広島市の弁護士仲田誠一です。
経営者などの個人が会社に対する債権について会社に債務免除を行うことはよくあります。
決算書の見栄えをよくするため、あるいはM&Aの下準備として、個人の会社に対する貸付を放棄することはよく見ますね。
債務免除益も原則として課税の対象となることは争いがありません。
数千万もの会社に対する貸付金を免除すると同額の益金が会社に発生します。
繰越欠損が潤沢にあり課税がなされない、あるいは高額な税金がかからない場面に限って考えることでしょう。
その逆、会社から個人に債務免除を行うことはあまりないかもしれません。
ただ、法人から経営者の離婚、相続対策の前提で行うことなど、いろいろな場面で考えることができると思います。
その場合に債務免除益を受けた個人の税金は所得税ですね。
所得税には、法人税と異なり、所得区分という問題があります。
所得税課税がありますよという注意だけではなく、所得の種類を考える必要があるのです。
法人から個人が受けた贈与は、一般的には、一時所得か、個人が役員・従業員の場合には給与所得になる、というイメージなのではないでしょうか。
私も、広島大学のロースクールにて(租税法を教えています)、法人からの贈与は一時所得か給与所得だよ、と教えています。
ちなみに贈与税は、個人から個人への贈与の場面での課税です。
法人から個人に対する債務免除について、債務免除益の所得区分が争われた地裁の裁判例を目にしましたので投稿します。
金融機関が、賃貸用の建物の建築資金とするための借り入れの返済に充てられた借入金の債務免除、農業用機械の購入資金とするための借入金の借り換え等にかかる債務の返済に充てられた借入金の債務免除、をおこなった事案です。
事案自体は特殊かもしれません。
納税者たる個人は、債務免除益を一時所等として申告したんですね。まあ、無茶な申告ではないと思います。
しかし、課税庁は、借入れ目的に応じて、事業所得、不動産所得、一時所得に該当するとして更正したのです。
所得税は所得区分に応じて税金のかけ方が違います。
一時所得は所謂2分の1課税の所得区分ですので税金が安いのですね。
更正により、当然税金が上がります。過少申告加算税賦課決定も合わせてされています。
裁判の事件名は、所得税更正処分等取消請求事件です。「等」の中に過少申告加算税賦課決定も入っています。
裁判所は、
所得区分の判断にあたっては、当該所得の内容及び性質、当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断される、
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、当該借入金の目的や債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断することが相当である、
とします。
そして、
不動産貸付業務に充てるため、あるいは農業用機械の購入資金に充てるための借入金の債務免除益は、不動産所得あるいは事業所得に該当するとしました。
それぞれ、不動産貸付業務あるいは事業遂行による収入ということができるからということのようです。
また、不動産貸付業務、事業の運転資金的性質を持つ借入れの返済に充てられた部分の借入金、借換資金、及びその債務免除益も同様の性質を有するとしています。
勿論、不動産所得あるいは事業所得に該当する以外の債務免除益は一時所得とされました。
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、借入金発生原因をよく吟味しないといけないということですね。
債務免除益は、単なる法人から個人への贈与とは場面が異なるのかもしれません。
こういう裁判例がある以上、債務免除益は法人からの受贈益として一時所得でいいのではないか、と簡単にお話することはできませんね。
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