱いを変えることです。{C}{C}{C}
代表取締役の保有する株式の議決権を100倍にすると株主総会の開催も決議も簡単になりまね。
勿論、種類株式、属人株式の導入は高いハードルがあり、かつ法的なリスクも伴います。弁護士に相談の上で進めてください。
自己資本比率
1.自己資本比率とは
法律論とは少し離れます。
自己資本比率は、自己資本/総資産(%)で表されます。
自己資本比率が高いほど、自己資金が豊富ということなので、経営の安全性が高いといわれます。
自己資本比率は、ひと昔前の銀行の与信審査では大きなウェイトを占めました。
株価が高いということは、基本的に利益を内部留保し自己資本比率も高くなるということになります。
2.自己資本比率は高いほどいいのか
大企業は別として、少なくとも中小企業に限っては、自己資本比率が高ければ高いほどいいとはいえません。もちろん、自己資本比率が低すぎると危険ですよ!
営業活動をすれば、資産(売掛金等)あるいは負債(買掛金等)が膨れ、自己資本/総資産で表される自己資本比率は低くなります。
また、会社の信用を生かして銀行から借り入れて商売の幅を拡げる、あるいは資金の回転を多くして利益を増やそうとすると、当然に自己資本比率が低くなります。
中小企業は、銀行からお金を借りて(間接金融により)調達した資金を運用して、利益を拡大させるものです。すなわち、儲けようとすれば自己資本比率は下がるはずです。自己資本比率が過度に高い中小企業には成長性がありませんし、経営効率が悪いことになります。
まとめ
1.今回お話したこと
株式の分散は望ましい状態ではありませんでした。株式の集中を図る必要があり、そのための法制度も整備されつつありました。高すぎる株価の弊害は多くありました。株式の集中の障害にもなります。即効性のある役員退職金や継続的な報酬戦略が求められました。株式の集中が困難な場合には議決権の集中を考えることができます。なお、自己資本比率は高いほどいいわけではありませんでした。
株主は会社の所有者です。したがって、株式対策は経営の基本となります。
株式対策を決して先送りにしないでください。
2.企業法務に詳しい弁護士に相談を
株式の集約などの株式対策は、すぐれて法律問題です。法的なリスクを伴い場面が多いですし、スキーム作りには税法の問題意識も必要とします。必ず、企業法務に精通した弁護士にご相談の上で進めてください。
弁護士仲田は、企業法務に精通しているのは勿論、税法の専門知識も併せ持っております。M&Aや事業承継案件での株式対策サポートの経験も豊富です。ぜひご相談ください。
この記事を書いた人
弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)